なんとなくロリスミっぽいあの空の下で神楽舞いそうなのとガチ勢の話 作:銀鈴
そんなこんなで、各々が良い感じの服を見繕ったり制作すること大体30分。外で戦っている男性陣が全員身体に2〜3個風穴を開ける程度に白熱してきた頃。結局最後まで魔法を解除出来なかったアヤメに、審判の時は訪れた。
「エウリさん、これ、大丈夫なんですか……? かなりスースーするんですけど……」
「わたしも、モロハとあうまでずっときてたので、だいじょうぶですよ?」
イオリや愛鈴、セナの服と違ってエウリのプレゼントしたそれは少し特徴的な物だった。そして当然、アヤメにとっては異世界の服装であるし、そもそもオシャレというものをほぼ知らなかった以上1人で着れる筈もなく。
即席の更衣室の中。日本で言えば着物くらいの難易度のそれをエウリに着付けて貰った後、どうせだからと作ってみた姿見の前でアヤメがくるりと身を回した。なお、プレゼントされた服を着る順番は、厳正なるくじ引きで順番が決められたことを記しておく。
それは若草色の生地をベースにしたドレス風のワンピースだった。バフスリーブで見せつける様に曝け出された真っ白な肩に、手元や足元の裾は若葉が生えて形成されている。パフスリーブは小さなアヤメの花で彩られ、ベルト部分にはエウリと同じ花が咲いてる。素足には木の根っこの様なものが巻き付いており、それが発生させる魔法的な加護が靴の代わりとなっていた。
古樹精霊の民族衣装を多種族でも着れる様に即興でアレンジしたそれは、正確にはまだ植物として生きている等──まあなんだかんだ語ったが、華やかさと露出の多さが同居してる服だった。
「ほんとうはこのふく、おなかもみえるようなかたちなんですけど……」
「それはちょっと、傷が見えちゃいますからね」
本来の古樹精霊が着るままの形であれば、魔力の吸収効率や光合成を考えて空いている腹部は、意匠はそのままに素肌が見えない様布が追加されていた。せっかく可愛く着飾ろうというのに、お腹をぶち抜かれた凄惨な傷跡が見えているのは、少し頂けないから。
「あとは、わたしのしゅみですけど、このこさーじゅをつければおっけーです!」
そうしてアヤメが纏った新たな服装は、元来の髪色とも綺麗に調和が取れている。どこか落ち着いた、或いは木々の隙間から落ちる木漏れ日を想起させる服装は、端的に言ってとても似合っていた。……見る人が見れば、若干コスプレの様に感じられる部分がなくもないが。
「すごい綺麗な服ですけど、これ本当に貰っちゃってもいいんですか……?」
「そのためにつくったんですから、もらってくれないとこまっちゃいます」
「着られてません? やっぱり、私がこんないい服似合う筈……」
「そうおもうなら、ちゃんとみんなにみてもらいましょう!」
「あ、ちょっとエウリさん!」
笑顔のエウリが手を引いて、戸惑うアヤメを簡易更衣室から連れ出した。瞬間、パッと開けたアヤメの視界に自分を注目する他3人の姿が映る。
「ッ……!」
頭では馬鹿にされないと分かっていても、身体に染み付いた長年の習慣はそうそう変えられるものではない。獣耳と尻尾を見れば一目で怯えていると分かる様子で、咄嗟にエウリを盾に背に回りその影に隠れてしまう。
しかし頭では『見て判断してもらわないと意味がない』と理解している以上、怯えを押し殺し物陰から3人の表情を窺うことになる。そんな小動物じみたスタイルでいるのだから……
「え、か、かわ……うちの娘かわ……ティア!」
「抜かりない、既にムービーは回してある。写真も撮ってるから安心して欲しい、マスター」
「あざと……くない! くっ、流石異世界。こんな子がまだいるなんて……!」
「私にも子供が出来てたら、こうなったのかなぁ」
三者三様+ティアの反応は、概ねを通り越して大好評だった。イオリに至っては、最早語彙力まで彼方へ飛んでいってしまっている。
「ほら、だいじょうぶじゃないですか!」
そんな予想通りの反応を見て、満足気にエウリが頷いてその場を離れた。結果、壁がなくなりアヤメは服の裾をぎゅっと掴みながら、赤い顔のまま全員の前に出る羽目になった。
「ほ、ほんとに似合ってます?」
「とーぜん!」「異論なし」「私が着るより似合ってるよ!」「大丈夫、すごく似合ってるから」
着付けている最中、ずっと似合っていると言い続けたエウリを除いた4人。その全員から嘘や誤魔化しの類を感じられない言葉をかけられて、今度こそアヤメの頭はオーバーヒートしていた。
自分がこんなに幸福であることが怖い。こんなことがあっていい筈がない。幻覚なんじゃないか。幸せが重い、苦しい、いっそ全てをぶち壊しにしてしまいたい。そんな感情の渦と理性がひしめき、アヤメは足元がぐらつく感覚を覚えていた。
