インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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男達の讃歌。亡霊侵攻

 ヴォルフの携帯に着信が入る。三回もコール音が聞こえない内に耳に当てた。

「もしもし。……ああ、俺だ。──了解、すぐに向かう」

「おい。坊主、ちょっと話がある」

「悪いな、急用だ」

「俺は私用だ。手間は取らせねぇ」

 ガチャリと突きつけられるのはマグナムリボルバー。それを仕入れたのはヴォルフであるが、引金を引く権利はスミスにある。

「依頼屋の情報網、そいつはどこまである。規模は、設備は。拠点は何処だ」

「テロ屋でも企業秘密は使えるか?」

 話す気はない。だがヴォルフも内心穏やかではなかった。四十四口径を突きつけられて平然と話が出来るほど豪胆ではないが、自分にとってこの不利な状況に興奮を覚える。

「なら、二年前──俺が霧島と出会った年だ。米国でIS研究説明会が行われたが、その時に反IS派に襲撃があった。そいつは、依頼屋か?」

「だったらどうした?」

「なに、ISに対抗できるなら頼もしいと思ってな。是非とも協力を仰ぎたかっただけさ、だが──俺の国で戦争なんかされちゃあ堪らねえんだよ」

「喚くなよ、アメリカン」

「ほざけよ、テロリスト」

 テロリスト──女尊男卑の世界で、暴力による抗議でしか語れない最低の組織。それが依頼屋だ。覆せない事実であり、ヴォルフは笑う。

「ああそうさ。やってる事は最低で、最悪で、ガキの我儘同然の迷惑極まりない行為だ。だから、どうした? それがなんだ。俺達に国境は関係ねぇ。戦場も戦争も戦火も、住み分けられる良識は存在しない。“そういう組織だ”」

「世界に喧嘩を売るってのか」

「武器商人よりマシだろ。俺達は“死ぬために戦ってるんだからな”。それと一つ勘違いしてねぇか? 世界に喧嘩を売ってるんじゃねぇ、篠ノ之束に喧嘩売ってんだ」

 天才科学者の発明した兵器、本人も三年前より消息不明であるが、各国の政府はその行方の捜査に余念がない。世界の全てが一人の女性を求めて止まない。その腹に、最強の兵器を量産して優位に立つ意思を持って。

「アンタだってそうだろう、アメリカの立つ瀬がねぇんだから。ジャパニーズが世界の中心で、アンタらは二番目だ。まぁ、何処でも変わりはねぇさ。俺達のやる事は同じだからな」

 変わらない。何一つ、依頼屋の行動方針は変わらない。スミスは銃を下ろした。

 何も思わないわけではない。軍用ISの開発を試みたが、それも不慮の事故で暴走。凍結処分が決定された。日本から輸送されてくるはずの機体は国籍不明のISによって奪取され、現在も行方は分からない。

「依頼屋に、ISはあるか?」

「ねぇよ、んなもん。野郎ばかりの汗臭い組織だ。ついでに、いいこと教えてやろうか? 銀の福音を奪取したのは亡国機業だ。目的は……まぁ、分かるわな」

 情報提供したのが依頼屋である事は伏せておく。

「……聞きたい事は聞けたか? 俺も先を急いでるんでな、アンタ等もここを離れた方がいいぞ」

「なに?」

「今さっき、依頼屋本部から連絡が入ってな。亡国機業から仕事の依頼で、俺も行かなきゃならん」

 内容は……聞かずとも分かる。この国で、霧島の祖国で、日本の領土で依頼屋は死ぬために戦うのだ。依頼は死ぬための建前、本音は殉ずる為に。人知れず無駄な犬死は御免だと自己中心的な思想の抵抗で、彼等は無差別に戦場へ向かう。そこは戦地でなくても。

「……何をするってんだ、お前」

「織斑一夏は帰らせる。ついでにアンタらの帰る手配も済ませておく、早い所荷物をまとめとけ」

「何をする気かって聞いてんだよ。暴言代わりに鉛玉ぶちこまれてぇか!」

「仕事だ。今まで通りのな」

 ヴォルフはそれきり押し黙り、その場を後にする。だがスミスは見た。死に場所を求める男の顔ではなく、戦闘を欲する狂った獣の顔を。

 

 

 

 一夏は何が何やら分からないままヴォルフに連れられた。一週間の予定だったが、込み入った事情により五日間だけの滞在である。IS学園の方でも大騒ぎになっているかもしれないが、それも心配は無用だ。

