なんとなくロリスミっぽいあの空の下で神楽舞いそうなのとガチ勢の話   作:銀鈴

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目覚めちゃったよ(絶望)


目覚めよ、いややっぱ目覚めるな

 下の階で、そんなどんちゃん騒ぎが始まっていた頃。

 

「騒がしい──ああ、そういえば、そうだった」

 

 幸運極振りが、一時的発狂から覚め目を覚ました。

 そしてぐるりと周囲を見回して確認し、自分に残る最後の記憶を呼び起こし、勝手に事態を推測して1人で納得した。なんだコイツ。

 

「空間認識能力は……まあまだ使えないか」

 

 幸運にも飲まされた睡眠薬が速攻で効果を発揮して

 幸運にもセナに飲まされたことで体温が高く代謝が高まり

 幸運にも睡眠薬がほんの少しだけ劣化しており

 幸運にも毒素の周りが悪く

 幸運にもすぐに抗体が作られたことによって

 

 本来ならばディラルヴォーラ級の竜ですら24時間きっかり眠る睡眠薬(医療用)を、服用からわずか数時間で目を覚ましていた。同時に普段の癖で起動しようとした空間認識能力は、使おうとしただけで頭蓋を破られるような激痛に襲われたことで使用を中断する。

 

「とはいえ、間違いなくどうかしてたなぁ……俺。沙織と空さんだけは守らなきゃって思ってるとはいえ、自分が1番正気じゃなかったとか笑えない」

 

 セナというか、異常に気配の強い連中の気配は下の方から感じる。故に多分ここは2階、見える内装からしてあのログハウスの中。自分が布団に寝かされていえ、武装解除されてない辺り敵対の線は薄い。そして、正気じゃなかったとはいえ、あの時の自分が下した判断は概ね間違っていないのだろう。

 

「そう。あのままだと、貴方は死んでいた」

「なるほど、この頭痛は身体の拒否反応でしたか」

「だから、ドラゴンでも1日は目が覚めない薬を盛った。なのにもう目が覚めるとは」

「運が良かったんでしょうね」

 

 突然、空間から染み出るように出現したティアの告げた言葉に、それならば納得だとユキは頷いた。使わざるを得ない状況だったとはいえ、流石に普段の数倍の範囲を探知し続けるのは無理があった。

 

「むぅ、驚かないとは」

「そりゃあ、スキルがなくても10mくらいなら気配は分かりますし」

 

 つまらなそうなティアの言葉に、こともなげにユキが答えた。実際、常態でこれなのだから、まず間違いなく脳がおかしなことに……多分SPEC的な何かが解放されている方向にだが、狂っているのは確かだった。

 

「というか、この感覚が間違いじゃなければ、ヨグ……〈一にして全、全にして一〉なお方の化身か何かですよね、貴女。いや、それ以上に〈白痴の魔王〉的な気配も感じるような……」

「そう、そこまで分かるんだ。でも危害は加えないから安心して、〈這い寄る混沌〉の化身のお気に入り」

 

 そして目が覚めたとして、ユキとティアのお互いへの認識はこの通り。根本的な部分までは変わっていなかった。即ち、お互いにヤベー奴じゃんコイツという認識である。

 

「それはそれは……ああと、今更ながら()()()()()。ユキこと、幸村 友樹です。助けて下さりありがとうございました」

「最初から言ってる通り、感謝される必要はない。()()()()()、私はティア。どうしても感謝したいなら、祈りでも捧げてくれればいい。本、色々と持ってるでしょう?」

「持ってはいますけど……間違いなく厄ネタですし、邪教の類になるかと思いますが」

「邪教の司祭、なんて称号持ちがよく言う」

「これは一本取られましたね」

 

 HAHAHAと互いに空虚な笑いを溢しながら、遂にユキは目を背けていた現実を直視した。そう、何故か普段セナが潜り込んでいるのと同じように、ティアが自分の布団に潜り込んでいる事実を。

 

