インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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パーティータイム

 ヴォルフはグレイファントムへ肉迫する。だが特殊光学兵器の向かい風が進攻を阻み、不敵な笑みを浮かべながら回避。

(なるほどな、システムの同期を利用して対象を認識してんのか……!)

 ネットワークへ接続されていればそれも脅威だが、電子世界から切断されてしまえば目くらまし程度にはなる。

 グレイファントムのシステムの基本は目ではなく、ISネットワークによる情報共有で相手を見ている。それに加えて衛星軌道上で待機している最終兵器が本当の“眼”であり、頭部のハイパーセンサーは受信機に過ぎない。例え仮に頭部が破壊されたとしても衛星軌道上の“眼”を破壊しない限りグレイファントムは活動を続けるだろう。だが、ヴォルフにはそんな算段すら思惑の外へと飛んでいた。

 今、重要なことは。その身を焦がす戦場の熱が死に値する価値があるかどうか。その一点だけだ。

 まだ死ぬには足りない。まだ足りない。燻っているだけの赤子の亡霊にはまだ頑張ってもらわなければ、死に値するだけの価値はなかった。

 副作用が全身を蝕む、その瞬間にヴォルフの手にはもう、二本目の劇薬が握られている。

「死んでもいい、だがまだテメェじゃ足りねぇなぁ亡霊っ! もっとだ、もっと。俺を、本気で、殺しに来いよぉ!! あいつのように、ルナリアのように、殺意一つを胸にして、殺しに来いッ! それだけが俺の望みだぁギャーッハッハッハッハァ!!」

 なぜ戦うのか? そんなもの、死ぬためだけに決まっている。生きて、生きて、生きて、いずれは死ぬその時が最高の戦場であれば何一つ悔いはない。

 ECMシステムを起動させてヴォルフはグレイファントムの目から一時的に隠れた。一瞬だが止まったその隙にセシリアとラウラが同時に攻撃を始め、ヘイトが向いた横から鈴音が接近戦を仕掛ける。まだオツムは発展途中だ、残量も残り少ない。異常なまでの堅牢さを誇っていたそれももうじき終わる――だが目下、問題点としては再起動したモービーディック号の沈黙をどうするかである。

 武装甲板は既に三基目がシャルロットの手によって沈んでいた。装弾数八発を撃ち尽くし、マガジンを廃棄。即座にリロードを済ませて再び沈黙させていく。

だがそれでも本体が沈む気配はない。

「火力が、これでも足りないっていうの!?」

『諦めるな、シャルロット! 必ず沈む、浮いてきたのなら必ずだ! 元は潜水艦なのだからな。海に還してやれ!』

 ラウラに背中を押されて四基目をどうにか沈黙させる。残るは本体に接続されていた武装甲板並びに横腹についている機銃の数々だ。高度を下げれば一斉掃射が待っている。残弾を確認する-―あまりに厳しかった。

(どうすれば――!?)

 考える。だが今現在、この水上要塞に対して最も有効な攻撃方法は右肩に担いだ狼だけだ。内部に侵入して攻撃を加えるにしても噴気孔周辺の火力が最も高い。接近する前に足止めを食らい、グレイファントムに追いつかれるのが目に見えている。

 専用機持ちのメンバーに、新たにメッセージが一通。

 

 ――デカブツは任せて。

 

「えっ……?」

 光速の狙撃がモービーディック号の機銃をまとめて黙らせていった。エネルギー兵器ではない。

 陽炎を揺らして、その狙撃砲を構える無骨な機体には誰もが見覚えがある。あれ以来姿一つ見せず、行方一つ知らせずに去った電光石火の転校生――ルナリア・ポードレットが戦場に合流した。

《リリウス:強制排熱状態へ移行》

《フルバーストモード解除:通常形態へシフト》

 一時的に内部圧力を過剰に高めて連続射出する自動掃射状態は排熱の関係上使用する機会は滅多にない。だがこれだけ目標が大きければ目を瞑っていようが何をしてようが早々外すようなことはなかった。まさにルナリア向けの化物だが、その目は怨敵を睨む。

