「んで、何用? ヘッポコボマー」
「うっせ! 姐さんからの指令じゃ、例の企業に交渉を持ち掛けるから“万が一”に備えて待機だと」
「大抵そういう場合ってウチらの出番だよねぇ。ま、いっか。ウチは暴れて壊して回れればそれで満足だし」
「野蛮人……」
青年──
「支度は出来てるか、ボマー」
「えいえい、出来てまさぁ。ったくよーもー」
渋りながら身支度を済ませる二人と違い、デストラクターとコードネーム『レギオン』はISを使用すれば問題ない。ガチャガチャと重そうにカバンをワゴン車に乗せていく二人を尻目に、デストラクターは欠伸を漏らしら。
「ふぁ、あ~ぁ……まだー? ってか重そう」
「そう思うなら手伝ってくれやしねぇかなぁ隊長様よぉ!? ──ってあぁもうこんな時に誰だよ! はいもしもし! え、ええはい。すぐ出ます。はい、はい……分かりました」
深々と苦労のため息を吐きだし、満天の青空を仰ぐ。深呼吸を数回繰り返して肺に貯まった二酸化炭素と酸素、気分を入れ替えた。
「誰から?」
「オレらの協力者。今回の交渉代理人から……ああくそったれめ。来世じゃまともな職に就きてぇ」
「んじゃ死んでやり直したら?」
「正しくは真っ当な神経の上司と部署と同僚に囲まれたま・と・も・な、仕事にな!」
(まるっきり俺が駄目な同僚みたいな発言だ……)
いつものボマーとデストラクターによる口喧嘩を止めようともせず作業を進めている時点でジャッカルの評価は低い。レギオンものんびりと待っていた。
「毎度ながら仲がよろしいですね」
「全然よろしくねぇっす、副隊長さん」
「えぇまったく。ジャッカル、準備は?」
「たんまり積んでこれが最後の一箱、と……ボマー」
「へぇいへい……どうせ運転はオレだっつーの」
煙草を取り出し、くわえると運転席に座る。助手席にはジャッカル、後部座席にはデストラクターとレギオン。ボマーはキーを回してエンジンを掛け、窓を開けると煙草に火を点けた。間もなくして四人を乗せたワゴン車が走り出す。後部座席の更に後ろ、トランクには荷物を詰められたバッグが狭しと突っ込まれていた。
「それで、交渉が成功したらウチらはそのまま観光でもすればいいの?」
「見渡す限りのビル群ではしゃげるならな」
「失敗したら?」
「会社もろとも瓦礫の下敷きにしてやれ、だとよ。そのあと、交渉代理人が瓦礫の撤去ついでに回収した会社の資料をこっちに流す手筈っつーので話はまとまってる。ってか、隊長なのに知らされてねーのかよ……」
「どーいうわけか、連絡はウチじゃなくてアンタなのよねー。クレームも代わりに聞くのがアンタだからいいけど」
(オレは全っ然よろしくねーよ……)
(……信頼性で言えば確かにボマーが一番だな)
ジャッカルは一人で納得しながら小さく頷き、ボマーの横顔を盗み見る。
過去の経歴はともかく、爆弾魔のコードネームに相応しい腕はジャッカルも認めていた。どんな危険人物かと思いきや、普通の常識人で面を食らったが初めての同行任務でその理由が分かってしまった──とかく、跡形もない位に爆破するのだ。
しかも取り立てて目立つような事もなく静かに潜入し仕掛け、過激なまでの爆破を行う。此処に配属される以前は強盗や盗みを働いていた只の悪ガキだったらしいが、本人はそれを笑って水に流してくれと言う。どういう経緯かこんな部隊に配属されてしまっているが……。
(神の悪戯、という奴か)
もしそうなら、ボマーは恨んでも恨み足りないだろう。望んで配属されたレギオンのお嬢様と違ってボマーはまだ拒否権があっただろう。断りきれなかったにしてもこればっかりは仕方ない。──十二の頃から道を踏み外した自分と違って。
