インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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灰塵の亡霊編:滅び往くものへ
完全銃身展開――殺意と誇りと光り輝くもの


 亡国機業爆破工作部隊ヴォルケイノブレスは依頼屋と協力してはいたが別行動を取っていた。今回の騒動に関して、亡国機業は一部の技術協力体制を結んだだけである。

 フレイは髪をかきあげ、乾燥した風が運ぶ硝煙と炎の臭いに懐かしさがこみ上げていた。かつては自分も第一線に立ってそうしていたというのに、今はこのザマだ。体の半分が義体に挿げ替えられているとはいえ、まだ辛うじて幹部としての地位を保っていられるのは娘の存在があるからである。まだISを預けたままだ。いつなりとも回収できる。消息不明とは言えあれは自分が手がけた亡国機業の駒だ。そう簡単に死ぬはずもない。裏切るはずもない。

 殺すことと生き抜くことを叩き込んだのだ。生まれてから、別れるまでの間に。身体に教えたことはそう簡単に忘れもしまい。

「フレイの姐さん」

「どうした、ボマー」

「依頼屋の連中、片付きました」

「そうか」

 今や世界中が混乱している。依頼屋同士の連絡もそう簡単にいかなくなってきていた。突如として連絡のつかなくなる部隊がいくつか、そしてそれらは国境を問わずに制圧されている。ここも潮時だろう。フレイはその場から離れる指示を出していた。その前に依頼屋から持ち出せる物は持ち出していく魂胆だ。

 真紅の竜が拳を鳴らしている。まだ不完全燃焼らしい。

『あーねーさーん、ウチまだ燃やしたりなーい』

「ボマー、十分以内に詰め込める物は積んでおけ」

「了解っす」

『まー、なんつーか。依頼屋の連中も呆気ないもんだね』

「お前の兵装なら、容易いだろう」

『でもさー、他の奴らがやられてるってのはもしかして……IS学園? それとも国家代表?』

「バカを言え。国家代表とは言え自治国を守るので精一杯だ、ましてやIS学園? 子供の遊び場だろう」

『まー、そりゃそうよねー。ウチやカナデとは大違いでぬくぬくとしてる連中だし?』

 デストラクターは身体を伸ばす。全身を覆う『リアクティブ・スケイル』が擦れて低い金属音が鳴った。腕を垂らせば爪が地面を掻くほどに近い。

 しかし、とフレイは右手を顎に添えた。

 国家代表者が国連の命令で手を組んだ話はない。そしてIS学園は完全中立国だ。他の国が支援を要請しても出撃は渋るだろう。ならば、一体誰が? この状況で自由に動け、かつISを所持している者、かつ実戦経験を経た人物――真っ先に自分の娘が浮かんだ。

「……」

 もし自分の考えが当たっていたのなら、腹を抱えて笑おう。

 娘の成長を笑おう、喜ぼう。手を広げて迎え入れよう。

(お前だったのなら私はこの上なく嬉しいんだがな、アイロニー)

 亡国機業内でそう呼んでいたように、心中でもそう名前を呼んだ。娘につけた名前なんてどうでもよかった。一夜の愛を囁いた男がつけた名前だ。自分の中では既に故人と決めている。

「姐さん、十分前ですけどこれ以上は……」

「離れるぞ。レギオン、周囲の状況はどうなっている」

『周囲にISの反応はありません』

「デストラクター、指示があるまでこの周辺に近づく依頼屋を焼き払え」

『もーちろん、望むところ!』

「車を出せ」

 黒のライトバンが走り去り、遠ざかっていくのをデストラクターは軽く手を振って見送った。残された砂塵が宙を舞って消えていく。

『トラさん、接近する反応が……』

『オーケーオッケー、じゃんじゃん来てもらわなきゃあ困るのよねぇ。煮え切らなくてイライラするからさぁ!』

 竜の頭が持ち上がる。航空戦力、地上部隊、何が来ようとデストラクターは負ける気がしなかった。全信頼をおいている奏が傍にいる。二人で一機のISは設計思想通りに運用さえすれば敗北はない。