『パーティーには間に合ったか? 予定通りだ。来いよルナリア、ショータイムだ!』

 リリウスの強制排熱が終了する。グレイファントムの“眼”が新たな標的を確認。トライアレンドへデータが送信された。

《目標確認:捕捉》

《排除開始》

『黙ってろ、ガラクタ』

 それに一言だけメッセージを返すと、シールドバンカーを構えて突撃する。最低限の回避行動を取りながら噴気孔を目指してひたすら飛ぶ。

『シャルロット。私の後ろに』

「わかった!」

『仰角限界まで突貫、そこから内部に侵入して破壊。いくよ』

 ミサイルの迎撃はすべて後続のシャルロットに任せ、自分は遥か上空から噴気孔へと直角に落下していく。流石にその角度まではカバーしきれないのか無防備な鯨の内部へと侵入成功すると、ルナリアは片足のピックを打ち込んだ。シャルロットもフェンリルを解除して両手に重機関銃と連装ショットガンを持ち、左右に広げる。中は不気味なほど静まり返っており、駆動音だけが響いていた。まるで怨霊の唸り声のようだ。

《G・マニューバーホイール:固定完了》

「ルナリア、撃ち放題ってそっちじゃなんて言うの?」

 まだ外へ向けて砲撃を続けているのか、生きている砲台からの射撃音が響く。シャルロットの言葉からやや間を置いて、メッセージを返した。

『ロックンロールだ、野郎ども』

「僕たち、女の子だよ!」

『ローストチキンにしてやるぜ?』

「なんで疑問形なのさ!」

 脚部から火花を散らしながら片足を基点に回転しながら二人はありったけの火力を内部から叩き込む。

 ルナリアはリリウスのオーバーヒートを抑えながら可能な限り連射していく。

 シャルロットは撃てる限りの物を撃ち尽くす。やがて爆発が起こり、本体に接続されている武装甲板が一斉に沈黙した。今度こそ、残るはこの鉄屑を沈めるだけだ。

 二人は何も言わずに互いの顔を見て、こくりと頷く。リリウスの放熱を早め、シャルロットはシールドピアースを足元に打ち込む。

 離脱を図ると同時に、その開けられた穴目掛けてリリウスとフェンリルが耳鳴りするほどの音量を置き去りにして閃光と弾丸を届けた。モービーディック号の上層より最下層まで貫き、水上要塞は今度こそ沈黙する。

 離脱した二人はグレイファントムの破壊へと今度こそ赴いた。その視界の端、モービーディック号を足場にして一夏と箒は黒武者に苦戦している。

 

 

 

 白式と紅椿がグレイファントムから攻撃されていないのは、この二人が最も離れているからだ。しかしそれと同等に、或いはそれ以上の強敵を前にして悪戦苦闘していた。

 OAシステムの乱用による体調不良からある程度は回復したのか、荒れていた呼吸は静まり、仁王の如く構えている太刀の冴えはより一層鋭い。

 正面切っての攻撃は以ての外。左右から挟み込むように立ち回り、仕掛けるも――右脚のパイルバンカーを撃ち込まれて二人はいいように蹴り飛ばされた。残るは背面からとなるが、それもまた隠し腕の存在がある。

「……」

『……』

 砲声が止んでからも、ルナリアが合流してからも言葉を交わす余念もなく目の前の一挙一動に全神経を注いでいた。

 モービーディック号が、水上要塞の化物ならば目の前にいる黒武者は果たして、人なのか。

『……手詰まりですか?』

 問いかける言葉は、あくまでも優しい。それがより恐ろしかった。なぜこれだけの恐ろしい事をしていながらそうも偽ることない声色が出てくるのか。相手はとっくの昔に修羅の道を選んだ狂人だ。理解の及ばない相手に変貌している。――昔と変わらない声を除いて。

 切っ先が揺れて、刀を収める。無手のまま、構えるでもなく腹を押さえるようにうずくまった。

「……?」

『――裂空』

 神速と評するべき抜刀が奔る。そこには誰もいないというのに。だが延長線上に、二人がいた。

 頬を凪ぐ風を感じた瞬間に一夏と箒が転がる。逆袈裟に駆け上がる衝撃は、間違いなく剣圧による衝撃波だった。だがそんな武装は今の今まで出す素振りはなかったと記憶を遡り、間違いではない。

「刀身だけを加速させての居合か……!」

 箒の分析は正しかった。だが脅威がさらに増えただけの事、状況は最悪なままである。

 一夏は箒を庇うように前へ出た。左手で動かないように遮りながら、目配せする。

「一夏……?」

「俺が、どうにか隙を作る。多分シールドが持たないだろうから……箒。頼むぜ」

 絢爛舞踏。紅椿のワンオフアビリティ。それさえあれば白式のエネルギーが尽きても増幅することができる。同時に、零落白夜を発動できれば――勝てる見込みは十分あった。賭けだ、だが他に思いつく手段がない。

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