ヤバい世界観のSFロボエロゲ世界に転生したので死亡フラグを全力で叩き折る 作:龍流
気持ち悪くて、吐きそうだ。
「はぁ、はぁはぁ……」
少女の呼吸は、普通なら考えられないほどに荒かった。
恵まれた肢体を隙間なく覆い、保護しているのは、白を基調としたカラーに、青のラインが入ったパイロットスーツ。気密処理が施されたヘルメットは生存に必要不可欠な空気を今も過不足なく供給してくれているはずなのに、どんなに呼吸を繰り返しても空気が足りない気がした。体温調節機能も完璧で、宇宙空間に出てもまったく問題ないという触れ込みだったが、全身から汗が噴き出て止まらない。
息を吸う度に胸の上下がわかるほどぴったりと全身に張り付くスーツは、彼女の魅力的なボディラインと胸の大きさを強調していたが、肌に密着するそれの感触はこれ以上ないほどに不快で。しかしスーツに接続されている複数のチューブと身体固定用のハーネスが、身じろぎすることすら許さなかった。
だが、自分とまったく同じ境遇にあるはずの……
「敵の数が多い。突破されると面倒だ。このまま片付ける」
「え」
身じろぎすらできないコクピットではあったが、周囲のほとんどを高解像度のモニターに囲まれているので眺めそのものは良い。高速で映り込み、流れていく景色を見ていると、目が回りそうだ。実際、目にも止まらぬスピードで『敵』の真横を通り抜けた機体は、すれ違い様に接近戦用のブレードを引き抜き、出力されたレーザーの刃で、その胴体を一刀両断していた。
そう。『機体』である。彼と彼女が搭乗しているのは、全長20m級の機械の巨人だった。
傍から見れば、喝采を送りたくなるような鮮やかな手際だったが、それを成した機体に乗っている方は堪まったものではない。跳躍と加速、急制動の緩急に全身が揺さぶられ、頭が揺れる。胃の中身まで裏返りそうになる。
「っ……!」
少女にできることは舌を噛まないように歯を食いしばるのが精々で、操縦の全ては少年が行っていた。
この機体にとって少女の役目はエネルギータンクに近い。機体の武装が使用される度に、スーツに接続されたチューブを通じて言いようのない脱力感があった。
機体が携行するライフルが火を吹く。シールドがフィールドを形成し、光線を弾いて防ぐ。打ち出した蹴りは敵の頭部を踏み抜き、紫色の体液をまき散らした。
それは、時間にして僅か数十秒の早業。
「……よし。粗方片付いたな」
先ほどまでの激しい機動が噓のように。膝のサスペンションと各部のスラスターを用いて柔らかく着地した機体はそこでようやく制止した。
「ふぅ……おつかれ、
「や、
少年の名を呼んだ少女は、唯一動く腕で自分のヘルメットの前面を抑える。
戦闘は終わった。しかし、彼女の状態は好転するどころか、むしろ悪化していた。
「……ごめん。吐きそう」
「…………ちょっとまて落ち着け。もう少し頑張れ。ゆっくり呼吸しろ待ってろ今ハーネス外してやるから楽にしろいいか絶対にヘルメットの中に吐くなよ大丈夫だ戦闘終わったからバイザー上げていいし今エチケット袋用意してやるから」
「うぉえええええええ」
「あああああああああああああああああ!?」
吐いた。
この俺、
俺はエロゲーの世界に転生した。しかも、主人公として。それだけならばよかった。美少女のヒロインたちに囲まれて、学園生活を謳歌し、様々なイベントをこなしながらトゥルーエンディングを迎える……そんな風に第二の人生を過ごせればいいな、と。能天気にそう考えていた時期がありました、はい。
しかし、現実はそんなに甘くない。俺はただの主人公ではなく、人類を守る最後の希望を担う主人公だった。
『タイタン・アース』。それが、俺の第二の人生となったゲームの名前である。
とある有名エロゲーメーカーから発売されたこのゲームの作風は簡潔に言ってしまえば末期戦と人類の存亡を賭けたゲームを足して二で割らずにそのまま掛けて濃縮した地獄。地上のほとんどは宇宙から飛来した『タイタン』と呼ばれる生物型の巨人に制圧され、大地と空気は汚染された。人類は数少ない資源を抱えたままの地下のシェルター都市へと閉じこもる。それでもなお、人間の生き残り全てを駆逐せんと迫りくるタイタンを、人型機動兵器に搭乗した主人公とヒロインたちが、生き残りを賭けて迎え撃つ。迎え撃ちながら、その合間にラブコメする。これが『タイタン・アース』の大まかなあらすじだ。
骨太で硬派な作風と拘り抜いたメカニックデザイン。魅力的なヒロインたちと手に汗握る熱いシナリオは斜陽に差し掛かっていたエロゲー産業を立て直すほどの売上を叩き出し、一世を風靡した。
……したんだが、
『敵と対話できずに地上まで攻め込まれて地下へ追い込まれたみたいな作風』
『展開の重さと閉塞感が地下という環境の所為で非常に重たい』
『エロゲがやりたかったのであってリョナゲーがやりたかったわけではない』
『作風が黒富野』
『ヒロインの感情が超新星並みに重い』
と、人の生き死に慣れた歴戦のロボットオタクたちからもボロクソに言われるほどに、シナリオの陰鬱さがひどかった。
そんなゲームが、今の俺の生きる世界だ。
