なんとなくロリスミっぽいあの空の下で神楽舞いそうなのとガチ勢の話   作:銀鈴

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銀の灰が舞うあの空で

 魔剣を収める為の魔剣を持つ者。

 半壊しているが収められるべき魔剣を持つ者。

 そして全ての魔剣を打つことになる者。

 本人たちの意思とは関係なくその3つは引かれ合い、お互いに呼び寄せ合う。ここは運命の特異点、たった一度きりの奇跡の空間故に。

 

 つまるところ、モロハとエウリ、そしてアヤメとアインが投げ出された場所は愛鈴によって作成された陣地の直上だった。

 

 本来ならば地表近くに安全に出現する筈が、キャスターとして作り上げられた極めて強固な陣地により転送座標の固定に失敗。高さが上方にバグった超高空へと4人は投げ出されていた。

 

「ッ、アイン!」

「認識している!」

「「種子(セーメン)!」」

 

 しかしこの場にいる全員、紛れもなく無数の死線を潜り続けてきた猛者である故に。自分たちが置かれた状況を把握する速度も、それに対しての対応速度も桁違いに早かった。

 アヤメとアインは、自前の飛行具である箒を呼び出し騎乗。舌打ちはしつつも、問題なく空中で減速した。同様にモロハとエウリも、互いの手を(へデラ)で絡めたまま魔法を行使する。かくあれかしと願うだけで、そこに異常が顕現する魔の法。それによって生み出された、タンポポの様な綿毛の付いた種子をパラシュート代わりに減速する。

 

 必然、減速地点が同じ高度であれば。特に意図することはなくとも、両者の目と目が合うのは避けられないことだった。

 

「えーと、そこのファンシーなお2人。状況的に、同じように飛ばされてきたと見ましたが」

「ということは、そちらもあのよくわからない黒点に?」

 

 躊躇いがちに話しかけたアヤメの言葉に、仕方ないと割り切った様子でモロハが答えた。疑問に疑問で返す形になるが、現状の認識を共有するには一番手っ取り早い。

 

(あの黒点が魔法で、術式と原理があることを知らない。なら何かしらの事故でもない限り、あの黒点を生み出したのは目の前の2人ではない……筈。嘘はついていなさそうだし)

 

 そう考えての返答は確かに、アヤメの中から敵対という選択肢の順位を大きく下げる最大の効果を生み出していた。目が合いエウリを庇うようにモロハが前に出た時点で、そもそもその可能性は低くなっていたが。

 

「否定する。当方達は、あの黒点を利用してこの世界へ移動した。其方は違うのか?」

「そう、ですね。わたしたちは、いきなりあれにのみこまれて……きがついたら、そらのうえでした」

 

 少し舌足らずに聞こえる辿々しい言葉で、アインの提案にエウリは警戒しつつ答えた。何故か双方向に言葉が通じていて、なおかつ意味も通っているという不思議な現象に特に違和感を覚えることもなく。

 

「そういうことなら、ひとまず地面まで私たちの箒に乗ります? 見知らぬ形態の魔法ですけど、物理的に滞空してるようですし」

「俺たちは、敵同士の可能性もありますけど?」

「まあ、少なくとも今は敵対関係じゃありませんし。これは私の所感ですけど、お互い好き好んで殺し合うような(たち)でもないでしょう?」

「……そうですね、分かりました。もう無理は出来ない身体ですし、お言葉に甘えさせて貰います」

 

 それで良いよね? とアヤメとモロハはそれぞれのパートナーに確認を取り、同じように仕方がないといった風に同意を得ていた。まるで示し合わせたかのようなその動きに全員が顔を見合わせ、微妙に生暖かい空気が流れた。

 

「それじゃあ、よろしくおねがいします。えっと……」

「アヤメ・キリノです。貴女は?」

「エウリです。よろしくおねがいします」

 

 箒の搭乗は、自然と男女で別れた。

 女性組はアヤメの手を取って、同じようにエウリが箒のすぐ隣に並んで座る。うっかりバランスを崩して落ちないよう、箒の術式で軽い固定がされているのが珍しいのだろう。ゆっくりと乗り込んだ時に絡めた(へデラ)を解き、不思議そうに箒を触っていた。

