インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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踏み込む夢の一歩。その最果てに

 

 

 ──ひどく懐かしい、夢を見た。それは……そう、確か。初めてあの少女を見た日の事だ。

(…………)

 依頼屋は組織、国境、人選を問わず願望を受諾する。それに見合う報酬さえ用意されるなら自らを滅ぼしてもいいほどだ。戦いの狂信者によって造られた生体兵器第四号──それがヴォルフ。

 第一号“獅子”は体組織の再生が追い付かず依頼の最中で心臓麻痺を起こした。

 第二号“猟犬”は感情制御が利かず、情緒不安定ゆえに味方へ刃を向けた事で処分された。

 第三号“白虎”は自身の性能を過信する余りに敵陣で最期を迎えている。

 第四号“犬狼”──製造途中にISが出現した為に急きょ方向性の変更を余儀なくされた。その副作用からか定期的な体組織洗浄による細胞ろ過を必要とする“最高傑作の失敗作”。

 呼吸器を外し、カプセルから起き上がる。

(……また、えらく懐かしいものを見せられたもんだ)

 初めて出会った時は、気に入らなかった。隙あらば背中から撃ってやろうとも考えたが、今までに見たことのない手合いだった為に見逃していた。だが、今ではどうか。あの時背中から撃たなくてよかったと一人で笑う。その不気味な笑みに整備班が引いている。

 亡国機業を担当しているチームも、ヴォルフだけとなった。それ以外は死因も定かではない。──誰にやられたのかさえ。

 孤独だった。組織内ですら不審に思われている。しかしその成績は生体兵器の中でも随一だった。量産型ISであればブラッドヴォルフとの連携で撃墜出来るかも知れない──搭乗者次第だが。

「ヴォルフ、司令官より緊急の連絡だ。亡国機業爆破工作部隊及び霧島博士を招き入れる。その為に迎えに行け、とのお達しだ」

「了解」

「……お前、さっきはなにを笑っていた」

「兵器でも夢を見るのかと、自分がおかしくてな」

 

 亡国機業からの報酬では保有している一部のラボを譲渡する、と聞いていた。それが偶然なのか、または作為的な選出によるものかは分からない。亡国機業爆破工作部隊ヴォルケイノブレスのラボが霧島博士ごと依頼屋に接収された。

 背後では物資を運搬する台車などが忙しなく部品や機材を運び込んでいる。フレイは腕を組みながら依頼屋の司令官を待っていた。

「失礼、お客人。待たせたな。私が責任者の──そうだな、エイハブとでも名乗ろう」

「亡国機業幹部、フレイだ。今回の件について色々と申し立てたいことはあるが幹部会の決定なら目は瞑らせてもらおう」

 亡国機業からは依頼屋の情報を得る為のパイプとして、依頼屋からは技術の提供者としてフレイの双肩に期待されていた。負い目がありながら幹部に留まっている自分の役目としては十分だろう。

「霧島博士、せっかくなので説明をお願い出来ますかな。例の対IS専用兵器について是非とも」

「ええ、もちろん構いませんよ。フレイさん達もご一緒でよろしいですか?」

「その情報の開示を私は許可しない」

「そう言わずに。そういう契約ですし」

(緊張感というものがないのか、この男は……)

 若干の苛立ちを込めてフレイは髪を掻き乱す。

「そういえば、迎えに行った男の姿が見えないようですが?」

「部外者の男性に呼び止められて我々を送迎した後に、別行動をとりましたが」 

「そうですか」

 あの男はまた勝手に──司令官、エイハブは胸中で舌打ちした。時折こうした独断行動をするが命令には忠実なので放置している。

霧島博士、及び関係者を連れて拠点内を歩いた。不要な案内はしない。

 

 

