なんとなくロリスミっぽいあの空の下で神楽舞いそうなのとガチ勢の話   作:銀鈴

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終わりの日②

 ユキが文字通り血反吐を吐きながら核竜の遊びに付き合っている間、当然誰もが動いていた。目指す着地点はただ一つ。魔法陣の形成段階ながら、当然のように効力を発揮しているイオリの魔法を完成させること。世界の核である竜に魔法を届かせるには、圧倒的な出力と魔法の強度、そして魔法防御のハックが必須。それを前日に散々魔法談義を交わしたお陰で、即席にしては最高のコンビネーションを発揮しながら魔法・魔術組は進めていた。

 

 そうしてユキが都合3度の流星を相殺し、4度目に入るインターバルの時間。遂に組まれていた魔法が完成を見た。

 

「術式、完了!」

 

 遥か上空と地上の両面に展開された電子機械の回路にも見える、異世界の術式同士を組み合わせた巨大魔法陣。意味もなく回転を始めたソレらが、地上側からは愛鈴とエウリの制御を、空からはアヤメとアインによる制御を受け、イオリによる絶大な出力を受けて起動する。

 

「制御リミッター解放。術式レギュレーターオープン。マギコントロールオールクリア。全術式同期。安定を確認。マスター、You have Control」

「あい・はぶ・こんとろーる!」

 

 魔法陣の基部にある術式は3つ。

・アヤメの世界の()()()()

・イオリの世界の()()()()()()

・エウリの世界の()()

 万が一を考えて害を与える物は一切使わず、核竜を無害化するための術式。つまり対話できぬ荒ぶる御霊を、ヒトの領域にまで引き摺り下ろし零落させる神殺しの一種に分類される魔法だった。

 

 さしものイオリも、昔のように素材欲しいから即座に剥ぎ取りに行こう!なんて後先考えない動きはしないのだ。

 違う、嘘を言った。ほんとは欲しい。世界の核たる竜なんてそうそうお目にかかれる相手じゃない。鱗も甲殻も血も肉も何もかも一片残さず欲しい。実験したい。作りたい。しかし今ならば我慢が出来……出来る、出来るったら出来るのだ。アヤメの手前じゃなければきっと耐えられなかったが。

 

「さあ、ヒトまで落ちてきな。神様」

 

 根底にあるのが対話・知識共有・翻訳の3種類であるため、無論この神殺しにはデメリットがある。

 まず1つは既に突破している難関だが、行使の難易度が高く相手にとっても防御しやすいこと。2つ目は知識共有の効果により、思考が術者と対象と双方向で筒抜けになること。3つ目は対話である以上、最悪の場合戦闘は避けられないこと。4つ目は相手によるが機嫌を損ねてしまうこと。

 しかしその程度の問題で、神を再定義することで格を数段引き摺り下ろせる。命を賭けることが前提となる神殺し界隈において、それはあまりにも破格な性能だった。海老で鯛を釣るどころじゃない、クエを釣ったような快挙である。鮪を釣るまでには届かないが、革新的な快挙と言えるだろう。

 

 閑話休題

 

 詳細はともかくとして、これで核竜の格は半神のイオリと同程度まで零落した。それはつまり、討伐でも対話でも選べる選択肢が格段に追加されたことを意味している。

 

『何ヲしタ、半神の娘?』

 

 そして、魔法の効果は覿面だった。

 まだ発声という行為に慣れていないのか辿々しいが、変声期前の少年のような甘い声で核竜は答えた。完全にミスマッチである。本来人語は発声出来ない竜の声帯の代わりに、魔力による念話が響き渡った。

 

「えっ、ちょっと待って!? ここでパターン変化なんて聞いてな──アバーッ! サヨナラー!」

「ユキ殿がまた死んでおられるぞ!!」

 

 ついでに背景でユキが流星にすり潰され挽肉と化し、ティアの合いの手に合わせて何故か景気よく爆発した。即座に何故かユキとしての姿ではなくしらゆきちゃんの姿で再生しているが、ヒロインズの病みゲージを増加させる程度の影響しかないので割愛する(配点:爆破)

 

「何って、話を出来るようにしただけだよ。それはそっちもわかるでしょう?」

『当然だ。それに、そちらの意思も目論見通り理解させられている。だからこそ聞こう。どうして僕を殺さずに話そうなんて思った、半神。どう考えても合理的じゃない』

 

