東方永久録   作:ゆったり

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UAがいつの間にか1000を超えてもうすぐで2000になっていました。

ご愛読していただいた方には感謝です。




十二時 鳥、羽ばたく

時を幾何か遡った地上での出来事だ。

太陽が沈み、周囲に夜の帳が下りたころ、魁は天上で輝く満月を見つめていた。

雲一つ無い夜空に輝く月は風情があり何とも美しいものだが、魁の表情は穏やかではない。

それもそのはず、今、月では妖怪と月人ががぶつかり合い己の聖地を汚されているからに他ならない。

しかも妖怪を率いているのは自分がこれまで目を掛けてきた娘である紫なのだ。

紫に渡した宝玉〝不死鳥の青眼”から見える光景が何よりの証拠であった。

 

「やはり、君は動いたのか……。私の言葉を無視して」

 

魁は確かに怒りを覚えている。

だが、それ以上に憐れみが沸き立ち紫に怒りを向けることができないでいた。

人間が月に進出するのは構わないが、妖怪が月に踏み込むことは山背の末弟が許すはずがない。

魁はそれを知っているからこそ紫に怒りを向けられないのだ。

紫は策をもって晋の目を掻い潜ろうと考えているが、そう上手くいくはずがないのだ。

妖怪がいかに頭を働かせたところで山背の一族は理不尽とも呼べる力で捻じ伏せてしまうだろう。

月に踏み込んだが最期、紫が生きて戻れる確率は零と言ってもいいのだ。

 

「君が思っている以上に晋は賢しく強い。今の君では晋の遊戯ですら生き残れない。」

 

魁の脳内に弟の晋の姿が浮かぶ。

何時もふざけた態度をとり、常に誰かを挑発し相手の反応を楽しむ性質の悪い弟である。

そして、誰よりも秩序を重んじていた。

自分という秩序の下に生物は集まるのだと。

山背晋こそが正義であり、山背晋こそが頂点なのだと考えて疑わないのだ。

自己中心的ではあるが、晋の考えは唯一神の考えに他ならない。

人の言葉を借りるのならば〝絶対王政”や〝独裁政治”といったところである。

山背修がそうであったように、山背の一族は他種族を蛮族と蔑んでいる。

独裁者である彼が蛮族である紫を発見すれば一体何をしでかすか想像もできない。

 

「らしくないわね。シャキッとしなさいよ」

 

座り込んでいた魁の頭めがけて一本の傘が振り下ろされた。

考え込んでいた反応が遅れた魁は、脳天に強烈な一撃をもらうこととなってしまう。

残念なことに振り下ろされた傘の威力は相手の目を覚まさせるには十分すぎた。

恐らく、巨大な岩石すら打ち砕くであろう一撃をもろに受けた魁の頭部は地面へと一直線に吸い込まれていき、魁は土の味を確認する。

 

「……何をするんだ」

 

「割と本気で殴ったのに何ともないなんて流石お父さんね。でも、ウジウジと萎びてるお父さんなんて気持ち悪いだけだから、一発いかせてもらったわ」

 

下手人の正体はやはり幽香だ。

萎びている魁が気持ち悪いから殴るなどどうかしているとしか考えられないことであるが、これが彼女なりの慰め方である。

魁だから耐えられるのであって他の妖怪や生物であれば慰められると同時に殺されてしまうだろう。

珍しく、幽香は魁を睨む付けいった。

 

「あのスキマ馬鹿が何をやらかしたなんてしらないわ。きっとお父さんが失望しちゃうほどの馬鹿をやらかしたんでしょうけど、お父さんは何もしないでそこでボケっとしているだけなの? 昔だったら拳骨の一発や二発をお見舞いしたでしょうけどね」

 

「そうだ。紫は私の忠告を無視して月に向かった。だから、私は怒っているのだ」

 

「怒ってる? こんなところで座っていたってあのスキマに伝わるとでも思ってるの? だったら、お父さんは相当な馬鹿ね」

 

苛立ちが込められた言葉で魁を叱咤する幽香。

何時も父よ父よと甘えている彼女からは想像もできない姿であった。

そして、自分の言葉にも一向に態度を変えない魁の頬にまたも傘を振るい、殴りつける。

先ほどの一撃よりも強力で魁は羽虫の如く吹き飛ばされてしまった。

 

