IS学園の領地を蹂躙する依頼屋の精鋭、残存戦力二十五名。
モニターしている真耶と千冬は相手の動きから目的を探ろうとするが、それぞれの部隊の動きが一致しない。学園内に侵入した部隊は散り散りになって駆け抜ける。
「何が目的なんでしょうか……」
「テロリズムにしても奇妙だ。学園を無差別に破壊するようにも思えん」
「何かを探しているように見えませんか?」
言われて、気付いた。だがそれが何なのか千冬には思い浮かばない。とにかく今は騒動の鎮圧に生徒を動員する。本来であれば職員が搭乗するべきなのだろう。だが数が多い上に、どうにもその動きが職員を避けている節がある。
「織斑先生、一夏君達が!」
「なに? 勝手に出撃したのかあの馬鹿どもは!? いや、まぁいい。チャンネルを開け」
本来なら咎めるべきなのだろうが、そうも言っていられない状況下にあった。
「聞こえるな、専用機所有者達! 訓練ではないのは分かってるだろう、これは実戦だ! 相手は動きからして特殊部隊だ、いくらISを使用しているからといっても油断は」
『織斑先生!』
「なんだオルコット、今は人の話を」
『そうですけれど、ルナリアさんの動きは見えませんか!』
「ルナリアの……?」
ISを展開しているのであれば互いの位置情報の共有によって場所の特定は出来るはずだ。だがそれが出来ないということは──。
「まさか、アイツはISを起動しないまま出たのか!」
照明を潰されて暗闇の中を走る姿を視認するのは厳しい。相手は網膜ユニットの切り換えによって状況下に合った視界を得ている。周波解析装置の起動によって得られる情報はISが何処にいるかだ。無論、その原動力であるコアから発せられる独自の周波数もであり、彼らが任務を達成する為に必須と言える。難点はそれを使用している間、視界は普通ということだ。
《──》
指でサインを送る。散開、目的の品を発見すれば司令部から他の人員に情報が送られる。発見までに五名が犠牲となった、そして今六人目が犠牲となる銃声が聞こえる。しかしそれでも彼等の足は止まらない。
ルナリアはベレッタM92Fの引金を引く。物陰から身を乗り出し、弾倉が空になった。すぐさま身体を隠して空のマガジンを廃棄する。その間にも身を隠している壁が5.56mm弾の連射で身体を削られていた。破片が顔の一寸横を通過しても冷静にマガジンを装填する。
ため息を一つ。──どうしてこうも彼等は戦いを求めるのか分からない。
(……どうせ死ぬなら、一人で勝手にそうしてほしい)
トリガーを引く。自分の相手をしているのは一人、二人と居ないだろう。予期していない爆発が起こり、覗き込むと自分が負傷させた一人の姿が消えていた。疑問に思う暇もなく身を隠し、場所を変える。その後を追うように銃痕が付いてきた。飛び込むように木の後ろに隠れる。
一呼吸、そして投げ込まれた手榴弾にルナリアは舌打ちした。
《────》
爆発を確認と同時に空のマガジンを排出して肘から新しいスティック状の弾倉を装填する。──生身で来るとは無謀な。そう思いながら作戦行動を再開しようとした矢先の鈍重な駆動音にヒューズダスト二十二番は足を止めた。
土煙の中を猛進する鋼鉄の壁、手入れされた芝を土ごと巻き上げながら体当たりされる。その衝撃でパワードスーツ越しの肉体が悲鳴を挙げた。転がり、男が顔を挙げた時には既に銃口が突きつけられて──また一人が安らかに眠る。
「…………」
膝下のアーマーと左半分だけの部分展開で切り抜けたルナリアは目の前の男性から視線を外してISを解除した。歯噛みする。
(貴方達の戦争に、私以外の誰かを巻き込まないで……!)
