東方永久録   作:ゆったり

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十三時 約束

「先ずは前菜。お召し上がりください」

 

スキマから発射された大量の妖力弾が晋目掛けて一直線に進む。

無数に展開されたスキマ一つ一つからの攻撃に死角など存在せず、確実に晋を討ち取りにきていた。

しかし、晋は依然として座ったままであり、避ける気などさらさらない。

杖で地面を軽く突くと金属柱が飛び出し晋を包み込むかのように形を変え妖力弾を防ぐ。

何らかの手段で防御または回避をしてくるであろうことは紫も予想していたことであるが、これほどまでにあっさりと防がれるとは思ってもみなかったようだ。

いきなり出端を折られた紫であるが、気にすることなく次の攻撃に移る。

すぐさま金属ドームの中にスキマを繋げ、更に藍のものと合わせて二つの妖力弾を放り込んだ。

 

「やったか……?」

 

ボソリと呟く藍であるが、旧月人はどこまでもしぶとかった。

金属ドームが解体され、地面に沈んで行くと中からは光沢を放つ繭のようなものが現れる。

甲高い音を響かせながら繭を破って出てきたのはやはり晋であった。

完璧な追撃であったが一歩およばなかったのだろうか。

逃げ場の無いドーム内にスキマを繋げられた瞬間、ドームをつくったのと同じ原理でより小さい繭を作り出したのだ。

そして、反撃とばかりに杖を突きたてると今度は金属柱が生き物のように動き、二人に襲い掛かる。

いくら妖怪といえど、この攻撃をくらうのは不味いのか、空中へと逃れる。

しかし、柱は伸び続け、しつこく二人を追い回した。

スキマを展開し迫りくる柱を取り込もうと試みるものの、取り込んだ途端に枝分かれし、再び動き出してしまう。

撃破しようにも二人の攻撃では傷一つつけることはできなかった。

 

「余との遊戯はもうお仕舞なの? いつまでもボッコで遊んでないで余と遊ぼうじゃないの」

 

「……でしたら」

 

紫は狙撃でもするかのように空中から妖力弾を放つ。

全力で撃った先ほどとは比べ物にならないほどか弱い一撃であるが、狙いは正確。

何もしなければ晋の眉間を撃ちぬいただろうが、杖で簡単に弾かれてしまった。

だが、紫の目的は苦し紛れの狙撃などではない。

大事なことは晋が杖を引き抜いたことにあるのだ。

晋が金属を操るような行動をした中で共通して、杖を地面に突き刺していたことに気が付いたのだ。

現に杖を引き抜いた今、紫達を追い掛け回した金属柱の動きは停止している。

しまったと顔を歪ませた晋は急いで杖を振り下ろすが、手ごたえも感じず金属も動かない。

見るとそこにはスキマが展開されており、杖を飲み込んでいるではないか。

流石の晋もこれには驚くことしかできなかった。

 

「叔父様のその杖、中々面白い力をもっているようですわね。でも、タネがわかれば怖くはありませんわ」

 

「う、嘘でしょ……!! もうこの杖の力がわかったの!?」

 

「今度使うのなら、もう少しさりげなく突き刺したほうがいいですわ。あんなにも露骨にしたら、賢い者ならばすぐに見破ってしまいます。私のように」

 

戦慄する晋の背後にスキマが展開され、藍が研ぎ澄まされた爪を突き出し晋の心臓目掛けて飛び出す。

背後の殺気に気が付いたのか自然と振り返ってしまう晋であるが、もうどうしようもなかった。

晋が振り返るのと同時にがら空きとなった背後にまたもスキマを展開し、今度は紫自身が飛び出し晋の胴体を狙う。

敵の策を完全に潰した紫であるが、あの父の弟である晋が相手なのだから油断はできない。

隙を突いて攻撃しても己の実力でこちら側も作戦を叩き潰してしまうおそれがあったからだ。

藍との連携で上手く背後を取ることができたが、すでに晋は反応して振り返っており、どんな隠し玉をつかってくるか分からない。

だからこそ二重の不意打ちをもって確実に晋を葬ろうというのだ。

 

