なんとなくロリスミっぽいあの空の下で神楽舞いそうなのとガチ勢の話   作:銀鈴

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多分これが1番早いと思います

 ユキたち3人が合流する際、一番早くセナの精神状態を察知して動いたのは愛鈴だった。

 地球出身のメンバーの中で、長年の異世界生活により思考が異世界寄りになり地球知識とのマリアージュを起こし、思考が斜め上にかっ飛んでるイオリではなく。ある意味異世界人として生まれ変わっているモロハでもなく。唯一、近現代の日本人としての常識を持っているからこそ、一目で分かったその疲労。

 

 突然の状況に無理矢理ついて行っているが、大切な人のことが心配で心配で仕方なく、どうすれば良いのか分からず、味方がいるかも分からないたった1人、孤立無援の心細さ。異世界組にとっては日常茶飯事のそれも、普通の現代社会に住む子供にとっては過度のストレスだ。

 

 既に幸運の加護は外れているのだ。これまで生存という一点に特化していた故、幸運にもユキと逸れず、幸運にも説得を通じさせ、幸運にもストレスを緩和し、幸運にも外敵にほぼ襲われず……あげればキリがない幸運の要素は、ユキという観測者が消えたことにより消失している。

 尚且つ、セナ本人がそれを自覚しながら自己完結で解決しようとしていることも、最悪だ。確かにそれは、この場にいる異世界組なら出来て当然の割り切りだ。何せ彼らは例外なく、そういう方面で強いのだから。ゆえに、強みの方向がそちらにはないセナでは、心の悲鳴と歪みに耐えられない。だからこそ──

 

「確か、セナちゃんでしたよね?」

「はい。ええと、愛鈴さんでしたよね?」

「はい、合ってますよ」

 

 そう言いつつ、ゲームのアバターであるらしい目の前の少女に向けて歩きながら片手をあげる。すると、怯えたように少女が身体を引き縮こまらせた。それを見て、凡そ愛鈴は自分がこの場に呼ばれた理由を理解し始めていた。

 

 どうして、半ば人生を引退しかけている自分が、数多くの現役が集まるこの輪の中に放り込まれたのか。最初は疑問だったが、分かった気がした。先ほども言った様に、例外なくこの場にいる者は全員"強い"、だが同時にその強さは内側に閉じている。いや、正確にはイオリだけは外に向いているが……噛み合わないので論外だ。

 

 ゆえに、多分自分がいないとこの輪は崩壊するし、目の前の少女は心に不要な傷を負う。

 

 誰も彼もが優先するのが自分達の輪であるから、事情を知っていて包容力があり、相手を落ち着かせる対話ができ、間を取り持てる……まあ潤滑油の様な人材がいないと破綻する。果たして自分がそれに相当しているのかは不明だが、呼ばれたということはそういうことだろうと。

 

「よくできました。それと、よく頑張りました」

「え……?」

「話を聞くに、ユキさんは普段と違って、ティアさんも敵対していて怖かったですよね。なのに、しっかりここまで連れて来て凄いです。よしよし。できないかもですけど、安心してください」

 

 だからこそ、先程のイオリと自分の中のキャスターを真似て、怯える少女を愛鈴が抱きしめる。自分も少しはしゃぎたい気分はあるけれど、もうそんな歳でもない。そんなちょっとした譲歩とともに、だったらこういう風に動くのも悪くはないと考えていた。

 

「え……あ、え……?」

 

 そんなふうに、突然優しくされて溜らないのはセナだ。倒れて、自分が眠らせたユキの代わりに色々となんとかしないと。そう思って気を張り詰めているのに、相手が自分の心の内を読んだようにしてくる。

 訳がわからない。だが訳がわからないままに、人の温かさと優しさをぶつけられて張り詰めていた糸が緩む。そして本人も気づかないままに、ポロポロと涙が零れ落ちた。

 

 ──と、最初はこんな感じだったのだ。

 本当に。

 疑い用もなくセナは心が弱った女の子で、異世界人のノリについて行けない。寧ろ関わらせたら、余計な心労や負担を負わせなけない。そう愛鈴は思っていたし、外から見守っていた女性陣も思っていた。そう、思って、いたのだが……

 

 

 だがセナは弾けた。否、凄まじい勢いで順応した。

 一度泣いたことでスッキリしたのか、それとも愛鈴のお陰で安心や落ち着きを得ることができたのか。そこは本人のみぞ知る話だが、きっかけはそのすぐ後。セナが目を覚ました藜に事情を説明して、藜がユキの運び込まれた部屋に向かっていった直後のことだった。

 

「そういえばアヤメ。少し前から気になってたんだけどその服、随分ボロボロじゃない?」

 

 全ては、魔法・魔術談義に花を咲かせていたエウリ、アヤメ、イオリの会話の中。アヤメの服を見て言った、イオリのそんな一言から始まった。

 

「え、あー……そうですね。そろそろ補修も限界ですし、着替えないとかなぁ」

 