 スミスは夜の港で煙草を吹かしながら腰を下ろした。そこに間もなくして現れるバイクに跨った人物に片手を上げる。

「……話ってのはなんだい、社長さんよ」

「いやなに、仕事の話だ。そっちにとっても悪くねぇと思うぜ?」

「そうだな、大歓迎だ。それで? 何が望みなんだ?」

 スミスは少し間を置いてから続けた。

「お前達依頼屋の情報が欲しい」

「……それだけか?」

「それと、亡国機業やらにいるアイツ……フレイだったか? そいつの情報もだ。手に入れられるか?」

「簡単だが、報酬は?」

「357マグナム弾でもぶち込んでやろうか」

「もっとマシなのはねぇのかアンタ? ……じゃあ、そうだな。S&Wマグナム500のハンターモデルで手を打ってやるよ。もちろん弾薬付きでな」

 三十発でいい、と付け加える。スミスのくわえている煙草の先端から灰がこぼれ落ちた。一般流通している拳銃の中では最強の威力を持つと言われているが、それならライフルを使った方が早い。スミスも片手で撃とうとして挫折した8インチモデルなら家の金庫で眠っている。

「……俺の使い古しでいいか?」

「商売舐めてんのか、新品で完全オーダーメイド。それも一カ月以内に用意しろよ」

「厳しいな……」

 知り合いの伝手を辿れば早くて一週間以内には用意できるかもしれないが、その分の金額が跳ね上がる。しかしそれで妥協を許すような甘い男でもない。

「正気か? 片手で撃てるような代物じゃねぇぞ? それもお前みたいなガキが、大丈夫かよ?」

「片手撃ちに限定すんな、普通撃たねぇぞ。反動に関しては大丈夫だ」

「俺は撃つぜ。片手で撃てなきゃ女守りながら戦えねぇからな」

「そんな理由かよ。まぁいい、こっちはこっちで用意しとく。それまでにそっちも頼むぞ」

「へいへい、注文承ったよクソッタレが」

 だが、果たして本当にそれだけでいいのか。依頼屋の情報を売るという事は、仲間を売ると言う事だ。それをこうもあっさりと承諾してしまうのは不審に思おう。

「お前、なんの躊躇いもないのか?」

「それが仕事ならな。ねぐらが消し飛ばされたところで俺が死ぬだけだ」

 最期が戦場であればヴォルフは何ら不満はない。自分はその為に生きているのだから。

「霧島の奴、どんどん俺を置いて行っちまうな」

 天才、とまでは行かずとも流石は秀才か。あれから全身に装甲を展開出来るほどに安定している。だが相変わらず実戦には投入されていなかった。未だ性能が未知数という点では不安が残っている。

「仕方ねぇさ。あんたは一般人だからな、言っちゃ悪いが部外者だ。火傷する前に手を切った方がいいと思うが?」

「そいつがジョークなら笑い飛ばしてやるよ。あいつはうちの社員だ。社長の椅子はねぇが、社員見捨てて逃げるほど臆病じゃねぇんだよ俺は。今さら逃げられるか」

 ヴォルフはその言葉を鼻で笑った。

 馬鹿馬鹿しいと思う。同時に羨ましいとも思った。自分にはそこまで思ってくれる相手がいない。相方は無機質な大型自動二輪だ。使い捨ててきたのだから当然の報いと言えば当然だ。自分の計画を進める点においても、相方は不要であるのだから嘆く必要もない。

「ああ、それとオマケで情報を一つ。ルナリアは元気にしてたぞ」

「当然だろ。俺の娘だからな。血は繋がってねぇが」

「どうりでタフなわけだ」

「なんか言ったか?」

「なんでもねぇよ」

 バイクのエンジン音を残してヴォルフは夜の海を走った。冷えた海の風が孤独に染みる。

 ──自分は誰にも救われないのが当然であると言うかのように。

 

 

 

「対IS専用兵器、私はエクスペリエンス01と呼んでいますが個人的な物です。固有名称は特にありません。ISに標準搭載されている物はハイパーセンサー、PIC、そしてシールドバリアの三つ。コアに関しては原動力であるが故に説明は省きます」