 

 ――そう信じ切っていた。

 

 

 

《リリウス:リミット解除・完全銃身展開へ移行》

 相手は二機。こちらは一機。火力と機動性を向上させてはいるがそれだけだ。じゃじゃ馬な性能にさほど変わりはない。ならばどうする? 正面切って挑んだところで勝ち目は薄い。

 マンツーマンの戦闘ならばまだしもツーマンセルだ。与えられた情報を見る限りはBT特化型と制圧特化型、電撃戦特化のパッケージを使用しても通用するはずがない。EMPはそうそう連射の効くものでもないし、アレは奥の手のようなものだ。

 ルナリアが接地したのは陸地より離れた孤島。座標の調整を行い、背面に背負ったリリウスを展開する。

 折りたたまれていた銃身が機関部より直結され、二度持ち上がる。右腕に固定していたラックを解除。再構成するバイポッド、あまりにも巨大すぎる超長距離電磁加速狙撃砲の全貌はISを用いても持ち歩けない。なぜそのような物が設計されたのか。

 ISは理論上、宇宙に行ける。ならば大気圏外からの攻撃――例えば衛星砲、に対抗しうる物理的手段が地上になければならない。そんな馬鹿げた机上の空論を実現してしまったのだからあの会社はどうかしていた。しかし、その代わりに得られたものは最高最強威力の狙撃砲。限界までコンパクトに落とし込んだそれに霧島がつけた名前は――《アマリリス》。だがスミスが花の名前なんて女々しいと一喝して《リリウス》と改名した。

 その為、通常形態は《リリウス》完全銃身展開状態では《アマリリス》と用途別に名前が別登録されている。それも領域を食っている要因であった。

 ステルスシールドの状態を維持したまま全長八メートルの巨大すぎる砲身を構える。左足にシールドを取り付け、地面にアンカーを打ち込んで機体を固定。座り込むように構えて照準を合わせていく。スコープの倍率を徐々に上げながら目視と共に座標軸を調整、繰り返し繰り返し繰り返し……敵を発見した。

 電磁投射砲というのは、どうあっても時間の掛かる物だ。圧力を掛けて打ち出す為にはそれなりに手間が掛かる。――しかし、ルナリアはそこにシールドエネルギーを加えた。白式の『零落白夜』を参考にして、シールドエネルギー同士を相殺させるというものだ。絶対防御すら貫通するだろうそれを、敵に向ける。

 生殺与奪に懸念はない。どうせ、いつかは理不尽に訪れる死に直面しなければならないのだ。自分も。

 狙うのは白銀の翼のIS『シルヴァレイン』だ。BT兵器の搭載数もさることながら、その制御とワンオフスキル『胡蝶之夢』がルナリアにとっては厄介だった。ISネットワークを用いての相互情報強制開示、それにBT兵器の座標固定も加入されれば逃げられない。

《アマリリス:充填率80%》

(……シールドエネルギーを回してもこの程度か)

 ステルス状態を維持して、かつネットワークから孤立した状態では不便の極みだ。二発目はない。過剰出力とも言える圧力を銃身内部に掛けて弾丸その物をシールドで覆っているのだから。追加エネルギー分を計算に入れても、ギリギリ全快に届くか怪しい。確実に言えることは一つ、シルヴァレイン搭乗者の死は確実だろう。

 自分はただ、一発限りの殺意でいい。

 孤島より離れた陸地。砂塵が舞っている。そこに銀の蝶がいた。竜の翼を持つ白く美しい無機質な蝶だった。ひたむきに隠し続けていた殺意を向ける。充填された殺意を合図に隠れ蓑を取り払う。気づいても遅い。それは光に等しく速く死を届ける光り輝くもの。

「――っ!」

 バイポッドと共に機体をアンカーで固定しても全身に響く鈍重な反動は莫大で、思わず歯ぎしりが鳴る。瞬きするまでもない、悲鳴を上げる間もなく、死を認識する前に、

 

 葵奏は蝶のように死んだ。愛する思いすら伝える余裕もなしに無情に消し去られて。

 

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