「ところで1つお聞きしたいのですが……どうして俺の布団に潜り込んでいるんですか?? 自分の身を大切にしてくださいよ

「奴ではないけど、きっとこの方が面白いことが起きる。それに私は侍従(サーヴァント)の身、魔力供給ばっちこい」

「ひぇっ、痴女だ……」

 

 直後行使されかけた魔法を察知して、ユキが障壁を使いそれを払い除ける。それは当然ティアによって組まれた、そういう動きを取らせるための卑劣な策略である。その動きというのはつまり【部屋の扉から見てユキがティアの片頬に手を添えているように見える】ような動きであり──

 

「ふぅ、やっと、水、汲んで、これまし、た」

 

 パーフェクトなタイミングで扉が開き、セナに変わりユキの看病をしていた藜が姿を表した。手元には冷たい水の張られた手桶と、取り敢えず看病用なのか白いタオルがあり、ユキとしては感謝が先に立った。が、しかし。即座に現場の位置関係と藜の視線に気付き、時間が凍りついた。

 

「ユキ、さん……?」

「それじゃあ、また今度」

 

 ガラン、と藜の手元から木桶が滑り落ちる。同時にティアがわざわざ意味深な言葉を残して、空気に溶けるように退場する。この時点で、やっぱりアレは邪神だったとユキは再認識するも……全て時すでに遅し。

 

「今の、って……」

「違、違います、誤解です。信じて、Trust me!」

 

 木桶から流れ出す水も、落ちたタオルも気にすることなく、ゆらゆらと幽鬼のような足取りで藜がユキに向けて歩き出す。

 何せ現状を藜視点で解説すると『自分とセナの2人から告白されてるのに新しいポッと出に手を出そうとした屑』がユキである。普段の浮気バレ夫芸だとかラッキースケベだとか、そんなチャチなものじゃ断じてない、もっと恐ろしい何かである。

 

「そう、です、か。でも、こんなの、ない、ですよ……ひどい、ですよ……!」

 

 そして、ユキの前で膝が濡れることすら気にせず崩れ落ち、ぽろりぽろりと涙をこぼし始める。そんな藜の姿を見て、咄嗟にユキが取った行動……それは、DOGEZAだった。

 それは相手への謝罪や譲歩といった、相手からの赦しを乞う日本人最強フォーム。鍛え抜かれた身体によって暴言や暴力すら頭上で受け流し、梃子でも動かないことを示す極限形態。一説によればこのファイナルフォームを以ってして行われた初回の要求には、必ず応じなければならないという。古事記にも書かれている。

 

「間違いなく誤解なので、どうかお慈悲を!」

「……分かり、ました」

 

 そんな情け無いユキの言葉に、土下座ならば仕方ないと藜が言葉を絞り出した。だが交渉に応じなければいけないと言っても、どこまで応じるかは本人次第。この立場であるならば、逆に藜が報酬をふっかけても許されるのだ。

 

「じゃあ、責任、取って、ください」

「……うん?」

 

 ぴちゃ、と濡れた床面から響いた音。ユキの頭上、立ち上がった藜が覚悟を決めた様子でそんな言葉を呟いた。その日、ユキは思い出した。自分が非捕食者である恐怖を。自制心という理性と地球の法律によって保たれていた平穏を。

 

「セナさんと、ティアさんが、言って、ました。ここは、地球じゃ、ないって。だから、特に、法律も、関係、ないって」

 

 あの邪神、逃げ道まで潰していやがった。そう毒づく脳内にけたたましく鳴り響く警戒の半鐘。このまま此処に居れば喰われるという本能の警告。しゅるりと衣摺れの音が聞こえたことで、ユキの敗北は確定した。すでに土下座をしている以上、重ね土下座による撤回は求められない。どころか、自分がこの提案を受けなければルール違反ということで……

 

「そういうのは、こんな非常事態じゃなくてちゃんとした場所の方がいいと思います!!!!!」

 

 交渉は決裂した。後でどんな誹りも受けると覚悟して、ユキは全力で逃走した。土下座をキメたまま。高速スライディング土下座、或いは紋章リニアモーター式土下座で、床面を高速移動。藜を置き去りに、水分だけは吸い込み部屋を脱出。霊体化しているティアがお腹を抱えて大爆笑しているのを何となく察しながら、最高速で階段に向けて飛翔した。

