インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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青い雫対三叉槍の雷撃

 やがて静止したルナリアは空を見上げる。セシリアの威風堂々と自信に満ちた姿が浮かんでいた。

 ISの基本的な戦闘は空中で行われる。その為、まさか地面に着地するとは思っていなかったアリーナの面々は驚いていた。

「そんな所にいては私に狙い撃ちにされましてよ!」

 セシリアがスターライトmkⅢを向ける。巨大なレーザーライフルから閃光が奔った。それを避けようともせずに左腕の《シールドバンカー》で防いだトライアレンドの足元から土埃が舞う。脚部から重く響く起動音、モーターの鈍重な駆動音がアリーナを駆ける。

 キィイイイイイ──! セシリアの狙いを逸れるように灰色の機体は右腕の大型武装を構えることなく走った。

 右膝を落とし、重心を傾けて右に曲がる。そんなイタチごっこが続いていたが、セシリアが痺れを切らして《ブルー・ティアーズ》を射出した。合計四基の青いビットがルナリアの頭上を覆い、追跡する。

「逃げていては私に勝てませんわよ!」

「…………」

 左膝を曲げて重心をずらし、G・マニューバーホイールを前後逆に動かす。その場で回転するようなターンで一時はビットの攻撃を逃れた。その逃走劇を見ていたシャルが唸る。

「んー……全然攻撃しないね、ルナリアさん」

「セシリアの攻撃に手も足も出ない、というところか」

「でも、なんか妙だなぁ……」

「なにがだ?」

「なんでわざわざ地上に降りたのかなって」

 それに首を傾げる一夏と箒だが、ルナリアに何か考えがあってやっていることだろうと思っていた。ビット、そしてレーザーライフルのコンビネーションにルナリアは反撃の手が見いだせないのか逃げ惑っている。──そう見えていた。

「……」

 ルナリアがハイパーセンサーで《リリウス》の状態を確認する。まだ足りない。

「そこです、わ!」

 そしてとうとうセシリアの狙いがルナリアを捉える。逃走劇もこれで終止符が打たれた。一度減速してしまえば後は地面に縫いつけたも同然、勝利を確信する。

 だが、ブルー・ティアーズの猛攻を紙一重で避けた。8の字の軌道を描きながら再び走る。

「な、なんですのちょこまかと! 私と戦う気がありまして!?」

 アリーナの壁面に衝突するかに見えたが、《シールドバンカー》を地面に突き刺して急制動をかけ、壁面に片足を当ててUターン。器用な動きは鈍重な駆動音と裏腹に一定の機動力を見せている。

《ライフリング:完了》

「……」

 小さく、ルナリアがため息を吐いた。立ち上がりが遅すぎる。といってもアリーナの限定的な空間では出力も押さえなくてはならないから仕方ないことではあった。ままならないものである。

 脚部以外からも甲高い音が二重に聞こえてきた。やがてルナリアは足を止める。

 その周囲をビットが囲った。

「これでチェックメイトですわ!」

 そして、頭上高くに高々と掲げられる右腕の巨大な銃身。セシリア本体を狙ったものではなく、ただ“掲げた”だけの行動に一瞬眉を寄せた。しかし次の瞬間にそれを見ていた全員が驚愕する。

《リリウス:銃身展開/電磁パルス放射》

 傘のようにリリウスの銃身が開いた。そして青白い閃光が周囲に迸り、セシリアのハイパーセンサーにビットの誤動作が通知される。露出して回転を続ける黒い三本の棒をすぐさま銃身を閉じて隠した。

「EMP!? じゃああれは、やっぱりレールガンなんだ」

「なぁ、シャルル。EMPって」

「電磁パルス兵器の事だよ。んー、と分かりやすく言うと……」

「電磁波を打ちだして電子機器をショートさせる兵器よ」

「でもそれ、ISに効くのか?」

「ISはともかくとしてセシリアのBT兵器には威力絶大でしょうね」

 現にビットは四基とも地面に落ちて身動き一つ見せない。

《ブルー・ティアーズ使用不能》

「そんな手を隠していたなんて……」

 だが後二基残っている。それさえ悟らせなければ不意打ちで勝機もあるはずだ。

《PIC:マニュアル/オート移行》

《脚部換装:(フライト)・マニューバー》

 トライアレンドが飛翔する。セシリアはスターライトmkⅢを連射してその動きを封じようとするが、左腕のシールドバンカーで全身を隠して突撃してきた。

「今度は猪突猛進ですのね!」

 ──この時セシリアは、一つだけ失念していた事に気付かない。ルナリアの機体、トライアレンド。その右腕に搭載されている武装が一体なんだったのか。

 超光速電磁加速“砲”《リリウス》──この固定武装だけでトライアレンドの拡張領域がほとんど持っていかれているのだ。レールガンと呼称するのが正しいかもしれない。だが、それは紛れもなくISの全長を超える“銃身”ではなく“砲身”なのだ。

