ヤバい世界観のSFロボエロゲ世界に転生したので死亡フラグを全力で叩き折る 作:龍流
防衛作戦を無事に終え、パイロットスーツを脱いでシャワーを浴び、制服に着換え終わったら、ブリーフィングをするのが恒例になっている。
俺の前には3人の美少女(ヒロイン)が並んでいた。
一番機サブパイロット、
二番機パイロット、
三番機パイロット、
明日葉がゆるふわポンコツ、夏芽梨が世話焼きツンデレ、優良が毒舌クールっ娘と覚えれば問題ない。ついでに説明しておくと、明日葉が茶髪巨乳、夏芽梨が赤髪無乳、優良が黒髪普乳である。個人的には、金髪のヒロインがいないのが残念ではあるがそれは仕方がない。
さて。
『タイタン・アース』はエロゲーである。エロゲーである以上、R18でむふふなパートは必須である。
命懸けの戦いを繰り広げ、なんとか生き残り、死への恐怖を和らげるためにお互いに熱い抱擁を交わして愛情を確かめ合う……
「はーい。じゃあ、ブリーフィングをはじめます」
……なんてえっちな展開は、たしかにゲームの中ならあった。あったのだが、今の俺は早急に解決しなければならない、もっと現実的な問題に直面している。
「今日の議題は『機体操縦中のパイロットが吐き気を催した際の対策について』です」
ゲロである。
最低だった。
本当に、色気の欠片もない。色気の欠片もないが、話し合うしかない。だって戦闘中に後部座席でゲロ吐かれたら俺が困るし。さっきは大丈夫だったけどそろそろもらいゲロとかしちゃいそうだし。
「えっと、その点本当に、ごめんなさい……」
制服のシャツの上から、かわいらしいピンクのカーディガンを羽織っている明日葉が縮こまる。さすがに、もうゲロの匂いはしない。シャンプーと石鹼のいい香りがした。
「明日葉が謝ることないわよ。コイツの操縦がへったくそなのが、悪いんでしょ。エネルギーが有り余ってるからって、無駄にスラスター吹かしてぶんぶん飛び回るのが悪いのよ」
こちらはカーディガンではなく紅色のパーカーを羽織っている夏芽梨が、行儀悪く机の上に脚をのせながら吐き捨てる。惜しい。パンツが見えそうで見えない。
「……大和の操縦は、べつに悪くない。さっきも言ったけど、明日葉が大和の機動についていけないのが悪いだけ」
3人の中でジャケットまで羽織り、ネクタイも締め、一番制服をきっちり着こなしている優良は、手持ちのメモ帳をぱらぱらと捲りながら答えた。コイツ、こうやって見るとほんとに小さくてちんまいな。
「まあ、それぞれ言い分はあるんだろうけど……とりあえず、今の俺のパートナーは明日葉だからさ。明日葉の負担を減らす方向で考えてほしいんだよな」
『タイタン・アース』には、3人のメインヒロインと3機のメイン機体が登場する。そして、主人公は3人のメインヒロインの中から1人と1機だけを選んで、
明日葉と俺の乗る一番機『ブロンダス』は、機動力重視のベーシックなオールラウンダー。
夏芽梨が駆る二番機『ステロデス』は、接近戦に特化して駆動系にもチェーンが施された、近接格闘仕様。
優良が搭乗する『アルゲドス』は、砲狙撃戦の性能を割り割り切った、重火力狙撃仕様。
すごく身も蓋もないことを言ってしまえば、上からエールストライク、ソードストライク、ランチャーストライク。フォースシルエット、ソードシルエット、ブラストシルエットである。換装はロマン。
「……まあ、アンタならそう言うと思って、基地のアーカイブから『乗り物酔い対策』のデータ漁ってきたわよ」
「お、それは助かる」
さすがはツンデレ夏芽梨さん。普段の戦闘は荒っぽくてひやひやするけど、こういう時は本当に頼りになるな。もう少し素直になればもっとかわいいのに。
