東方永久録   作:ゆったり

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明日は大学の入学式です


十四時 どっちもどっち

「いい格好しているわね。見ていると心が晴々とするわ」

 

「ゆ、幽香……。来て、くれたの」

 

昆虫標本のように腹部に杭を打ちつけられた紫を見て笑う。

何時もならば反撃とばかりに言い返すところであるが、紫にはそのような力は残っていなかった。

期待した返事が返ってこなかったことに調子が狂わされたのか、ばつが悪そうに紫に近づき杭から身体を引き抜く。

 

「……まあ、文句は後でたっぷりと言ってあげるわ」

 

続いて藍の身体の杭を抜き取り、地面に寝かせる。

幽香に怪我人の手当てなどできないし、妖怪ならば放って置いても大丈夫だろうと結論付ける。

そして、最大の問題は足手まといの怪我人二人などではない。

 

「くそったれ。せっかく良いところだったっていうのに……」

 

煙の中から姿を見せたのはやはり晋であった。

服装の損傷が激しいものの、一切の外傷は見られず未だ健在。

 

「頑丈ね。あれくらいでは倒れないか」

 

「……ふぅ」

 

怒り狂い、目を血走らせ、暴言を吐き続けた晋が突然落ち着きを取り戻した。

先ほどまでも怒りが全て嘘であるかのようである。

熱くなりすぎ己の攻撃が弾き返されたことで冷静さを取り戻したのか、はたまた何かを悟り冷静でなくてはならなくなったのかは誰にもわからない。

事実として晋はたった一息で怒りを鎮めたということだ。

 

「余としたことが遊戯に感情的になってしまった。紫ちゃんが脱落してしまったが、代わりが来てくれたようで何より。余興はまだ続く」

 

「悪いけれど、遊ばれるのは好きじゃないの。……遊んであげる」

 

「では、そうしよう。―――能力の使用、これを禁ずる」

 

宣言と同時に飛び出したのは幽香だ。

手に持つ日傘を大きく振りかぶり、迷うことなく一気に振り下ろす。

単純な攻撃ではあるが威力は抜群であり、巨大な岩盤すら打ち砕くだろう。

だが、単純故に晋にはとどかない。

身体を直角に回すという最小限の動きで避けると、がら空きとなった頭部に手刀を振り下ろし反撃した。

 

反撃は面白いと思えるほどきれいに決まり、幽香の身体は地に落とされる。

だが次の瞬間、土埃を引き裂きながら傘の切先が晋の喉目掛け突き出された。

一瞬驚いた顔をした晋ではあるが、杖でこれを払いのけると煙の中の獲物を蹴り飛ばす。

蹴りは的確に幽香を捉えており、身体を〝くの字″に曲げて飛ばされた。

 

「瞬発力、筋力共に紫ちゃんよりも上だね。遊びがいがある」

 

「……能力の使用を禁ずる。あまり面白い制限とは呼べないわね」

 

「その上に頑丈と……。それで、この条件のどこが不満なの?」

 

「私の能力はあまり戦闘に向いていないのよ。だから、能力の使用を禁じたところで私にはあまり意味がない。それじゃあ、面白くないじゃない」

 

幽香の言葉に晋は目を見開いた。

能力の使用禁止は自分自身の動きを制限するものであり、幽香を有利にするための条件と言ってもいい。

だが、幽香の反応は〝面白くない″という不満であった。

 

「本気で来なさい。でないと貴方、どうなってもしらないわよ?」

 

ここで晋はこの発言が幽香の挑発であると結論付ける。

幽香もそこで横たわる紫達を見て晋が相当の実力者であることは理解しているだろう。

そして、最初の接触では自分の実力が晋にとどかないことも悟れたはずである。

ならばあの生意気ともとれる発言は少しでも冷静さを失わせ判断力を鈍らせるための可愛い作戦である。

平然を装っていても内心は震えているに違いないのだと決めつけた。

弱者の挑発というのは見ていて何とも微笑ましいものであり、分かりやすい。

だが、頭に来るか来ないかはどうやら別であった。

 

