なんとなくロリスミっぽいあの空の下で神楽舞いそうなのとガチ勢の話 作:銀鈴
他のモロハ達やアヤメ達が合流する時とは違って、ユキ達極振り勢の3人が合流するにあたっては少しだけ問題があった。それは例のアヤメとロイドだけが感じ取った、悍ましい視線だ。
基本的にその2人のみが感じ取ったものであり、実害こそ殆どないが……このまま何事もなく合流してしまえば、少なくともアヤメとロイドには瑕疵が残る。それでは後々に不和が起きてしまうだろうと言うこともあり、極めて現実的な対応が行われた。
即ち、『取り敢えず一旦隔離しておいて、目が覚めたら事情を聞く』というもの。
そうして5分も経たないうちに増設された、ログハウスの2階部分とその一室。そこにユキは運び込まれて、軽く魔法の監視が付くという着地点に相成った。
実情として2人を守ろうとしていた結果がアレということは、ティアの証言で明らかなのだ。今は薬で眠っているのだし、本人が起きてから色々考えればいいだろうという、日本人的に後回しにされただけな話である。
それにもしもの場合になったとして、ユキ、セナ、藜を除いた誰もが平然と異世界を蹂躙できる強者達である。十分何とかなるという見込みでもあった。
そしてそんな連中が集合しているこのログハウスは、泡沫の世界からして明らかな過剰戦力だった。それこそ、世界の1や2つくらいならば滅ぼせてしまうほどの面子である。当然そんなヤベー奴らの気配の下に、野生動物が集まってくる筈もなく。期せずして、ログハウス周辺は完全に安全が確保されていた。
しかしその内情は、12人中8人が女性の女所帯。別に仲が悪いという話ではないが、男性陣としてはそんな中に放り込まれれば何となく気まずく居心地がよろしくない。かと言って24時間は眠る筈のユキを監視しているのは暇が過ぎる。
結果、薬で眠らされているユキと、エウリの手伝いをしていたことにより逃げ遅れたモロハを除いた2人。ロイドとアインの両名は、ほぼ女子会と化したログハウスから、期せずして同じタイミングで脱出したのだった。
「ふぅ、何とか抜け出せた……助かったよ。えっと確か……アイン君で、いいんだったか?」
「肯定する。アヤメのお
拳を打合せお互いの健闘を讃えながら、息も絶え絶えと言った様子で流れ着いていた流木に腰掛けた。歴戦の2人が同性であるモロハの救出を諦めるほど、詳細は省くがログハウスからの脱出は激戦だった。
「別にそんなに畏まらないでいい、俺はお義父上なんて呼ばれる義理はないさ。実際、アヤメと向き合っていられなくてここに来たような、情けない男だからな」
「だがそれでも、当方とアヤメの考えは変わることはないと進言する」
かなりグッタリとした様子のロイドに、気にする必要はないとアインが答えた。横目で見る先には、早々に適応したイオリと並んで心の底から幸せそうな笑顔のアヤメがいた。
そう、普段ならば絶対に見ることの出来ない笑顔で、だ。
必要だから浮かべる笑みや作り笑い、苦笑や誤魔化しではない、幸せを起因とする笑顔。それはアインも未来のリュート夫妻ですら見たことがない、失われたアヤメが本来持っていた筈の暖かさ。それが今、ありのままに溢れていた。
「まあ……俺も、あれを見てぶち壊しにしたいとは思わない。なのに自分があの輪に入っていいとも思えない。イオリはそうそうに母親として振る舞ってるのに、俺には父親としてどうすればいいか分からない。そろそろ三十路だっていうのに、情けない話だよ」
「そんなことはないと否定する。貴方は、あの輪の中に入る資格を持っている。あそこまで幸せそうなアヤメを、笑顔のアヤメを当方は初めて見た。それは、貴方達2人にしか出来ないことだと断定する」
悔しさと満足感と疎外感と充足感とをコンクリートミキサーにかけたような、ごちゃ混ぜの感情。並々と湛えられたそれをぶち撒けないように保ちつつ、アインはなんとか言葉を絞り出した。
「ゆえに、逃げるべきではないと進言する。否、逃げて欲しくないと訂正する。例え一時の夢であっても、当方は、アヤメに笑顔でいて欲しい」
「笑顔、笑顔か……そうだな。『分かる』なんて気安くは言えないが、それでも分かるさ。俺だってイオリにはずっと楽しく、笑顔で過ごしてほしい。涙なんかより、その方がいいに決まってる。現実問題、そう簡単にはいかなけどな」