 

 

 2階から土下座【類例 : 急がば回れ】

(そんな諺は存在しない)

 

 いやだが、実際にそれは現実として起こったのだ。

 ログハウスの2階から、《加》と《壁》の文字に包まれた高速で湿った土下座が射出、その直後にフォールダウン。それが1階に集まっていた面々が目撃した、世にも奇妙な現実だった。

 

 土下座、尊重すべしという話ではないが、人間誰しも完全に意味不明なモノを目撃した時には、往々にして思考が止まる。目の前の正体不明に対しての分析を優先し、対処を遅らせてしまうのだ。

 そんな状況において即座に動くことが出来るのは、同じような状況を数多く経験した者や、訓練を重ねた者のみ。この場においてはロリスミ組とエウリ、銀灰組の計5人。

 とはいえ、完全に意味不明なものだけに敵対が友好的かの判断も正直つかない。だからこそ、とりあえず死なない程度の攻撃を一当てして様子を見ようと、あるいは取り敢えず守りを固めようと各々が行動して──

 

「うわ、気持ち悪っ」

 

 放たれた攻撃全てを、未確認飛行物体じみた不規則軌道で土下座は回避した。即ち、一当てでもされると即死する貧弱者が生き残るために編み出した絶技、UFO土下座だった。とても気持ち悪い。

 ガッデム、しかしログハウスの玄関扉は閉まっている。それでは通過は不可能だ。土下座UFOの活躍はここで終わり、アワレ墜落の憂き目に合う──直前、幕末オープンゲット。土下座を解除して人型のユキが出現し、音一つ立てずに玄関扉に着地した。地面から90度の角度で。

 

「あ、お騒がせしました。失礼します、それと助けて下さりありがとございました」

「あ、いえ、それほどでも」

 

 そしてそのまま華麗な座礼をきめて、幸運極振りはログハウスの外へ脱出した。この辺りでようやく、2階から藜が顔を出し思考が止まっていた者達も普通に動き出す。

 

「確保ー!」

 

 声の取り戻した誰かが叫んだ。

 

 

 数十分の逃走の末、ユキは捕まった。

 

 先も語った通り、この場に詰めているのは世界を滅ぼせるレベルの実力者ばかりなのだ。そんな連中を相手に、空間認識能力を欠いたユキが逃げ切れるはずがない。単純明快な論理だった。

 

 だが直接ユキを捕まえた男3人衆は、話を聞き始めてからはユキに同情的だった。土下座から体育座りにフォームチェンジしたユキの肩をぽんぽんと優しく叩き、それぞれ慰めていた。

 

「分かる、分かるよ。恐いよな、そういう状況……土下座はちょっと意味不明だったが」

「同情する。生憎と当方は生殖機能を持たないが、もう少し順番と雰囲気があるべきだと推測する……土下座は理解不能だが」

「全身拘束されて、1000倍濃縮された媚薬を飲まされての初めてよりはマシですから、ね?……土下座は謎でしたけど」

 

 だがそれはそれとして、土下座は受け入れられていなかったが。

 

「大丈夫、大丈夫。まだ君は俺たちみたいに生命線を握られてない、なんとかなるさ」

「肯定する。当方達は義手と義足の調整や種族的特徴や寿命により離れられないが、貴殿はまだ何とかできると慰めよう。そもそも離れるつもりもないが」

「ですけど、2人を相手にそうやってうじうじと、判断を先送りにしていることも良くはないですから。それだけは肝に銘じておいた方がいいです」

「はい……はい……」

 

 3人の先達からの言葉に、涙を堪えてユキは頷く。そしてこのまま自分がなあなあの状態で居続けたらどうなるか、その末路を3人の姿から幻視した。あと沙織にはもう、生命線を握られてるようなものだから手遅れだとも。熟してやがる……遅すぎたんだ。

 

 斯くして、なんやかんやあったものの全員が集合したのだった。

 

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