「ちょ、おまっ……!!」

 

「殺(と)ったぁ!!」

 

勝利を確信した藍は少しばかり早い咆哮を上げ、迷うことなく弾丸のように突き進む。

いかに身体能力が高くとも、この攻撃を避けることはできないだろう。

仮に避けられたとしても、厄介な力のタネも主と己の連携が通用したとわかっただけでもお釣りがくることであった。

紫も同じように考えていたのか勝ち誇ったかのように微笑みを浮かべている。

紫が恐れていた月最強の戦士を倒すことが出来れば、月の技術は全て紫のものとなり、妖怪の楽園を築く上で何よりも力となるであろう。

そして、神さえも圧倒した父と肩を並べた存在となり、全妖怪の頂点に立つことも夢ではなかった。

山背晋さえ倒せば全てが手に入る。

彼女が望む全てのものが手に入るのだ。

二人の妖怪は勝利を確信し、晋は目を見開き動くことも出来ず二人の手が晋の身体を貫(つらぬ)―――

 

「……なーんちゃって」

 

二人の手が晋に届くあと一歩のところで恐怖に怯えていたはずの晋の顔に邪悪な笑みが浮かべられた。

あまりの凶悪さに恐れの象徴である妖怪の二人も背筋に寒気を覚えたが、もう遅い。

地中から再び金属柱が伸び、針のように鋭い先端が二人の腹部を貫いた。

神経が麻痺してしまったのか叫び声一つ上げることが出来ず、一体何がおこったのかも理解できないようである。

確認できることは、完全に劣勢であった晋がいつの間にか醜く笑い、紫達を陥れたこと。

痛みを感じることがなかったのはほんの一瞬のことであり、激しい痛みが二人を襲い、現実へと引きずり戻した。

 

「世の中にはねぇ、二通りの馬鹿がいる。それは頭が悪いやつと、自分を賢いと思い込んでるやつ。ククク、紫ちゃんはどっちだろうね、ぶわぁか」

 

「ひ、卑怯な……!!」

 

「卑怯? それは敗者の言訳でしかないよ。それに、卑怯なのは君達だよ、藍ちゃん。余、言ったよね。肉体による打撃は禁止だって」

 

晋の言ったように卑怯者は紫達で間違いはない。

しかし、これは晋の言う遊戯での話であり、遊戯そのものも晋が勝手に始めたことである。

生死を賭けた戦いを挑んでいる紫達からすればおふざけもいいところであった。

だが、晋にとってこれは遊戯でしかない。

如何に二人が真剣に戦っても晋にはお遊びとかわらないのだ。

 

「ま、まさか杖での行動が囮だったとは。わ、私もまだ…ぐっ」

 

「ごめんねぇ紫ちゃん。余は紫ちゃんがこんな露骨(・・)な罠にかかるとは思っていなくてね。余は能力を使うのに道具なんて必要じゃないの。〝金属を操る程度の能力“これ、余の能力ね」

 

たった一撃ではあるが深手である以上、妖怪であっても声が震え、苦痛に顔が歪む。

呼吸も荒く、嫌な汗が吹き出し視界も霞み正に絶体絶命であった。

もがけばもがく程身体が杭に深く刺さり苦痛を与えるのだが、急所を貫かれた二人には抵抗する力もない。

杭からは得体のしれない力が流れ、二人の身体に入り込み妖怪特有の強靭な生命力治癒能力も乱されていた。

地上を代表する二大妖怪がなす術なく敗北した瞬間である。

 

「ククク、遊戯を続けたいところではあるけど、君達は脱落かな?」

 

「ゆ、紫様……お逃げ、くだ、さい……!!」

 

藍は最後の力を振り絞り妖力弾を放ち攻撃する。

しかし、晋は虫でも払うかのように腕を振ってこれを弾き飛ばし、二人に希望すら与えない。

弱っているとはいえ、九尾の渾身の一撃を片手で弾くなど手が付けられるような存在ではないのだ。

 