そういうロイドに対して、アインが黙して明かさずにいることが1つだけある。それは
「何か問題があるのか? と疑問を提示する」
「単純に、自分とイオリの娘だってことをありありと突きつけられてな……」
具体的に言えば戦闘者として感じる魔力の質や、何よりも口にはしないが匂いが、ソレだ。どちらも、自分とイオリが混じっている。根本的な部分から。否応なしに、自分の存在をこちらにだけ突き付けてくる。下手な理屈より直接、戦闘者として研ぎ澄ました感覚を打撃していた。
「それは、何も問題ないことではないのかと思案する」
「……アヤメに対して色々してやりたいと思うのと同時に、イオリに対して割とムラッとしてる自分に気が付いてな。いやはやほんと、イオリを馬鹿にできない話だよ」
単純な話だ。いきなりで、準備も無しで、突然やってきた、子育てというものを経験せず、自分達ではない自分達が育てた自分の娘。だとしても、短いほんの僅かな時間しか共に過ごしていなくても。娘と過ごす時間は楽しいし、何かあれば助けてやりたい。そして、自分たちの子供ともこういう時間を過ごしたい。そう思わせるには、十二分なほど色々なものが濃密に過ぎた。
「それに、こうまで楽しそうで幸せな光景を見せつけられたら……まあ、色々とな」
イオリがはしゃいでアヤメを着せ替え人形にしているのも、多分そこが由来しているのだろう。破滅の未来と一緒に、幸いな未来も見えたのだ。だったらもう、躊躇と自制心がブレーキとして働かなくなるまでは秒読み段階に入っている。
「当方には、理解不能だと断定する」
「確か、君もアヤメも体の機能がおかしくなってるんだっけ? だとしてもきっと、下世話な部分は除外するとして、理解できる日は来ると思うよ。君がアヤメを愛している限りね」
人は人との繋がりを求める生き物だ。だからいつかは至るかも知れない、そんな未来があってもいいと。ロイドは言外にそう言っていた。
「だが、良いのかと疑問する。貴方からすれば当方は、娘を奪っていく彼氏であると考える」
「確かに『どの馬の骨とも分からんやつに、娘はやらん』とかは言ってみたかったけど……君、ほんの少しだけど俺の血も入ってるだろ? 例の
そう何気なく言ったロイドの言葉に、アインが目を一瞬だけ見開いた。先程あえて自分がぼかした部分を正確に言い当てられたのだ、驚くなという方が無理な話である。
「肯定するが、否定する。肉体情報的には混ざっている可能性があると聞くが、当方にはその当時の記憶がない」
「だとしてもまあ、少しはお父さんっぽいことをさせてくれ。お義父さんでもいいが──って、文字にしなきゃ伝わらないか、これは」
「……否定する。少なくとも、当方は認識した」
「そうか」
ガサツに、だが優しく撫でられた頭を不思議そうに触りながら、アインは呟いた。アヤメにとってもアインにとっても、この世界に来てから初めて経験することが、あまりにも多過ぎた。
「お話をしてるところ悪いんですけど……俺も、混ぜてもらっていいですかね?」
と、2人がそんな話をしていた時のことだった。ログハウスの中からまた1人。少しくたびれた様子のモロハが顔を出した。そのままよっこいしょと、2人の近くに座り込む。
「君は確か……モロハ君、で合ってたっけ?」
「肯定する。当方は構わない」
「それじゃあ、改めて。カケツキ・モロハです、ロイドさんにアインさん」
2人それぞれが、差し出された右手と握手する。それに少しモロハが驚くが、実際ロイドやアインにとって身体を欠損している人は特に珍しい者でもない。
異世界アヴルムにおいて、このロイドが生きている世界線の時代では、魔物とはお互いの領分を曖昧に区分しながら共存している。それ故に冒険者は廃業となっておらず、未だ一攫千金の夢を追う者も多い。しかし同時に身の丈に合わない敵に挑み、敗れる者も枚挙に立たないのだ。そんな相手に対して作る義手や義足が、武器防具を除いたキリノ武具店の最大の売り上げを誇っていたりする。