「あっそう」

 

素っ気なく答えると、瞬く間に幽香との距離を縮め、目前に移動する。

表情は笑顔であるが、お世辞にも温かい笑みとはいえず凍てついた笑顔であった。

 

「ちょっと本気出しちゃう」

 

強烈な衝撃が幽香の胸部に走り、その華奢な身体を押し飛ばした。

この一撃が晋の右ストレートであることに気が付く前に両足に力を籠め何とか踏ん張ってみせる。

 

「効いたわ、少しね。……それにしれも、乙女の胸を触るなんて、品がない男」

 

「中々の弾力だったよ。その胸にダイレクトアタックってね」

 

「―――ッ!!」

 

今度は幽香から晋に接近すると、お返しとばかりに顔面に渾身の一撃を繰り出す。

衝撃で晋が吹き飛ばされる前に腹部に膝蹴りを加えた。

地上最強の妖怪である鬼をも震え上がらせるであろう攻撃に流石の晋も無抵抗に弾き飛ばされ背中から着地する。

 

「おお、イテテ。効いたよ、少しね」

 

「顔は狙ってあげたの。少し凹んだ方がいいと思ったけれど残念、凹んでいないみたいね」

 

「あっそう。じゃあ、凹むまで殴ってみろよ」

 

両腕も上げ無防備を晒した晋。

己が嘗められているということに苛立ちを覚える幽香だが、この絶好の機会を逃しはしなかった。

地が抉れるほどの力で飛び出し、晋の左頬に傘を殴りつけた。

衝撃が晋の身体を傾けると振り切った腕を払い戻し、右足を刈り上げる。

晋の身体が宙へと舞い、地面と平行になったところで大きく振りかぶった傘を両腕で振り下ろした。

 

そして、反撃の隙を与えることなく次の攻撃が繰り出される。

素早く晋を掴み上げると、有無を言わさず空中に軽く放り投げ腹部に大振りの一撃をおくった。

衝撃により弾き飛ばされた晋を先回りし、その背後を取ると日傘をフルスイングし晋をかっ飛ばす。

 

「……ごめんなさい。ちょっとやりすぎだったかしら?」

 

岩山が砕け、その瓦礫の下に埋もれてしまった晋に対して余裕の言葉を残す。

今の攻撃はマスタースパークを撃つことはなかったものの、己の肉体で繰り出せる最高の打撃であることには間違いない。

紫や藍は勿論、まともに受ければどの様な生物もただで済むはずがない。

絶対の自信が込められた最高の技であった。

だが、幽香の自信はあっさりと砕け散ることになる。

 

「効いたよ、少しね」

 

晋の言葉には嘘も偽りもなかった。

埃を被り薄汚れてはいるが、重心は安定しており各部の痺れなども見受けられない。

左手に持つ杖で肩を叩きながら答えていることが晋の余裕の表れでもあった。

だが、晋は余裕であっても幽香に余裕などない。

 

「その場で考えた技なんかで余は倒せないよ。……月人の技、特別に見せてあげちゃう」

 

晋の行動は早く、幽香は反応することすら出来ず目前まで接近を許す。

怪しく笑う晋の顔を拝むことで状況を理解し一歩後退するが間に合うはずがなかった。

腹部に凄まじい衝撃を感じた刹那、幽香は地平線の彼方へと飛ばされた。

晋が大きく腕を振り切っているところをから考えると腕を棒のように打ち付けたのだろう。

 

 無抵抗に吹き飛ばされる幽香は最早石ころも同然であった。

吹き飛ぶ幽香を追い越し背後を取ると真っ直ぐに足を突き出し受け止める。

腹部の次は背部からの衝撃に背骨が悲鳴を上げ、肺が押しつぶされ幽香は声にならない叫びを吐き出した。

 

