東方永久録   作:ゆったり

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四時 鬱陶しい

「随分と活気に溢れた都だ。人間達の進歩はすばらしいな。」

 

時代が代わり、神々達が以前のように猛威を振るうことがなくなり人間達が繁栄し始めてきた。

もっとも、魁から見れば赤子もいいところであるが。

今日は娘二人に留守番を頼み、都へと足を運び世の動きを探りに来た魁。

都へ訪れた魁はいたるところで同じ噂を聞くのだった。

所々違った内容であったが、共通していことは絶世の美女が現れたこと、名のある貴族や帝が彼女に求婚していること、彼女から出された結婚の条件が無理難題であることの三つ。

帝や有力貴族あいてにこの立ち回り、魁が興味を持たずにはいられなかった。

 

「もし、そこのお人。今、巷で噂の絶世の美女について聞きたいのだが。」

 

「ああん? 何だ盲瞽の兄ちゃん。お前、まさか輝夜姫を知らねぇのか? とんだ田舎者だなぁ!!」

 

「おい、田舎者はどっちだ馬鹿!! このお方の御召物をよく見ろ!! 狩衣だぞ狩衣。貴族様をお召しになる服だ!!」

 

「うぇへぇ!! こ、こいつは失礼しました!! か、輝夜姫のことでございますね。姫はここから東へ―――。」

 

魁が着ていた服が狩衣に似ているためか、貴族と勘違いされたようで話がスムーズに進む。

魁は輝夜姫なる人物との結婚などに興味はまったくないが、皆は違った。

新しい挑戦者が来たと瞬く間に話が広がり、輝夜姫が住む屋敷に到着するまで珍獣のような眼差しで見られる。

しかし、そんなことはまったく気にせず、歩きながら書いた和歌を屋敷に放り投げた。

紙飛行機を折るのが得意だったのか面白いくらいに真っ直ぐに飛んでいく。

上手く入ったかどうかは見えないが満足したのか、宿へと戻っていった。

 

それから次の日、何と輝夜姫からの返事が届いた。

しかし、和歌の詠み方なんてわからない魁には歌にどんな意味があるのかなどわからない。

昨日送った和歌も実際は最低限のルールを守った適当なものであったのだ。

これに困った魁だったが、返事の手紙に和歌をサラサラと書き仲介人に渡す。

 

「……しっかりと考えてつくりましたか?」

 

「考えたに決まっているだろ。君は疑り深いな。」

 

本当は何も考えちゃいない。

内容も“君の手紙はまどろっこしいから完結にしてくれ”といったものだ。

大変失礼な内容なのだが、それ以外に魁が書きたいことなどない。

下手に玄人ぶってかこうものなら直ぐに見破られてしまう。

だったら開き直ってと、素人丸出しで挑んだ結果がこれなのだ。

 

「気に入るか気に入らないかは姫しだい。ささ、返事を届けてくだされ。」

 

「こんな適当な和歌、姫は気に入りませんよ。」

 

「だから言っているだろう。気に入るかどうか決めるのは姫だ、君ではない。」

 

仲介人は呆れながらも魁の返事を輝夜へと届けたのだった。

 

 

 

 

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「うふふ、面白い人ね。下手と言えばそれまでだけど、そこに何か趣があるわ。純粋といったらいいのかしら?」

 

絶世の美女こと輝夜姫は月光が僅かに射し込む部屋で微笑む。

つい昨日、部屋に手紙が飛んできたのでとりあえず読んでみると、そこには下手な和歌が書いてあったのだ。

内容は“今、有力貴族との結婚をやんわりと断っている君に興味がある”と言うもの。

珍しく求婚の類の手紙ではなかったことに輝夜は興味を持ちすぐさま返事を書いた。

自分の持てる技術全てを形にした貴族なら喉から手が出るほどに欲しい和歌。

しかし、返事は期待していたものとは大きく異なりかなり稚拙なないようだったが、ある意味それを輝夜は望んでいたのかもしれなかった。

近づいてきたので近寄ると、相手は飛び去ってしまう。

それは自由気ままな鳥のようで、ドロドロとした貴族社会に溶け込んだ輝夜にとって憧れるものだった。

 

「山背魁様。是非とも会ってお話がしたいわ。なんて返事を書こうかしら? う~ん……。やっぱり、簡単なものにしたほうがいいのかしら。」

 

彼は単純な返答を期待しているようだが、一貴族として、手をぬくわけにもいかない輝夜。

散々唸りながら考えた結果、要望どおりに簡潔な内容で返事をだすものとした。

単純に“会いたい”とだけ紙に書き、使用人を呼び寄せるために手を叩く。

 

「いかがいたしましたか、姫様?」

 

「あら、聞きなれない声ね。貴方、新入りの方かしら?」

 

「左様にございます。それで、なにか御用でしょうか?」

 

姿は暗くてよく見えないが、声から察するにどうやら男のようだと結論する輝夜。

男は手紙を受け取り、どこの誰に渡せばいいのかなどと指示を受けていた。

一通り伝え終えると、男は「かしこまりました。」と言うと突然その場にドシリと座りだす。

男がたてた物音に驚く輝夜だったが、ペラペラと紙を開く音が聞こえ、憤慨する。

 