己を脅かすような一撃ではなかったが、既に虫の息となった者から攻撃されたということが晋は気に入らなかった。

やらしい笑顔の顔が瞬きする間もなく憤怒に染め上げられる。

懐から銃を取り出し、銃口を藍へと構える。

 

「余は兎の反抗すら許さん。死に損ないの貴様が余を侮辱するか。よかろう。主よりも先に地獄に落ちるがいい……!!」

 

「―――ッ!!」

 

ズドンと鈍い発砲音と共に銃口からはエネルギー弾が放たれる。

狙いは勿論、藍の眉間ただ一転であり寸分の狂いもない正確な射撃であった。

至近距離である上に藍は既に限界で、とてもではないが避けることなどできない。

眼を閉じで主に先立つ不孝者であることを詫びる暇など与えず、光弾は藍に命中した。

だが、藍は死んではおろか、傷一つ付いていない。

 

「下僕の面、倒は……主が、見るものですわ」

 

「貴様ぁ!!」

 

藍を救ったのはやはり紫であった。

よく見ると、藍の眉間にはスキマが展開されている。

命中ギリギリで何とか凶弾を除去することには成功したようであるが、さらに晋の怒りをかうこととなってしまった。

最早、姿勢を正しく保つこともできない紫にはもう何もできない。

体力は既に限界で藍を助けたのを最後にもうスキマも展開できないだろう。

 

「揃いも揃って余を侮辱しやがって……!! 貴様らを始末した後は、地上の蛮族全てを浄化してやる!!」

 

藍に向けていた銃口を紫に向けなおす。

怒りに燃える晋に対して紫はどこか冷静そうな様子であった。

闘志も生気も尽き果て、抵抗しようとも考えられぬ程に弱り己の死を疑わないでいる。

藍が出せる限りの声をおくっているが紫には届いていないようだ。

視界が霞みおぞましく歪んだ晋の顔すらも見えなくなると、ある光景が頭を過る。

 

★★★

 

「どうして、そういうことをするのだ」

 

切っ掛けは単純なことであった。

森の中で大木の影に生えていた苗木を見つけた幽香がこちらの方が良いと日当たりのよい畑の近く植えなおそうと考えた。

だが、紫は畑の近くに木があっては邪魔であると言い、木を引っこ抜くとへし折ってしまったのだ。

これを知った幽香は激怒、取っ組み合いの喧嘩に発展し銀が魁に知らて駆けつけるまでの間ずっと殴り合い続けることとなる。

魁が駆けつけると紫は、大義は我にありとばかりに事の発端を伝える。

邪魔な植物から畑を守った己を魁は分かってくれると考えていたが、魁からもらったのは賛美でも称賛でもなく、今の言葉と拳骨だった。

 

「この地は皆の物だ。その幼き木にだって生きる権利はある。邪魔だからという理由で排除するのは余りにも野蛮だ。少しは幽香を見習えといつも言っているだろう」

 

幽香に殴られた頬よりも、ひっかかれた腕よりも、魁に拳骨を落とされた頭がズキズキと痛む。

自分は正しいと思って行動したというのに、怒られたのは自分。

そのことが何よりも悔しく、痛みとは別に涙がボロボロと流れ出る。

拳を握りしめ決して泣くまいと踏ん張っているが涙が止まらないのだ。

 

「お父様はいっつも幽香の味方ばっかり!! 私のことなんて嫌いなんでしょ!?」

 

「それは違う。私は君達二人とも―――」

 

「嘘ばっかり!! もう知らない!!」

 

感情が爆発した紫はとうとう泣き出し、森へと走り去ってしまった。

紫も幼いとはいえ妖怪であるため、年相応の人間の子供とは比べられないほどに速い。

魁が声を掛ける前に森の中へ完全に姿を消してしまった。

 

「わ、私、捜してくる」

 

「優しい娘だ。しかし、今回は私が行こう。君は服を着替えたほうがいい」

 

紫の雰囲気を感じとったのか、先ほどまで喧嘩をしていた幽香が捜索にのりだそうとするが魁はこれを制し己が行くと告げる。

それでも心配なのか、幽香は納得がいかないようであるが魁は無理やり家に追い返しっ自分は森に向かった。

紫がどこにいったのかなど魁は知りもしないが魁は迷わず進んでいった。

 

