インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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落ちる椿の花に手向けの紅い華

 一度は撃墜されたルナリアだが、再び戦線に復帰する姿を見て一夏も箒も。……霧島も胸をなでおろした。肝を冷やしたセシリア達も驚きはしたもののグレイファントムの追撃に移る。

 黒武者に突きつけられる切っ先。

「観念することだな、もうあのISも長くは持たないだろう」

『残念なことに。そのようですね』

 諦めを交えた落胆。だが言葉とは裏腹に全身にみなぎる闘志は微塵も衰えない。

「これが最後だ。霧島さん、投降してくれないのか」

『今更、退く気はありませんよ。最後まで戦い抜きます。私の気持ちが嘘でない限り』

 一歩、霧島が踏み出した。

『好きな女性一人救い出せない情けない私ですが、この想いひとつを胸にして沈むのもまた一興。地獄まで、とは言いませんが……お付き合いいただきますよ、お二方』

 今更正気を疑う余地もない。常人であれば狂っていて当然の思考回路だ。

 一つの夢を追い続けて。その為に犠牲にしてきたものは数えきれず、全てを後悔することなく歩き続けてきた。落武者同然に、夢の終わりの墓場に立っている。

 一人の女性を想い続けた男の最期は。

「箒っ!」

 きっと何一つ残らない。後悔さえも。

『一夏君。君は、それだけの力があって、なぜ守ってやれない?』

 世界最強の兵器の烙印を押されたISを持って、なぜこうも手間取るのか。最低の男に。なぜ守ってやれないのか。篠ノ之箒を。

『君が、羨ましいよ。この世界で唯一、男でありながらISを動かせるんだから』

「こ、のぉぉぉぉっ!」

 箒に背後を見せていたが、見向きもせずに蹴り飛ばした。

『それが、なぜ――私ではないのか』

 羨ましい。恨めしい。嫉妬にも似た感情は胸の中で渦巻いて憎悪と化している。きっと動かしたくて動かしたわけではないのかもしれない。だがそれでも、誰かから怨まれるのは仕方のないことだ。

『望んでいない力で、一体何を望む?』

「俺は、みんなを守る。千冬姉が俺を守っていたように、俺が!」

『過ぎたるは猶及ばざるが如し――それなら、君はまず私を超えなくてはならない。なのに、箒ちゃんと二人がかりでそのザマか。……口だけではなく、行動に移してもらいたいものだよ、本当に』

「なに……!?」

『分かりやすく言うならそうだね。寝言を言うな、か……私と同じだよ、君は』

「一夏を、貴様などと一緒にするな!」

 雨月・空裂と六閃・立花の剣舞が踊る。展開装甲も含めた紅椿の攻勢を、黒武者は六本の腕で全て凌ぎ切った。接近を続ければ続けるほど不利な状況に追い込まれる。だが恐れずに戦えるのはワンオフアビリティ『絢爛舞踏』の存在があるからこそ。無尽蔵とも言えるエネルギー供給を自在に使いこなせれば、白式と紅椿を超えることは出来ないだろう。篠ノ之束が手がけた第四世代は、霧島にすれば最終目標でもある。

 それすらも超えることが出来たのなら自分は全てのISを破壊することが出来る。そう自負していた。

 机上の空論ですら塗り潰す、ISの未来を閉ざすことが出来るのなら。

『同じさ。身の程をわきまえないところは。女の子には分からないだろうけれど、男という生き物は分かりやすく単純なんだ』

 最後の爆心が紅椿を穿つ。白式に起こされて二人が並ぶ。

 煙を吹く右膝の爆心・徹甲を廃棄。先の殺陣で左の隠し腕が不調を訴えていた。

(やれやれ、この程度ですか……不甲斐ない)

 自らに失望する。もうしばらくは行けると踏んでいたが、そうもいかないらしい。

『答えてくれ、一夏君。君は、誰を守るつもりだ』

「……俺の手が届く、みんなだ」

『白馬の王子……いいや、君はその機体と同じように白い騎士にでもなったつもりかい? 千冬さんと同じように。及ばない力で、身の程もわきまえず、挙句妄言を言うだけの姿勢は逆に清々しいよ』