 急激に跳ね上がった知能で戯れにユキをすり潰した核竜が、イオリを睨み付けて問い掛けた。

 実際のところ、イオリとティア、ロイドの3人でこれまでの攻撃への対応は可能だ。それどころか世界法則自体を塗り潰し乗っとることが出来るイオリのせいで、竜殺し(ドラゴンスレイ)なんて児戯にも等しい。尤も、それを使ったが最後。イオリ、ティア、ロイド、アヤメ、愛鈴以外の全員が即座に死亡するが。

 

「そんなの決まってるじゃん。泣いてる子供を、邪魔だから叩いて言うことを聞かせるなんて、大人のすることじゃない」

『僕は、子供じゃない。それに、散々攻撃をしてきたじゃないか』

「最初に頭引っ叩いたのは悪かったけど、そのあとは楽しそうに見えたけど?」

『それは……』

 

 核竜が口籠る。何せ楽しかったのは嘘じゃない。特にさっきまでユキという男……少女?とやっていたボール遊びは、その中でも別格だった。本音を言うとすごく楽しかった、もっと遊んでいたい。流石に人と話すのに遊びながらは不誠実故に、最後にはやめてしまったけれど。

 急激に獲得させられた知性と形成された自己認識が、数秒前の自分とズレを生み続け思考にバグが積み重なっていく。自分が変わっていく。それは、よくないことだ。なまじ考える頭が出来てしまったからこそ、思考と吟味が出来るようになってしまった。そして、自分の目的が酷く陳腐なもののように思えてしまって──核竜は思考を打ち切った。それ以上はいけない、これ以上考えてしまっては自分は自分が生まれた理由を果たせなくなる。故に、核竜は自分の最も根源的な欲望に従った。

 

『でも、僕はあのエルフに復讐しなければならない。その為に、君たちは邪魔で──』

「どうして? 私達は、貴方とこの世界に頼らないでも元の世界には帰れる。最も、頼った方が安全ではあるけどね」

『僕が生きながらえるには、この世界を喰らうしかない!』

「君はもう世界の"核"であるのと同時に一個の生命だからね。そんな心配は必要ないよ。例えこの世界があと数時間で滅びるのが決まってても、世界と一緒に貴方は滅びない。その巨体の維持は大変だろうけど、普通の食事と生活でもエネルギーは補給出来そうだし」

 

 核竜がイオリの意見の粗を探して言葉を否定し、イオリは核竜を分析しながら疑問で答えを促し安心させるように事実で肯定する。そんな議論や交渉以前の、ただの()()()()()。お互いの思考を常時接続しているため、それは呆気なく収束しようとしていた。

 

「それに私なら、あの性悪愉快犯エルフとも繋がりがある。君が力を貸してくれれば、多分目の前に引き摺り出せるけど」

『嘘は……言ってないんだね』

「当然、思考を直結してるからそっちにも伝わってるでしょ?」

『……』

 

 あの娘にしてこの親ありとしか言いようがないほど、交渉としては破綻している事実を投げるだけ投げてあとは相手任せな残念な対話。だがそんなものだったからこそ、まだまっさらな核竜には何よりも通じる論法だった。そしてアヤメが本来の強みを活かせる対話の形も、交渉ではなく言いくるめであったりする。

 

『……分かった。そっちの提案を飲む。代わりに、必ずあのエルフを僕の前に引き摺り出せ』

「こっちも、ちょーっと今月の経営が厳しかったからツケを回収しなきゃだったし。寧ろ貴方の手を借りれてありがたいよ」

 

 悪どい笑みを浮かべながら、核竜の言葉にイオリは笑う。なまじ一緒に数回世界を救った経験があることと、逃亡に関してはイオリ達より数段上手である以上ツケにしているが、異世界人ニキのツケは既に白金貨100枚(1億円)に達しようとしているのだ。他にもツケで済ましている異世界の客もいる以上、一括にとは言わないが耳揃えて返してもらわなければキリノ武具店は経営破綻まっしぐらである。

 

「ふ、ふふ……勝った! 第3部完!!」

 

 こうして最終決戦(クライマックスフェイズ)は、重軽傷者なし死者1名(2回)(蘇生済み)(解呪必要)という、張り切り過ぎたユキが爆散する以外の損害なく終了したのだった。

 同時刻、何処か別の異世界で邪神と格闘していた異世界人ニキの背中に、嫌な予感が走ったことは言うまでもない。ああ、邪神がマウントを取って耳に! 耳に!(配点:触手)

 見せたなッ、隙を!