アインが生きる世界線の時代に於いては、もっと酷い。人と魔物の関係性が変わらない上に、悪魔という外敵との殲滅戦を前提とした世界大戦を経ているのだ。戦争を生き延びた人々に、身体が無事な人間など1人もいない。いるとすればそれは、末期戦に従軍した者か再生医療を施した者、あるいは奇跡の賜物だろう。リュートやレーナも片腕と魔術回路を。セプテントリオも繰り返しすぎた再生医療の弊害で一部の五感を、現代最強のアヒムですら己の精霊に致命傷を受けている。
「しかしこうして男衆だけで集まってみると、全員が義手か義足っていうのも珍しい共通点だな」
「肯定する。ここまで精度が高いものは、あまり見れるものではない」
「ものの見事に、全員身体を壊してますよね……」
そんなモロハの言葉に、全員がパートナーがいることもあり困ったような笑みが溢れる。
ロイドは幼い時分に左腕を。そして
モロハは左腕、左目、右足の膝から下、右腎臓に肋骨が一対無く、右聴力が消失、左聴力、味覚、嗅覚が鈍ったまま。
アインも心臓、肺、右目、左脚、右腕に加え一部の内臓、両肺、大量に失った血液と骨髄を魔剣が代用している形になる。
見ようによってはどころか、本来ならばどう足掻いても致命傷の満身創痍。それを義足や義手で補ってまで戦いを続けているのは、それでも守りたい人の為に、止まらずに歩みを続けている軌跡そのものだ。それがお互いにわかる以上、どこか親近感にも似た連帯感が3人にはあった。
「そういう意味では、最後に運ばれてきたユキ……だったか。あの子には、俺たちと同じようになって欲しくはないな」
「肯定する。争いのない時代で、仮想現実を楽しむゲーム内から飛ばされたと聞いた。しかしあんな視線をしていた以上、当方達ですら知らぬ深淵に触れている可能性はあると警告する」
「ですが、あの2人を守ろうとしてそうなってたみたいですし。話し合いは通じると思いますよ、きっと」
実際この後、本来丸一日は眠っている筈のユキが数時間後に目覚め、3人がかりで鎮圧することになる。それをきっかけに男性組は打ち解けるが、それはまた別の話。
「……まあ、なるようにはなるか」
「ここまでの過剰戦力であれば、何も悪いようにはならないと推測する」
「そうですね……その分、ちょっと俺たちは肩身が狭いですが」
いっそ全員女装とかもありなのではなかろうか。そんなお巫山戯混じりのモロハの言葉に、当方は……構わないとアインが引き気味に肯定しつつ、ほぼ三十路にそれはキツいとロイドが首を横に振る。
全員、基本的に細身であるので似合うこと。そんなことを言ったが最後。イオリや一緒になってはしゃぐアヤメ、楽しそうなので悪ノリする愛鈴やセナ。実はのり気のエウリを、藜だけで止められる筈もなく。全員が綺麗に女装させられることは秘密である。
そんな未来を、戦場を駆け抜けた直感で察知したのか。全員が少し顔を青くして、嫌な悪寒のようなものを感じていた。即ち、今ログハウスに戻ったら──
「……取り敢えず、鍛錬でもするか!」
「残念ながら、当方は近接は不得手だと申告する。だが、滅多にない機会である以上、手合わせを所望する!」
「そうですね。俺も、出来る限り色んな技術を吸収しておきたいですね!」
そうしてロイドは刃翼と双剣を構え、アインは聖剣である銃を構え魔法の展開準備を整える。モロハも愛槍を手に取り、チートである肉の鎧を戦闘起動。全員が散開して距離を取った。
「念のため聞いておくが、全員真剣と実弾だが大丈夫だよな? 万が一の場合、一応俺は風系の回復魔法を使えるが……」
「肯定する。当方は全属性の回復魔法が使用可能だ」
「最近吸血鬼として再生の魔法を覚えたので、こちらも何とかなると思います」
それはつまり、全員が自分で自分を癒すことが可能であり、全員が同時に戦闘不能にでもならない限り致命的な事態は起きない証左に他ならない。よって、四肢を飛ばしたり致命傷をつけない範囲であれば、全力を振るえるということだった。
「冒険者式の戦闘術だから、割と最終地点が殺すことにあるのは許してくれ」
「それを言うならば、当方も似たような物だと否定する」
「同じく。隻腕と見くびらないで下さいね?」
三者三様に笑みを浮かべ、空と、前方と、後方と、それぞれの方向に地を蹴った。
短編後やる気になったイオリンが、銀灰ルートに派生する原因を10個ほど異世界を滅ぼすことで解決しますが些事ですね。