 

「当方は、アイン・ナーハフートだ。其方は?」

「モロハ・カケツキ。同じような理不尽に晒されてきた気配を感じますし、手は取り合えると信じてます」

「肯定する。確かに当方達は、似たような不条理の匂いがする」

 

 男性組は何処か牽制し合いながら、少し離れた位置に座った。それでも何ら不具合がないのは、流石はアヤメ謹製の魔導具と言ったところか。

 

「それじゃあ、地上に向かって降りようと思うんですけど……ちょっと厄介ですね、あれ」

「あれって、なにかもんだいでもあるんですか?」

 

 目を細めて地表を見つめるアヤメに、不思議そうにしてエウリが問いかけた。

 

「ええ。本当はログハウスみたいな物もあるので、あの川辺に降りようと思ってたんですけど。あの場所、かなり巧妙に隠蔽されてますが、相当面倒くさいタイプの魔法結界が敷かれてます。あー……伝わります?」

「だいじょうぶです。わたしもまほうとまじゅつについては、べんきょうしてますから」

 

 チラリとアイン達の方を確認すれば、そちらの方も問題はないらしい。魔法と魔術の違いについて、アヤメとしては小一時間問い詰めたい所だが、今はそういう時間じゃないと諦める。

 

「なら良かったです。私とアインなら多分破れないことはないんですけど、無理に侵入はしない方がいいと思うんです。下手に敵対するような意味も有りませんし」

「そうですね。あそこのもりたちも、きられてるのにいやじゃなさそうです」

「……? 木の声とか、聞けたりするんですか?」

「はい、わたしはどぅ・だいーむですから」

「ドゥ・ダイーム? えっと、種族か何かです?」

「はい! アヤメさんのしゅぞくはなんですか?」

「私は獣人のクウォーターですね。人間3獣人1、だったんですけど……耳と尻尾は色々と合って生えました」

「さわっても、いいですか?」

「出来れば地上に着いてからにして欲しいです。でもまあ、耳なら良いですよ?」

「じゃあ、しつれいしますね」

「あっ、ちょっ、やっぱりダメです擽ったい!」

 

 女3人寄らば姦しいというが、それは2人だけでも同じようなもの。アヤメからすれば珍しい同性で同年代の相手であり、エウリにしてもそれは同様。そして互いに害する意思はなく、共に落ち着いた時期から飛ばされてきたとあれば、話が弾むのは道理であった。

 

「当方としても、あの結界を突破するのは容易ではないと判断する。不可能ではないが、する意味はないだろう。モロハはどう見る」

「大体同じですね。あの川辺だけ、凄まじく魔力が集まってホワイトアウトしてます。俺としては、あんな結界を破れる2人の方が信じられませんが……多分、できるんでしょうね」

 

 花の眼帯を捲り、真紅の左眼で世界を視ながらモロハが言う。今は魔力のみが見えるその視界に映るのは、1ヶ所だけ不自然なほどに白く染まった川辺。そして自分達を運ぶ男女が纏う、銀と灰色の極めて濃密な魔力の光景。かつて見たと()()()()()()黒崩哮ディラルヴォーラの昏く輝く漆黒の魔力には及ばずとも、少なくとも姫さまや師匠を軽く越える魔力の濃度。常態の人の身で、生物の範囲を逸脱した最強種の本気に迫る魔力を見てしまえば、突破できるという話も納得できようものだった。

 

「肯定する。では着陸後、正攻法で結界を張っている人物を訪問する。何か異論はあるか、と疑問する」

「いいえ、特には。ですけどその喋り方、随分珍しいと思いますが……癖か何かですか?」

「否定する、この口調は当方の素だ。何か、問題があるのだろうか?」

「少しだけ、トラウマのようなものを思い出すので……」

 

 苦笑いを浮かべながらモロハが言う。《自己否定》、かつてモロハの身に宿っていたチートであり、現在も封印を続けている己の存在を別の英雄に書き換えてしまうもの。アインの口調は、そのチートのことを思い出させるきっかけには十分なものだった。

 