 故に、撃ちだす弾丸はスターライトmkⅢの比較にならない口径で発射される。それが光速で放たれた時、ISの機動力ならば回避出来るかもしれない。

 ──人間の反応速度がそれについてこれたらの話だが。

《シールドバンカー:固定解除》

 大型の実弾盾を投てき。投げ捨てたシールドを難なく避けたセシリアが再びスターライトmkⅢを構えた時、不吉に輝くリリウスの銃口と目が合った。

 閃光に撃ち抜かれる。シールドバリアーの減少を確認して体勢を直したセシリアが反撃する。

「今のでここまで持っていきますの!?」

 たった一発──衝撃は一回だったが、リリウスの発射した弾丸は三発。三点バーストのレールガンは相手が知覚するよりも早く着弾する。欠点はと言うと少々稼働まで時間が掛かることだろうか。

 レーザーライフルとバーストレールガンの撃ち合いは一定の距離を保って行われた。回避しようにも背中を向けるわけにもいかない。射撃戦では互角、だがシールドエネルギーの減衰はセシリアの方が著しかった。発射弾数が一発と誤認しているレールガンの脅威に晒されたままである。

 しかし一方のルナリアも余裕はない。ビットを撃墜する際のEMPの起動によりリリウスの銃身が熱を持ち始めていた。放熱しようにもこの状況下でやるわけにもいかない。無防備な身体を晒すことになる。

 序盤はセシリアが有利に見え、現在はルナリアが有利に見えるが実際はほぼ互角の戦いだった。両者ともに内心焦りがある。

(このままではジリ貧ですわ……)

 一か八か、とセシリアがミサイルを射出しようとした時、相手も同時に動きを変えた。射線から避けるような軌道から突進してくる。

 セシリアはこれこそ好機と見て、残っていた二基からミサイルを発射した。

「──!?」

 驚くルナリアの顔が爆発の中へと消える。胸を撫で下ろしたセシリアだったが、まだ完全に決着が着いたわけではなかった。

 投げ捨てたシールドバンカーを量子化させて再構成させたようだが、それでもシールドエネルギーは赤く警告している。一発防げずに直撃したが、それでもまだ勝機は残っていた。

(まずいですわ──!)

 セシリアのIS、ブルー・ティアーズは射撃戦を主に置いている。接近戦は滅多に行わない。ショートブレードの展開を急ぐ。ルナリアとの距離は縮まり、相手も接近戦の手段が無い事を願った。

 ……、確かに。ルナリアのISであるトライアレンドには“接近戦用の武器は無い”が、本来の使用用途から大きく外れた使い方であれば嫌というほど目につく物がある。

 セシリアがショートブレード《インターセプター》を呼び出した。だが、相手はそれよりもリーチの長い武器で決着を着ける。

 リリウスを、直接セシリアに突き刺したのだ。その攻撃が決め手となってシールドエネルギーが尽きた。

「……」

 そのままゆっくりと着地する。ISを解除した二人は並び、セシリアが尻餅をついた。それにルナリアは手を差し伸べる。

 通信でチャンネルを開き、文字が表示された。

『怪我はなかったですか?』

「え、ええ。それにしてもあのような方法でくるとは思いもしませんでしたわ……」

『他に思いつかなかったの』

「今回は私の敗北を認めてあげますが、次はこういきませんことよ! 貴方の手の内は大体分かりましたわ」

『次は勝てる自信ないんだけど』

 セシリアを立たせると、ルナリアは軽く会釈して戻っていく。

(負けてしまいましたわ……)

 はぁ、とため息を吐いてセシリアも着替える為にアリーナから戻る。模擬戦を目当てに見に来ていた生徒達も次々席を離れていった。

「それにしても長い銃身をあんな風に使うなんて……なんというか、ルナリアさんって男らしいね」

「確かに言えてるわね。あたしならごめんね、あんな機体。使いにくそうったらありゃしないわ」

 鈴音の言葉には一夏も同意する。……白式も人のことはあまり言えないかもしれないが。

 

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