 そう言ってアヤメが確認した簡素なワンピースは、よく見れば丁寧な補修跡だらけであり裾も擦り切れほつれ掛けている。なんだかんだ普段着として使ってはいたけれど、流石に服としての体を成すギリギリのラインがすぐそこまで迫っていた。

 

「ほしゅうもげんかいって、ずっとなおしながらきてるんですか?」

「ええ、まあ。元が税込み銀貨1枚大銅貨5枚(1500円)で10着まとめ売りの古着ですからね。どうせすぐボロボロにされるのに、新品なんて高くて変えませんよ」

 

 そう困ったような笑顔を浮かべて言うように、アヤメの生きる時代において新品の服は割と高級品に分類される。どうせ使い捨てることになるのだから、そんな高級品を買うくらいなら安売りの古着を買えばいいという話である。

 

「すぐボロボロにって……」

「ついこの前、書類上死ぬまで指名手配犯でしたからね。着の身着のまま戦闘に巻き込まれて、魔法で焼かれたりお腹ぶち抜かれたりで服なんてすぐボロボロになっちゃって」

 

 気楽にアヤメが言ったその言葉に、一瞬ログハウス内の空気が凍りついた。エウリにとっては身に覚えがなくもない話だが、さも当然のようにそんな事実を告げられるのは寂しさを感じて──

 

「それじゃあ、アヤメさんのもってるふくってそれだけなんですか?」

「いえ、流石に他にもありますよ。これと同じのが7枚と、正装用のドレスが1着に、戦闘用の装束が1着……今は結構ストックありますね」

 

 指折り数えながらホッとしたように言ったアヤメを見て、イオリとエウリの疑問は確信へと変わり。

 

「じゃあアインさんにみせたり、いっしょにでかけるときのふくは……?」

「特にないですね。出かける先も特にありませんでしたし、一緒に旅してるせいでそもそも気にしてないと言いますか、正直この格好で十分といいますか」

 

 少し声が震えているエウリがした質問に、何か不思議なことでもあるのかと言わんばかりにアヤメが答える。そんな未来の自分の娘を、信じ難いものを見るような目でイオリが見つめ──エウリとその心が重なった。

 

「アヤメは、可愛い服とか着たくないの?」

「私みたいなのには、似合わないでしょうし別に……あ、あの、お母さん? なんでそんな般若みたいな顔して──ぇっわ!?」

 

 ルパンダイブのような形で飛びかかって来たイオリを雑にいなして躱しながら、困惑した表情をアヤメは浮かべる。今の自分に何かおかしな発言はなかったはず。だから言った。

 

「大体私みたいな可愛くないのがそういう服を着ても、似合わなくて笑われるに決まってるじゃないですか。いや、アインは可愛いって言ってくれましたけど

 

 ()()()()()()()()()()()アヤメが告げた言葉に、今度こそ完全に空気が死んだ。

 まず前提として、この場にいる女性陣は世界的にかは兎も角、一般的に美少女と分類される者が大半である。振れている方向が美しさよりは可愛らしさだが、その評価に偽りはない。であるのにアヤメの自己評価がこうも歪んでいる理由はただ一つ。誰かに愛され肯定される言葉より多く、拒絶され否定される言葉を浴びせられ育ち、それを跳ね除けることが出来なかったからに他ならない。

 故に、この認識を正せるのは同じような経験をし、かつ乗り越えた人のみ。そしてそれはイオリにも、エウリにも解決できず、愛鈴にも共感しか出来ない話であり──この場で唯一、沙織(セナ)だけは正せるものだった。

 

「アヤメちゃんは十分以上に可愛いと思うよ!」

 

 だからこそ、誰よりも早くアヤメを認める声を上げたのはセナだった。そんな奴らの決めつけで自分の価値を貶めてはいけないと、十分胸を張って良いのだと。かつての自分に重なる姿に、黙ってなどいられないと立ち上がっていた。

 

「ありがとうございます、セナさん。でも、そういうものだと思ってるので、お世辞は要りません。ユキさんに悪いことをしちゃったのは謝りますから」

「そういう話は一旦抜きにして! やっぱり見てられないかな」

 

 突然会話に割って入ってきたセナに驚きつつも、アヤメはいつも通り馬耳東風に聞き流そうとする。が、しかし。その両頬を挟み、自分に目線を向けさせてセナが邪魔をした。

 

「いい? そうやって自分で自分の価値をゴミみたいに扱ってると、良いことなんて1つもないんだよ!」

「で、でも、昔からそう言われて来ましたし……」

「ふーん、なら大切な人……確かアインさんだっけ? あの人に、愛想尽かされて捨てられてもいいんだ」

「それ、は……嫌、ですけど」

 

 力で振り解こうと思えば、苦もなく振り解くことができる程度にはアヤメとセナの力には差がある。なのに、セナの迫力に推されて動くことが出来ないでいた。

 

「でも貴女がそうやって自分を可愛くないなんて言ってると、アインさんはどう思うだろうね? だって自分が好きだって言ってる人が自分で自分のことを嫌いって言ってるんだよ? そんなの愛想尽かされても仕方ないじゃん」

