インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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限界を超えて

 第四世代の即時対応万能機という机上の空論ですら独自に書き上げたシステムの最適化のみで至ったのはそれを手がけた霧島の執念を引き継いでか、否か。

 単一仕様能力の複合最適化により複数兵装の同時使用すら可能となったグレイファントムがまだ模倣できていないのはトライアレンドのリリウスのみとなった。

《展開可能武装:第八種構成完了》

《広範囲殲滅兵装:rainy rainy rain》

 左手の光球を天空へ打ち上げる。

 バケツをひっくり返したような光の猛豪雨が敵味方問わず降り注いだ。

 高速移動を続けながら大型ライフル二丁を構え、機体周囲にエネルギーの膜を維持したまま鈴音と互角に接近戦を繰り広げるまでにシステムを昇華させて限界まで稼働を続ける。

「シャルロット! 無事か!」

「ラウラのおかげで、なんとかね」

 万全と言えない状態で戦い続けたシャルロットの機体は既にシールドが底を尽きかけていた。無論、その程度であれは攻撃の手を緩めない。ISを起動させ続けている限り地獄の果てまで追ってくる。

『セシリア、鈴音。大丈夫?』

「ええ、無事ですわ」

「ありがと、ルナリア」

 分の悪い砲撃に狙われていた二人の支援防御に入ったルナリアもまた、デストラクターとの戦いから十分な休息も無しに連戦して疲弊していた。誰よりも先に疲労が見て取れる。トライアレンドのエネルギー残量も十分と言えない。

「アンタこそ、大丈夫なの? 辛そうだけど」

『大丈夫』

 強がりで頷いてみせるが、それでも機体の不調は誤魔化せない。リリウスに至っては完全銃身展開に加えて自動掃射形態を連続で使用して排熱が追いついていなかった。レッドゾーン手前でどうにか制御している状態が続けば当然、熱で内部から故障する。背面に背負った機関部の唸りが時折不調を訴えていた。

「嘘言わないの。セシリアと同じくらいボロッボロじゃない。アンタが居ない間にどこで何をしてたかなんて、まぁどうでもいいわ。あれをぶっ壊して、皆で学園に帰る。でしょ、セシリア?」

「ええ、そのつもりですわ」

「だから、無理は禁物。いいわね。いいわね!」

 顔を近づけて双天牙月で脅すように鈴音がルナリアを睨む。それにこわごわと、ぎこちなく頷くと一転して笑顔を見せた。

「お喋りはここまでね、気合入れてくわよ!」

『セシリア』

 先行する鈴音に追従しながら、ルナリアは通信を送る。

「なんですの?」

『守ってあげられなくて、ごめん』

「別にルナリアさんのせいではありませんわ。私の力不足が原因です。ですから、お気になさらず」

『でも』

「デモも勝手もありませんわ! 悪いと、そう思うのならもう私から勝手に離れないでくださいます!?」

『うん。今度は守るから、必ず』

 何があろうと。誰が相手でも、セシリアは守り抜く。リリウスを改めて持ち上げて決意する。

 通常の排熱では間に合いそうもない。かといって強制排熱状態にしても無防備な姿を晒すのは避けたかった。

『あれに接近でもきるように援護して。少しの間なら動きを止められるはず』

「できるのか、ルナリア」

『多分。でも、信じて』

 グレイファントムはラウラとシャルロットのコンビネーションを前にしても一歩も引くことなく射撃の応酬を切り抜ける。火雷と同時にムーンライト&サンシャインを展開して二人の攻撃を相殺していた。

「わかった。シャルロット、私がワイヤーブレードを射出と同時に接近しろ。鈴音もだ!」

「言われなくてもそのつもりよ!」

 六基のワイヤーブレードを射出、シャルロットはそのまま接近する。挟み込むように鈴音も迫り、グレイファントムは衝撃砲を置き去りに離脱。そこをセシリアが狙い撃つが、避けられる。

