「何でイサムは一人ですんでたの?」
ある日の昼過ぎ、三人で庭の花を眺めていると突然、幽香に尋ねられる魁。
それも不思議なことではない、妖怪である彼女からすれば脆弱な彼が一人で群れずに生活していることに疑問を抱かないわけがなかった。
紫も、どうなのよと言わんばかりにジッと魁を見つめている。
「人間はまだ幼い。私は彼らの成長を遠くから見ているだけさ。それに私はね、君達の言う“人間”という種族ではないのだよ」
「人間じゃないの? じゃあ、イサムはようかいなの?」
「妖怪でもないさ。」
「むぅ~。じゃあ、なんなの!!」
質問に曖昧に答える魁に苛立つ幽香。
魁はクスクスと笑い、「考えることも大切さ。」と幽香に返した。
勿論、そんな返答は望んでないと言うかのように魁を睨み付けるが魁は何処吹く風である。
「げつじん……かしら?」
「おや、紫。随分と物知りだね。」
「イサムがべんきょーは大事だって言ったんじゃない。それで、イサムはげつじんなの?」
「正解と言えば正解。だけど、不正解でもある。」
「ハッキリ言いなさいよ、ぶっころすわよ!!。」
「幽香……。ぶっ殺すなんて言うもんじゃない。君の品格を下げることにも繋がるし、何より周りを不幸にさせる。」
「おせっきょうなんてききたくないわ。」
説教を聞きたくないのなら、身体で教えるしかなく、口答えをした幽香に軽く拳骨を落とし、制裁を下す。
殴られた幽香も自分に非があると認めていたのか、涙目になりながらも文句を言わなかった。
そんな幽香をみて紫は喧嘩をふっかけるかのようにクスクスと笑う。
それを魁が見逃すはずもなく、幽香よりもキツめも拳骨を二発、紫の頭に叩き落した。
「“月人”ってのは、かつて地上の生息していた人間とその子孫のことさ。彼らは穢れというものを恐れ、月へと非難してきたんだ。」
「じゃあ、イサムは人間ってことじゃない。幽香のしつもんの答えとはむじゅんしてる!!」
「話は最後まで聞きなさい。月へと渡った彼らは先ず、玉兎という月の原住民を奴隷にして都を築こうとしていたんだ。でも、原住民はまだいたんだよ。それも、臆病な玉兎とは違って、強力な原住民がね。たった三人しか生き残ってなかったけれど。」
「その三人の中の一人がイサム?」
「そう。三人の原住民は兄弟でね。私はその真ん中さ。兄は彼らの幼さに絶望し月を去り、弟は彼らに希望を感じ、月に残ってあらゆる技術を教えた。まあ、随分と旧式の技術だったがね。」
「イサムは?」
「私か? 私は彼らに何も感じなかった。期待も絶望も希望も感じない。だから私は追い出された。彼らにとって私は最大の脅威だったからな。」
その後も紫は頭を摩りながら質問を繰り返し真剣に魁の言葉を聞いた。
魁もついつい紫の質問を返すのに夢中になり、時間を忘れるほどに没頭し、彼女の非凡な才に関心する。
そんな態度が嬉しいのか、紫も彼を関心させようと言葉を発する。
一方で面白くないのは幽香であった。
さっきまで楽しく三人で花を眺めていたのにも関わらず、今は難しい言葉が飛び交い自分だけ置い行かれたかのように感じてしまう。
時折、魁の袖を引っ張ったりもしてみるが全く気づいてくれなかった。
キラキラと笑顔を輝かせる紫とは対照的に幽香は今にも破裂してしまいそうな程に頬を膨らませている。
「さて、難い話は仕舞いにしよう。悪かったね幽香。つまらなかったろう?」
「べっつに~。そのままず~~~っとユカリとお話しててもよかったわよ~? あたちは一人ぼっちでも~さみしくないし~。」
「クスクスッ。ユウカったらおこちゃまね。そんなんだからおバカなのよ。」
「紫、君の非凡な才能は認める。だが、君に幽香を馬鹿にする権利はない。幽香には君にない優しさがある。キツい言葉で分かり難いが、幽香の優しさは君の才能をもってしても真似できない。さあ、謝りなさい。」
「……ごめんなさい。」
「いいわよ、別に…。どうせあたちはおバカだし。」
珍しく素直に謝る紫だが、幽香は完全に機嫌を悪くしていて拗ねたままである。
子供らしいと言えばそれで終わることだが、何時までもそのようではこまったものだ。
魁はやれやれと幼い妖怪に語りかける。
「いいかい二人とも。誰にだって長所と短所がある。勿論、個体差だってある。だけど、大事なことはどれだけ自分が優れているかではない。大事なことは、お互いに協力しあって足りない所を互いに補うことさ。」
『………………。」
「紫、君は王国を建てといっていたな。君の才や行動力、弁舌をもってすれば不可能なことでもないだろう。しかし、たった一人ではなにもできない。君の見方を集めなければいけない。でも、今の君にそれができる?」
「できない……。」
「幽香は働き者だし、さっきも言ったようにとても優しい娘だ。それは君の花に対する態度でわかる。でも、口下手なのか誤解されやすい。それでは君の優しさが相手に伝わらないぞ。」
「わかってる…。」
「じゃあ、二人とも、これからはもっと仲良くするんだよ。幽香、さっきはほったらかしにして悪かったね。」
「ううん、あたちこそごめんなさい……。ユカリもごめんね。」
「うん……。」
仲直り、簡単そうでなかなか難しいこと。
純粋だからこそ彼女たちに与える影響は大きいものだ。
魁は優しく微笑み二人を抱き寄せ、再び自慢の庭を眺める。
意外に強い力に驚きながらも二人の少女は日が暮れるまでその場を離れようとはしなかった。
皆さんどうも私です。
短いけれど許してね。
応援してくれる方にはありがとう。