インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

37 / 65
進むは修羅の道、退かずとも破滅

 ――アメリカに滞在していたルナリアもその放送を聞いていた。依頼屋による電波ジャック、そしてIS学園の襲撃を見ていた。

(……ヴォルフ)

 今となっては哀れとしか思えない。黒い武者は一夏と鈴音を相手にして互角に立ち回っている。真紅の竜は手当たり次第に破壊の限りを尽くしていた。ちらりと映ったシャルロットとラウラを相手にしているのだろうが、所構わず爆弾を景気よく振りまいている。

 こうしている場合ではない、自分も行かなければ――。

「ルナリア。どこに行く気だ」

「…………」

「今から友達のところに行こうってか? どれだけ急いでも間に合わねぇよ」

 それでも、行かなくてはならない。

「そら、連中……依頼屋は世界中で戦争の後押ししてきた戦争バカ共だ。戦場が欲しくていらねぇ被害を広げまくってきた底抜けの、突き抜けた悪党だ。そんな奴に挑むのか? 最強の兵器で」

「…………」

「ルナリア。どれだけ綺麗事を言ってもな、銃は凶器だ」

 スミスの手にはコルトガバメントが握られていた。テーブルの上にはコルトパイソンも置かれている。

「銃だけじゃねぇ。他人を傷つける武器は、全部凶器だ。どんな建前や大義名分があろうともその本質だけは変わらねぇよ。ISだって同じだ。映画みたいに悪党どもを倒してハッピーエンドってわけにもいかねぇぞ」

 自分は、どのような理由があれど人を殺めようとしているのだ。だけど、そうしなくては守れない。

「銃に詰めるのは弾丸だけじゃねぇ。「自分が正しい」と信じる正義だ。人を撃った後で後悔してもしょうがねぇからよ、スパッと開き直っちまえ。自分の良心に負けるくらいなら罪悪感なんていらねぇんだ」

 車のキーを持ち出すと、ルナリアの頭をくしゃりと撫でる。

「……俺にもISを動かせりゃ、お前を戦いに巻き込まなくて良かったのかもな。羨ましいぜ、織斑一夏。――空港まで送る、車に乗れ」

 スミスは敢えて黒武者の正体を明かさなかった。それを知ってしまえば、ルナリアは迷うから。

(霧島。お前は凡人の俺と違って非凡な努力をしてきただろ。俺はお前の夢の邪魔はしねぇよ。せいぜい突っ走れジャパニーズ)

 もしかすれば、気づいてるのかもしれないが、スミスはそんなことにまで気を回す余裕はなかった。自分の事でも手一杯である。

 最寄りの空港が見えてきた所で、異変に気づいた。黒煙が上がっている――。

「――……オーケーオーケー、上等だ! 他の国がどうだろうが知ったことじゃねぇが、俺の愛する俺の生まれたアメリカにも喧嘩売るってんだな!」

 愛用の45口径を取り出してセーフティを解除するスミスの横でルナリアも手を貸そうとするが、制された。

「いいや、これは俺個人の喧嘩だ。お前はさっさと友達の所に行ってこい。……心配すんな。今頃軍も動いてるだろうからよ」

『社長』

「なんだ」

『けじめつけるのは私の給料は支払ってからにしてね』

「……お前も随分なジョークを言うようになったな」

 微笑み、ルナリアは車から降りて走り出す。

(今からトライアレンドを起動して太平洋を横断したとして……)

 少なくとも七~八時間。――ダメだ、遅すぎる。飛行機が使えない状況とはいえトライアレンド自身の速度では到底……そこまで考えが至り、ルナリアは歯噛みした。

 リリウスの拡張領域をパッケージに一体化することで抑えて造り上げた機能特化専用パッケージ《ミョルニル》を起動させるしかない。

(みんな、待ってて。すぐ行くから――だから!)

 

 

 

 セシリアと箒がISを起動させて到着した頃には学園は無惨な姿を晒していた。

「ッ……!」

 一夏と鈴音を相手取る黒い武者を見て、箒は遮二無二突貫する。

「はぁあああああ!」

 気迫一閃、背後からの奇襲を霧島は回避した。

「箒! あれは」

「分かっている! 世界の、敵だ!」

 雨月と空裂を振るい、紅椿の高い基本性能で徐々に追い詰める箒だが、その兜の下から響く声に動きが止まる。

『腕を上げたようだね、箒ちゃん』

「その声……霧島さん……!?」

『ああ、それが例のISか』

「箒、離れろ!」

 一夏の声に意識を戻され、押し出すように蹴り飛ばした。空裂のエネルギー刃を距離を牽制として撃っておく。だが霧島は両腕を振り上げると、力任せに叩き割った。

『どの国にも帰属しない、君だけの第四世代IS……それとどれだけ張り合えるか試させてもらうよ』

「紅椿のエネルギーが……」

「箒、霧島さんに接近戦は不利だ。と言っても、俺の白式にはこれしかないけどな……」

「だったらこれで!」

 鈴音が龍砲を連射する。砲身も砲弾も見えない不可視の衝撃砲、その着弾よりも早く霧島は距離を詰めていた。

『それでどうにかされないようにするための加速ですよ』

「完全近接仕様ってわけ……!」

 距離を詰めなければエクスペリエンス01はその機能を一割も発揮できない。その鋼の凶刃で敵を斬る事に特化した潔さは認める。その間合いに敵を捉え続けてこそ対IS専用兵器としての性能を発揮できる。

 《六閃・立花》の刀身にはエネルギー防御も施されているが、その機能を使用するにもエネルギーを大なり小なり必要とする。今はまだ二本だからいいが、これを全て使ったとなると……。

(あまり長くは持たないか……)