「私もね、怒ってるのよ。紫のやつを殴りつけてやりたいわ。でも、本人がいないんじゃどうしようもない。だけど、都合よく八つ当たりしてもよさそうなのがいたから殴らせてもらうわ」

 

「紫は月にいるのだ。どうやって向かえと?」

 

「どうせ月に行くことなんて朝飯前なんでしょ? ほら、立ちなさいよっと!!」

 

「ガッ……。な、殴ることはないだろう」

 

幽香がこれまで魁を殴ったことはなかった。

捻くれていじけている父の態度が彼女の逆鱗に触れたのか必要以上に攻撃を繰り返す。

だが、幽香からしてみればこれは暴力ではなかった。

言葉に一向に反応を示さないのであれば拳に思いを込めればいい。

伝わるかどうかなどはどうでもいい事で大事なことは己の感情をいかに魁に伝えるかである。

魁からすればとんでもない迷惑かもしれないが。

 

「お父さんは昔からよく言ってたわ。悪さをしたら拳骨。悪さをしたらお仕置きしてお説教だって。〝お仕置きとお説教をするのはお前たちを愛しているから”だって言ってたじゃない。それなのに、本当に何もしないでいいの?」

 

「……………」

 

「お父さんは、紫を愛していないの?」

 

―――その時であった。

閉ざされていた魁の目が開いたのである。

長きにわたる幽閉によりその光を失ったとばかり思われていたが、今こうして輝いている。

魁の目は海よりも空よりも青く美しかった。

初めて見る魁の眼に幽香は驚き振りかざしていた拳を下げ、しばらくしてその眼の美しさに見惚れる。

そして、青眼が淡く光り輝いたかと思うと魁の狩衣の左袖が消失し手には金属のグローブが装着され右袖が手を隠してしまうほどに伸びた。

突然の変化の数々に幽香は何が何だか分からない様子であるが、魁は落ち着いた様子で答える。

 

「……何を迷うことがあったのだろうか。私が間違っていた。やはり、悪戯娘を放っておくわけにはいかないな」

 

「お父さん、眼が……!!」

 

「驚いたかい? それにしても、月程ではないがこの世界も美しいものだ。心で世界を見るよりも実際に見たほうが素晴らしい。では、行こうか」

 

「行くってどこに?」

 

「君が言い出したことだろう。紫のもとへ、月へと向かうのだよ」

 

先ほどとは打って変わって生気に満ちた声で答える魁。

その声に戸惑いを隠せなかった幽香の顔もみるみるうちに笑顔が戻ってきた。

漸く父が調子を取り戻してくれたことは幽香にとって何よりも嬉しいことであった。

だが、冷静に考えてみたときにある疑問が浮かび上がってくる。

 

「……さっきは勢いで言っちゃったけれど、月に向かう方法なんてあるの?」

 

「あるさ。私の能力を使えば何処へだって行ける。さあ、私の手を掴みなさい」

 

にわかには信じがたいといった顔で魁の手を握る幽香。

しかし、魁ができると言ったのだから何だってできるのだ。

更に何かを感じ取ったのか、小屋でのんびりと羽を休めていたはずの銀が大急ぎで魁の肩に止まる。

二人の手が握られた瞬間、瞬きするよりも早く渦に呑まれるようにして消え去ったのだった。

 

 

★★★

 

 

「さあ、着いた。ここが月、私の故郷だ」

 

瞬間移動とでもいうべきか、二人はあっという間に月に到着することができた。

魁にとっては懐かし景色に少々興奮しているのか普段よりも声が弾んでいるように聞こえる。

一方の幽香はというと、魁の驚くべき能力よりに言葉を失うよりも早く、激しい眩暈と吐き気に襲われていた。

必死なって口元を押さえながら魁を睨み付ける。

 

「……すまないな。初めて体験した者が大抵吐くことを伝え忘れていた。銀は……無事のようだな」

 

幽香とは違い、銀はまるで何ともないと語るように無表情を貫いている。

鳥に負けたというのは幽香のプライドが許さないであろうが、相手が悪かったとしか思えないのだ。

流石は魁が捕えた鳥だと再認識しその出鱈目ぶりを再び見せつけられることになった。

何とか調子を整えるとふらつく脚に力を込めて立ち上がる。

 

