なんとなくロリスミっぽいあの空の下で神楽舞いそうなのとガチ勢の話   作:銀鈴

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空の向こうと運命と

 遠くで雷の音がしたと思えば突然のゲリラ豪雨が降り、すぐに快晴に戻るという謎の天気。それを『帰ったら洗濯物溜まってそうだ』なんて考えつつ、鍋を回して愛鈴は眺めていた。

 ティア(本体)は本人の希望とイオリのお願いにより探索に出ており、ティア(分体)はイオリのもう一つの世界(アナザーワールド)内で何か作業中。ロイドは近場で材木の伐採に。そしてログハウスに残っていたイオリと愛鈴で昼ご飯を雑に作っていたところに、さっきの結界越しに行われた接触があったのだ。あの結界への干渉の仕方からして、話ができる存在のはずなのだが。

 

「思ってたより遅い……何かトラブルとかかな?」

 

 イオリに借りた鍋を回していた手を止め、思案顔で愛鈴が空を仰いだ。生身で扱える魔術は型月式のものと、かつてのキャスターによる人体改造によって埋め込まれている宝具、そして時限式の超身体能力程度のもの。少し心許ないけれど、少なくとも結界内なら酷い事故は起きないはずだ。

 

「ただいま!」

「あ、おかえりなさいイオリさん。遅いからもう、探しに行こうと思ってましたよ」

 

 魔法式コンロの火を止めて、愛鈴が出かけてようとしたその時だった。元気良い返事と共に、ログハウスの扉が開かれた。そこから見えたのは、どこか疲れたように見えるイオリの姿と、愛鈴は知っている2人と見知らぬ2人の男女の姿。

 

「ああ、アヤメちゃんとアインくんだったんですね。横の2人は知りませんけど、そういう事なら納得です。急造なのであんまり広い家じゃないですけど、どうぞどうぞー」

「認識した。失礼させてもらう」

「ノリが軽い気がしますけど……失礼します」

「しつれいします……?」

 

 それでも、イオリが招いたのだから問題はないだろう。そう判断して、見知らぬ2人組も合わせて招き入れる。新しく4人も人が増えて、全員が見たところ育ち盛りの少年少女。だったらもう少し派手目の味付けにして、料理自体の量も増やした方が──なんて愛鈴が献立を組み直している時だった。

 

「えっ、ちょっと。愛鈴はこの子たちのこと知ってるの?」

「知ってるも何も。アヤメちゃんはイオリさんの娘で、アイン君はその恋人だったと思うんですけど……違いますか?」

 

 イオリの投げ掛けた質問に、何かおかしな部分でもあるのかと愛鈴が答えた。泣き疲れてアインの腕の中で、肝心のアヤメは眠ってしまっている。けれどロイドの娘に会ってみたいという発言と、やる事はやっている事実から総合して、愛鈴からすれば当然知っているものだと思っていた発言だったのだ。そう、だったのだが……

 

「えっ?」

 

 まさに寝耳に水といった様子で、イオリの動きは固まっていた。そんな話は聞いていないと、視線をアヤメと愛鈴の間で交互に動かし続けていた。

 

「確かアイン君も、イオリさんに命を救われてたと思うんですけど」

「肯定する。記憶としては朧げだが、瀕死の重傷を負っていた当方はイオリ・キリノとティア・クラフト両名によって命を助けられている」

「えっ」

 

 愛鈴の確認にアインが答え、イオリの動きが錆びついた機械のように軋み始める。瞬間、脳内に溢れるサブカル知識。こうして異世界旅行している場合は少ないとはいえ、未来から自分の実子がやってくる……なんて話は珍しいものじゃない。同時に目の前の愛鈴は、自分の擬似サーヴァント。つまり『これから生きる未来の自分』を知っているということた。よって、目の前で泣き疲れて眠っている娘は、いつかの未来自分とロイドとの間に生まれるかも知れない子供であって──ここまでの自分の行動を振り返って、嫌な汗が流れた。

 