「で、なんか具体的な案はあるのか?」
「当然よ。アタシを誰だと思ってるわけ?」
ふふん、と鼻を鳴らしながら。夏芽梨は平べったい板に突起のブツブツがついたモノを置いた。
「なにこれ」
「足ツボ」
健康ランドかよ。
「わっ……すごい。これ気持ちいいね〜!」
「でしょう?」
好奇心旺盛な明日葉が、早速靴を脱いで足ツボの板を踏み締める。違うよ明日葉さん。今はそういう話をしてるんじゃないんだよ。
ダメだ。やっぱツンデレはポンコツだ。話にならん。
俺は3人の中で頭脳派クールポジションの地位を不動のものにしている優良の方へ向き直った。
「優良、なんとか言ってやってくれ」
「……大和」
「なんだ?」
「すごいことを思いついた。これをフットペダルに仕込めば、長時間の作戦行動中も疲労回復効果が望めるのでは?」
いざって時に踏み込めねーよ。
「優良……アンタ、天才?」
アホか。俺は生死を分ける一瞬の境で、足ツボを刺激しながらフットペダルを踏みたくないわ。
「費用的にも現実的じゃないし、整備班のみなさんにこんなアホらしい案を出せるわけがない。却下」
「むう……」
「えー」
「気持ちいいのにね〜」
気持ちいいのにね〜、じゃないんだよ。
優良はやれやれ、と肩をすくめた。いや、やれやれと言いたいのは俺の方なんだが?
「まあ、その足ツボは、所詮は夏芽梨の案。却下されるのは仕方がない」
「所詮はってなによ。所詮はって!」
「とはいえ、夏芽梨が下調べをしていて、私がしていないわけがない。代替案はたくさん用意してある」
「じゃあ、お願いしますよ優良さん」
「お任せ。乗り物酔いの吐き気への対処法はたくさんある」
ぱらぱらとメモ帳を捲りながら、優良は言った。
「まず、外の新鮮な空気を思いっきり吸う」
「外の汚染大気思いっきり吸ったら死ぬわ」
「楽な姿勢を取る」
「高速機動中でGが掛かってるのに楽な姿勢取れるわけないだろ」
「締め付けを緩める」
「ハーネスの締め付け緩めたら明日葉がコクピットの中でミンチになるぞ」
「おしゃべりをして緊張をほぐす」
「戦闘中におしゃべりできる余裕があればな」
「嘔吐は、無理に我慢しない方がいいらしい。吐いたほうが楽になる」
「それでさっきは気密ヘルメットの中が大変なことになったんだが?」
押し黙った優良は、深い深いため息を吐いて、じっとりとした目で俺を見た。
「……大和。なんでも否定から入って人生おもしろい?」
「お前の頭の中の方がおもしろいよ」
「結局、ろくな案が出なかったな」
「あはは……ごめんね、大和くん。わたしのために」
明らかに時間だけ無駄にしたミーティングを終えて、俺と明日葉は連れ立って廊下を歩いていた。夏芽梨と優良も誘ったのだが、夏芽梨には「どうぞ2人でごゆっくり」と言われ、優良には「訓練があるから」とあっさり断られた。
地下シェルターはまだ人類がその勢力を保っていた頃に建造されたもので、居住区画はもちろん、野菜の栽培プラント、地熱発電施設などが備えられており、数百年単位で数千人規模の人間を食わせて生存させるだけの能力を備えている。娯楽施設も充実しており、ボーリング場もあるし、カラオケでオールナイトフィーバーもできるし、ダーツもビリヤードもローラースケートもある。ほぼラウワンみたいなもんである。長期間、ここで過ごすことを前提にしていたのか、備えている設備が本当にすごい。
備えている設備は本当にすごいが、宝の持ち腐れだ。