「この感じ……。どうやら、急がなくてはならないのだが、私は挨拶をせねばならんようだ。幽香、先に君を紫のところまで飛ばそう」

 

「挨拶って何よ。もしかして月にいるって言ってた弟に?」

 

「いや、弟ではない。この地を荒らしている不届きものがいるようでな。少し懲らしめてやる必要がある。……紫を頼んだぞ」

 

返事を聞くよりも早く、魁は幽香を能力で移動させた。

今度は触れることなく移動させたあたり、瞬間移動を使う上で相手に触れる必要はないにかもしれない。

魁は紫と弟が交戦していることを知っている。

今すぐにでも助太刀してやりたいところであるが、魁は助けに向かわなかった。

先ほど紫を助け出すと誓ったのに何故いまさらと考えたいところであるが、月に来て魁はある違和感を感じ取った。

そして瞬時に原因をも導き出し、ある結論に辿り着く。

 

「……我が聖地を再び穢すとは。やはりあの時滅ぼすべきだったのか」

 

魁の心は燃え上がっている。

怒りの炎で燃え上がっていた。

これまで誰にも見せたことがない凶悪な表情、冷酷な眼光は一睨みで生物を殺してしまうほど鋭い。

一歩一歩と大地を踏みしめるごとに魁の怒りが増し、その気迫に地面は裂け、転がる岩石は浮遊し砕け散る。

本当に触れてはいけないのは龍の逆鱗でも神の怒りでもなく、彼ら旧月人の怒りなのかもしれない。

彼らの怒りは天災すれも凌駕する恐怖そのものであった。

そして、魁の怒りを強調するかのように魁の口からは黒い靄が吐き出される。

吐き出された靄が顔を包み込むが青眼は靄の下からでも確認できるほどに強く輝き、青い二点のみが見える。

さらに、魁が人であることを掻き消すかのように、頭部から二本の角が後方に向かって伸びた。

その姿はまさに以前、魁と戦った修と酷似している。

修のように複数の腕をつくりだしてはいないが、今の魁が化け物であることに変わりはない。

完全に靄が顔を包み込むと歩くことを止めると足に力を籠め大きく跳躍し移動した。

 

目指す場所はただ一つ、妖怪と月人の決戦場である。

流星の如く凄まじい勢いにより能力を使う必要もなかった。

着地した魁が目にした光景は魁の想像通りのものであった。

火の海の中で燃える妖怪の死体や黒焦げの四肢に兎や月人の亡骸。

血と肉の焼ける臭いの中で一際目立つ金属の人形が魁に銃器を向け臨戦態勢をとっていることも見える。

そして、人形の後ろに隠れている月人達もだった。

 

「穢れなき聖地。それがこの月であるのだが、この光景はなんだ? この聖地が穢れている……」

 

「月人、兎、責任あり」

 

「―――なっ!?」

 

魁の問いかけに答えたのは七色の機械人形であった。

そして、その答えに綿月依姫は目を見開く。

本来ならば攻め込んできた妖怪側に責任があるのだから当然である。

だが、そんなことはお構いなしとばかりに魁は言う。

 

「何を驚いている? 妖怪とは穢れが生んだ化け物だ。知能が低く、凶暴な者が多い。例外に賢い者もいるがごく僅か。だが、君達はどうだ。知能も高く、考えることもでき優れた道具まで備えている。それなのに君達は獣と同じ目線で、同じ土俵で戦っていて恥ずかしくないのかい?」

 

魁の言葉は依姫の反論を許さないかのように流れ出る。

聞く方である依姫も悔しさに手を握り締め、歯を噛みしめることしかできない。

兎達は突然現れた悪魔の如き化け物にブルブルと震え、怯えるだけであった。

それでも魁の言葉は止まらない。

 

「恥ずかしいことに君達は獣と同じ目線で動くことを決めた。後のことも考えずに。君達の頭脳は愚か者であったように君達もまた愚か者である。君達の罪は……重い」

 

「ち、違う!! 全て山背晋が原因です!! 奴が全てを掻き乱し滅茶苦茶にしたのです!!」

 

依姫は振り絞るように答えた。

自身の中に蠢いていた晋に対する不満をなんとか吐き出してみせたのだった。

そしてそれが依姫にできる精一杯の反論でもある。

だが、今の魁に慈悲など無い。

 