「アヤメー、ぴーすぴーす!」
「え、あ! ぴーす?」
そんな混乱した頭だったからだろう、懐かしい別人の声に特に疑うこともなく従ってしまう。赤く染まった顔とぐるぐると回した目のまま、イオリの構えるカメラに向かってピースサイン。直後に正気に戻ったものの、既にシャッターは切られた後であった。
「……もう着替えますから!」
これ以上は堪らないと、アイテムボックスを利用した早着替えでアヤメは服装をチェンジした。
その場でくるりと回りながら、今度はセナからプレゼントされた落ち着いたタイプの服装へ。控えめで無難、そんな日本的な特徴が特徴的なフォーマルなワンピースとボレロを組み合わせた物。ベーシックなカラーと後ろで1つに纏めららた髪型は先程と違い、清潔さや上品と言った言葉が似合っている。
「うんうん、やっぱりワンピースでもこういうちゃんとしたのがいいよね!」
とても満足した様に頷くセナがこんな装備を持っていた理由として、UPOに於けるプレイヤーの趣向がある。UPOにおいて服装備は、一部の馬鹿や例外を除いて最弱で、最も華やかな装備である。唯一と言ってもいい。
故に、男性プレイヤーはそのまま鎧なり装備なりを着てカッコつけているプレイヤーがいるのに対し、結構な人数の女性プレイヤーが街中ではお気に入りの服装備で粧し込んでいたりする。【すてら☆あーく】の女性メンバーは全員後者である。ユキとランは戦闘着と普段着が同じ*1だが。
「こっちの方が、いつもの格好に近くて落ち着きますね」
「……」
「マスター、鼻血を拭く。いくら魔法があっても、血の臭いはなかなか消えない」
「急に現代日本みたいになったなぁ……これ、私のプレゼント成功かも?」
「にあってますよ、アヤメちゃん!」
ぱたぱたと楽しげに揺れる尻尾に、イオリは再起不能に陥っていた。アヤメが生まれる世界線におけるイオリも、最初は大体こんな物だった為、世界が違くても人の本性はそこまで変わる物ではないらしい。
「ありがとうございます、セナさん。大切にさせてもらいますね」
「うん!」
笑顔でそう言ったアヤメに、セナも満面の笑みで答えた。ショック療法じみた精神攻撃によって、段々と解けるはずの諸々が一撃で粉砕された結果。いつの間にかアヤメは、屈託ない笑顔を浮かべることができる様になっていた。
「次々ー!」
「急かさないで下さいよ、お母さん」
イオリの言葉に口では拒否しつつも、もうどうにでもな〜れという心境でまたも早着替え。切り替わった今度の服装は制服だった。特に詳しく説明する必要すらない、見る人が見ればどこの高校か一目で分かるもの。ぶっちゃけて言えば穂群原学園の女子制服だった。
「私が通ってた高校の制服……のレプリカです。私が着るとぶかぶかですけど、うん、ぴったり」
「制服ってことは、軍と同じようにこれを着た人が沢山いるんですよね? ちょっと、想像つかないかもしれません」
珍しそうに制服を見ながら言われたアヤメの言葉に、全員の表情が微かに歪んだ。
だが、仕方のないことでもある。アヤメが生きる時代において、学校と呼べる施設は存在しない。否、正確には存在はしているものの機能していないのだ。まず教える子供の数があまりにも少ない、戦争で人が余りにも命を失った結果、人口自体がかなり減少しているのだ。次に、ものを教える大人がいない。何かを教えられるほどの学を積んだ者は皆、政治の中枢でデスマーチに身を焦がすか戦死している。アヤメが生活の基盤にしていた冒険者ギルドなど、数少ない職員を除けばしっかりとした学問を収めた者など国に片手で数えられる程度なのだ。加えて、貴族であれば家庭で教師を呼べば済む話であり、実は年々人口と共に識字率すら低下している。そんな緩やかに滅亡へと向かう時代が、アヤメの生きる異世界アヴルムなのだから。
「ま、まあ楽しいこともあるけど、学校ってそれだけじゃないし!*2」
「私も何回その制服をボロボロにしたことか……*3」
「権謀術数犇く魔境だもんね、学校なんて*4」
「ガッコウ、おそろしいばしょなんですね……*5」
「……話に聞く学校と、なんか違うんですけど」
この場に居る学校に通っていた者は全員、楽しい思い出より負の思い出の方が強いのは皮肉だろう。なおこの場にいないユキ*6や藜*7、ロイド*8にもあまり良い思い出はなかったりする。唯一モロハだけは健常な学校生活を送っていたが、多勢に無勢である上記憶として知っているだけなのでアウトである。人間の醜さが透けて見えて好みだよ?