「それじゃあ私は、実の娘にあんな対応を……?」

「どんな対応をしたのかは知りませんが、そうなんでしょうね。私に初めて説明してくれた時、『自分は最低の母親だ』って言うくらいでしたから」

「う、え、あ……それ以上やめて愛鈴、その言葉は私に効く」

「そう思うなら、そっちで家族会議でもしてて下さい」

 

 笑顔で毒を吐ききってから、泣きそうな表情のイオリを無視して愛鈴はモロハ達に向き直る。自分の寿命はもう概算で20年無いからこそ、許せるものと許せないものがあった。それでも時間をかけてしまった以上、一度深々と頭を下げて言う。

 

「待たせちゃってごめんなさい。でも、どうしても言っておきたかったので」

「家族の問題なら仕方ないと思います。あまり気にしないでください」

「そう言ってくれるなら、こっちもありがたいですね。えっと……カケツキ・モロハ君とエウリさん?」

 

 2人を適当に作った座席に案内しつつ、一瞬だけ愛鈴の片目が紅に染まる。それにより最低限名前だけは確認してから、自分も席に着いた。

 

「私は銀城 愛鈴、気楽に愛鈴(あいり)って呼んでください。私のことを説明しても邪魔でしょうから、ちょっと魔法に精通してる主婦とでも思ってくだされば」

「ちょっと魔法に精通してる主婦」

「来歴はちょっと長くなっちゃいますからね。事情は分かりませんけど、きっと質問には答えられると思いますよ?」

 

 意味の分からない単語とばかりに繰り返したモロハに、少し無理があったかなぁと思いつつ愛鈴が答えた。実際、信用と天秤にかけても自分の来歴を説明することに意味はない。何せロイドですら噛み砕くのに時間がかかったのだ、だったらまだ自分は怪しい子供程度の認識で構わない。

 

「それで、どうせイオリさんのことです。ろくに何も説明もせず連れてこられたんでしょう。取り敢えず、ここに来るまでの事情を聞かせてもらっても?」

「……分かりました。一応、貴女を信用して話しますが──」

 

 一旦エウリと相談して、互いにこくりと頷いてからモロハが口を開いた。そうして訥々と語られる、この世界に来る直接からここまでに至る凡その事情。それを最後までしっかりと聞いて、愛鈴は1人大きなため息をこぼした。

 案の定イオリはやらかしてくれていた。きっとそう行動するだろうという予測そのままに、それはもう盛大に。自分が召喚してしまった子供の頃から何も変わっていない、いい意味でも悪い意味でも奔放な自由人。それが今回は、限りなくマイナスの方向に働いていた。

 

「つまり、2人の目的は元の世界に帰ることで、この場所には案の定流れで来たと」

「そうなります、ね」

「やっぱり……」

 

 再度、愛鈴が重いため息を吐く。けれど同時に、本格的に敵対することはないだろうことも分かったは僥倖だった。こちらから手を出さない限り、この2人と敵対するようなことは起きない。そうと分かれば、支援や手助けを惜しみなく行えるのだから。

 事態を無駄にややこしくしてくれた元凶に目を向ければ、そちらはそちらで起きたアヤメ達と何かを話し込んでいる様子。何故か頭を撫でているし、文句を言いに行くのはもう少し後のほうが良さそうだった。

 

「まず、お詫びとしてこちらから情報を2つ。

 元の世界に帰れるか?って話ですが、結論から言うと多分可能ですね。今私たちがいるこの世界は、何処かの迷惑な誰かが戯れに作った世界で、2〜3日もすれば世界自体が崩壊する泡沫の夢みたいなものです。で、その崩壊の際に全員が元の世界に自動的に送還される……いわば即席の召喚魔術みたいなものらしいんですよ、この現状」

「それってつまり、ゆうしゃしょうかんみたいなことですか?」

「勇者召喚……詳しくは知りませんが、帰還が保証されてるタイプなら同じようなものかと」

 

 真剣な表情のエウリ対して、遥か昔のサブカル知識を総動員して愛鈴は答える。転生前の20余年も前の知識であるが、その時点でもう異世界転生やら転移やらは多様化してた。それこそ、帰れるものから帰れないもの、自力で帰るものまでジャンルは多岐に渡る。目の前の2人が知っている物がどれか不明な以上、帰還補償があるタイプとしか言いようがないのだった。