「それならば、君達はたった一人の人間に踊らされたというのかい? それこそ恥ずかしいと思わないのかい。どちらにしても、君達にこの聖地で生きる価値はないのだよ。……晋は恐らく、これを理由に君達を絶対的に服従させようとしたのかもしれない。君達には関係のないことか」

 

「ま、待って!! 生きる価値はないってどういうこと!? 私達に何をするの!?」

 

魁の言葉からくる恐怖にとうとう耐えきれなくなった玉兎が声をあげる。

銃を持つ手は震え、目から涙を流しながらも恐怖に向かい合い精一杯吠えた玉兎であった。

しかし、それは今、最もやってはならないことでもあった。

 

「言葉を慎しみなさい。玉兎が……二度も私を失望させるな」

 

魁は両腕を斜めに開き、その後、軽く肘を曲る。

すると、魁を除く者全の周りに無数の札が出現し、依姫達月人や玉兎を取り囲んだ。

札一枚一枚全てが強力な破魔の力を秘めており、一斉に作動すれば月人であっても死は免れないであろう。

そのことを本能で察知したのか依姫は刀を振るい札を切り裂こうと試みるがまるで歯が立たない。

神々の力が宿る神剣でも旧月人からすれば爪楊枝にも劣るのかもしれない。

 

「せめて痛みを知らず安らかに眠るがいい。穢れと共に浄化せよ……」

 

「お待ちください!!」

 

背後から聞こえた声に魁は手を止めると振り返り、声の主を睨む。

そこにいたのは金髪の月人であった。

魁の記憶にも存在する彼女は綿月豊姫である。

そして、魁が彼女を睨むと同時に破魔の札が豊姫の周囲に出現したのであった。

だが、豊姫は怯むことなく魁を見つめて言う。

 

「貴方の仰ることに反論することなどできません。……私達は罪を受けねばならないのです」

 

「ならば消えろ。隠れず出てきたことは関心だが、君も例外ではないのだよ」

 

「……裁かれる側がこのようなことを言うのはおこがましいですが」

 

最期の言訳を聞こうとでもいうのか、魁は手を下した。

だが、札は依然として空に浮いているところから、魁がいつ攻撃してもおかしくはない。

豊姫は両膝を折り曲げ、両手を地に付け、額までも地面に落として座った。

妹である依姫はその光景に誰よりも驚いていた。

依姫が師の次に尊敬する人物があっさりと誰とも知らない男に屈している。

依姫にとってそれは衝撃的であった。

 

「全てはこの愚かな私の所業。私の命令で動いた彼女達に罪はございません。どうかその札で無に帰すのは勘弁願えぬでしょうか……」

 

「お姉様!!」

 

全ての罪は自分の責任だと弁明する。

確かに、司令官として軍を統括していたには豊姫で間違いない。

全責任を彼女が負うというのも真っ当な意見であると考えられることだった。

だが、魁は豊姫の命がけの訴えを聞くと体を震わせてクスクスと笑いだしたのだ。

初めは豊姫にも聞こえないほどの小さな声だったが、しだいに声は大きくなり、戦場全域に響き渡る。

 

「君以外に罪は無い? この地に住む君達に罪がないはずはない。この聖地に住む生きる死ぬそれだけで罪なのだよ。君一人に罰など与えはしない。君達全員に罰を与えよう」

 

「―――っ!!」

 

豊姫の説得も空しく魁は両腕を上げ札を発動させる。

眩い浄化の光と熱が豊姫達を包み視界が光で潰される。

札が全て消滅すると、今度は辺りが静寂に包まれ、眩んだ視界も戻った。

魁の破魔の札によって全てが浄化されたかに思われたが……。

 

「生きて……いる」

 

豊姫達は消滅してはいなかった。

誰一人として傷を負った者もおらず、ましてや死人すらいないのだ。

 

「愚かな君達に死刑は些か軽すぎる。君達の罪は這い蹲って生き、死ぬことだ」

 

魁の下した罰は確かに死よりも重たいものとなるであろう。

穢れなき聖地では殺されること以外で死ぬことは殆どない。

だがそれは月に残る旧月人である山背晋の支配を受け続けることになるのだ。

それは残酷で血を吐き続けるマラソンのようでもあった。




皆さんどうも私です。

近々フットサルの大会がありまして、キーパーとして出場いたします。

小説の方はこれからもゆったりとひっそりとやっていこうと思っております。

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