日常。その裏の日常
──俺は、誰かを守りたいと思ったんだ。
ルナリアがIS学園に転校してきてから早一週間。その間も様々なイベントが起こり、それこそ毎日が祭りのような状態だった。
タッグトーナメントを前にしてセシリアと鈴がラウラとの模擬戦で怪我をしたり、そのトーナメント初日でシュヴァルツェア・レーゲンが秘密裏に搭載されていたVTシステムが暴走してトーナメントが中止になったり。
そのトーナメント終了後もシャルルが改めてシャルロット・デュノアとして入学したりと、色々あったがルナリアは特にこれといって興味はなかった。教室でもボーッと空を見ていることが多い。
「変わった子だよなぁ、ルナリアって」
自分の専用機を持っているにも関わらず訓練機である打鉄やラファール・リヴァイヴを使っていた。それに加えて自分のISを自分で整備しているようだ。授業にも難なくついてきている。
「流石アメリカの企業に就職してるだけあるわね」
「え、就職してたのかルナリアって」
「あれ、一夏は聞いてなかった? ISの武器に携わってる企業で働いてたらしいわよ」
「ぜ、全然知らなかった……」
今はシャルロットと一緒に昼食を食べていた。その様子を見る限り話が弾んでいる模様。一夏がその様子を観察していると頬を抓られた。
「いでででで! な、なにすんだよ箒!」
「食事中に余所見をするな、馬鹿者!」
「そーよ一夏。幼馴染放ってなにしてるんだか」
やいのやいのと騒がしいのはどこも一緒である。
そして午後の実践訓練。ISを使用して基礎的な動作を確認する授業で、やはりルナリアはラファール・リヴァイヴを使用した。
「ルナリア。お前は専用機があるだろう」
『機体の特徴を掴んでおきたいんです』
「ふむ……確かにそれは一理ある。が、訓練機にも限りがある。専用機があるならそっちを使って貰ったほうがこちらも手間を省ける。くだらん事で怪我をされても困るからな」
頷き、トライアレンドを起動させると他の生徒をラファール・リヴァイヴに乗せる。
「そういえば、ルナリアさんのISって色が着いてないよね」
二人一組のテストでシャルロットはルナリアと組むことになっていた。第二世代型ISであるラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡと並ぶと、確かに塗装のされていない状態のトライアレンドは地味かもしれない。見ようによっては初期化・最適化も済ませていないようにも思えるがそうではないらしい。
『トライアレンドには特殊な物が搭載されているから、機体色が無いの』
「へー、そうなんだ。見せてもらってもいいかな?」
ちらりと盗み見るのは担任と副担任。さすがにここで使うのはまずいだろうと思ったルナリアは、シャルロットにその武装データだけを公開した。
「……迷彩、武装?」
『使うと怒られそうだから……』
それにこういう場所で使うものでもない。
歩行、上昇下降。急制動と今まで行ってきた動作から射撃と格闘までを一通り行う。ここまで訓練を受けてきた生徒ならば造作もない事だが、射撃に関してルナリアの機体は調整が難しい。格闘に至っては武装すら無い為、真耶も千冬もどうしたものかと頭を悩ませた。
「織斑。ルナリアの相手をしてやれ」
「俺がですか?」
「そうだ。お前の白式なら相手出来るだろう。そもそもそれしかないからな」
それ──雪片弐型を指しながら千冬は一夏を差し向ける。ルナリアもそれには意見はないようだ。どちらかがダウンするまで、という一本勝負。もちろん射撃は禁止してある。
「では、始め!」
所定の位置に着いた二人に開始の合図を告げた。
「手加減しないからな」
『どうぞ』
低空飛行で迫る白式に対し、やはりトライアレンドは地面を駆ける。両腕の武装は展開しているものの三点バーストレールガン、リリウスはライフリングの回転を行っていない。機動力も白式が勝っていた。