「そらっ」

 

 重力の従い崩れ落ちる幽香の前方に回り込むと今度は空高く蹴り上げた。

又も先回りしていた晋は弾丸のように迫り来る幽香に止めとばかりに肘鉄を落とす。

一瞬の内に想定外のダメージを受けた幽香に力など残されておらず、ベクトルを真逆に変え、流星の如く落下していった。

 

「ゆ、幽香……!! 今、助けに……うぐっ」

 

「紫様、まだ、動いては……」

 

 震える脚に鞭打ちやっとのことで立ち上がる紫に幽香を助ける力などない。

傷はもう塞がっているようだが完治はしておらず、藍の言うように動くにはまだ早かった。

それでも紫は隕石孔の中央で倒れている幽香を放っておけない。

 

「わぁお。泣けるねぇ健気だねぇ。でも、自分の心配をしなくちゃ」

 

 癖なのか、杖で肩を叩きながら二人に歩み寄る。

杖も持っていないもう片方の手は何かを掴み、引きずっている。

紫達がそれを幽香だと気づくのに時間はかからなかった。

ある程度の距離を置いたところで歩みを止めた晋は幽香をゴミのように投げ捨てた。

 

「中々面白かったよ。でもね、もう飽きちゃった。遊戯はお仕舞」

 

「こぉ、のぉ!!」

 

 晋の言葉に反応し急襲を仕掛けたのは藍であった。

傷がまだ痛むのか汗を大量に流し表情も重いが動きは一つも鈍ってはいない。

むしろ火事場の馬鹿力とでもいうのか何時もよりも鋭くキレがある。

 

「まだ遊び足りないのかい。でもさ、遊戯はもう終わりだよ」

 

 顔面を狙ったストレートが頭突きで相殺されると藍の拳から鈍い音が聞こえる。

拳が砕けてしまったようで血が滴り落ちるが気にせず無事である左の拳を振るうがあっさり掴み取られ、また拳が砕けた。

両手が使用不能に陥った藍であるが、すかさず尾を使った攻撃に転じようとするも晋の拳が彼女の鳩尾に吸い込まれえる方が早かった。

 

「ガハッ……!!」

 

「ごめんねぇ、痛かったでしょ? なんたって余の骨を金属に変えたんだからさ。〝金属を操る程度の能力″にはこんな使い方もあるの。そして、変えた金属の名はアダマンチウムと言ってね、重量は勿論のこと強度はあらゆる金属を超える。余の能力でのみ生産可能な金属さ」

 

 晋の能力は金属ならば自由自在に扱えるが、真髄は金属同士を変化させることにあった。

晋の能力があれば鉄は金に、金はアルミニウムという具合に変化させることが可能。

そして、晋の能力のみで生み出せるアダマンチウムは晋が説明した通り、無類の強度と重量を誇る超金属であった。

 

鋼を超える強度の拳をもろに受けた藍はその場でへたり込んでしまう。

潰れた藍の拳を離すと晋は毬でも蹴るかのように藍を蹴り飛ばした。

次に晋は右手にエネルギーを集めると藍目掛けて投げつける。

被弾した光弾は爆発することはなかったが藍を引っかけたまま飛び去っていった。

そして晋が服の埃を払い終えるころに黄色のエネルギーが爆発したことが確認できた。

 

「ら、藍ッ!!」

 

「ここで吹き飛ばしたら埃っぽくなるからね、遠くに逝ってもらったよ」

 

「……本当、性格悪い、わね」

 

「あら、幽香ちゃん起きたの? そのまま死ねばどれだけ楽だったことか。でも、余は優しいから一瞬で殺してあげてもいいよ」

 

「……外道が」

 

「あっそう」

 

