インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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家族の在り方

 翌日。ルナリアは学園へ長期外出の許可を申請した。外出理由も明記して担任へ提出する。快く、とまではいかずとも千冬も事情が事情だけに許可を出した。霧島と連絡が取れる貴重な人材だ。

「ルナリア」

「……?」

「もし、霧島に会うことがあったら伝えて欲しい。お前のやっていることは間違っている、と」

 会えるかは分からない。だがルナリアはその言葉を伝えることに承諾した。

 滞在期間は一週間。夏休みももうじき終わってしまう。足早に寮へと戻る道で、アリーナから出てきたシャルロットとラウラに呼び止められた。

「あ、ルナリア。どうしたの?」

『外出許可を申請してきたの』

「そうなんだ。もしかしてアメリカに?」

 一度戻らなければトライアレンドの強化プランの確認も出来なかった。会社の地下のデータは関係者以外触ることすら出来ない。直接赴く以外に方法はなかった。

「そっかぁ……タイミング悪かったかな」

 首を傾げると、なんでもIS学園の近くで花火大会が開催されるらしい。だがルナリアはあまり興味が湧かなかった。

「なら、着物は必要だな」

「そうだよね。せっかく日本に居るんだから」

「ルナリアはアメリカに行くのなら早めに戻ってくるといい。せっかくのイベントだ、全員で楽しまないとな」

(花火大会かぁ……)

「そうだね。どんな用事かは聞かないけど、ラウラの言う通りみんなで楽しみたいし」

『じゃあ、早く戻れるようにがんばる』

「うん。それじゃあね」

 

 ルナリアは寮に戻るなり荷物をまとめる。「あら、ルナリアさん。荷造りしてどうしましたの?」

『ちょっとアメリカまで。一週間以内に戻るから』

「そうでしたか。そういえば、花火大会はご存知でして?」

『シャルロットから聞いた』

「私の着物を選んでいただこうかと思ってたのですが……」

『一夏じゃ駄目なの?』

「い、一夏さんを驚かせようと思ってるのに選んでもらっては本末転倒ですわ!?」

(ああ、そういう……)

 合点がいった。とはいえ自分も急ぎの用事だ。そうなるとまた他のメンバーに頼むしかない。

「仕方ありませんわ。ここは鈴さんにでも頼むことにします」

『ごめんね』

「いえ、気にしてませんわ。それよりも気を付けて行ってらっしゃいませ」

 適当に荷物を詰めたバッグを持ってルナリアは部屋を後にした。

 

 

 

 『サジタリウス・プロジェクト』──それがトライアレンドの強化プラン。霧島が計画していたが、今となっては地下の物資も本人の手で運搬されてデータ上の産物となっていた。ルナリア自身が進めてもいいが、それでもやはり霧島の手に比べれば格段に劣る。その試験がオートクチュールでもあるのだが、霧島の手を離れた為に独自の設計思想で補うしかなく、不完全なままである。

 スミスは空港までルナリアを迎えに行き、会社の地下で資料を漁っていた。

「……」

 サジタリウス──射手座の銘が示す通り、本来であれば十二機を各国で製造される予定であったが、やはりこれも三年前に停止している。

「なぁ、ルナリア」

 プロジェクトデータを打ち込んでいると、唐突にスミスが口を開いた。

「亡国機業の名前に聞き覚えはあるか」

「────」

「ああ、なに。別に責めようってわけじゃあねぇさ。お前を助けたあの日、なんであんな場所で大怪我して倒れてたのか気になってな」

 ルナリアは視線を逸らし、キーボードを叩く。

「驚いたさ。俺も思わず米国自慢の戦車に向けて発砲しちまうくらいにな。あんときゃ色々と自暴自棄になってただろうが、もう記憶にねぇ」

 空笑いが倉庫に響いた。

「フレイム・バリスタ、トライアレンドの元になったISの名前だってな。亡国機業の女幹部もそいつをコードネームにしてるみてぇでな」

(……生きてたんだ、あの人)

「そいつは、あの女が使ってた機体なんだろう。なぁ、ルナリア」

 ただ頷くことしか出来ない。トライアレンドは今でこそリリウスを主武装としているが、改修される以前は隠密・奇襲・狙撃を主体とした機体であった。武装も装甲内部に隠し持っていた為にISネットワークにおいてシェアリングを行ってもデータは非公開、敵を欺く為に味方すら欺く。そのシステムの一部は今でも生きている。

「まったく霧島の奴はやってくれたな。そいつをこうも造り変えやがった。アイツは俺の自慢だ、惚れ惚れするぜ。ざまぁみろだあの野郎、今じゃお前の専用機だ」

『私は』

「ああ、いい。何も言うな。お前が元々亡国機業の人間に育てられた奴だろうが、何だろうが関係ねぇし、どうでもいいんだ俺には。ただあの時、ガキが大怪我して倒れてたから助けたってだけで、お前に何の罪もねぇよ」

 

 ──何故、自分の声は誰にも届かないのか。

 

「ルナリア。血の繋がりなんかどうでもいいんだ、どうでもよくなってきちまうんだ。大人になるとな、段々独り身ってのが当たり前になっちまう。そんな寂しい毎日をぶち壊してくれるのがなにかって? ここだ」

 トントン、と自分の胸を叩いて見せる。

「人類全員と血が繋がってるわけじゃねぇ。だからな、心が繋がってりゃあいい。信頼出来る奴に背中を預けて、命を懸けて文句のねぇ奴がお前の隣にいれば俺はそれでいい。どうだ、ルナリア。学校は楽しいだろう? 同じ年の奴とバカやって」

 

 ──聞こえているだろうと、首に巻いたチョーカーに指を添える。

 

(……私の声は、もう誰にも届かないけど)

「社長やってからしみじみ思うぜ。銃をぶっぱなして走り回ってた毎日がなんだったのかってな。霧島が居て、お前が居て、他の連中に書類を押しつけられてヒィヒィ言いながら世界中飛び回って。忙しくて涙がでらぁ」

(貴方には、聞こえてるよね。トライアレンド)

「──なぁルナリア。普通の毎日ってのは退屈なくらいやってくるけどよ、思い出ってのはその時にしか作れねぇんだ。楽しめよ、俺はもうそんな歳じゃあねぇ」

 煙草を吹かし、スミスは照れ臭くなったのか頭を掻いた。

「まったく何言ってんだかな。歳を取るのも楽しみなんて紳士は言うが、俺はそこまでジェントルマン気取れねぇよ。逆に恥ずかしくなってくる」

『ありがとう』

「やめろ、恥ずかしくなってくる」

『学園、楽しいよ?』

「……なら、いいんだよ」

 そんな場所を壊そうとする人がいる。それを企む相手がいる事がルナリアには許せない。立ち向かえるだけの力が自分にあるのならそれを使うことに躊躇いはない。

 データの仮入力を終えて、トライアレンドの調整が始まった。インストールが完了するまで時間がある。

「んじゃ、ちょいと飯でも食いに行くか。久しぶりだなお前と食うのも」

 半年も経っていないのに、随分と昔のように思えてしまう。それがどこか寂しくもあった。互いの距離が離れてしまうのではないかと不安で。しかし今、スミスは言った。

 一番大事なことは心の繋がりだと。

 ルナリアはスミスの手を握る。

「ん、どうした?」

「…………」

 何かを言い掛けて、メモ帳に筆を走らせた。

『なんでもない』

 恥ずかしくて書く事も出来ない。

(お父さん、なんて……言えないよね)

 スミスに手を引かれながら、ルナリアは少しだけ赤くなった頬を冷ます。

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