なんとなくロリスミっぽいあの空の下で神楽舞いそうなのとガチ勢の話   作:銀鈴

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怒りの日

 朝日が昇る時間から、それは始まった。

 

 ズズンと、大きな物体が崩れ落ちるような、或いは大きな規模の爆破が起きたような衝撃。それが安全地帯となっていたログハウスを襲った。

 

「ん、始まった」

「始まったねー。世界の終わりを見たことは片手で数えられるくらいだけど、絶景絶景」

「今回に限っては、わざわざ脱出を考える必要もないからな。一応、自前の脱出式は用意しておいたが」

 

 そう頷きながら、ログハウスの屋根上から世界を見つめるのはロリスミ組の3人。その視線の先には、崩れ天へと昇っていく海があった。液体が固体のような砕け方をしながら、飛沫を上げて空へ昇り光を蓄えながら何処かへ消えていく。

 元より何処ぞの超越者の戯れで作られたこの泡沫の世界には、この無人島と周辺100km半径の領域しか存在しない。そんな正しく泡のような世界が、維持できる限界を迎え外縁部から自重を支えきれず崩壊しているのだ。

 

「思ってたより、綺麗なものなんですね。世界の終わりって」

 

 そうして終末を見届けるける3人の隣、本気の戦闘服を纏ったアヤメが箒に乗って浮上して来て言った。見上げる先は、3人と同じく崩れゆく世界の外縁。泡沫が弾ける刹那のモラトリアムは、1つ間違えば死が待っているが美しい光景に思えた。

 

「……ここには、私たち以外の"ヒト"がいないからね。生き残ろうと足掻くヒトがいると、悲惨だよアヤメ」

「だから、心に刻んでおくといい。優しい世界の終わりを」

「ん。きっと貴女は、いつかきっと直面することになる未来だから」

 

 3人がそれぞれに答えた言葉に、噛み締めるようにアヤメが頷いた。いつかの未来、生きている間にアヤメはもう一度世界の崩壊を目にすることになる。それも、とびきり凄惨な。それが昨日、本人の要望で占って貰った結果齎された予言だった。

 

「それよりも、気付いてる? アヤメ。凄いのが目を覚ましたみたいだけど」

「当然です、お母さん。これでも私、相当死線は潜ってきてるんですよ? アインと起きていたユキさんにも頼んで、全員を起こして貰ってます」

「流石、俺たちの娘だな。手が早いし手際がいい」

「やめて下さいお父さん、折角纏めた髪が崩れちゃいます」

 

 わしわしと優しく撫でるロイドの手を払い除けつつ、頬を赤らめてアヤメが言った。そんな4人の下、ログハウス内では事情を把握しているアインと、探知能力で察知したユキが全員を起こして回っている。その理由はただ1つ──

 

「いやぁ、私とティアで調べた時は安全な世界だった筈なんだけどね……」

「"世界"の核が、意思を持って動き出すのは想定外。何度か見たことはあるけど、まさかこんな短時間で成るなんて」

「探索魔法の反応的に、600mはあるんだよな……「正確には643m」ああ、そうだったな。だがどっちにしろ俺の結界じゃ飲み込めないし、剣も半端にしか届かない。厄介な相手だ」

 

 危機が迫っているからに他ならない。

 未だ"ソレ"は姿を見せないが、魔力の感知や空間の認識に長けた者ならその存在感は否応なく認識できる。否、させられる。ほんのつい数時間前、突然遥か地下深くに出現した莫大な力の塊。世界そのものを掘り進めながらこの無人島目掛けて登ってくる"ソレ"は、明らかにこの場にいる全員に敵意を向けている。

 更に厄介なことに魔法に詳しい者であれば、"世界を掘削する"という異質極まるその移動方法から、異世界に移動したところで逃げきれないと理解出来た。この泡沫世界を想像した何処ぞの界渡り(ブレインズウォーカー)にとっても、想定以上に想定外の特徴を"世界"は獲得していた。

 

「ああもう、壊れる世界だからって無茶苦茶して。アヤメはあのサイズの生き物と戦ったことある?」

「一方的にやられたことしか。それに、その時はお義母さんが命と引き換えに助けてくれただけで、手も足も出ませんでした。今なら、色々やれると思いますが」

 

 イオリの問い掛けに、静かにアヤメは首を横に振った。アヤメが目撃したことのある最大級の生物は《デストロイ級》の悪魔であり、その前長は20kmという規格外の化物だ。だが生きているソレを目撃したのは1回のみで、それも義母ティアが命と引き換えに消滅させたため戦闘はしていない。

 だが、あの当時とは状況も本人の地力も桁が違う。相手も桁が違うインフレを果たしているが、それはそれ。強い意思が込められた返事に、満足気にイオリは頷いた。

 

