吸殻を捨てて車に乗り込み、スミスは目的の情報を入手して帰る。その背中を霧島は見送り、ヴォルフとモービー・ディック号へと帰還した。
IS学園への襲撃を予定としているが、その後の情勢を考えれば依頼屋としては行動を控えたい。しかし、これ以上深海で腐っていても無駄な時間を過ごすだけだ。亡国機業でも強奪した銀の福音を改修している。
ISコアを二つ使用しての機体がどうなるのかはまだ分からない。装甲の癒着も進展はなかった。コアが拒否反応を起こせばそれで何もかもが終わる。その為に未登録のコアも必要となった。結果として依頼屋は三十名の精鋭を失う痛手となったが、それも亡国機業のラボを接収できたとなれば多少は目を瞑れる。霧島は思わぬ収穫でもあった。
目下、留意すべきは亡国機業幹部であるフレイの動向だけである。
「霧島博士、IS学園へ襲撃を仕掛けることに関して俺は何も意見はない。だがな、一度あんな襲撃をやらかしてるんだ。二度目を許すような場所だと思うか?」
「確かに、そうでしょうね。ですが後に引けないのはこちらも同じこと。共倒れも覚悟しています」
「それじゃあ駄目なんだよ。こっちにはまだ仕事が一つ残ってるんでな」
「……と、言いますと?」
本来ならばエイハブと亡国機業間でのみ取り決められている話だ。他言無用であるはずが、ヴォルフはそれを打ち明ける。
「ISが本来、どういった目的で製作されたかは知ってるだろう? だがそれには人間が邪魔なんだよ。だから無人機が必要になった」
「まさか。しかしそれを制御する方法は?」
「あるわけねぇだろ、そんな物。暴走させることを前提に製作してるんだからな」
元から制御出来るような設計ではなく、本来居るべき使用者への負担を省みない性能を暴走させる。兵器の善悪が使用する人間に依存するというのなら、その設計思考は悪徳に満ちているだろう。
「よくて衛星軌道、月面までなら恩の字だ。最終的に宇宙空間で完成させる予定だが、どうだかな」
「もし、それが完成したとするなら」
「人間が勝てるかは知らねぇよ。俺はその計画を聞いた時からやることは決まってる」
その話を聞いて、霧島は笑みが零れた。ISを超えうる兵器が製造されているのなら協力の手は惜しまない。エクスペリエンス01に自信がないわけではない、あくまでも保険だ。自分が志半ばで倒れた時の為の兵器。
「アンタはあの男より賢いだろう? 機体の受け取りが済むまで妙な動きは控えてくれよ」
「その話を聞かせてくれた、君の真意は?」
「なに、単なるお節介だ」
ヘルメットの下でヴォルフは笑っていた。
自分の計画が上手くいった、その時は──自分は兵器としての本懐を遂げることになるだろう。
無駄話が過ぎた、早急に戻らなければ不審に思われよう。ヴォルフはアクセルを強めた。
パソコンと向き合いながらデータを次々と更新していく。時折手を休めつつ、音楽を聞きながらトライアレンドを調整していたルナリアは、この数時間の成果をアリーナで確認することにした。
威力を犠牲にチャージ時間の短縮とリミッターの制限を一部外してみたが、より扱いにくくなってしまったので首を傾げながら再び調整に入る。武装を追加しようにも良案が出てこなかった。現状維持でもいいのだが、機体を固定する為のアンカーを使用するのは威力に期待できない。
「…………」
ならば、と。早速ルナリアは再調整へ没頭した。そんな頬に押し付けられる冷たい感触に跳ね上がる。
驚いて振り返れば、片手に冷たい飲み物を持った鈴音が居た。
「なーにしてんのよ。こんなとこにこもってたら目悪くするわよ? はい、アンタの分」
ジュースを受け取ってルナリアは軽く頭を下げながら再び機体の調整を再開する。一年生の中でも機体を自ら調整するのはルナリアぐらいだ。データも自分である程度構築している。
「それにしてもあれねー」
飲み物を片手に鈴音はルナリアの機体、トライアレンドを見上げていた。右腕の固定武装リリウスは背中から伸びている。左腕の大型実弾盾は無理矢理取り付けたような状態だ。その機体がリリウスを撃つ為に設計されているのが分かる。一部の装甲が追加補修されているのは元々あった装甲の上からさらに重ねたからだ。
「アンタの機体、何回見てもゴツイわね。扱いにくくないの? 武装もそれくらいだし」
『慣れちゃった』
「そ、そう……」
住めば都のなんとやら。
頭を抱えて突っ伏すルナリアは相変わらずいいアイディアが出てこない。そして、ふと思い出して連絡を取ろうとしたが相手は出なかった。
薄暗いアリーナの待機室で朝から調整をしていたが、成果はない。夏休みも残り少なくなってきた。
部屋に戻ったルナリアはそこでもパソコンと向き合い、頭を抱える。
(……ん~)
眉根を寄せて悩むが、一向に手は進まない。かといって他の専用機の武装を模倣するのは良しと言えなかった。
仮に。
トライアレンドが衝撃砲を搭載しても、安定性で鈴音に至らない。稼働時間も短くなる。自分でなくても他に居るのならば任せてしまえばいい。
だからこそ、ルナリアは悩んだ。
(トライアレンドだからこそ出来ること……)
オートクチュールを常時使用? ──却下だ。文字通りの電撃戦に特化した物は一度きりの切り札のような物であり、尚且つ動いている標的に対しての効果があまり期待できない。それを補うのが使用者の腕前だとしても、それには限度がある。
自分の右手を見つめ、何が出来るかを考えた。
(…………)
“今まで”は、そうだった。……これからは?
天蓋付きのベッドを一瞥し、目を閉じる。
(まだ、何かあるはずだけど……)
それが思い浮かばない。そして目についたのはウェブメールのアイコン。
ふと、思い出す。そういえば博士はどうしているだろうかと。社長は何をしているか。
以前送られてきたメールは『忙しくなるのでしばらく連絡出来そうにない』と。
会社の地下はISその他の研究所になっていたが、そのシステムが生きていれば霧島の設計していた物が残っているはずだ。
「…………」
そうなると一度アメリカへ戻らないといけない。IS学園を離れるのは気が引けるが、仕方ないことだ。
依頼屋が再び襲撃してくるのではないのかと嫌な予感はするが、それは気のせいだと自らに言い聞かせる。二度も襲撃を仕掛けるようなバカではない。
(ヴォルフ……)
だが、どうしても頭から離れない男がいる。戦う為に造られた生体兵器の第四号。自分が憎んで止まない災厄の狼。依頼屋の実質的な主戦力。
ルナリアが悩んでいると、セシリアが夕食から戻ってきた。軽く手を振って歓迎するも、やはり画面から顔は背けない。
「あら? まだパソコンに張り付いてたのですか?」
出来るまで動かないつもりであったが、その意思も揺らぎつつある。肩を落とし、断念した。やはり一度アメリカに戻らなければ作業が進みそうにない。
セシリアにその旨を伝え、ベッドに横になろうとして止められた。
「ルナリアさん、シャワーは浴びましたの?」
浴びてない。起きてからでもいいだろうと思っていたのだが、セシリアに無理矢理脱衣場へと引きずり出される。疲れているので入らなくてもよかったが、セシリアはそれが嫌らしい。
「まったくもう、身だしなみは何度も言いますけれど整えてくれますこと!」
返す言葉もなかった。