インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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己の正義編:夢想の傲慢
夢を見る男、敗れた男、内に隠す男


 霧島は自らの夢を叶える一歩を踏み出した。もう後戻りは出来ない。背水の陣から始まる夢物語は、果たして叶うだろうか。

 霧島深崎が凡人であり、秀才の域を出ない人間であるのならそれは不可能であり決して届かない果ての果て。終着点の見えない旅路はもはや無謀に等しく自殺である。

 しかし。それでも、と願っていた。

 幾千幾万、夢が潰えた者達がいる。幾万幾億の未来を閉ざされた物がある。霧島はそんな怨念の上に立っていた。執念とも言える。費やした歳月に後悔はない。生涯を潰しても飽き足らない夢がある。

 ひたすらに、想う。一人の天才を──篠ノ之束を。

 世界から狙われている一人の女性を。天才科学者でしか成しえない開発をしてしまったばかりにこの世界は彼女にとっての牢獄と化してしまった。

 それが酷く、心苦しい。

(……束)

 きっと、邪魔だと思っているに違いない。余計な真似をするなと言われても仕方ないだろう。それでもいい、結局は自己満足だ。

 行き着く先に、夢の果てに。

 たった一人の女性の自由があるのなら──それでもいい。これで、いい。

 霧島深崎は篠ノ之束を救うために世界を敵にしても惜しくない。

 最低の開発者として、最悪の狂人としてレッテルを張られようともそれだけが望みなのだから。

 エクスペリエンス01の成果は上々といった仕上がりだ。後は操縦者である自身がどれほど乗りこなせるかによる。

 システムも内心半信半疑だったが問題なく稼働した。欠点だらけで単機ではまともな運用もままならない機体ではあるが、戦果を挙げたのなら結果は結果だ。

 量産機とは言え、まずは四機。霧島は深く息を吐き出す。

 モービー・ディック号の格納庫内で休憩していた。観察しているのはブラッドヴォルフだ。

 ISに匹敵する、と言えば過大評価だが、性能だけで評価するならばワンオフの高性能機だろう。

 エネルギータンクから直結されているプラズマソードは通常、柄だけが収納されている。エネルギーを固定させていられる時間は六秒、それが左右合計で十二本。後輪には六連装40mm発煙弾に円盤型の閃光地雷を収納。そして瞬間加速補助装置による爆発的な加速も可能な大型二輪車。予備のエネルギータンクは二つ、加えて疑似シールドも発動可能だ。こうもISの技術を流用して製作された大型二輪車、ブラッドヴォルフだが普通の人間には扱えない性能になっている。実質ヴォルフ専用機だ。当の本人は現在“睡眠”中らしい。

 それを量産出来るなら──と思うが、担当者からの話では不可能だと断言されている。理由は二つ。

 まず部品が手に入らない。この一機を造るだけでも三年を費やしたという。依頼屋が独自に造り上げた訳ではなく、あらゆる企業に匿名で協力を得てようやく完成した。部品の損傷はある程度対応出来るらしいが、決定的な破損などは完全にお手上げとなる。

 もう一つの理由が、扱える人間が存在しないこと。パワードスーツ、ヒューズダストはあくまでも戦闘を目的としており、同時に装着者の“廃棄”も含めて製作されている。その為かブラッドヴォルフを扱うに至らない性能らしい。その点、ヴォルフは有り余る身体機能を有している。しかし六時間の制限時間付きだ。

 結局のところ、ISに至る発明ではない。篠ノ之束に対する対抗策としては今一歩といった所である。

「霧島さん、こちらに居ましたか」

「やぁ、奏。どうかしたかい?」

「この艦は広くて、迷いそうになりますね」

 全長2,4キロの巨大な潜水艦だ。無理もない。複合型潜水艦、と内部から呼称されているがそんなカテゴリーは存在せず、モービー・ディック号だけのようだ。

 内部は居住区画、機関部、格納庫、予備燃料タンクと分けられている。艦のあちこちから動力パイプを通じて音が鳴っている為に耳触りだが、それも慣れてきた。フレイ達亡国機業の接収されたラボも必要な設備だけを運び込んで格納庫と一体化している。