「で、でも──」

「でもじゃないよ。だって私はそうなりかけたからね」

 

 アヤメの言葉にインターセプトして、セナがそんな優しい世界はあり得ないと否定した。実際はユキが自分はもういない方がいいと判断して雲隠れしかけただけだが、事実は事実なので問題ない。異世界の方が物理的な苦痛は多いけれど、精神的な苦痛は現代の方が上回るのだ。そんな気配すら纏いながら、セナの言葉が続けられる。

 

「それにそういう自虐は、自分の足を引こうとしたり、利用しようとしたりする人にとっても格好の的になるんだよ。だって自分から自分はそんな程度の存在だって喧伝してるようなものだもん。貴女にも心当たり、あるんじゃない?」

「それは……あります、けど」

 

 実際、アヤメも思い当たることは多々あった。『自分のパパとママは罪人じゃない』そう主張していた最初より、認めてしまった後の方が自分の扱いは悪化した。変装しなければ生きていけなくなったのは、丁度その辺りだったと記憶している。

 そんな思うところありげな表情を見て、満足そうにセナが頷いた。自分よりも根は深そうだけど、きっと自分よりは簡単に変われる。そう確認しながら、微笑ましいものを見る目線の愛鈴を除いた全員を置き去りにしながら言い放った。

 

「好きな人と一緒にいたいなら、一緒にいたいと思われるように自分を磨くこと! はい復唱!」

「す、好きな人と一緒にいたいなら、一緒にいたいと思われるように自分を磨くこと!」

「自分は可愛い! はい!」

「自分は可愛い!」

「可愛いは正義! 最強! はい!」

「可愛いは正義! 最強」」

 

 そうして勢い任せに最後まで言い切ると同時、ぽかーんと呆けていたイオリとエウリの2人にセナが視線を送った。それだけで意思疎通は十分、

 

「ヨシッ!」

「よしっ! って、きゃっ!?」

 

 現場猫のような掛け声をあげて、セナはアヤメを2人の方向にぶん投げた。突然の暴挙にさしものアヤメも間に合わず、大人しく放り投げられた先は(へデラ)の網。優しく抱き止められたそこは────ある種の地獄だった。

 

「私自身、アヤメちゃんと同じ歳の頃そういう風にされてたから分かる。こういうタイプは、1回全力全開で可愛く着飾られてみないと、自分の良さを全く自覚できないんです! 皆さん手伝って下さい!」

「おっけー! 未来の私の娘のコーデ、全力でやるよ! 10分在れば着物からフリフリのドレスまで作れるから、制作は任せて!」

「……どうせなら、みんなでいっちゃくもちよりませんか? セナさんとアイリさんがだいじょうぶなら、ですけど」

 

 思いついたように言ったエウリの言葉に、その場の全員に電流が走った。或いは天啓が降りた。オシャレな服は何個あっても良いのだ、全員で至高の一品を贈るのも良いけれど、全員で持ち寄って着せ替え人形……もとい色々な服装を見る方がきっと面白い。

 

「私はOKだよ! 何個かお気に入りのスペアは持ってるし!」

「私はイオリさんほど何か作るのは得意じゃないですけど……まあ、投影とか置換魔術とか、色々組み合わせればなんとかなる気がしますしいいですよ」

 

 愛鈴の言葉に一瞬だけ希望を持ったアヤメだったが、いい笑顔で愛鈴が頷いた瞬間にその顔は絶望の表情に彩られた。エウリによって魔剣は、目の前の机に置かれる形で没収済み。相手を殺す気で抵抗するなら兎も角、今のアヤメには迫る魔の手へ抵抗する術は残されていなかった。

 

「……逃げますか、うん」

 

 当然そんなことになって困るのはアヤメである。いや確かに、つい数瞬前に自分はそういう決意をした。けれどこれはアレだ。ステップと段階をすっ飛ばし過ぎである。到底許される行為ではない。

 などと言い訳をしながら、全力で(へデラ)の魔術にハッキングを仕掛ける。バレないように、けれど術式を掌握し即座にログハウスから脱出する為に。こっそりと行動を始め──

 

「「ティア(さん)!」」

「分かってる、マスター。こんな面白い話、逃さない」

「同じくだよ、大マスター。捉えた魚は大きいから」

 

 それを即座に察知したイオリと愛鈴、そしてそれぞれの呼び出したティアが抑えにかかった。魔剣のブーストがなかろうと、アヤメの実力であれば3人纏めて魔術ハッキングを仕掛けることは可能である。が、しかし。

 

「1回言ってみたかったんだよね、3人に勝てるわけないだろ!」

「汚いですよ、イオリさん」

「実質4人分は、流石に、無理……」

 

 この場にイオリの言葉の意味を理解する人は、幸か不幸か存在しない。故に大半の人が首を傾げながら、アヤメは圧倒的な手数と出力差に膝を屈したのだった。

 

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