作戦開始から既に十五分が経過していた。残存戦力十五名、一分に一人のペースで脱落している。そしてまだコアの発見にすら至っていない。時間と戦力だけが無意味に消費されていくことに司令官は髪を掻き上げた。
「編隊を組み直せ」
「司令、十番、十一番がコアの位置を発見しました。他の隊員へも送信します」
「奪還確認。脱出開始。各員は十番、十一番の援護を開始してください」
「二十二番、二十七番、起爆します」
「撤退を急がせろ! 専用機にも構うな!」
褒めてやるにはまだ早い。生きて報告するまでが任務だ。しかし想定外の事態は常に起こる。
「十番、包囲されます」
「二十五番、三十番がコアを受け取り、現在移動中です」
「十番、十三番の反応が途絶」
残り十一名。此処に来て一気に追い込まれている。持って後二分程度だろうか。
「──っ、ヴォルフを急がせろ! 整備班は突貫作業でも構わん! 動けばいい! 手遅れになる前に終わらせろ!」
「整備班からです。最低限の整備は完了、出撃用意完了、以上です」
作戦の内容は伝えてある。今は確認を摂る時間も惜しい。IS学園でもこちらの目的は理解しただろう。コアの奪還と察知された以上は全力で阻止に来る。ヒューズダストの性能では屋外のISに対抗できる手段がない。屋内であれば足止めが精々だ。
黒い革手袋を詰め、フルフェイスヘルメットをかぶって重機動二輪駆動車に跨る。通常走行では取り払っていた外装を取りつけている為にフロントタイヤ側が大きくなっていた。本来であればリアタイヤ周辺にも取り付けられる予定であったが、作戦は急を要する。
担当整備士が注意点を説明するが、ヴォルフは聞き流していた。
「──つまり、今回の出力は通常の」
「二割減、稼働時間も減っているから電撃戦だろ。ソッコーで行って帰って来いってことか」
「ああ。本調子じゃない。くれぐれも無理だけはさせるなよ、我々の傑作なんだからな」
「ハッチを開けてくれ」
吹き込む磯の香り、夜の波風がヴォルフの身体に叩きつけられる。カタパルトに固定され、タッチパネルを操作してシステムを起動。エンジンを掛けてバイザーを下ろした。暗転する視界は間も無く視界を確保する。
アクセルレバーを回し、カタパルトから射出されてブラッドヴォルフは海面上を駆け抜けていく。
『ヴォルフ、こちらからのアプローチは四分後だ』
「随分早まったな」
『急ぎ、奪還しろ。一人でも帰還すれば我々の勝利だ』
「ハッ、任せろ」
夜の海に浮かぶ学園が見える。まるで世間から隔離されている孤島のようだ。ヴォルフはその様を笑いながら駆ける。パネルを二度三度、画面を切り替えて味方の位置を確認する。残り五名しかいなかった。
七番、十一番、十二番、二十五番、三十番──今この瞬間、七番が脱落する。コアの所有者は十一番だ。間に合うかの瀬戸際でもヴォルフは余裕の笑みを浮かべている。
フロントタイヤ横の外装に手を伸ばし、柄のような物を掴む。
視界に映るのはヒューズダスト装着者、そして脱出を止めようとする白いIS──“男性”へ向けて柄を引き抜くと、火花を散らした。現実を受け止めきれないような驚愕で目が見開かれている。
大型二輪車が、ISと同等に空を飛んでなおかつ雪片弐型と火花を散らすのだからそうもなろう。
「お前──!?」
『…………ヘッ』
ヘルメット越しに聞いた笑い声は誰の物だったか、一夏は思い出そうとして殴られた。箒達も驚いて固まっている。
そうしている間に着地した新たな敵影は今まで見た黒いパワードスーツを着ていなかった。物々しいのはむしろ乗り物の方であり、運転手自体は脅威に思えない。だが、その手に持つのは青白い光を放つプラズマソード。それも光が徐々に失われていき、霧散した。
手元に残る柄を前輪に押し込めるとリボルバーを回すようにガシャンと音を立てて余剰エネルギーが排気される。
「今、空を走って……」
「そもそも、どうやって此処まで……?」
周囲一帯海面だ。そうなると答えは一つしかない。まさか、とも思うがそれしか出てこないのだ。呆気に取られている間にも相手はコアをタンクに収納している。
無人機──束のゴーレムを撃退した際に確保した未登録のISコア──その奪還こそが目的と判明してからは総掛かりだった。
「まさか、ヴォルフなのか!」
『……』
バイクの外観こそ変わっているが、面影が残っている。しかし黙殺されてしまい、問答無用に斬り掛かってきた。
「そうなんだな! ならなんでこんなことを」
『今回は挨拶代わりだ、一夏。俺もこいつも本調子じゃねぇんでな』
両手に握りしめたプラズマソードで一度距離を取るとレバー横のボタンを押しこみ、上空に向けて六連装40mm発煙弾が射出される。煙幕により視界は遮られるが、シャルロットとラウラの判断は冷静だった。
煙幕に向けて砲撃とショットガンを打ち込む。だが対敵はそのままに海岸へ向けて走り出した。着弾点でバリアのような物が展開されている。
減っていくタンクの内蔵量にヴォルフが舌打ちした。
「クソッタレ、タンクの中身増設しとけよ!」
愚痴を言ってもエンジンは加速しない。
追いかけようとする一夏達より一歩だけリードしている者が居た。走りながら上着を脱ぎ捨ててISを装着するルナリアだ。
その険しい表情は見せる事のない腹の内なのか、怒り心頭に間違いない。声を出すことの叶わない口が吼えている。
ヴォルフ、と。叫んでいた。
瞬きする間もあれば既に展開を終えて先陣を切っている。右腕の砲身は内部でライフリングの形成を開始していたが、今はその予備動作さえもが煩わしい。不格好に砲身を横薙ぎに叩きつける。
それを、飛び越えた。その後輪の横から円盤状の物体が落下して閃光と爆音を放つ。
「じゃあな、ルナリア。いずれ殺しに来い、テメエの手で俺達を」
「──!」
たった一度のアプローチ。三十分に及ぶ激闘、死地への突入から帰還できる機会に浮上したのは島だった。
モニターしていた真耶も、千冬も唖然とする。その場に居たものがその迫力にただ言葉を失った。
依頼屋移動拠点、モービー・ディック号。2,4キロメートルの巨大な要塞が、動いている。その甲板と思わしき場所にヴォルフが着陸すると、海水を吹き上げながら再び沈んでいった。
残されたのは静寂と、驚愕。そして一人の少女の胸の内には無念だけが残る。