千冬の嫌な予感は当たっていた。誤算はと言うと、遥かに予想を上回っていたことくらいか。
「…………霧島」
「い、いやぁ。久しぶり、千冬さん」
「お前が入学希望か?」
「断じて違います」
「なら、なんでお前一人なんだ!」
力強く叩いたテーブルでお茶が跳ねる。その事情をどこから話すべきか……。
「いえね、飛行機での移動中に入学させる子が……その、ちょっとトラブルに巻き込まれまして」
「それで、何故お前だけがIS学園に来たんだ」
「近くにいても邪魔なだけでしたから」
「は? そのトラブルとは一体なんだ」
「ISに襲撃されました。太平洋上空で。彼女はそれを撃退する為に飛行機から飛び出しちゃいましてね」
「……それで、その後は?」
「場所は教えましたし、まぁもうじき来るでしょう」
千冬は深々とため息を吐いた。相変わらず飄々と緊張感のない男だ。底知れない余裕が窺える霧島を千冬は苦手としている。
「高校以来ですね、貴方に会うのも」
「出来れば、もう顔は見たくなかったな」
「これは手厳しい」
「はっきり言うが、私はお前が苦手だ」
「初耳です」
千冬はそれでふと思いついた。霧島の顔を見る。ISに襲撃された? そんなのはテロ以外の何でもない。
「霧島。確かにISだったんだな」
「疑ってますね」
「まぁな。出来るだけ詳しくその時の状況を教えてくれ」
「はぁ、構いませんが」
──事情は分かった。旅客機の航路を妨害するようにISが現れ、入学する予定だったその少女は自らのISで出撃。そして交戦した……千冬はそこまでを霧島の口から聞いて納得する。
(なるほど。襲撃されたのは……)
恐らくは霧島が原因だろう。そして襲撃したISも無人機に違いない。
「お前、今まで何処に居たんだ?」
「高校卒業してからは世界中でISの研究をしている企業を見て回ってましたが? ああ、二年ほど前からアメリカに滞在してます」
二年も動かなければ居場所の特定もされよう。
そして同時にIS開発者である彼女──篠ノ之束からすれば邪魔者でしかない。
何せ今では『世界で最も篠ノ之束に近い存在』とされている。万が一、霧島がISコアの開発に成功した場合──この世界がどうなるかなど想像もしたくない。
「お前、自分でISコアを開発するつもりか?」
「いえ? 私はコアの解明だけです。それに今は──他の事で手一杯ですから」
何かを言い掛けて、咄嗟に言葉を変えたがそれを言及するような真似はやめた。
束は霧島を嫌い、そしてまた霧島は束を尊敬しつつもライバル視している。その間に立つ千冬の気苦労と言えば高校時代の記憶を消したいくらいだ。
「ところで学園内の見学とか許可できませんか千冬さん」
「無理だ」
「そこをなんとか」
「却下する」
「せめて打鉄を一目だけでも! 純国産第二世代ISである大和魂の結晶を!」
「くどい!」
「じゃあ一夏くんに挨拶だけでも!」
「いい加減殴るぞ!」
「あ、はい……」
「IS学園はいかなる国家、企業、組織であろうと学園の関係者への干渉は禁止されている。アメリカだろうと古い知人だろうと例外はない。分かったらおとなしく帰ってくれ」
「じゃあ私個人の希望で」
「その要請も却下だ」
霧島は土下座でもしそうな勢いだったがそれでも断固拒否。最終的には折れて肩を落として帰っていった。
深々とため息を吐いて千冬は置いていかれた荷物と資料を眺める。
「……まぁ、いずれ来るか」
結局、少女は授業が始まるまで来なかった。
それから一時間後、ISを使用した訓練中に異変は起こる。一夏達のクラスがアリーナで基礎的な行動を行っていた時、再び上空で張られていたバリアを破壊して“そいつ”は降ってきた。
「あいつ──!」
「……あら?」