 

「わたしたちのせかい?のじゅつは、よびだしたらそれっきりでした」

「俺はそれで呼び出されて、それ以降ずっと異世界で暮らしてます」

「なら別のタイプですね。魔法と魔術の定義が全部違うので説明は難しいですが……ゴム紐がついたボールを投げると、いつかは手元に戻ってきますよね? その投げられてボールが私たちで、ゴム紐が元の世界とのつながり、戻る手元が自分たちがいた世界って所でしょうか?」

 

 この場に存在する全員が、まるで別の魔法の知識を前提として持っている。イオリやアヤメ、愛鈴が持つ異世界アヴルムでの魔法、モロハとエウリが持つ異世界での魔法と魔術、愛鈴の持つ型月ベースの世界にある魔法の知識と魔術。それらを共有ができない以上、相互理解ができないということを理解しなければいけなかった。

 

「それはつまり、わたしたちのしっているゆうしゃしょうかんはそのひもをきってしまうけれど、いまのわたしたちにはひもがつながっているってことですか?」

「そうなりますね。2人は巻き込まれた形で飛ばされたようなので、戻った時に勢いがついて怪我するかも知れませんけど」

 

 それについては2人に頑張ってもらうしかない。けれどこの魔法を使って人を集めた存在の考え方的に、酷い事故が起きるようなことはないだろうと思われる。

 

「つまり俺たちを呼んだ召喚者は愉快犯か何かで、この状況は余興のようなものだと?」

「この期に及んで手出ししてこないどころか、こんな要塞じみた陣地まで作ることを許してる以上、多分そうでしょうね。実力者の可能性もありますけど、それにしては──」

「遊びも探りも監視もないと」

「分かってるじゃないですか。何か、そういう存在と縁でも?」

「ええ、ちょっと英雄好きな竜に」

 

 そう軽口として、ほんの少し存在を匂わされた瞬間だった。次元の向こう、遥か彼方にある場所で、黒い鱗に包まれた竜が鎌首をもたげた姿を愛鈴は幻視した。否、きっとそれはモロハとエウリも同じだったのだろう。その額に一筋の汗が流れていた。

 

「んんっ、話は戻して2つ目の情報です。

 この場所の安全性についてなんですけど、多分この島の中で一番です。今のドラゴンみたいな相手に対しては力不足ですけど、そこそこの魑魅魍魎程度なら入ることすら出来ません。

 その前提で、貴方たちがここの場所に滞在するつもりなら、私とイオリさんは歓迎します。この場にはいませんけど、ロイドっていうイオリさんの亭主もまあOKしてくれるでしょう。どうします?」

 

 これ以上この話題を続けていると、次元の壁を突き破ってでも出現しそうな竜の気配。それに一度咳払いを挟んで、話題を切り替えた。ようはこのままここに、泊まるか否か。

 愛鈴やイオリとして、は17、8歳の子供を拠点から放り出すなんてことはしたくない。しかし相手が信用してくれなければ、その気遣いは無意味に終わる。だからこそ、相手の意思が最優先だった。

 

「それは……」

「まあ、私のことは信用できないでしょうから、ゆっくり話し合って決めてください。その間に私は昼ご飯作っちゃうので。どうせだから食べてって下さい。カレーなんですけど、苦手なものとかアレルギーとかあります?」

 

 質問してから、カレーという料理が通じない可能性に思い至って愛鈴が口を噤む。そして手元をわたわたと動かしながら、なんとか説明をしようとして──

 

「ありがたく頂戴します。苦手なものとかは俺は特に無いですけど、エウリは何かありましたっけ?」

「いえ、とくには。でもやさいがおおめだとうれしいです」

「はいはい。じゃあ男の子にはちょっと悪いけど、お野菜多めで作りますか」

 

 思っていた以上に、最近の異世界は日本というか地球文化に汚染されてしまっているのかもしれない。そんなことを考えながら、愛鈴はキッチンに戻っていくのだった。

 

 

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