 これは面白い世界を見せてくれた分、ちょっとしたご褒美として進呈しよう

 【クトゥルフ神話技能:40】

 

 そんなこんなあって、状況はひとまずの落ち着きを得た。

 異世界組にとってはそれなりに良くある戦闘でしかなく、ユキにとっても2乙こそしたものの面白い経験だった以上の感想はない。核竜も世界を外周からゆっくりと捕食し始めたため無害であるし、さあ後は元の世界に帰るだけ。そんな段階だったのだが──

 

「どうしよう、これ」

 

 ユキは、否、しらゆきは途方に暮れていた。

 TSフォームから身体が戻らない。あの戦闘もどきの際、突如意思を持ったような動きに変化した流星に対応しきれず擦り潰された復活後、何故かユキはもとの身体ではなくしらゆきとしての身体で蘇生していた。

 ユキ自身、こうなることを予想していなかった訳ではない。寧ろ確実に何かが起きること、例えば今のように戻れなくなることを予測していた。しかしそれでも、あの時の流星に関してはユキでは出力不足で受けられなかったからして、変身せざるを得ない状況だった訳だが……あ、何かこの表現、魔法少女っぽい。

 

「ふむ……取り敢えず、何回か魔法で検査してみたけど身体的には疲労はあるけど至って正常で健康。天使の輪っかと翼は魔力物質で、それを使うための魔法回路が出来てるだけで完全に人類種の女の子だよ!」

「私もお母さんと同じ見解ですね。どっちかと言えば翼人系の獣人に近い雰囲気も感じますけど、私と同じクウォーターかそれ以下のレベル。私たちの分類で言うなら人族、そちらの分類で言うなら……獣付きとか先祖返りとか、そう言うタイプのホモ・サピエンスかと」

 

 そんなユキは今、イオリとアヤメという異世界でも屈指の技術者の分析に掛けられていた。正確にはかからざるを得なかった。何せ本来の変身持続時間は1度死亡するまで。それを既に達成しているのに戻らないのは明らかな異常事態であり、万が一程度の可能性だが異世界への帰還も不可能になる可能性かあったためだ。

 また何故かユキは所謂ペタン座りで紋章に座りながら、ふわふわと地面から数十cmを浮遊している不思議状態だったりする。その胸は平坦であった。なお翼や天輪は感触はありながらも出し入れが可能な、推定手入れ不要の便利仕様らしい。

 

「よかった。取り敢えずちゃんと人なんですね」

「良くないよとーくん!?」

「そう、です、よ! 笑い事じゃ、ない、です」

「いや、あからさまに邪神が関わってるのに、ちゃんと人の形を保ってるだけマシというかなんと言いますか」

 

 渾身のセナのツッコミを生やした羽で優しくガードし、藜の涙も翼で拭いながらユキは言う。もう成ってしまったものはしょうがないのだ。過ぎた事実にあーだこーだ言うくらいなら、まだこれからのことを考えた方が幾分建設的だ。

 

「因みにこれって、元に戻るんです?」

「んー……元の世界には戻せるけど、私じゃ性別はちょっと厳しいかも」

「え、そうなんですかお母さん? 私の時代だと性別転向薬って、結構ありふれてるんですけど」

 

 ユキの問いに答えた後、え?とイオリとアヤメが顔を見合わせる。そしてすぐに脳内で計算が終わったのだろう、問題の中心にいるユキを放って詳しく話し合いを始めてしまった。

 

「良ければ素材と精製方法教えて欲しいんだけど、アヤメは知ってる?」

「お母さんの娘ですよ? 当たり前じゃないですか。素材は本人の髪の毛と何かしらの体液。あとは各種触媒として、私は今持ってないですが○○草とか色々と。精製方法は……見てもらった方が早いですね」

「えっと、あの、(おれ)はどうなるんです?」

 

 躊躇いがちに手を挙げながら聞いたユキに対し、完全に据わった目の母娘が手をわきわきと動かしながら接近する。聞き取った会話内容からも、あからさまに不穏な気配にユキが逃走しようとし──気が付けば使われていた拘束系の魔法に身体を固定されていた。

 

「んー……改めて帰還用の魔法を調整しなきゃだから、10分から30分くらい時間が欲しいかな?」

「お母さんならちゃんとした錬金設備を持ってるでしょうし……アインは《風化》の魔法使えますよね?」

「肯定する。薬の精製に使用したことはないが、出力さえ指示して貰えば問題ない」

「なら同じく10分あれば1ダース作れますね。あ、血はもう貰ってるので髪の毛を拝借」

 

 音もなく近寄ったアヤメが、プチっとしらゆきの長髪を一本引き抜いた。親子揃って必要な素材採取には基本的に貪欲なのだった。

 基本的にマッドなサイエンティスト気味に派生する為割愛するが、イオリやティアとも共同作業することで、10分で1グロスほどTS薬は完成したのだった。

 




次回:帰還
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