 白式の資料データを一夏に持たせている。少なからずそれは倉持技研の利益となり得るし、同時にIS学園側としても興味深い資料でもあった。男性のISが一般的なISとどう差が出ているのか。

「しかし、こんな書類で大丈夫だとは思えないんだよなぁ」

「そんときは、テロリストに拉致監禁されたとでも言っておきな」

 間違いではないが、一夏はヴォルフの正体を知らない為に笑って流した。

「それ、冗談でも笑えないぞ」

「ジョークのセンスは磨いてなくてな」

 IS学園に繋がる駅前までヴォルフのバイクで移動し、一夏はそこで降りる。

「ありがとな、ヴォルフ」

「気にすんな。っとついでだ。俺の連絡先でも渡しといてやる」

 バイクの液晶モニターに指を触れると、画面が切り替わる。何度か操作するとプラグが出てきた。そのコードを引っ張り、一夏の右手──待機形態の白式に繋ぐ。データの転送はあっという間に終わり、画面を閉じる。

「ISを起動してる時だけ、コイツに通信できる。つまらねぇ事で呼んだら容赦しねぇからな」

「ああ。……ん? でもISコア・ネットワークを通じて情報共有が出来るってことは、それもISなのか?」

「いいや。あくまでも情報共有によるデータ開示で音声通信を許可してるだけだ。最近の研究でそれがどうにか実現したってだけで一般化はしてねぇよ」

「……ならなんでそれに搭載されてるんだ?」

「特別製ってだけさ。霧島博士の護衛だからな」

 納得するしかなかった。束に近い霧島ならそれも可能だろうと一夏は頷く。

「これ、ありがとな。霧島さんにも会えたし、一応礼は言っておくぜ、ヴォルフ」

「じゃあ、またな」

 その背中に、ヴォルフは呟いた。

 

「次に会う時は戦場だがな」

 

 

 

 男の前に、三十名の精鋭が居た。夜間戦闘を想定して黒く塗装されたパワードスーツを装着している。亡国機業からの依頼を達成するべく厳選された三十名、だが生き残りは何人になるか……。

 男が苦々しく口を開いた。これから死地へ向かう者達を送り出さなければならない。使い捨てられ、切り捨てられていく猛者達は言葉を待っている。

「選ばれた精鋭諸君。今回の依頼を説明する。目的はISコアの奪取、三十名による決死の作戦だ。人員はこれ以上割けん、よって救援は期待するな。同時に、こちらからのアプローチは一度きりだ」

 ISコアを奪取、後にたった一度きりの帰還のチャンスを逃せば死ぬだけだ。一蓮托生の身で、一人でも依頼を達成できれば勝利となる絶望的な作戦。だがそれを待ち望んでいた者たちだ。戦場の舞台を動かしてきた歯車は錆びて朽ちるのを恐れている、だからこそ戦火の渦中へ喜び勇んで飛び込んでいく。

「戦火の熱に浮かされ、戦いを望む諸君。戦地を求め、死に場所を欲する諸君。存分に死んでこい! 遠慮はいらん! 葬儀もせん、弔いもせん! 果てなく散るが良い! 軍靴を鳴らせ! 開戦だ!」

 踵を浮かせて、全員が同時に床を踏みならす。砲声のような衝撃が空間に響き渡る。

 フルフェイスの下にある顔は窺えない。だが人形に魂が吹き込まれたように生気に満ち溢れた。

 精鋭達が作戦行動に当たる為に現地へ移動を始め、司令官は目頭を押さえる。その背後に現れた男の気配に気付いた。

「今、整備班が事に当たっている。半刻もすれば終わるだろう。そうなれば、お前にも出てもらうことになるが、構わんな?」

「異論はねぇさ」

「……楽しそうだな」

「そう見えるかい。世界最強の兵器とやりあえるんだから、連中も本望だろうよ」

「お前はなぜ此処に居る。死地を求める訳でもなく、世界に不平不満があるように見えんお前は」

「俺の信条は欲望に従順忠実でな。そういう意味じゃ、此処は俺にとって最高の場所なんだよ」

 世界最悪の最低な組織は、ヴォルフにとって天職だった。人の欲望が渦巻く肥溜めで浴びる罵声と銃声が心地良いと思うのは、自分が異端だからだろうか?

「だが相手が不足かね、実戦経験のない連中だろう」

「問題はない。更識家、黒ウサギ隊、この二つだけでも十分だろう」

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