 エネルギーの残量を確認。デストラクターから多少の援助があったとはいえ、それでも少々厳しい。依頼屋の目的も果たせた。あとは頃合を見て離脱を図ればいい。

 龍砲と雨月の連続攻撃を掻い潜るが、OAシステムの連続稼働は自身に負荷もかかる。ISと違ってPICもなければ絶対防御も搭載していないのだから。

『よぉ博士、調子はどうだい』

『あまり良いとは言えない状況だね』

『そうかい。撤収だ、今回の目的は達成した。寝ぼけてた連中を起こすにはいい目覚ましだったらしい』

『と、言うと……?』

『世界各地で依頼屋が動き出した』

『了解しました』

『ちぇー、もうちょっとで終わるってのに……』

 デストラクターの前には息を切らし、機体も激しく損傷した二人がいた。クリムゾン・フォウマルバウトの掌では火球が渦を巻いている。周囲を顧みない猛攻はシャルロットとラウラだけでなくラファール・リヴァイブを使用していた生徒たちをも巻き込んでいた。

 スターライトMk-Ⅱの銃口から閃光、対象を穿つはずのその輝きを、デストラクターは掌の火球を掲げることで相殺する。

「そんな!? 私の射撃が……」

『コイツにはちょっとばかり仕掛けがあってねえ、そいつを教えるような真似はしないけど……アンタ、邪魔』

 灼熱の鞭が振るわれる。セシリアはそれを避けるが《サウニオン》が行動を阻害する。防御のみならず《セグメント》の形成するバリアーは相手を包囲する檻にもなった。

『ナーイス、カナデェ!』

「っ!?」

「セシリア!」

 動こうとするシャルロットが横殴りに跳ね飛ばされる。そばにいたラウラに投げられたのは閃光手榴弾。一瞬の隙に《ブリッツ》に巻きつけられるのは円盤を束ねたような鎖だった。

 ヴォルフが手元の起爆装置を押すと、それは一斉に爆発して装甲を砕く。手元に残ったのはみすぼらしい鎖の亡骸。

「クソ、爆導索……チェーンマインまで持っていたとはな!」

「使いどころがなかったんでな、使わせてもらった」

 視界の回復しないラウラを無視してヴォルフは撥ねられたシャルロットへ向け、アクセルを強めた。連動機雷(チェーンマイン)の基部であった爆導索を振るい、首に巻きつける。倒すやり方はいくらでもある、こと戦場で敵に情けをかけるような“教育”は施されていない。

「くっ、あぁっ……!」

「どうだい、少しばかりドライブに付き合わねぇか!」

 ヘルメットの下で、ヴォルフは凶悪な笑みを浮かべてブラッドヴォルフのアクセルを全開にした。掴んでいる腕が悲鳴を上げるが、それ以上の出力で狼は走り出す。地面を引きずられるシャルロットの機体はもう限界に近かった。シールドエネルギーが底を尽きそうになっている。このままでは命の保証もない。

 首を真綿で絞められているような感覚は絶対防御が働いているうちだけだ。その前にどうにか抜け出そうとシャルロットは爆導索の切断を試みようとして、壁に激突させられる。そんな西部劇のような仕打ちが数度行われた。その頃にはシャルロットの意識は朦朧としていたが、ヴォルフは仕上げにラウラへ引きずっていた荷物を叩きつける。もつれあった二人に爆導索が巻き付き、爆発した。元々、対施設用に設計された物だ。その威力の程は尋常ではない。

 爆発から投げ出されるようにシャルロットが転がる。ISは強制解除されたのかISスーツの状態だ。

「世界最強の兵器でも“完璧”なんてものはねぇんだな? 生きてるだけで大したもんだ」

「っ……ぁ……」

 髪を掴み、そのまま持ち上げると肩に担ぐ。

「待、て……! 貴様!」

 起き上がろうとするラウラを持ち上げるのはデストラクターだ。破損した《ブリッツ》を掴むと、

『いい加減、しつこいってのぉ!』

 力任せに投げつけたそれを鈴音が受け止めた。

 その背後でセシリアが阻止しようとするが、薙ぎ払う尻尾で強打される。意図した物ではなかったのか、意外そうな声をあげると竜の手はブルー・ティアーズを掴んだ。

『せっかくだし、このお嬢さんも連れてっちゃうか』

 一夏と箒が即座に動こうとして、シャルロットに突きつけられた銃に動きを止める。

「ISはともかくとして……さて、こいつの体はどうだ?」

「この、卑怯者め!」

「ああ卑怯で結構! せいぜい喚けよ、負け犬諸君」

『では、今回はこれにて退散させてもらいますよ』

 背を向け、去ろうとする霧島に一夏と箒が同時に斬りかかる。明らかな不意打ちだった。雪片弐型と雨月・空裂の三本に対し、霧島は二本――その手には。

『これ以上邪魔をしないでくれ。もう私は進むしかないんだ』

「なっ!?」

「腕が……!」

 “六閃”――それに偽りはない。阿修羅でもなければ振るえない六刀流。しかし霧島はそれを抜刀した。一本、余さず。

 展開装甲ではない。“最初から”展開していたそれを動かしただけだ。肩、背中の分厚い装甲はそれを隠匿する為にある。

『斬り捨て御免』

 刹那に瞬く六閃は二人の身体を刻み、突き放した。

 

 ――その妄執に取り憑かれた男の歩く道は、修羅に違いない。

 

『あーあ、まったく。不完全燃焼だわ』

「あれだけやったのにか?」

『それでは日を改めて、いつの日か』

 

 僅か三人。ヒューズダストを装着した残りの依頼屋は職務を全うして散っていた。

 この襲撃を皮切りに、世界中で潜伏していた依頼屋並びに反IS主義者による行動は夜も戦火で照らした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。