「かかったな! ルナリア!」

 接近したラウラがエネルギー手刀で青龍を起動させた。それをフェイクに、ワイヤーブレードで動きを止める。

 リリウスの過剰放熱限界まで稼動させて突きつけ、銃身を展開。

『ラウラ、避けて』

《リリウス:EMP放射》

 横からシャルロットがラウラを連れてその場を離れ、一瞬遅れてグレイファントムにEMPが直撃する。

 ネットワークからエラーが吐き出され、全身の展開装甲が誤作動を起こしてそのエラーコードの処理に追われたグレイファントムに向けて鈴音、セシリア、ラウラの追撃が入った。ウイングスラスターの一基は破壊され、片腕は撃ち抜かれ、本体にも大幅な損傷が与えられる。特殊エネルギーの防御シールドさえなければ十分にダメージが確認された。

「これで、トドメ!」

 フェンリルの起動、照準を合わせて発射――だがその弾丸は空を切る。それより先にシステムの復旧を終えたグレイファントムがルナリアに狙いを定めた。

「ルナリア!?」

 リリウスはまだ銃身を開いて放熱状態のままだ。シールドバンカーで身を守るより先にグレイファントムの周囲に展開された火雷二基、ムーンライト、出力を調整した貫通衝撃砲がトライアレンドの装甲を破壊する。絶対防御の発動によりシールドエネルギーが著しく減少、それでもダメ押しとばかりにグレイファントムは『rainy rainy rain』でルナリアを海面へと落とすと同時に他の専用機の接近を許さなかった。

《機体損傷:左椀部損壊》

《機体損傷:ソニックダイブ》

《機体損傷:腹部耐久力減少》

《損害:危険域》

《リミット:解除》

「まだ、動くか――この怪物め!」

「ルナリアを助けに行きたいってのに、邪魔すんじゃないわよぉぉ!」

《展開可能武装:第九種構成完了》

《防御兵装:Make haste slowly》

 機体表面にエネルギーの膜を形成し、鎧のように纏いながら双天牙月を腕で防ぐ。機体表面を覆う光沢は流れるように輝き、それ自体がエネルギー兵器として打撃を補助する役割を持つ。蹴りを入れて不安定となった機体制御の為にウイングスラスターを二基ともパージ、同時に新たに書き換えた。

《ソニックダイブ更新:息吹》

 爆発的な機動性能を犠牲に、小回りが効くようになったグレイファントムは結果的に、射撃に対する回避性能が上昇している。

「ルナリアさん、聞こえていますでしょう! 返事をしてくださいませ!」

「ルナリアッ! アンタさっき私が言ったこともう忘れてんじゃないでしょうね、聞こえてるの。ねぇ-―! きゃあ!」

 青龍が双天牙月を弾く、至近距離から火雷を発射されて甲龍は黒煙を上げた。見向きもしないクイックドロウがセシリアを狙撃、その場から飛び退くとブリッツが掠める。

「くそ、貴様……!」

「ラウラ。落ち着いて!」

《――――》

 開いた口腔部から貫通衝撃砲を放ち、先程までを上回る機動性でワイヤーブレードを掻い潜りシュヴァルツェアレーゲンに接近。AICで動きを止めようとした瞬間に軌道を変えて背後に回り込み、青龍を一閃。アサルトカノン『ガルム』と右腕に持ち替えたサンシャインが衝突して爆発する。

 グレイファントムの左腕からは紫電が漏れ、開いた口腔からは湯気が立ち上っていた。痛ましい己の姿すら意に介さずラファール・リヴァイブ・カスタムⅡへ迫る。それを横から鈴音が止めようと仕掛けるが、今度は逆手に取られて背後から一撃をもらった。接近戦で醜態を見せていた赤子とは違う。

 背中を見せるわけにもいかない。一夏達に助けを乞おうにも、黒武者を相手に二人も身動きができない状態だった。

 

 

 

 

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