「そっか。じゃあ、こういう相手と戦ったことあるのは私たちだけか」

「いえ、一応俺もありますよ。現実(リアル)じゃなくて仮想(ゲーム)ですが」

 

 ならば仕方ないと、イオリがひと肌脱ごうとした直前。音もなく登ってきたユキが割って入った。

 UPOにおいては、全長600m超なんて巨大mobは実装されていない。全プレイヤーが相手をした敵の中で最も巨大な敵は、シャークトゥルフかミスティニウムの巨大城のよくて100m級程度のものである。だがしかし、別のゲームならば話は別だ。例えば某国民的狩りゲームの大きな巌の竜や、他にも螺旋の力を駆使して戦うゲームなら、巨大な敵に事欠くことはない。

 

「戦える?」

「どこまで通じるかはわかりませんが」

 

 実力が足りているか?という以前の話で、まともな精神を保って攻撃ができるかが問題なのだ。言い換えれば『聳え立つスカイツリー級の大きさを持つ相手に、生身一貫で立ち向かえるか?』という話。

 気圧されず、諦めず、冷静に。規格外の巨大生物に対してそんな対応が出来る人材は、たとえ異世界出身者であろうが意外と限られる。1度でいいから同じ様な存在と対峙したことがあるか、それこそ何処かが壊れている存在でもなければ無理である。それほどまでに、埒外の大きさというものは驚異なのだ。

 

「ところで、君がこっちに来たってことは下のみんなは準備が整ったってことでいいの?」

「沙織と空さんがもう少しかかりそうですが、大体は。なので、少し気掛かりなことがあったので聞きに来ました」

「気掛かり?」

 

 ユキの言葉に不思議そうにイオリは首を傾げるも、どうぞ続けてと言わんばかりに手で先を促した。それを確認して、頷きながらユキが答える。

 

「個人的なことなんですが、複数のクトゥルフ系の魔導書を携帯してまして。全力で戦うなら、解放しなきゃならないんですが……こういう使い方なら大丈夫ですかね?」

 

 そう言ってユキが、出現させた4冊の魔導書と、出現させたネクロノミコンを手元で遊ばせた。不思議とページが閉じられたまま自在に動く本達は、望遠系の術式を描き出す。ユキが大規模紋章を行使するにはこうして手を増やさねばならず、それが出来ると出来ないとでは大きく戦い方を変える必要があるからだ。

 

「んー……私は多分大丈夫だと思うけど、ティアとアヤメはどう思う?」

「問題ない。読みさえしなければ、所詮電子の世界に作られた写本。悪影響は出ない」

「呪物には違いないと思いますけど、多分その形式なら使わなければ大丈夫ですね」

「分かりました、ありがとうございます。これで全力を出せます」

 

 魔法・魔術のエキスパート2人と邪神本体からのお墨付きを受け、安心した様にユキが息を吐く。同時、閉じられていた〈倉庫の書〉が開かれ無数の本が溢れ出した。その総数は30、その半数が読めば正気を失わせる特急の呪物だった。

 

「それともう1つ。俺は何回までなら死んでも大丈夫ですか?」

 

 即座にそんなことまで言い出すのだから手が負えない。本人は至って正気であり、UPOでのプレイスタイル的に仕方のない部分なのだが、その姿は初日のような発狂をしている風にしか見えなかった。

 

「電子の世界の神とはいえ、恨みは買いたくないなぁ……頑張って私が誰も死なない様にするから、それで諦めてくれない?」

「いやぁ……これでも、流れ弾で死ぬくらいには脆いので。あと全力で攻撃しても、おそらく身体が自壊します。ですので、一応1回くらい死ぬのは許してもらえるとありがたいんですが」

 

 イオリの提案に、残念ながらとユキが首を横に振った。確かに今のユキはゲーム内よりは若干マシな耐久力がある。だがそれでも、精々現実と同じ程度に鍛えられた地球人の肉体だ。完全に異次元と化しているセナや藜、そもそも異世界人達と比べるとそれはあまりにも貧弱が過ぎる。よって例えイオリが守りに徹しようと、いつか死ぬことは明白だった。

 

「私とティアで1回ずつ、もう1人のティアで1回。話を聞いた限り神の呪いだから、それが限界かな? 曲がりなりにも神と半神じゃなきゃ、抵抗したら変な影響受けそうだし」

「ん、多分そうなる。電子の神だからこそ、想定外を引き起こすのは明白」

「了解です。3乙まではOKなら、まあ何とか頑張れます」

 

 そうして改めて、ユキが今度はアヤメに向き直る。そして1度大きく頭を下げて言った。

 

