インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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その名は天をも食らう狼

 その変化はすぐに訪れた。甲板に叩きつけられて爆発と共に停止したグレイファントムは間もなくして起き上がり、特殊エネルギーによる光球を形成。

《展開可能武装:第一種構築完了》

《特殊光学兵器:サイレントベル》

 雨粒のように小さな光球が全ての護衛艦を捕捉。次の瞬間、グレイファントムはそれらを推進力として変換しながら対象との距離を瞬き一つ許さず接近すると光の雨を降らしながら沈めていく。青白い軌跡を残して撃沈を確認すると次はヴォルフの機体を目視。ロックする。

《捕捉:排除》

「来いよ、遊んでやるぜぇ死ぬまでなぁ!」

 首筋に打ち込むのはくすねた細胞成長促進剤。並びに鎮静剤と強化促進剤の三種。いずれも非合法的な手段を用いられて製造された劇薬だ。常人であれば一本でも使えば気が狂って死んでいる。それを一つ打ち込み、ヴォルフはグレイファントムとの“鬼ごっこ”を始めた。トライクの車輪が白煙を上げるほどの快速を見せながらもそれは追っても追いつかず、追いつかれても追いこして続く。

「なんてデタラメな動きよ……」

「狙いが定まりませんわ」

「シャルロット、何をしている?」

「待って、もうちょっとなんだ。霧島さんから受け取った例の武装データの最適化とライセンス認証まで後、三十秒!」

 完全な状態とは言えないセシリアとシャルロットの機体はシステムその他回りにまだ多少ながら障害が残っている。その所為でBT兵器の使用も制限が掛けられており、同時にラファールリヴァイブカスタムⅡも武装データの構成が遅れていた。

「ヴォルフ、あと三十秒だけ持って! そうすれば――!」

「言われなくても遊んでらぁ! 楽し過ぎてイカレそうだぁヒャーッハッハッハッハァ!!」

「……十二分に頭飛んでるわよ、アレ」

「とはいえ、楽観も出来ん」

 先程まで原子的な攻撃手段しか用いなかった機体はヴォルフと超高速戦闘を繰り広げるまでに進化している。短期決戦に持ち込む他に対処する手段がない。いずれは全身展開装甲等というような進化を遂げられても困る。

 残量が空になったタンクを廃棄、新たにリアラックから取り出して交換してヴォルフは背後から迫る明確な殺意に痺れていた。死神の足音とはこうも肌に心地よい戦場の風なのかと覚える。まだ死ぬつもりもないが。

 急制動からのジャックナイフ、グレイファントムと真正面から向かい合う一瞬でリニアカノンを発射して急発進。それだけでエネルギータンクの目盛が目に見えて下がった。増設してもこれだけの消費をすればあっという間に無くなる。直撃を受けてもまだまだ余裕を見せる姿に舌打ちした。

(ISコアを二つ同時搭載ったってありゃ異常だぜ、博士さんよぉ。頑丈にしすぎじゃねえか)

 だが呆気なく壊れても気が抜ける。最後の獲物はこれぐらい歯ごたえのある敵の方がいい、今までが脆すぎただけだ。そう思えばこれだけの消費も頷ける。

《攻撃プログラム:修正――最適化》

《最適化:完了》

《データリンク:同期完了》

《展開可能武装:第二種構成完了》

 専用機全てに送られるグレイファントムの構成データ。それが新たな進化と絶望を届けた。

 

《要塞:“モービーディック”起動》

 

「ッ――!? 霧島ぁああああああ!!!!」

 所詮、狂犬であった。犬は飼い主の手を噛み、だが狂人の手までは読めないままに吼える。

 全てのシステムダウンが確認されたはずの要塞が再び起動した。グレイファントムが瓦礫だけが残るはずの噴気孔に移動すると空を見上げて手を掲げる。太陽に向けて掌を当てるように。