★★★

 

「うう……ひっぐ、えっぐ…。皆、皆大嫌い。お父様も幽香も銀も大っ嫌い……」

 

ジメジメとした深い森の中で紫は一人で泣いていた。

木を折ったのは悪気があったわけではなく、魁の畑のためにやったことである。

あの木が将来大きく生長すれば確実に畑の邪魔となることだろう。

それに、もともと巨木の影で枯れる運命にあった木なのだから折っても問題はない。

寧ろ余計な養分を吸い取る邪魔者を排除することができたのだから正しいのは紫なのかもしれない。

だが、魁は紫の行いを認めてはくれなかった。

 

「こんなところにいたのか」

 

泣くのに夢中になっていており、突然魁に声をかけられたことに驚く。

魁が現れたと分かると、嗚咽を無理やり飲み込み、涙を拭うと魁を睨んだ。

だが、幼く覇気のない赤く腫れた目で睨まれても誰も動じないだろう。

クスリと笑った魁は紫の隣に腰を下ろし語りかけた。

 

「私が君に拳骨を落とすのは何故だと思う?」

 

「私のことが、嫌い、だから」

 

「君のことが嫌いだとしたら、私は拳骨なんて落とさないよ」

 

嘘だ、と紫は声と視線で訴える。

しかし、魁は首を横に振り間違いであると告げる。

そんなことでは納得がいかないと拗ねる紫に魁は続けて言う。

 

「私は君達を愛しているよ。もし、君のことが嫌いなのならばとっくの昔に追い出しているさ」

 

「なら、追い出せばいいじゃない」

 

「紫を愛しているんだ。追い出すなんてできないさ。……悪さをしたらお仕置きと説教。これは私の祖父が教えてくれたことだ」

 

「…………」

 

「愛しているのなら、愛しい者が過ちを犯した時こそ厳しくあれ。本当に愛しているのなら、愛しい者を正しい道へと導け。拳骨と説教は照れ隠し、愛の証だとな」

 

「拳骨は余計よ……」

 

「そうかもしれん。実際に祖父の拳骨は痛かった」

 

ここで漸く紫は笑った。

先ほどまで悔しさと悲しみ一杯だった心もすっかり晴れ渡っている。

泣いていたことがまるで嘘のようであった。

そして、気が付けば紫は魁の手を握っていた。

 

「幽香も心配していた。君が走り去った後、すぐに追いかけると言っていた。まったく、仲がいいのか悪いのか」

 

「……まあ、嫌いじゃないわ」

 

「ならばよしとしよう。では紫、私の願いを聞いてもらえないだろうか?」

 

返事を聞く間もなく、魁は紫を抱きしめた。

これまた突然のことに驚く紫ではあるが拒む様子はない。

しばらくの無言の後、魁は耳元で優しく告げた。

 

「優しさを忘れないでほしい。他者を思いやり、過ちを許せる心を持ってほしい。巨木の影で朽ちる運命にあった小さな命であったとしても、助け合う心を忘れないで欲しい。例えその気持ちが何百回裏切られようとも……」

 

「……うんっ!!」

 

「誰かを思いやることが出来れば、必ず誰かが君を助けてくれる。私のように優しさをわすれてはいけないよ」

 

★★★

 

(走馬灯ってやつかしら? 我ながら無様な最期だったわね。……仲直り、してなかったわね。……ごめんなさい、幽香)

「消えろよ、ゴミ屑がぁ!!」

 

引き金を引き怒りのままに吠える晋。

紫は最後に父との思いでを思い出すことができ満足したのか安らかに微笑んでいた。

だが、凶弾はまたも狙いを撃ちぬくことはなかった。

とある乱入者が間に入り込み光弾を叩き飛ばして、晋へと跳ね返してしまったからだ。

 

「面白そうなことになっているわね。私も混ぜなさいよ」

 

遊戯はまだ終わらない

 




皆さんどうも私です。

戦闘ってやっぱり難しいですね。

アドバイスがあればよろしくお願いします。

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