「認識し……分かっ、た。であれば当方も、モロハの前ではこの口調を控えようと配慮……控えようと、思う」

「優しいんですね。でも大丈夫です。俺の感傷でしかないので、気にしないで下さい」

「だがしかし……」

「本当に良いですから。それより、向こうでは種族の話になってますが、アインさんはどうなんですか?」

 

 かつて《自己否定》が働いていた時とは変わり、今では珍しくなくなったモロハが相手のカバーに入る体制。それをエウリが会話の合間に見て、満足そうな笑みを浮かべてアヤメとの話に戻っていった。

 

「当方は……何なのだろうな。少なくともステータスには人造人間と表記されているが、遺伝子的には不明であると言わざるを得ない」

「それは、やはり誰かに作られたからということですか?」

「否定す……違う。当方は、この姿になる前の姿があったらしい。人族と魔族の混血であったと聞くが自覚はない。当方はその記憶と本来の名前を知らないが、それを取り戻したいと考えている」

「見つかると、いいですね」

「肯定す……ああ。アヤメのためにも、見つけ出したいと考え……思う」

 

 それは文字通り自分を失ってから、自分と同一の存在に改めて成ったモロハだからこその言葉だった。

 

「そういうモロハは、人族ではないのかと疑問す……る」

「元は人間でしたけど、今は9割吸血鬼で1割が竜ですね。いろいろ事情があってのことなので、一言では纏められませんが」

「初めて吸血鬼というものに遭遇したと、驚愕す……る」

「そうなんですか? どうにも、そちらの世界の方が色々とファンタジーらしいと思ったんですが?」

「ファンタジーらしさというものを当方は理解できない。だが、吸血鬼と呼ばれた種族は……大陸ごと、殆ど絶滅したと聞いている」

「……随分、過酷な世界のようで」

 

 なんて会話を続けている間に、何事もなく箒は地上へ着陸。展開されている結界のすぐ側に、4人は空の上よりも打ち解けた様子で降り立った。

 

「さて。先ずはこの結界を張った主に挨拶すると決めましたけど……誰か正規の突入ルートは見つけられました?」

 

 困ったように首を傾げて聞くアヤメに対して、全員が首を横に振る。正攻法で結界を張った人物と話をするならば、侵入ではなくお邪魔する形の方が都合がいい。いきなり家の扉をヤクザキックするか、ちゃんとノックするかの違いのようなものだ。だからこそ、そのためのルートを見つける必要があったのだが……

 

「少なくとも私は無理でした。遠目からじゃ分からなかったんですけどこれ、警報系と探知系に迎撃回復迷彩防御の全部を兼ね備えたタイプです。隙が無さすぎます」

「当方も同意見だ。軽く解析の魔力を当てた所、そもそも弾かれて意味をなさなかった」

「魔力が濃過ぎて何も見えませんね」

「なのにくさきには、いっさいふたんがないみたいです。たぶん、だいちのそこからちからをかりてるんだとおもいます」

 

 魔法陣を数千種は暗記している少女に、魔法を使うために作られた冒険者型人造人間(エクスプローラー)、魔力を直接視認できる者に、魔に親しい種族の少女。その4人が揃って手がかり一つでないということは、外から何かを招き入れる気がない結界であるという事実を示していた。

 

「なら気は進みませんけど、アインと一緒に荒っぽく何とかします。もし戦闘になったら……その時は許してくださいね」

 

 そう言いながら、アヤメが腰に佩いた魔剣に手をかける。そうして魔剣の加護を得てから、左手でアヤメが結界に触れた。

 

「すみません、誰かいませんか?」

「は〜い」

 

 軽く結界表層部をハッキングしながら、呼び掛けること数秒。まの抜けたような返事をして、その人物はさも当然のように転移で現れた。混じり気のないプラチナシルバーの長髪をポニテに纏め、同じ色の毛並みを持つ狼の獣耳と尻尾、紅と蒼のオッドアイを持つ幼い少女。

 

「ありゃりゃ、4人もお客さんだ。どうしよ、これじゃログハウスの大きさ足りないかも」

「マ、マ……?」

 

 そう独白する銀の少女を見て、放心したような銀灰の少女の口から、そんな言葉が零れ落ちた。

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