「先に言っておきます。相手が相手なので、あの領域は全力で使わせてもらいます」

「構いませんよ。あの時は突然だったのでつい反撃しましたが、言ってくれれば気にしないでいられます」

 

 そうして、全員が万全の準備を整えた5分後。

 この"世界"の核は姿を現した。

 

 

 自身の身体を形成した"核"は、地上を目指して駆けていた。

 

 文字通り世界の中心で産まれた"ソレ"は、次元を掘削するという絶対の牙を以って、己自身とも言える世界を捕食しながら盤外の宇宙(そら)を目指す。

 

 全ては己の創造主に復讐を果たすため。

 

 全ては最後の生き様をロックに見せつけるために。

 

 人生は爆裂なのだから、流星のように竜生も爆裂すべきだろうと。

 

 何か大切な考えが抜けた気がするが、気持ちいいのでそれはそれでよし。取り敢えずまずは目先、世界(たまご)の中にいる異物の排除が先決だ。

 厄介なことにそれぞれが強大な力を持っているが、自分はこの世界の中では全知全能。即ち無敵だ。外敵など恐るるに足らず、寧ろ喰らい尽くして糧にしてやろう。ああ、全てを寄越せ、財宝を寄越せ、英雄を寄越せ叫ぶ本能に身を任せて、世界を喰らうその竜は地上を目指した。

 

 ああ、舞い踊れ銀の灰舞う神楽巫女。

 

 この身は未だ幻想に在らず。

 

 神秘と信仰を糧に現実世界へと叛逆しよう。

 

 故に我を阻みたくば、その舞いを奉納し我が牙の疼きを納めてみせよ。

 

 英雄を寄越せ

 

 巫女を寄越せ

 

 全てを寄越せ

 

 祈りと供物を捧げてみせよ

 

 たかが人間が両の手で数え切れる人物の記憶、されど全員が人生で主役を張った者の記憶だ。それに加えて神や竜、雑多な記憶までもを深く読み込んだせいで──端的に換言すると、世界の"核"は暴走していた。

 悪意や恐怖、憤怒に憎悪、絶望と殺意、破滅などをラーニングエンドした時と同様、彼らの足跡は産まれたばかりの"核"にとっては刺激が強過ぎる記憶ばかり。その全てをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、ここは名もなき異世界の幼き精神の世界。

 

 故にこそ、突き抜けた地上で何が自分を待っているのか。

 それを想像する、という単純な行為すら"核"はしなかった。

 

『──!』

 

 声もない絶叫を"核"が世界に響かせる。

 世界を掘削して喰らい、世界から異物を排除するため顔を出した"核"が最初に感じたのは感動だった。

 何も特別なことはない太陽の光。それを反射する海の煌めき。真っ青なキャンパスに白を散りばめた様な空。そして眼下に広がる、小さな大地と緑の群れ。

 

 ああ、世界はこんなにも美しい

 

 未だ不慣れな発声器官に変わり、"核"は心の中で言葉を紡いだ。

 そうして穿孔した世界から総身を引き抜くことすら忘れて、己が生まれた世界に息を呑む。生まれて初めて得る生身の感覚に、思考が一瞬吹き飛んでいた。

 

 そんな"核"の姿は、まさしく東洋の竜と言って問題ないだろう。

 堅牢な鱗と一部に存在する甲殻に守られた細長い蛇体。口元から伸びる一対の長い髭、口元に存在する巨大な衝角(バンカー)。完全に退化した後ろ足と、辛うじて形は残っている貧弱な前足は竜のイメージを強く受けたからだろうか。

 

「不明なユニットが接続されました──なんちゃって」

夢幻召喚(インストール)!」

「村雨──」

紋装・蒐窮(エンチャント・エンディング)

「ー限界突破(コンプリート)ー」

 

 各々が、各々の持つ最大威力の力を己に向けてることすら、意識の外へと置いてしまい──

 

「HUGE CANNON、発射!」

「真名開帳ーー壊れた集積宝具(アキュムレイト・ブロークンファンタズム)

 【核撃(ハイドロリアクター・ブラスト)】!」

「──三連!」

紋章抜刀(レールガン)ーー(オドシ)!」

偽・天地失墜(Fallendown)──希望の花を照らせ無限の光(Ayame Bloom)共に新たな道を選ぶ為に(Ain Soph Aur)!」

 

 核分裂の爆砲撃が。

 核融合の虐殺焔が。

 魔槍による全てを刻む3連続の霞の斬撃が。

 命を代価とした山すら蒸発させる絶刀が。

 それら全てのベクトルが完全制御され、──結果、待ち構えていた全ての攻撃が世界の"核"に向け、吸い込まれる様に放たれ直撃した。

 




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