「次の作戦ではご一緒ですね」

「期待しますよ」

「はい、任せてください。今度は私が守る番ですから」

「へーい、カナデー。ウチもいるんだけど? まぁ博士はともかくカナデはウチが守るから大丈夫だけど」

「まぁ。ありがとうございますトラさん」

「そのトラって呼ぶのどうにかなんないかなー、まぁいっか。きっちり専用パッケージも準備したし」

 いざ戦闘を開始となると霧島の傍に長時間いる事は難しい。

「次は、本格的な性能テストですか……宣戦布告は済みました。だから正々堂々と、正面から行くとしますよ」

 その前に、と言葉を付け足した。

「私は後方の憂いをなくす必要があるので寄り道をさせてもらえませんかね」

 

 

 スミスは朝から知人の銃職人の家へ訪れていた。注文の品の受け取りを済ませると、出来栄えを確認する。父親絡みの知り合いは親からの仕事を継いだことにより気が合うようになった。

「8インチモデルを片手で撃って肩外した奴がハンターモデルなんて、どういう風の吹き回しだ?」

「人には言えないこともやるようになってな。確かに受け取ったぜ」

「片手で撃つこだわりは捨てたのか?」

 左手を振って笑ってみせる。

「そいつを捨てたら、俺の左手の意味がなくなっちまう」

「……そうか。まぁ、そいつがお前の正義なら死ぬまでやり通せよ。それぐらいは出来るだろう」

「んじゃあな、ガンスミス」

「おう、また来い。そん時は酒の一つでも手土産に頼む」

 会社の再建は諦め、社員を他の企業に再就職させる形で処置を取っていた。その為の手続きをしてる内に日が沈む。

 夕飯をどうするか悩んでいたスミスの携帯が震えた。着信相手の名前を見てすぐに取る。顔を合わせる機会はあれからめっきり少なくなってしまった。声を聞くのも久々かもしれない。

 ちょうど待ち合わせをしていた相手も来るらしく、場所を決める。そこは決まって沿岸沿いだった。依頼屋の拠点の都合上それは仕方ないことだが、毎度足を運ぶのは車のガソリン代が痛い。請求書はどこに送りつければいいのやら。スミスは支度を始めた。

 

 そして、到着した待ち合わせ場所の砂浜ではヴォルフと霧島が既に待っていたが、距離の都合上それも仕方ない。

「よぉ、霧島。久しぶりだな」

「お久しぶりです、社長」

「調子はどうだ?」

「上々と言った仕上がりですね」

「そうか、そいつは良かった。俺の見る目が間違ってないことが証明されたわけだ」

 木箱をヴォルフに渡して中身を確認させる。艶を消したガンメタルブラックのマグナムリボルバー、S&Wマグナム500の10,5インチモデル、俗に言うハンターモデルと呼ばれる物の新品を手にして左手で構えた。ホルスターと弾薬も指定通り用意されている。思ったよりも早い仕上がりに意外そうな顔をしていた。

「それじゃ、こっちも約束通りの品だ」

 USBメモリと封筒を渡される。それだけを済ませると用はなくなったのか、二人の傍から離れた。

 煙草に火を点けたところで霧島が話を切り出す。

「IS学園へ襲撃を仕掛けようと思います」

「……」

「あそこほど適した場所はありませんからね。各国の専用機がより取り見取り、相手に取って不足もありません」

 亡国機業と依頼屋の援助を受けて霧島の開発は完成した。だがそれでもまだ試験段階であり、目標はもう少し先にある。

 霧島が差し出すのは退職届だが、スミスは受け取るなりそれをライターで炙り出した。

「霧島。お前のやろうとしてることが国際テロだろうが知るか。お前は俺が責任を持って最後まで面倒みてやる。俺の助けた命だ、だからお前はいつでも頼って来い。そんときは新しく会社でも立ち上げてやる」

「……社長、本気ですか。私は」

「覚えてるか霧島、二年前のテロ事件。ISの研究説明会で襲撃してきた馬鹿どもの事だ」

「ええ、よく覚えていますよ。私はあれで一度死に掛けてますからね」

「あれが依頼屋だったとしたら?」

「……そうだとしても、今の私は変わりませんよ社長。逆に感謝したいくらいです。あの事件がなければ社長とも会いませんでしたから」

「前向きだな、全く参っちまう」

 煙草の灰を落とし、燃え尽きようとしていた退職届を放り投げる。潮風に吹かれて巻き上げられ、どこかへと飛んでいった。

「IS学園を襲撃しようが好きにしな。俺は止めねぇよ。それがお前の正義で、入社理由なら黙って見守ってやるさ」

「ありがとうございます、社長」

「褒められたものじゃねえけどな」

「ええ、蔑まれて当然の事です」

「自分の正義を貫こうとするなら世界が敵になるのは当たり前だ」

「……社長は」

「この歳で語れる正義はなにもねぇさ」

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