思案に耽っていた横でやはり起きるボマーとデストラクターの喧嘩はカーラジオに負けず劣らずのテンション。ジャッカルはそれを聞き流しながら目的地まで外を眺めていた。
「ふぃ~、やっぱ自分の椅子が一番だわな」
椅子に深く座り、肩を慣らす社長。その隣には書類が待っている。そんな現実から目を背けながら煙草に火を点けようと、霧島に奪われた。
「社長、社内は禁煙ですって毎回言われてますよね」
「吸いたきゃ屋上か……」
デュノア社での仕事は単なる視察だったが、それも霧島が関われば話は変わる。そして進められたのは『ISに対し、有効な武器』についてだった。元々この会社の運営方針として、ISが使用する武器の設計・開発を請け負っている。
世界で二番目にISに詳しく、それと等しく篠ノ之束に最も近い男と称される霧島深崎が属しているにもかかわらず、全くと言っていいほどに注目されていないのは、それほどまで世界の眼はISの開発者に向けられている証明。二人が日本人であるというのは偶然か。
霧島はやれやれと社長の背中を見送り、デスクの書類を一枚手にすると目を細めた。IS──インフィニット・ストラトス、その文字を見るたびに苛まれる。
(束……)
果たして、今。自分が目指した“天才”の二文字は何処へ隠れて息を潜めているのか。十で神童、十五で才子、二十歳過ぎればただの人──それから四年も経過して、未だに天才を冠する篠ノ之束は紛れもなく尊敬に値する。……その天才が「邪魔」であると“敵”として認識している男が霧島深崎に他ならない。尤も、そんなことに本人は気付いていないが、それに気付く暇もない程に追っていた。ただ、ひたすらに束博士を。それは恋路とも言える長く険しい道だが、惚れて通れば千里も一理。生涯を掛けても惜しくないと、霧島は思っていた。
そんな想いに水を差す内線。社長が不在なので代理で霧島が執る。
「社長は一服中ですので私が代理です、どうかしましたか?」
『ああ、Mr.霧島。急ぎ社長をお通しください。お客様がお見えになってます』
「はい、分かりました。すぐにでも」
『お願いしましたよ』
すぐさま屋上に向かい、煙草を吸っていた社長に用件を伝えると眉を寄せて煙草を踏み消した。
「まったく何処のどいつだクソッタレめ。こういう時は英国紳士のしみったれたマナーを守ってもらいてぇもんだ」
「どういう作法ですか、社長」
肩を叩き、スーツの上着を直してネクタイも締めた社長が不敵に笑う。
「
そして応接室の扉を開けた社長を待っていたのは馴染みの顔と見知らぬスーツ姿の男性だった。
「スミス! ハハッ、この野郎元気そうじゃないか!」
「ブロフィット、久しぶりだなぁ!」
久しぶりの再会に二人は破顔するとお互いの身体を抱き寄せ、背中を叩くとすぐに離れて握手を交わす。
「どうだい稼ぎの方は」
「なぁにいつも通り、毎日ハンバーガー食う分には釣りが出てくる生活さ」
社長──スミス・ガントリックのいつもの調子にブロフィット・ベイルバックは笑って流した。それまで沈黙して様子を見守っていた男性も立ち上がると手を差し出し、それに固い握手を交わして三人はソファーに腰を下ろす。
「お前の方はどうなんだ?」
「あっちこっちでアメリカの美化活動に精を出してる。公園じゃ子供が喜んで遊んでるぜ」
「お前の管轄じゃねぇだろそこは。連絡ぐらい寄越せばバーベキューでも誘ってやったってのに」
「ああいや。俺は付き添いだ、用件はこっちの……あー。なんと言ったらいいか」
「ジョンとでも名乗っておきます」
「そりゃどうも」