 懐から銃を取り出し身も凍るような笑顔を向け引き金を引く。

だが、またも光弾は獲物を撃ちぬく事は出来なかった。

先ほどのように紫がスキマを作り出したわけでも晋が的を外したわけでもない。

晋の手首が何者かに掴まれ、天に掲げられたため光弾は真上に発射された。

気配を感じず、姿形も見えなかったが突如としてその場に現れたのだ。

山背魁が現れたのだ。

そして、彼の左腕には藍が抱えられている。

 

「お父……様……?」

 

 紫が見ている者は山背魁で間違いない。

だが、禍々しく顔を覆い尽くす黒い靄とそれを突き破る角と青い眼光が紫には恐ろしく、彼が魁であるのかと疑問を抱かせた。

幽香も同様であり、霞んでいた意識がハッキリと戻る。

その中で魁の身に何が起きたのかを理解した晋は冷や汗をかきながら微笑んだ。

 

「この聖地を穢されて怒るだろうとは思ってたけど……。その眼、まるで獣だね。魁兄ちゃん」

 

「…………」

 

 暫しの沈黙の後、藍をそっと下すと魁は晋の頬を殴りつけた。

左手に填められた金属グローブが甲高い音を立てて砕け散ったが晋は衝撃に耐えきれず飛ばされ地面に背を付ける。

 

「生憎、私は急いでいるのだ。君を相手にお遊戯をしていられるほど暇ではない。私の娘を返してもらおう」

 

「嫌だね。せっかく兄ちゃんが〝獣の眼光″まで使ってくれてるんだ、楽しまなきゃ損でしょ?」

 

「やれやれ、聞き分けのない弟だ。……君達も一度見るといい。これが私達兄弟の戦いだ」

 

 魁はどこか興奮しているようで何時もよりも好戦的な態度だ。

兄の言葉を了解と捉えた晋は爆音を上げながら魁に接近すると強化した拳で殴る。

顔を狙った大振りの一撃は首を動かすことで難なく回避されるが、地面から出現させた杭で背後を取った。

妖怪をも容易く貫く杭が魁の背中を貫く光景が幽香達の目に映る。

思わず声を荒げて叫び、駆け寄ろうとするも身体が動かない。

だが、魁の表情は分からないがどこ吹く風と言ったところでまるでダメージを受けている様子は見られなかった。

それどころか攻撃を外したことで隙ができた晋を手刀で叩き伏せる。

 

「〝出したり仕舞ったりする程度の能力″。祖父はそう呼んでいたが私はあまり好きな呼び方ではない。この能力は幅が広すぎるのだ」

 

「如何様野郎がぁ!!」

 

 砂煙の中から脱出した晋は魁の周りを取り囲む檻を形成し、隙間からは杭を打ち込む。

普通ならば原型を留めずミンチになるであろうが魁は普通でなかった。

魁はあろうことか杭と檻をすり抜け何事もなかったかのように歩いている。

服にも身体にも傷ついたような箇所はどこにもなかった。

 

 自分の能力がまるで通用しなかったことに苛立ちを覚える晋だが、無駄な感情を飲み込み次の行動に移る。

再び取り出した銃を使い距離を保ちながら引き金を何度も引き続けた。

だが、無数の光弾も魁をすり抜けていくだけで効果がまるでない。

 

「ズルいよねぇ。昔からそうだ。魁兄ちゃんに攻撃をあてるには兄ちゃんの反応できない速さで攻撃しないといけないなんて。如何様だよ」

 

「如何様とは君のことだろう。骨をアダマンチウムに変えれば無類の防御力と攻撃力を得られる。何時もの私ならば君の肉は斬れても骨までは斬れない」

 

「〝獣の眼光″恐るべしってところだね。じゃあ、余がそれを使ったら兄ちゃんに勝てるのかな?」

 

「試してみるといい。だが、それでも私には勝てないだろうが」

 

 青い眼光が晋を突き刺すように見つめている。

二人の月人の戦いはまだまだ終わることはないのだ。

 





 皆さんどうも私です。

大学生になろうともひっそりゆったりとやっていきたいですね。

眠いんで寝ます
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