明日葉と一緒に、この無駄に広い廊下を歩いていても、誰かとすれ違うことすらない。今現在、俺たちが施設で生活を共にしている人間の数は、たったの499人。ノアの箱舟というにはあまりにも人数が少なかったし、なによりこの地下深くに閉じ込められた人類は、新しい世界へ脱出することすら叶わなかった。
最初からわかってはいたことだが、ここを守れなければ、終わる。俺たちが死ぬだけでなく、人類という種が絶滅して死に絶える。そんな言い表しようのないプレッシャーと、俺たちパイロットは日々戦っている。
とはいえ、どんな絶望的な状況でも腹は減る。そして、腹が減っては戦はできない。俺と明日葉は何回か廊下を曲がり、ほとんど使われていないこじんまりとしたキッチンルームに入った。
「大和くん。お腹空いているよね? わたし、簡単なものでいいなら作るよ」
「マジか。じゃあお願いしよっかな」
「うん。まかせて! 腕によりをかけて作っちゃうよ~」
カーディガンの袖をめくり、白いエプロンを身につけた明日葉は、ふんすと鼻を鳴らした。ついさっきゲロを吐きまくったばかりなのに、とても元気である。コクピットの後ろだとぐったりしていることが多い明日葉だが、こういう時の切り替えが早いのは明確な長所だった。
明日葉は昔から明るく、元気いっぱいで、そこにいるだけで場が華やいで明るくなるような、そういうタイプの女の子だ。優良もさっきはきついことを言っていたが、明日葉と話している時は普段よりも表情がやわらかくなる。
「すぐできるからちょっと待っててね」
だから本当は、こんな子が戦場に出るべきではないと思う。
「なあ、明日葉」
「なに? 大和くん」
「戦うの、こわくないか?」
リズミカルにタマネギを刻んでいた包丁の音が、ぴたりと止まった。
「……こわいよ」
少し震えたその声は、トーンが一段落ちて。それでも、声からは明るさを消さず、明日葉は言葉を続けた。
「わたし、夏芽梨ちゃんみたいに勇気があるわけじゃないから、前線に突っ込むとかできないし。優良ちゃんみたいに冷静でもないから、ピンチになったら慌てちゃうし」
喋りながらも、明日葉は調理を進める手は止めない。片手で卵を器用に割り、卵黄と白身がカタカタと音を鳴らしながら、菜箸で綺麗にかき混ぜられる。
「大和くんの言いたいこと、わかるよ。わたしも正直、自分で向いてないと思う。パイロットとか戦うこととか」
遺伝子調整され、養殖されている豚肉をきれいな等分に切り、塩胡椒をパラパラと。くるくる回るようにハイペースで調理をこなしていく明日葉は、フライパンを手に取って油をしいた。
「でも、仕方がないよね。『ブロンダス』に乗れるのはわたしだけなんだから」
明日葉の言う通りだ。
俺たちが搭乗する3機の人型機動兵器は、人類が『タイタン』の構造をベースに開発したもの。見た目こそ装甲で覆われているため、完全な機械の人形だが、内部構造にはタイタンの人工筋肉や様々な生物をベースに取り入れた生体パーツが使われているので、半分は
そして、人類を喰らう『タイタン』がそうであるように、これらの機体は人間の『思念』や『感情』を餌にして、パイロットからそれらを吸収し、エネルギーに変換して駆動する。搭乗時、明日葉のパイロットスーツに接続されるチューブなどの機器は、そのためのものだ。
人類の最後の希望として設計された3機は『タイタン』と戦うのに必要充分な性能を満たしていたものの、ひどくグルメだった。誰が乗っても動く、というわけではなく、現在生存している人類の中で、3機の巨人の魂に火を入れられるのは、3人のパイロットだけだ。
一番機『ブロンダス』のコアは姫宮明日葉を。
二番機『ステロデス』のコアは紅月夏芽梨を。
