インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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過去の束縛。逃げられない宿命

 

 

 モービー・ディック号より分離した潜水艦は各々の役割を果たすために世界各地で待機。

 それらは艦隊を組み、慎重に運用されている。個々の性能は極端に特化されており、性能を発揮するには連携が重要だ。

 潜水艦同士の戦闘を想定しているならば善戦出来るであろう。――しかし、今。

 その艦隊を編成していた一部の依頼屋は脆く崩壊していた。

 たった一機の兵器の手によって。単身単独、独断専行の機影はレーダーで捉えるより早く戦闘領域から離脱。数拍の間を空けた後に反転して再度襲いかかる。

 既に機雷敷設型潜水艦・沿岸型潜水艦・補給型潜水艦の三隻が沈没していた。依頼屋達は忌々しく睨みつける。大空を支配する凶悪なその影を。まるで獲物を執拗に狙う弾丸だ。

 動力の停止を確認。貫通した弾丸は船体に穴を開け、艦内に海水が入り込む。全員が退艦命令を聞き、離脱を図ろうとしていた。だがその攻撃の手が止むことはなく、水柱を上げて沈没する。

 

 目標の破壊を確認――。両翼を広げた姿は鳥の様であり、矢じりのようでもある。

 海面に浮かぶ残骸には興味もなく、次の目的地へと移動を始めていた。

 依頼屋は一人残らず海の藻屑にすると決めている。残弾と展開可能武装の状態もチェック、特に問題は見当たらなかった。

 シールドエネルギーを一定量消耗して光学迷彩を纏い、雲を裂く。

(……結局、私は昔と同じだ)

 一人、空を飛びながら思い出す。胸の辺りが不快感に襲われ、背筋を嫌悪感が駆け上がる。

(社長は、私に普通の学校生活を送ってほしいと言っていた)

 自分を戦場に呼び出したのは、紛れもなくヴォルフだ。

 銃を握り、ただただ無感情に引き金を引いていた日々。必要な時はナイフを閃かせて。

 亡国機業にいた頃は、今にして思えば退屈な毎日だった。二度とそんな日々が来なければいいと願っていたが、現実は容易く裏切る。求めるほどに遠く、願うほどに届かなくなっていく。ならば、とルナリアは求めることも願うことも投げ捨てた。

 始めはスミスと霧島の為だっが今は少し違う。それにIS学園の皆が加わった。

 他の誰かの手が汚れるなら、初めから汚れている自分が全てを終わらせてしまえばいい。それだけのこと、誰も傷つかない。

 だから、こうも簡単に引き金が引ける。

『罪悪感は省け。銃とはそういう物だ』

(――――――私は、そういう人間なんだ)

 守る権利なんて、きっと無い。守られる権利なんて以ての外だ。だからこそ、ルナリアは軽々しく守ると言ってみせる一夏が好きになれない。好意を抱くことはきっとないだろうが……。

 センサーに反応があった。依頼屋の撃沈を確認に来たのだろう。だが既に入れ違いで自分はその場を後にしている。残骸に興味はないルナリアは速度を上げた。

 あれから一晩、もう戻ることはない。全てを撃ち抜くまで自分は止まらない。殺し続け、殺されるその時まで。敵は何処だと求めて彷徨う流れ弾だ。

 守ってくれと願われて、何も出来ないどころか自分は傍にすら居なかった。

 嗚呼、だから私には誰かを守るなんて器用な事は出来ないのか――放たれた弾丸は帰ってくることなく、無残な傷跡を残して消える。

(…………私に、心はいらない)

『お前は弾丸だ。弾倉に込められ、起こされた撃鉄で放たれ、射手の狙い通りに敵を撃ち貫く。ただそれだけのものだと思え。意思を持つ弾などない。――分かったな』

(私に、血はいらない。涙もいらないんだ……)

 

 ――本当に?

 

「――――?」

 誰かの声が聞こえた。初めて聞く女性の声に、ルナリアは状況を確認する。鈴を転がすような、優しい声色はどこか悲しそうだった。

(気のせい……だったのかな)

 IS学園を出てからこの半日、休憩なしに世界各地に見られる依頼屋を潰して回っている。ベーリング海、アラスカ湾、ビスケー湾、地中海――領空侵犯もいいところだ。世界中から指名手配されても文句は言えないが、そんなことは知った事ではない。

 幻聴紛いの声も聞こえたことだ、そろそろ休憩を入れなければならない。焦りと早る気持ちを抑え込んで自分のコンディションを保つことは大事だ。

 

 

 

 ヴォルフは“睡眠”していたが、その途中で叩き起こされ、呼び出された。体の節々が痛む。強制起床は滅多なことでは行われない、非常事態でもない限りは。

「ヴォルフ。由々しき事態だ。一刻を争う状況となった」

「なんだってんだ。食料が尽きそうだ、なんて冗談は止せよ」

「我らが同胞のおおよそ半数が沈没している。各国の軍によってではなく、何者かによって。ISであろうとは思うがな」

「それがどうした?」

 心当たりはすぐに思い浮かんだ。

「お前の出番だ、すぐに破壊しろ」

「無理を仰るこって。こちとら“寝起き”でウォーミングアップも済ませてないってのにか」

「…………」

 ヴォルフの前に用意された物はペン型注射器が五本。それを見て自分に拒否権がないことを思い知らされる。

「“分かるな”? ヴォルフ、お前に拒否権はない。お前が何の為に造られ、何と戦い、何故死ぬか」

「嫌いだね、そういう物言いは。分かってて聞くのは頭が悪いな、艦長」

「急げよ。こちらも最終段階に差し掛かっている。霧島博士が出られない以上はな」

「……亡国機業はどうした?」

「別行動だ」

 沈黙を挟み、ヴォルフはその注射器をまとめて手にする。エイハブを睨みつけながら。

「コイツを使うってのがどういうことか、理解してんだろうな」

「無論だ。お前の“兄達”の死が無駄ではなかった事を証明してみせろ」

(兄弟家族だぁ、笑わせるなよ艦長?)

「打ち上げ開始まで、我々の場所が知れるわけにはいかんのだ」

「了解」

 何があろうと、最後に勝つのは俺だ――ヴォルフにはその自信があった。

(来いよ、ルナリア。お前の探し物は、俺が知っている。お前に俺は殺せない。俺は、お前に殺されない)

 どうあろうとも、負けるはずがないのだ。

 ――これより使用する薬の副作用を除いては。

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