「完成度はどれほどか、霧島博士の解釈でお願いしたい」

「外装の点では90%以上。システム面、内装面は80%といったところでしょうか。しかしその性能における信頼性というのは50%と心許ありません」

「そんなんで大丈夫なのか?」

「寄せ集めでそれなら上々ですよ」

 霧島の対IS専用兵器による性能説明会がモービー・ディック号内で行われていた。しかしその席には十名居るかいないかという閑散ぶりである。

「機体周囲に展開しているバリアと絶対防御を構成している物質……これを仮にSE粒子とでも呼びましょうか。SE粒子による防御を無効化することが可能な攻撃方法がありますが、それは現在、

世界に存在する既存の兵器へ組み込むことは不可能だと断言出来ます。ですが篠ノ之束が人間である以上、彼女の作るものも完璧ではありません」

「その口ぶりからするとISの防御を突破できるようだが?」

「はい。これはあくまで仮説ですが、バリア無効化攻撃がどういうものなのかに注目しました。こちらをご覧ください」

 プロジェクターに映しだされるのは一夏の白式。その画像が拡大され、右手に握られている雪片弐型に注目した。その刀身はワンオフアビリティ、零落白夜によって自身のシールドエネルギーを消費して形成された剣となっている。

「ご存知の通り、彼は世界で初めて男性でありながらISを動かした人物です。そしてその機体に搭載されているこの武装、自身のシールドエネルギーを消耗して形成していることからSE粒子を防御面から攻撃面に変換しているものと見ました。これを再現した物が搭載されています」

 但し、まだ未完成品だ。この為に霧島の機体は防御を捨てている。

「『シールド粒子攻勢変換装置』、これにより“ISに接近するだけでバリアを削る”ことが可能です。吸収した分のエネルギーを自らのものとすることで疑似的にバリアの形成も行います」

 だがそれも元を辿ればSE粒子、使用している分は常時消耗されていく。起動しているだけでシールドが削れ、他にISが起動していなくては形成できないともなれば完全に欠陥品だ。そも、機動性に優れるISに接近するなどどうしろというのか。射撃戦に特化した機体であれば接近する前に蜂の巣にされるのが関の山だ。

「防御面と攻撃面においてはこの装置だけで事足りますが、問題となる機動力です。PICによる浮遊と加減速による機動性は十分に脅威と言えるでしょう。発展形であるAICの前傾となった装置によりこれもクリアしましたが、何分PICとの併用が不可能であり非常に扱いにくい代物となっています」

「その装置とは? AICとは慣性停止結界だろう、前傾があったなどと聞いた事もない」

 当然だ。霧島が資料で読んだ限りは試験機が全て“自滅”している。

「OAシステム──“オーバードアクセル”、慣性“加速”装置です」

 下手な動きをすればそのまま加速するが、その爆発的な加速力はイグニッションブーストに引けを取らない。それを任意発動可能として搭載したが、今度は拡張領域を圧迫された。しかしその点においては問題ない。

「オーケー分かった霧島博士。アンタのその機体、とどのつまりは敵のISに接近してシールドバリアーを削って倒すシンプルな機体か。だがそれで、アンタはどうやって敵を倒すってんだ?」

「簡単な話ですよ。間合いを詰めて、斬る。それだけです」

 表示されている展開可能武装は僅か三つしかない。

《展開可能武装:六閃・立花》

《展開可能武装:紅蓮・繚乱》

《展開可能武装:爆心・徹甲》

 ──それら全てが“近接戦闘専用”であることから、霧島博士の言葉に嘘偽りは一切なかった。

「流石ジャパニーズ、クレイジーな発想をしてくれる!」

「馬鹿にされてるんでしょうか」

「褒めてるのさ」

「霧島博士。貴方の機体はよく分かりました。それでは早速その機体の有用性を示してください」

 まさか、と気を引き締めるデストラクターだったが杞憂に終わった。

「我々亡国機業ではイギリスでBT兵器搭載IS二号機を開発していると情報を掴んだ。それの奪取に協力を願いたい」

 もちろん拒否する事は許されない。だが霧島はどうでもよさそうに承諾した。

 例え犯罪の片棒を担ごうとも成すべきことがある。その夢の成就の前では何もかもが些細な事だ。

 初めから霧島はその為に全てを犠牲にしてきたのだから。

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