臨戦体勢を取る一夏と、その様子がおかしいことに気付いたセシリア・オルコットはアリーナに土煙と共に着地した無人機に向かって武器を構えた。
「一夏さん、お待ちください。何か様子が変ですわ」
「えっ?」
セシリアに呼び止められ、白式の
徐々に晴れる土煙、修復されるバリアの隙間からもう一機。
無人機が両腕を伸ばす。前腕部にエネルギーがチャージされるが、それよりも先に落下してきた一機が踏み潰した。あられもない方向に向けて放たれるビーム兵器、その無人機を左腕で打ち上げる。
一夏達からは再度巻き上げられた土煙の中で何が起きているのかすら分からない。突如として上空に放り投げられた無人機の姿はもうボロボロで機能を停止していた。
そして、上空に放たれる一条の閃光によって無人機はコア諸共に破壊されて爆発四散する。射撃の余波、爆発の衝撃でようやく全貌が露わになった。
「…………」
まず、誰もが目についた巨大な銃身。天に向かって伸ばされた銃口からは湯気が漂っている。その全長はISの全長より少し大きいくらいだ。右腕に固定されているという事はあのISの専用武装か。
左右非対称のISはゆっくりと一夏達へ向き直り、両腕の武装を解除した。右腕の銃身と左腕の大型の盾は収納状態で背中のラックへ移動する。
キョロキョロとその少女は周囲の状況を確認していた。そして、ラファール・リヴァイヴを装着した状態で唖然としていた一組クラス副担任、
ハイパーセンサーによる通信──『遅刻してすいませんでした』の一言が“表示”された。
「え、はぁ……あれ、もしかして?」
「…………あー、お前か。霧島が言っていた入学する女子というのは」
少女は頷く。クレーターの中心地から飛ぶと、千冬と真耶の傍に降りる。
一見すればセシリアのIS、ブルー・ティアーズに似ているがこちらの方が武骨だ。
咳払いを一つ挟み、織斑千冬はクレーターからさりげなく目を逸らしながら生徒達に向き直る。
「今朝、転校生が来ると言っていたがトラブルに巻き込まれて遅れた。アメリカからの転校生、ルナリア・ポードレットだ」
ルナリアは会釈した。それに真耶が小さな声で「自己紹介して」と耳打ちする。
面倒──真耶のプライベートチャンネルにそれだけが表示された。
「山田先生。彼女は失声症、らしいです」
「そ、そうなんですか? ごめんなさい。先生無理言っちゃって」
首を横に振り、気にしていないことをアピールする。──千冬は、その取って付けたように知らされた病気に霧島を恨んだ。
「え、えーと……ダイナミックな入学だったけどみんな、仲良くしてあげてね!」
山田先生の涙ぐましいフォローに一年一組の一同はただただ頷くしかない。
そして、教師陣は内心思った。──さて、あのクレーターとかどうしよう。
そんな考えは余所に早速ルナリアは女子に囲まれていた。どうも先程の一撃が強烈な印象として焼きついているらしい。
「すごーい、専用機だー! これで一年の専用機持ちは六人目だね」
「背中の方に武器を収納してるんだ、ねぇねぇ展開してみて!」
「さっきの一撃すっごくクールだったよ!」
オロオロと質問責めされてどうしたらいいのか軽いパニック状態のルナリアだが、しっかりと武装展開のリクエストには答えていた。
「
「何が? 右腕のアレのことか?」
「うーん、でも……さっきの射撃はビームに見えなかったなぁ……」
かといって実弾にも見えない。形状から察するにビーム兵器に近いのだが、シャルは首を傾げていた。
ラウラは何か思い当たる節があるようだ。
(……あれは、私のシュヴァルツェア・レーゲンに搭載されているレールカノンと同系列に見えたが……弾速が早すぎる)
まだ女子からワイワイと言われているルナリアが助けてくれと言いたげに視線を右往左往させている。こういう状況には慣れていないようだ。