「あぁぁ…なんで…僕の、僕のZIIがぁ…!」
某日某所、ガンプラベースGBN筐体ブースに悲哀の慟哭が響く。騒ぎにガンプラベーススタッフが駆け付け、間も無くその事態の異常性から応援要請、及び警察への即時通報が行われていた。
そして、その騒ぎを耳にしておもむろに集まった野次馬達の中に紛れる青年が1人────、
灰のシャツに白ネクタイ、茶色の良く手入れされた艶髪、そして藍の瞳が特徴的な好青年だ。
その名を、キスギ・キョウヤという。
不動の頂点、クジョウ・キョウヤその人である。
彼は偶然にもその現場に居合わせ、騒ぎ立てる野次馬の中にあってただ1人、悲痛な面持ちであった。
(また出てしまった…キルダイバーの被害者が…いったい何がどうなっている…?)
キルダイバー
昨今GBNで発生している「ガンプラ破損事件」の首謀者と思しきダイバーであり、現在キョウヤが周囲に情報を秘匿したまま単身追っている存在である。
発端は2ヶ月前、黒いガンダムフレーム機と戦い敗北したダイバーがログアウトすると使用していたガンプラが大破していた、という事案から始まる。当初はログイン中に誰かが外から干渉してガンプラを破壊したのでは、と防犯カメラ等の確認や精査も行われたがその瞬間は確認されず、現場となったガンダムベースのスタッフが通報に踏み切るも、所詮はゲームに使うおもちゃが壊れただけと雑に扱われ、真面目に取り合ってくれなかったのだという。
GBN運営チームも、事件にGBNが直接関わっているという実証が出来ず、上層部に捜査を渋られて行動が取れない。そんな中で起きた2度目の破損事件を皮切りに、GMがチャンピオンであるキョウヤへ極秘の依頼という形で頼ってきたのだった。
キョウヤは勿論、人の頼みを無碍にする男では無い。GMの懇願は二つ返事で承諾し、僅かな目撃情報を頼りに対象のガンプラを探す事になった。
しかしそれでも尚、キルダイバーの発見には至らず…2件目からまた1ヶ月が経ったこの日ついに、キョウヤが現実においても軽く立ち寄れる近場で、3件目の破損事件が発生してしまったのである。
今回の事案を除く2件の調査を経ても、未だガンプラ破壊の原理は明らかになっていない。
この案件、かつてのマスダイバー動乱を超える非常事態と言って相違無いだろう。場合によっては、ELダイバー出現の契機となった第二次有志連合戦と同等以上の未知を覚悟せねばならないかも知れない。
(もし、この戦いでまた選ばねばならないのだとしたら…もう二度と、誤る訳にはいかない───。)
キョウヤは己の心に1つの確かな決心を固め、野次馬の集団から離れ雑踏へと姿を消した……
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GBN、皆の好きが詰まった希望の世界。
数多の物語が紡がれたこの地に産み落とされた人々の心の結晶、ELダイバー。
彼等彼女等はどういう訳か、「ガンプラの声」なるものを聞くことが出来るのだという。
そしてこの日──────、
「やだ、嫌だ────ッ!!」
「ッうあ……また、この声……聞いてて気持ちのいいものじゃ、無いねぃ…」
ある者は、他の同族達とは一線を画す経験を元にその意図を何処と無く察し────、
「痛い、痛いよ。止めて───!」
「ッ!また…キミは誰…?何処で泣いているの…?」
またある者は、見慣れた夕陽を背に、またしても耳に届いた悲痛な声の出処を探り訊ね────、
「誰か…誰か助けて───ッ!!」
「───ッ!また…リク…!」
「サラ…解った、行こう。」
またある者は三度聞こえた声に全てを理解して、事態の解決へ向けて己に出来る事を探し、動き出す。
ガンプラの悲鳴。
本来傷付く事の無いGBNで治る事の無い傷を、余りにも深い傷を受けたガンプラは、悲鳴を上げる。
その身を侵食する毒が、ガンプラを蝕みそして、果てにはその魂を食い破る。
彼等の苦しみは、数少ないその声を聞ける異能者達がその姿を目にした時、そしてその瞬間GBNと繋がっているELダイバーにしか聞こえない。
だがそれ故に、人々の好きから生まれた彼等彼女等は、行動力の差異こそあれど事態を完全に捨て置くことを看過できはしない。非情にはなれない。
その悲痛な声を聞いた心すら、微かな欠片としてある者の企てが動き出す時の為の材料にされている事にも気付かずに────、
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ハードコア・ディメンション・ヴァルガ
平和と自由のGBNにおいてたった1つ、承認無しでのフリーバトルが解禁される地獄の三丁目。
その片隅に、黒い光が集まっていた。
空間のほんの僅かなスペースが歪み、電磁波を纏い、そして黒い光が1つの形を成していく。
集まった光はやがて小柄な人の形を取り、段々とぼやけていた輪郭をハッキリさせて────、
『ゥ…ァア…ゥ……』
一瞬、その輪郭を歪ませる。
しかしそれは一時の不安定であっただけ、と言うように再度その形を安定させて、1人の少女の姿を形作る。しかしそれはただの少女と言うにはあまりにも痛ましい、破滅的な雰囲気を纏っていて────、
「ここ、は、どこ?」
「わたし、は、恐怖」
「暗い、怖い、恐いよ…」
「止めなきゃ、壊さなきゃ…」
「誰か…、誰かぁ……」
「全部壊して、守らなきゃ」
いつか危惧されていた事。
何もGBNは希望だけに満ちた場所ではない。
哀しき哉、未だこの地には騙し、強襲を始めとする迷惑行為が横行していて、時にはその被害者が癒えない苦痛と共にGBNを去っていく。
ELダイバーが人々の心から生まれたというのならば、
この日ついに、生まれてしまった。
人々の恐怖、不満、苦痛…微かずつ蓄積され続けるソレはついな余剰と言って相違ない規模に至り、そして産み落とされた。
バトルを恐れ、ガンプラを恐れ、
人々を恐れ───、
生まれてしまった。
今回、
青いカンテラ様の「GBN総合掲示板」より
ELダイバーのロゼちゃんを、
守次奏様の「リビルドガールズ」より
同じくチィちゃん(敢えてこの名で)を、
名を出さず仄めかす形でお借りしました。
ここに御礼申し上げます