 一夏の頭に血が上る。馬鹿にされるのは構わない。霧島の言葉は、その通りだ。

『その手が届く箒ちゃんですら、守れないのに』

「守るさ、必ず! アンタを倒してな!」

『それが嘘でないことを、神に祈るばかりだ』

 白式と黒武者が鎬を削る、がそれも三手重ねればすぐに一夏が吹き飛ばされる結果となった。二人がかりでようやくといった所だ、無理はない。

『誰も守れず、自分すら守れず。本当に、つくづく失望させてくれる』

 裂空が二人を遠ざける。迷わずに紅椿へ斬りかかる。白式を蹴り飛ばして、距離を離さずに。みるみるエネルギーが下がっていく。

『箒ちゃん、教えてくれないか。どうして君は――』

 答える隙すら与えない攻勢を崩さず、霧島の声は冷たい。

『それだけの力を束から与えてもらっておきながら』

 羽虫を払うように再度、白式をOAシステムを利用した回し蹴りで隔壁に叩きつける。

「一夏!」

『大好きな一夏君と二人で、何故私一人を超えられないのか』

 紅椿が金色に光り輝き、エネルギーが減少量を大幅に上回っていく。それはすぐに全快し、黒武者を突き飛ばして白式へ一直線に向かう。

 絢爛舞踏の起動――それを、霧島はずっと待っていた。

「ッ、箒。ダメだ、来るなぁぁぁっ!!」

「え……」

 OAシステムをフル稼働させ、SE粒子攻勢変換装置も同様に。その一歩が神速を超える。五臓六腑が置いていかれるほどの過負荷も受け入れて、霧島は食道からせり上がる嘔吐感と焼けるような痛みを堪えて笑った。

 その全てを奪い尽くすために。第四世代の機能を停止させるために。

 展開装甲をスラスターとして使用してもまだ遅い。黒武者は機能不全に陥った左の隠し腕からも太刀を抜いて投擲する。放り投げるような刀はOAシステムの作用によって風車のように回転しながら紅椿を攻撃し、黒武者は空を飛ぶよりも速く地を滑っていた。隔壁に背中を預けていた一夏へ先に手を伸ばし、二人の間に割って入る。

 紅椿の進路を塞いで隠し腕で紅椿と接触、エネルギーを略奪しながら背面に回った。人質に取るような体勢で。

「紅椿……!」

 振りほどこうとするが、黒武者のパワーはそれを上回る。クモの巣の如く、抜け出そうと動けば余計に消耗が早くなる。どうにか伸ばした左腕が宙を掻いた。

 すぐにエネルギーが底を尽く。紅椿の背面で、両腕を高く振り上げて太刀が輝いていた。

「やめろぉおおおおっ!!」

 交差させて振り下ろし、背面のスラスターを破壊。背中に左足を押し当てる。

『一発限りの切り札、持っていくといい』

 グレネードバンカー『紅蓮・繚乱』がその名に相応しい紅蓮の華を咲かせた。左脚部、踵から射出する装甲貫通爆弾は紅椿に赤い花を贈り、それを手向けとする。

 反動で飛び退くように甲板を滑り、黒武者は止まった。

 一夏が箒を抱き起こす。紅椿はもう戦闘不能だ、既に操縦者の生体反応も怪しい。

「……一、夏」

 震える手で、箒が白式の手を握る。白式のエネルギーが徐々にではあるが回復して、やがて四割にも満たないところで止まった。

「すまない……私は……」

「先に休んでてくれ、箒。後は任せろ」

 謝るのは自分の方だと言うのに。守ると言っておきながら、誓っておきながら。

 霧島同様、一夏は自分を情けないと思った。

『……最後に、ひとつだけいい事を教えましょうか』

 隠し腕は紅椿を押さえ込んでオーバーロードしたのか、ダラリと腕を垂らして甲板の上に手を預けていた。左脚部からも焼け焦げたような黒い跡が擦れている。

 黒武者は自身の左胸、心臓を指した。

『シールドエネルギー粒子攻勢変換装置は、ここです。止めたければ、もう分かりますね』

「ああ。言われなくても」

『ええ、では……』

 左脚部より『紅蓮・繚乱』を廃棄。音を立てて装甲の一部と共に倒れる。

 四本の隠し腕を全てパージ。肩部追加装甲も兼ねていたが、使い物にならない腕は邪魔なだけだ。

 黒武者は、打鉄によく似たフォルムでありながら禍々しい。

 

『ここからは正々堂々、手加減小細工一切容赦なく参りましょうか……織斑一夏君』

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