「因みに制服を着てそういうこと、し、したことは……?」
「学生時代からの付き合いですし、実は数回。魔力供給してもらわないと死にそうだったことがあって……」
「私も高校の頃の……作り直すしかないかぁ」
「かなり背徳的でしたよ。流石、原作R元服な世界」
「その言い方ってことは、まさか196mlとか1501回とか……?」
「流石にそんなにしたら死んじゃうので……私もあの人も」
後ろの方での同一人物コソコソ話は、イオリが魔法でシャットしていたこともあり幸い誰にも聞き取られることはなかった。全員何らかの魔法を使われていることには気づいていたが、直感的に触れない方が良さそうだと気付いていたお陰でもあるが。
「それじゃあ、最後に私からのプレゼント着てみて!」
「お母さんのそんな笑顔、正直いい思い出がないんですが……」
瞬間、アヤメの脳裏によぎる数々の記憶。
具体的には創作料理として出された謎の虫(弱毒性)
創作料理として出てきた謎のドラゴン肉(中毒性)
触手の蠢くあからさまに紫色なスープ(強毒性)
真っ黒なスープ(仮死毒)
なとなど、自分のママがこの笑顔で何かを勧めてくる時は、ロクでもないナニカの可能性が高い。それは世界が違うこのお母さんにおいても、きっと間違いじゃない筈だ。冷静に考えれば全て今に繋がる良い結果を残しているけど、当時は地獄を見た。それをアヤメは忘れていなかった。
「えー。そんなこと言うなら、この『牛柄ビキニ保温保湿機能付き』と『特に何も考えてない安易なマイクロビキニ』をプレゼントするけど……」
「大人しく普通の着ます! ……因みになんで牛柄なんです?」
「丑年だから?」
あっ、これまともに取り合っちゃダメなヤツだ。即座にそう判断して、再度の衣装チェンジを敢行した。
そうして切り替わった衣装は、これまでとは少し趣の違うものだった。ドレスやワンピースといった形ではなく足にフィットする形のスキニージーンズと、白を基調にしたロングのダウンコートを組み合わせた北方風の様相。所々に小さなリボンやポンポンがあしらわれ、左右に小さな狼を模した形のポケットが存在している。足元は動きやすそうなブーツ、腰には色々と多機能に使えそうなベルト、絶妙に手元が見えない形の袖がポイントだろう。*9
「これって……」
「間違ってたら私が恥ずかしいだけな話だから聞くけど……多分、アヤメはこういう服の方が好きでしょ?」
少し恥ずかしそうに言うイオリの推測は的中していた。動き易く、色々とモノを携行でき、快適で、その気になれば何時でも戦闘に移行でき、単にアヤメの趣味にも合っている可愛い上衣。
普段は手元が隠れており、手を伸ばし切れば完全に露出するのも拳術家としてプラスだ。そもそもがほぼ失伝している派とはいえ、手元が見えなければ型の推測は困難となる。短剣を使う剣術家としても、色々と小手先の技が使い易くなる。そんなアヤメの考えを見抜いたかのようなセットだった。
「えっと、はい。ありがとうございます、お母さん」
それはきっと、今日一に年相応の花が咲いたような笑顔だった。
だからこそ当然シャッターも切られ、何やら訳ありらしいが実の母親からの贈り物には負けるか、と他の3人も納得していた。そして当然、可愛く着飾れば見せる相手が必要である。
「ただいま帰還した。やはり当方には、近接戦は少々荷が重かったと申告する」
「なんとか技術で捌いたが、2人とも技量が洒落にならないな。まさか義手の機能を使う羽目になるとは思わなかった」
「随分と胸を借りました……」
タイミングよく帰ってきたのは、つい数瞬前まで血みどろの激戦を繰り広げていた男三人衆。消臭と清潔を組み合わせた魔法で清潔になってはいるが、ボロボロの服と銀狼2人と精霊1人の感覚を誤魔化せるものではない。
「ロイド、随分変な能力に義手使ったでしょ。後で小一時間は調整ね?」
「モロハは、あとでわたしのちでもすっておいたほうがよさそうですね」
「アインもなにか変なの撃ったでしょう。魔剣も聖剣も魔法陣が異常に乱れてますから、整備ですね」
普段使いやそれなりの死線程度なら自己修復が働くが、モロハのチートと撃ち合った結果、盛大に義手も聖剣も不具合を発生させていた。ロイドの義手や義翼、アインの四肢の魔剣や聖剣は、基本的に超が付く程の精密機械なのだから。
「ほら、アヤメちゃん」
そうして、全員がパートナーに向かっていく中。単独でこの世界に来ている愛鈴が、そっとアヤメの背中を押す。折角着飾ったのだ、アピールしなければ意味がないと。未来を知っているからこそ、この陽だまりのようなひと時だけは幸せでいて欲しいと。願いを込めて。
「あ、アイン」
「どうかしたのか、と疑問する」
そんな後押しを受け、躊躇いがちにアヤメがアインに声をかけた。普段ならば絶対に言わない言葉、喉に詰まったまま飲み込む言葉を、この世界だからこそと勇気を振り絞り──
「に、似合ってます、か?」
言った。
可愛いか、と聞き出せないのは一歩気遅れしている証だが、それでもアインに意味は伝わった。
「肯定する。とても可愛らしいと、当方がいっそ独り占めしたいくらいだ」
「……はい!」
具体的に数字にすると
ロイドがフェンサー Lv15(その他技能沢山)
アインがシューター Lv14(マギテック14)
モロハがファイター Lv9
くらいですかね