三番機『アルゲドス』のコアは早乙女優良を。
掃いて捨てるほどいたパイロット候補生の中から、この3機は3人の少女を選んだ。
それぞれの機体にそれぞれのパイロットが搭乗しない限り、これらの機体は絶対に動かない。指先一つすら稼働しない。
だから、誰かが明日葉の代わりになる、というのは何がどうひっくり返ったところで、不可能だった。
「だから、ね」
カットされたタマネギを炒め、その間に別の鍋に湯を沸かして。同時にご飯がきちんと炊けているか確認しながら、明日葉は言う。
「わたし、大和くんがわたしと『ブロンダス』を選んでくれて、本当に……ほんとにほんとに、嬉しかったんだ」
それぞれの機体のコアは、3人の少女しか選ばなかった。当然、俺は自分だけでは機体を動かすことができない。だから、明日葉、夏芽梨、優良。3人の中から誰か1人だけを選んで、一緒に搭乗するしかない。
「さっきも言ったけど……戦うの、本当はこわい。スーツを着るとき、ヘルメットを被るとき。自分でも笑っちゃうくらい、体の震えが止まらなくなるの」
豚肉を炒め、味付け。フライパンの中で豚肉とタマネギをタレに絡めつつ、鍋の中にはネギと豆腐。それに味噌が加わる。
「でも、大和くんは戦う時、わたしの一番近くにいてくれるから。だから大丈夫。こわくても、気持ち悪くても……わたし、我慢できるよ」
明日葉は優しい女の子だ。気遣いもできて、人の気持ちをよく考えられる子だ。
理由なく人に当たったりしないし、自分の感情や気持ちを不必要に相手に隠すこともしない。
「だから、ね」
だから、と。その接続詞を、明日葉はよく使う。
どうして嬉しいのか。
どうして悲しいのか。
自分の感情の理由をはっきりと相手に伝えて、共有して、相手と一緒に幸せになろうとする。
それが、姫宮明日葉という女の子だった。
「戦場で、同じコクピットで。わたしが死ぬときは、大和くんも死ぬときだと思うから」
豚肉の生姜焼きに、卵焼きと味噌汁。
丁寧に盛り付けられた料理が、とても良い匂いで部屋を満たす。
明日葉は笑った。
「わたしは、それでいいよ。それがいいよ」
この世界は終わっている。
だから、明日葉は自分がどんな風に、どんな形で幸せに終わるかを考えている。
エプロンを脱いだ明日葉の背中を、俺はうしろから自然と抱き寄せた。
「……冷めちゃうよ」
「大丈夫」
顎に手を添えて、こちらを向いてもらう。
ほんの数秒間。暗くて不安なその気持ちを、正直に話してくれた唇に、お礼をした。
先ほど胃の中身を出したばかりで、少し顔色が悪かった明日葉の頬に、ほんのりと朱色が戻る。
「……食べよっか」
上目遣いに、明日葉が言う。
「ああ。いただきます」
椅子に座って、お箸を手に取り、豚肉の生姜焼きから口に運ぶ。
「どう?」
「めちゃくちゃおいしい」
「ふふっ……よかった」
本当に、どれも死ぬほど美味かった。
『タイタン・アース』は、鬱ゲーと呼ばれている。
その理由は単純で、ストーリーの中でキャラクターが死ぬからだ。
主人公は絶対に死なない。何故なら、プレイヤーの分身である主人公が死んでしまえば、ゲームの続きが観れなくなるからだ。
だから当然、ヒロインが死ぬ。
朝起きたら挨拶をして、一緒にメシを食って、出撃したあとはバカ話に花を咲かせて。2人きりになったタイミングでちょっといい雰囲気になって。
そんな風に、俺があの3人の中から誰かを自分のパートナーとして選んだ時。搭乗する機体を選んでしまった時。ルートが確定する。
つまり、俺が姫宮明日葉を選んだ時点で。
紅月夏芽梨と早乙女優良。
残り2人の死亡は、確定事項だということだ。