IS学園の敷地を走るのはヒューズダストを装備した依頼屋。その筆頭たるヴォルフもまた愛機で駆け抜け、積荷である爆弾を置き去りにしていく。通過した場所は草一本残らないまでに爆破していた。
恐怖を助長するに留め、表面上の被害を増長させていく。通信回線を開き、頃合を見計らって合図を送った。
全世界へ向けた犯行声明。依頼屋の存在を知らしめる為に。篠ノ之束に送られる宣戦布告。
『――我々は依頼屋である。欲を叶え、果て無き戦乱を望み、同時に死場を求める亡霊だ。中には知っている者もいるだろう。今日この日をもってして我々は篠ノ之束へ宣戦布告する! その為の狼煙だ!』
IS学園こそがその役割に相応しい。ここには彼女の親友である織斑千冬がいるのだから。
同時に映し出される映像は真紅の竜、黒い武者、そして大型自動二輪の襲撃者。
滅びの美学に則り、依頼屋は存在を主張する。
『この声を聞いているだろう、我が同胞達よ。今こそ動く時! 絶望した果ての果ての先、死に場所は――此処にあったぞ!』
(ほざいてくれるぜ人間風情が! 自分が生まれた意味も分からないままに思い上がりやがって!)
ヴォルフは嘲笑する。エイハブの言葉を、依頼屋の行動理念を。爆炎を置き去りに走り抜ける。空になったバックパックを廃棄するとフロント左右のカバーからプラズマソードを抜いてすり抜けざまに斬りつけた。所詮は量産型、基本的な動作はこなしてきたとはいえ年季が違う。結局はパイロットの技量に左右される。
そんなヴォルフを正確に捉える射撃。教員と思われる女性がラファール・リヴァイブで狙っていた。その顔は記憶にある。資料で見た名前を呟いた。
「…………山田真耶、か。相手に不足はねぇ」
黒煙の中に佇む真紅の竜が両手を掲げる。空を仰ぎ、受け止めるように。その掌の空気が揺れる。熱だ。膨大な熱気によってクリムゾン・フォウマルバウトの周囲の温度が上昇している。
『この程度で、終わると思ってもらっちゃぁ困るんだよねぇ!』
火炎放射が周囲を薙ぎ払う。《クリムゾンネイル》の更に派生型、《フレイムブレイド》は草木を燃やし、鉄を溶かす。押し寄せる熱波はIS自体に直接損傷を与えずとも搭乗者にダメージが入る。そしてそれを防ごうとISのシステムは動き、結果的に相手の稼働時間を奪うことになる。自身にその危害が及ぶことを防ぐために全身装甲型に設計されたクリムゾン・フォウマルバウトはその抜き出た破壊力で戦場を蹂躙して、平和を破壊する真紅の竜だ。
実弾盾、エネルギー盾を合わせて防いでいたシャルロットだったが、ラウラに目配せする。この状況ではAICも役に立ちそうにない。
シュヴァルツェア・レーゲンからワイヤーブレードが射出され、身動きを封じる。腕を絡めとり、引き寄せた。だが負けじと踏ん張る姿に妖しく笑う。
『ウチと力比べしようたって、無駄なことを!』
「そんな気など毛頭ない!」
ラウラはその綱引きの状態からレールカノンを撃つと同時にワイヤーブレードを緩めた。咄嗟に防がれたとはいえ、多少ダメージは入ったはずだ。それに乗じて回り込んだシャルロットが連装ショットガン《レイン・オブ・サタデイ》と重機関銃《デザートフォックス》を撃ち込む。
相手の武装は背中のコンテナから取り出していると踏んで背後からの奇襲。そして相手のシールドを削るために威力を重視した二挺を両手に持つ。狙いは荒くなるが、それでも十分に効力を発揮するほどに機体が大きい。
『くぉの、チョコマカっとぉ!!』
「そんな大きかったら目を瞑ってても当てられるよ!」
再び熱気の刃が薙ぎ払われるが、軽快な動きで避けたシャルロットは回避と同時に攻撃を続ける。さらにラウラのレールカノン《ブリッツ》も相まってデストラクターの巨体がよろめいた。
