一面の黒。足場には電子によって構成された格子状の模様が遥か彼方まで続いている空間。
ここはGBN内に存在する某所。無機質な電子の世界で、2つの影が対面し語り合っていた。
『このまま放置してはおけない。今の情勢に鑑みても、削除作業を進める事がGBNの守護に繋がる。』
「だが彼女もまたこの世界に生まれた1つの命だ、サラくん達ELダイバーと何も変わらない。」
『違う。彼女は他のELダイバー達とは明確に異なる。このGBNへの明確な敵意を示した。その性質は以前の…個体名称アルスに近しい。』
議論を白熱させる2人。
片や薄翠色の躯体を持つ、SDガンダムフォースに登場するガンダイバーのアバターを使用する男性。
片や黒の制服に金髪が映える、長身の好青年。
ガンダイバー…GBNの運営を務める
不動のチャンピオン…クジョウ・キョウヤは、現在GBNを騒がせているとある案件について、一向に結末の見えない議論を延々と繰り返していた。
事の発端は2日程前に遡る。
その日、ハードコアディメンション・ヴァルガにて新たなELダイバーが誕生したと報告が齎された。
ヴァルガとは、無秩序なバトルを望む一定数の要望によって運営が用意した特殊ディメンション。その無法地帯ぶりから、多くのダイバー達には
「猿山」、「地獄の三丁目」、「蠱毒の壺」等と揶揄されている通り、秩序も法も無い場所だ。
そんな場所に誕生したELダイバーは、奇跡的に比較的マトモな強豪ダイバーの保護者に恵まれ、そのままELバースセンターへと送られる…はずだった。
当人との会話の中で自身を「フィア」と名乗ったELダイバーは、保護者が彼女をELバースセンターへ送るために一度片付けていたガンプラを出現させたのを見るなり、泣き叫び発狂し始めたのである。
彼女───フィアの叫びは偶然かヴァルガのフィールド内にバグを発生させ、保護者となるはずだったダイバーを跡形もなく消し去ってしまった。
そしてそのまま泣き叫ぶフィアには、更なる不幸が訪れる事になる。ならず者共に捕捉されたのだ。
しかも運悪く保護者ダイバーの爆散を戦闘と勘違いしたならず者共は徒党を組み、それぞれが個性的な改造を施した愛機に乗ってその場へと集結する。
その結果、ならず者共は戦わずして全滅した。
接近するMSの軍勢を見た瞬間響いたフィアの叫びに呼応するように、突如虚空に大穴が空いたのだ。
開かれた大穴は、まるで戦闘によってコロニーに開けられた風穴が内部の空気を宇宙へと排出する現象のように、とてつもない気流を伴ってならず者共のMSを一機残らず呑み込んで、その姿を消した。
結論から言えば被害を受けたならず者共は、緊急帰還システムを使いセントラル・ディメンション中央ロビーへと送還され、辛くも難を逃れたという。
当然この現象は運営陣にも観測され、GMの緊急判断によってエリア内ごく一部の区画を封鎖する事で、ELダイバーフィアをその場に押し留めている。
またこの現象は緊急案件であったという事と、その時ヴァルガに居合わせた多くのダイバー達に目撃、撮影、拡散されたという事、また件のならず者共が事の顛末を言いふらしてしまった事で運営としても真実を説明せざるを得ない状況に陥り、またそれによってELダイバーフィアに対しどう対処すべきか、という点での新たな問題が噴出しているのだ。
無数に湧き出る異常事態に、GMのカツラギは連日徹夜を強いられ、胃薬を手放せなくなっていた。
更に────、
『状況は最悪だ。キルダイバーの件も未だに解決の糸口が掴めていない今、手は尽くしているものの…もしまた例の事案が発生すれば、我々運営陣の手だけでは対応が出来なくなる可能性が高い。』
「ならばキルダイバーの件は、此方で有志連合の再結成及び宣言によって厳戒態勢を敷き、捜索、警備による牽制を視野に入れて────、」
キルダイバー。