 その先に、ICBMの土台があった。順調にエネルギーを人知れず充填する天の裁きが。

 沈んだはずの、沈黙したはずの化け物は亡霊に全てを委ねてシステムを復帰させる。

『なにか? ヴォルフ』

「テメェ、メインサーバーをアレに写しやがったなッ!? 誰がそこまでやれって言ったぁ!」

『私の中の私が、彼にそれを捧げろと言いましたが……何か問題でも?』

「望外だぁ! まさかそこまでやるとは、テメェは世界一最悪の天才だ、感謝するぜぇ!」

 それでも、狂犬には狂った頭なりの望みがあった。

 内部は破壊したはずである、それは実行したヴォルフが一番知っている。しかしそれでもまだ完全な破壊には至っていない。ヴォルフはあくまでも中で動力を動かす為に必要な人員を排除して黙らせたに過ぎなかった。切り離された武装甲板までもが再起動を始めている。有線からリモートへ移行、システムにラグは発生するがそれもグレイファントムのプログラムならば再構成は容易い。0から1へ、無から有を生み出す二進数の世界に置いてその亡霊は人に造り出されて置きながら人の手に余る領域へと足を踏み入れていた。

 何が起きているか察知した専用機メンバー達の顔が青ざめる。あの水上要塞が今の今までさほど強敵とならなかったのは、人間が中で動かして手動で照準を合わせていたからだ。それが今、データの強制共有によって得られる位置情報によって狙われたら――。

「――避けろぉぉッ!」

 ラウラが叫ぶと同時、モービーディック号はその膨大な火力を全て吐き出す。あらゆる主砲、副砲、機銃、ミサイルが機能するだけ全てグレイファントムの意のままに起動していた。

「構成、完了。ライセンス認証、登録完了! 出来た!」

 シャルロットが回避行動と同時に防御をしながらセシリアのカバーに入る。その時、ようやく武装データの最適化が終了した。共同開発されたラファールリヴァイブの火力増強プランによって生みだされた、IS専用兵器対質量ライフル『フェンリル』――武装の名称を付けるのは社長直々らしいが、曰く『どうせなら天までぶちぬけ』とありがたい一言まで添えてデュノア社へ贈与されている。

 起動させて、まずシャルロットが驚いたのはその巨大さもさることながら口径。左腕の盾に隠した奥の手である『盾殺し』の口径を上回る88口径のライフルを右腕にストックとトリガー、並びにグリップ横に増設されたマガジン。左腕には背後に向けて伸縮性のバレルとスコープがそれぞれに分けられていた。データを見た時からおかしいとは思っていたが、まさか戦闘中に組み上げろとは……しかし、面喰っている場合ではなくすぐさま組み上げる。

 合掌のように接続すると同時にライフル内部の構築が始まり、即座に終わった。ストレートプルボルトアクション方式が採用されたのは恐らく、いや間違いなく社長の趣味に間違いない。

「まったく、アメリカの趣味はよくわからないよ!」

 肩に当てたストックの隙間に左手を添え、ハイパーセンサーと同期させたスコープから武装甲板に狙いを定める。肩に担ぐような状態からトリガーを引いた瞬間、なぜボルトアクションなのかをシャルロットは体感した。

 まるで枕を全力で右肩に叩きつけられたような、そんなくぐもった衝撃に身体が跳ねる。その発砲音もまるで野犬の吠えるような音だ。ISでの使用を前提で製作されたにしても度が過ぎる反動に機体のバランスをPICで制御する。こんなものをセミオートで撃てるはずがない。

 モービーディック号へ突き刺さった弾丸はアルミ缶のように装甲を貫通して内部へ進入、武装甲板のフロートシステムをぶち抜いて浸水させる。傾きながら武装甲板は海中に沈んでいった。

 ボルトを引いて排夾と再装填、押し戻しながらシャルロットはその威力に愕然とする。こんなものを作って一体どこと戦争する気だったのだろうか、とアメリカの企業を心配しながら二基目の漂流する武装甲板を撃ち抜いた。

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