『調子に乗んなぁ!』
虚空に突き出した掌底。発射されたのは筒型の爆薬。四枚の羽が開いた次の瞬間、白煙を噴き出す。咄嗟にラウラがAICで受け止め、当たるはずであったその筒は地に落ちた。そして吹き出していた白煙も徐々に薄れていく。
「ふん、そんな見え透いた攻撃が――」
『発破ァ!』
落ちた筒が閃光を放ち、視界を奪う。だが本命は違う、閃光と爆音の中から敵に取り付くマイクロ爆弾だ。黒い斑点のようにシャルロットとラウラのISに張り付いた《エクスシード》が一斉に起爆する。
『ボコスカバンバンよくもウチにやってくれたなぁ!』
クリムゾン・フォウマルバウトの装甲が剥がれ落ちていた。
「反応装甲……!?」
「アイツの全身がそれで包まれていたとでも言うのか」
『デストラクターなんて大仰な名前付けられて、自分の名前に負けてたら格好悪いじゃん! ぶっ壊ぁぁす!!』
《リアクティブスケイル》を強制パージ、吹き飛ぶ反応装甲の小さな爆発が吸い込まれていく。灼熱の息吹でも吐くように竜の全身に収束されていった。
炎熱操作のワンフアビリティ、『燎原烈火』の発動――激情家の側面を持つデストラクターにうってつけの機能は手始めに機体の周囲の空間を焼き尽くす。
『トラさん、そんな激しくされては……』
『カナデ、ウチはヨユーだから博士さんとこヨロシク! 目の前の生意気な小娘、粉微塵に焼き尽くすからさぁ!』
困惑したような奏は、不安に思いながらも霧島の支援にBT兵器を移動させた。攻撃型BT兵器《サウニオン》・防御型BT兵器《セグメント》の制御は容易ではない。だがBT兵器適正の高い奏にこそ相応しい銀の翼だ。
「でぇやぁあああああ!!」
一夏の攻撃を難なく捌く霧島は鍔迫り合いに持ち込むと素早く離脱する。一瞬遅れて衝撃砲の連射が土煙を巻き起こした。
「っのぉ、もう! 一夏、大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ。サンキュー鈴」
「まったくもう、霧島博士って……博士らしくないじゃない! どこが博士よ!」
鈴音の言葉は尤もだ。しかしそう呼ばれるだけの技術を今の霧島は実現してしまっている。
『いやはや、ひどい言い草ですね。これでも昔はちゃんと論文の発表などしてたんですけど』
「今はなによ! ただの国際テロリストじゃない!」
『そうですね。ですが、私の夢はそうでなくては』
OAシステムの起動はイグニッションブーストに匹敵する瞬間的な加速、それにより彼我の距離を詰めて霧島の一閃は鈴音の衝撃砲を一基破壊する。足を止める暇もなく一夏へと返し刃で迫った。
飛び上がって回避、そのまま雪片弐型を振り下ろそうとして。
『一夏君。君は、こんな世界で本当にいいと思っているのかい?』
「っ、早――!」
それよりも先に霧島の《六閃・立花》が閃いた。空中で更に跳ねて取り付くと追撃して地面に叩き落とす。
『私はね、許せないんだよ。束の自由を奪ったこの世界が。だから私はこの手で彼女を越える。全てを犠牲にしてでも、他の誰を利用してでも! 三千世界から侮辱の言葉を投げられても私はこの夢を諦めない。この道から違える気もない』
切っ先が二人を睨む。空いた左手が腰のもう一本を抜き放つ。
『彼女は天才である以前に、一人の女性だ。誰かを愛する権利も誰かに愛される権利もあるはずなんだ。それすらままならない状態に追い込んだのはこの世界だ』
「……狂ってるわよ」
『ああ、そうかもしれないね。だが、正気を保っていたのなら私は博士と呼ばれてすらいなかっただろうね』
その狂気があればこそ、霧島はそこまで上り詰めた。他の誰にも止められないほどに。