昨今世間を騒がせている正体不明の害悪ダイバーだ。そのダイバーとのバトルに敗北したガンプラはリアルでも破壊される、という前代未聞の事件を起こすその存在は、バトルが終わった後でなければ事態に気付けず、運営が該当するバトルログの確認を行っても、何一つとして痕跡が見つからない。
奇怪極まる事件を前に、運営も、それを知る一部の者達も僅かな情報を頼りに警戒を厳にしていた。
しかし最近、犯人も対策を講じて来たのだろうか、唯一の追跡情報とされた「黒いガンダムフレーム」という情報が該当しなくなってきている。
案件に該当する機体が2パターンに増えた為だ。そのせいで警戒する側も手が回りきらなくなり、結局は後手後手に回ってしまい被害が拡大している。
『すまないキョウヤ、本来この対応はあまり褒められたものではないのだが…最早、君達に頼らざるを得ない段階にまで状況は悪化している。』
「キルダイバーは一刻も早く確保しなければならない。我々も全力は尽くします。ヴァルガの件は…」
『解っている。どちらにせよこの状況を我々の独断では決められない事は百も承知している。極力穏便に済ませるように、というのが経営陣全体と世間が提唱する方針だということも……我々は無力だ。』
ELダイバー、フィアの一件は最悪の状態に向けて1歩ずつ進んでいる。ガンプラが彼女の目に入れば正体不明の叫びでバグが発生する。しかし現状が世間に知れ渡っていてかつ「ELダイバーの人権保障」を求める声が巷で大きくなりつつある現在、運営陣はフィアに対して強行的な手段を取れない。
結果として、運営陣にはフィアを隔離したまま観察を続ける事しか出来ない。それどころか、世間は運営が苦肉の策として現在執っている隔離対応にすら批判の声を強めているという状況にある。
運営陣にとって最も恐れていた事態。
敵対的なELダイバーに対する保護と、GBNを防衛する手段の喪失。これらはかつてない程に、運営を無力にさせていた。中には辞表を叩きつけてまでフィアの保護に乗り出そうとする者さえ出る程だ。
上司であるGMカツラギが彼等彼女等を宥め、押し留める形で内部の混乱は何とか沈静化させたものの…最早状況の瓦解は時間の問題であるだろう。
そうしてチャンピオンとGM、連日続いている2人の密談はその日も終わりを告げ、互いに他者がいるGBNの共有空間へと戻った数時間後───、
『止めて、嫌だ、痛いよ、誰か助けて…!』
またしても、事件は引き起こされた。
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GBNに根ざす人々の心から生まれた新たな命は、この日もまた終わりの声を聞く。ある者は苦しみ、ある者は怯え、またある者は────、
「っ!?まま…っ!」
「フュー…!大丈夫、大丈夫だから……」
母性を求めるELダイバーは命が刈り取られる音に恐怖を訴え、魔竜を名乗る母が優しく宥める。
『───ッ!』
「ん?どうかしたかリゼ、」
『いえ…なんでもないです…?』
「何でそこで過去形なんだよ…」
頂点を求めるELダイバーは、耳に届く己の知識に該当しない声に、心を傾けずにはいられない。
『ゥ、あ…また、だ…やだ…嫌だよゥ…』
「なんで殺すの?」
『殺さないで…壊さないで……』
「だから、守らなきゃ」
『誰かァ……助けてよゥ……』
「全部こわして、守らなきゃ」
死と破滅の恐怖に怯える新たな命は、真っ暗な世界の中央で1人膝を抱え、泣いて助けを乞い続ける。
ヒント:い つ も の
SpecialThanks!
「ELダイバーの人権保障」
守次奏様作、「ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ」より題材をお借りしました。
「母性を求めるELダイバー」
X2愛好家様より、フューちゃん
「魔竜を名乗る母」
青いカンテラ様より、クオンちゃん様
この場を借りて御礼申し上げます。