「貰っ、たぁ!」
上段に構えた雪片弐型を背後から振り下ろす。クイックターンで振り向くと寸でのところで防御に成功したが、リリウスを突きつけるにも近過ぎた。そのまま後退するルナリアを一夏が追う。
予想通りと言えば予想通りの戦況だった。千冬は一夏の左手の動きを見ていたが、それもまた予想通り。
「さて、どうなるかな」
射撃が使えないルナリアだったが、足を速めて距離を取った。そこに飛び込む一夏。
足裏、その踵からピックを打ち込むと、左脚を軸にして回転。その遠心力で勢い付いた回し蹴りが白式を吹き飛ばした。
「何をしてる、早く立て一夏!」
箒の声に促されるままに起き上がった一夏に向かって、左腕のシールドを前面に押し出したルナリアが突進してくる。
不意に、それが持ち上げられて反応が遅れた。そして再び一夏はアリーナの地面を転がっていく。
「……蹴ったね」
「ええ、蹴りましたわ……」
「見事に入ったな」
「よし、そこまで! 織斑、どうもお前の動きは直線的だな」
『貴方の動きは単純。だから私に負けた』
「二人揃って同じことを……」
千冬からの叱咤と、ルナリアからの通信による二重苦。それに二人が目を合わせた。
「確かにルナリアのISは射撃に特化しているように見える。だがな、それを補うのは結局のところ操縦者自身による物が大きい。今回の敗因はそれだ」
『もう少し強くなってくれないと、話にならない』
「そうは言われても、どうすりゃいいんだ」
「馬鹿の一つ覚えもお前の工夫次第、ということだ。では次──」
ルナリアが早々に場所を離れる。先の戦いを見ていたシャルロットが何か唸っていた。
「どうかしたのか、シャルロット」
「なんだかルナリアさんのIS。単機での運用を想定していないみたいだから、ちょっと不思議だなって。レールガンのチャージに掛かる時間を稼ぐ味方との運用が前提だとすると……なんか引っ掛かっちゃって」
「確かに、そうですわね。まぁ彼女のISの設計者がよほどの色物好きでなければの話ですけれども」
セシリアはそう言いながらも、ルナリアのいた企業について思い返す。……あながち否定できないかもしれない。
「あい、オレっす。なんですか? ……了解っす。すぐにでも隊長に知らせます。なんでオレに……? あぁ、へい。
成人間もない青年は、頭を掻きながら面倒そうに通話を切った。ログハウスの一軒家でテーブルを挟んだ位置にもう一人。黙々とナイフを研ぎ、ゴロゴロと手榴弾が転がっていた。
「所定の位置で待機命令、ですとさ」
「……んー? んー」
「人類の言葉でコミュケーションしようぜ」
ピタリ、と手を止めてナイフを研いでいた男性は鋭い眼光で睨む。それに呆れた様子で肩をすくめると階段を上がる。
ノックを二回、間を置いてもう一回。それからすぐにドアを開けた青年の前に飛び込んできた光景は、隊長が副隊長を押し倒して覆い被さっている光景。
「…………」
「…………」
視線を合わせて一秒二秒──青年は黙ってドアを閉めて深呼吸。何事もなかったかのようにもう一度開けた。
「隊長、姐さんから指令が──」
「乙女の花園になぁに入り込んでんじゃおりゃあああああああああ!!」
部分展開したISの剛腕がドア諸共に廊下に前衛的な窓を開ける。青年は予め予想していた通りに行動し、壁に隠れて無事に済んだ。その眼は涙で潤んでいたが。
「オレをぶっ殺す気かデストラクター!」
「あぁん? ウッサイ! 変装して潜入して爆弾仕掛けて後はスタコラ逃げるようなお前に言われたくないわヘッポコボマー!」
「うっせ! うっせ! それしか能が無いんだからしょうがねえだろうよ!」
「あらあらもう……涼しくなってしまいましたね」
「使い物にならねぇなもうここ……」
部分展開していたISの腕を戻し、隊長──デストラクターと呼ばれた女性は身体を伸ばす。