偽装された基地のハッチが開き、疲弊した機体たちを迎え入れる。大型のエレベーターに直結しているハンガーは、そのままゆっくりと下降を開始した。
「各部、固定確認」
『固定確認。装甲表面の汚染物質の洗浄を開始します』
「あー、なるべく急いでくれると助かります」
『何かありましたか?』
「相棒が吐きました」
『……またですか』
「はい。またです」
オペレーターさんと俺の会話は、バスの中で気持ち悪くなった隣の子を先生に報告するようなノリだった。
後ろの座席でぐったりとしているパイロットスーツ姿の相棒……
エレベーターが地下シェルターの入り口まで辿り着くのと同時に、外気やタイタンの汚染物質の洗浄も完了する。分厚い扉が開き、整備兵のみなさんがわらわらと出てきて、俺たちと機体を出迎えてくれた。
ここまできてようやく、パイロットスーツのヘルメットを脱いで、機体のコックピットハッチを開けることができる。
「……その前に、と」
先に自分の気密ヘルメットをとった俺は手元のコンソールを操作して、後部座席のハーネスとエネルギーや生命維持用の各種チューブの接続を、パイロットスーツから切り離した。シートにぎちぎちに固定されていた明日葉の身体が、脱力したように沈み込む。
「明日葉。ほら、立てるか?」
「……ぅ」
はい。ダメみたいですね。
仕方ないので狭苦しい後部座席から明日葉を引っ張り出して、お姫様抱っこで機外まで運び出す。
「……ちょっと太ったか?」
「……ぃ」
べしっと。力なく叩かれる。はいはいすいませんすいません。
とりあえず、まずはヘルメットを脱がせてやらなければならない。もちろんバケツのあるところで。
「衛生兵! バケツと水持ってきなさい! バケツと水! それからタオルもたくさん! あと横になれる担架! さっさと用意しなさい!」
隣の二番機から転がるように飛び降りてきた赤いパイロットスーツが、俺が何か言う前に、きつい口調で指示を飛ばす。
「
「アンタも能天気にお礼言ってないで、さっさとソイツ連れて降りてきなさい!」
「うっすうっす」
近接戦仕様の二番機のパイロット、
『……いつものことなのに、夏雅梨は騒ぎすぎ。明日葉も、毎回こんなに騒がれる前に、大和の機動に身体が耐えられるように慣れておくべき』
冷たい口調で淡々と機体のスピーカーから声を発しているのは、
狙撃戦仕様の三番機を預かる、声の印象通りのクールなパイロットである。機体から出て来ずに機体の外部スピーカーから声を発しているので、3人の中で一際スレンダーで小柄な体も、黒髪のボブカットがよく似合う鋭利な印象のお顔もお目にかかることができない。
「
『せっかく今回も生き残っておいしい空気を吸っているのに、わざわざ吐瀉物の匂いを嗅ぎに外に出るのは、非効率。明日葉の処理が終わったら出るから、そしたら呼んで』
うわあ。すっげえ冷めてるなぁ……
「明日葉、大丈夫? ヘルメットのロック外すわよ」
「……ぅん」
なんだかんだと世話焼きな夏芽梨に明日葉の世話を預け、俺は周囲を見回した。
「一番機のエネルギーシールドが限界だ! 今の内に予備のやつ持って来い!」
「二番機の右関節もガッタガタです! こりゃオーバーホールしないとダメですよ! 夏雅梨さん、また無理効かせたでしょう!? 機体を労るのもパイロットの仕事ですよ!」
「うっさいわね! アタシが一番前で戦ってるんだからしょうがないでしょ!」
『……整備班。二番機の世話が終わったあとでいいから、ライフルの照準調整をお願い』
「何か気になるところがありましたか?」
『ないけど調整したい。手に馴染みきってない感じ』
「あー、わかりました。整備長!」
「二番機は右肩まで念入りにチェックする! ハンガーを倒して機体を寝かせろ! 準備が整った班からチーフを中心に関節をバラしはじめていい! 一番機はスラスター周りを重点的に確認! 三番機はラストに回すが構わねぇなお嬢ちゃん!」
『大丈夫、待ってる。でもじっくりお願い』
「よし! かかるぞ!」
頼れる整備班長が、声を張り上げて指示を出す。
この空間に満ちるのは、鉄と汗と。
「うぉおおえ……」
「ちょっと! 追加で吐くならバケツの中に吐きなさいよもうっ!」
ゲロの匂い。
とっくに終わっているこの世界で、辛うじて人類を繋ぎ止めているのは、たった3機の機体と、俺たち4人のパイロットだけで。
明日葉の背中をさする夏芽梨を横目で見つつ、大きく伸びをして体をほぐしながら。俺は確信した。
うん。やっぱりこれ、絶対エロゲーじゃねえわ。
特に読まなくてもいいキャラクター紹介
主人公。アムロ・レイとマクシミリアン・ジーナスと白銀武を足して二で割った程度の技量を身につけた化け物。単独でも充分に異能生存体を狙えるが、現在はいろいろあって、明日葉の一番機に同乗している。
ライフルとある程度の装甲と機動力があればとりあえずなんとかなると思っているタイプなので、シロッコはキャラとして嫌いだがジ・Oはとても好き。巨乳派。
一番機パイロット。メインゲロイン。巨乳。
二番機パイロット。ツンデレ。貧乳。
三番機パイロット。クールっ娘。普乳。