「何をしているの!? それは山背様にお届けする文よ。貴方にそれを読む資格はないわ!!」

 

「そうカッカすることはない。それに、私にはこの文を読む資格がある。」

 

「あるわけないでしょう!? 貴方は使用人!! 文を読む資格のあるお方は山背様よ!!」

 

「だから、言っているだろう。読む資格ならある。」

 

「それじゃあ、まるで貴方が―――」

 

山背様じゃない、と言い掛けたところでハッと何かに気がつく輝夜。

月の光を僅かに遮っていた雲が動き、今まで見えなかった男の姿を確認することができたのだ。

青と黒の上質な狩衣を身に纏い、闇にも劣らぬ黒一色の髪。

顔立ちは精悍で美しく、思わず魅入ってしまいそうになるほどだ。

目は何時までたっても瞬きすることはなく、常に閉じられているが、動きは非常に軽やかで流れるように輝夜の傍まで歩み寄る。

 

「どうも始めまして、私が山背魁です。突然の訪問、ご無礼をお許しください。」

 

「お、御戯れが過ぎます……山背様。」

 

「もうしわけないです。それはそうと噂に違わぬ実に美しいお方だ。」

 

「お褒めのお言葉、感謝いたします。」

 

「ですが―――“絶世の美女”とまで呼ぶほどではありませんな。所詮は噂。」

 

聞きなれた言葉に結局、コイツも自分に言い寄る男なのかと思い込んだ輝夜。

だが、魁は今の今まで誰も言うことのなかった一言を言い出す。

目も見えぬくせに……と心の中で怒りの炎をゴオゴオと燃やす輝夜であったが、決してそれを顔には出さず魁に何故そう思うのか問いかけた。

 

「私の知り合いに長い銀髪の薬師がいるのですが、彼女も貴方に引けを取らない美女でした。また、彼女の弟子や私が世話をしている娘二人も貴方と並ぶ美貌の持ち主。これだけ美女がいるのに貴方を絶世の美女と呼べるはずがない。」

 

「長い銀髪の薬師……?」

 

「おや、まさかお知り合いで?」

 

「いえ、恐らく別人でしょうね。永り……。彼女は私の故郷の住人。この地からはあまりにも遠い。」

 

「それは気になりますね。その地は一体どのようなところでしょう?」

 

「そうね……。何と言ったらいいのかしら? 全てが貴方の想像を遥かに超える場所と言ったところかしら。文明もヒトの精神も何もかも。」

 

「都以外にそのような場所が……。永く生きてきましたがそのような場所は聞いたことがございまさん。」

 

「……永く生きているようには見えませんね。」

 

先ほどの怒りは何処へやら。

魁の口から次々と放たれる言葉に引き込まれていった輝夜は、何時の間にかお喋りに没頭した。

あれはこれは、と質問をなげかけてくる魁に答え、はたまた彼女が魁に問いかけることも。

普段は誰にも話さないようなくだらない話やどうでもよい日常での出来事などで妙にもりあがった。

一見つまらなそうに見えるが、貴族の自慢話ばかり聞いていた輝夜にとってはこの上なく有意義な時間とも言えるだろう。

 

「そういえば、この間、娘の護衛に鷲をとっ捕まえましてね。これが中々のじゃじゃ馬でしてね。どう躾けたものか。」

 

「うーん、永り、じゃなくて。知り合いが昔、躾けにおいて一番重要なことは痛みだって言っていたわ。少し、痛めつけたらどうかしら?」

 

「やっぱりそうですよね。このさいだから翼の一本くらい折ってみるのも悪くない。」

 

「そうそう。それくらいがちょうどいいかしらね。……あら、もうこんな時間?」

 

「夜明けですね。それでは私はこれでお暇いたしましょう。また、暇なときにでも顔をみせますね。」

 

「そう……。それなら、次の満月まででお願い。それ以降は……。」

 

「どういった訳かは分かりませんが、姫が望むのならそういたしましょう。」

 

再開の約束を交わし、勢い良く塀を飛び越えていく魁。

盲目の彼に一体何故あのような力があるのか不思議に思う輝夜だが、そんなことよりも心配なことがあった。

次の満月の夜、その日までにあの男が来てくれるのかそれは誰にもわからない。

 

 

 

 

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「何故……殺さなかった?」

 

輝夜の屋敷をあとにした魁。

夜明け前の薄暗い都を歩いていると、後ろから男に声をかけられた。

魁は振り向かずに答える

 

「分かっているだろう。彼女は不老不死。どうやって殺せというのだ。」

 

「不老不死だろうと俺達に殺せない者などいない。もう一度聞こう。何故殺さなかった?」

 

「……彼女を殺す理由などないからだ。」

 

ここでやっと振り返った魁。

視線のさきには赤と黒の魁とまったく同じ狩衣を纏い、両腕で赤い眼の犬を抱きかかえている男がいた。

背中までとどく美しい黒髪は束ねられており、顔も魁に負けず劣らず美しく精悍。

だが、紅く輝く宝石のような眼には凄まじい憎悪が宿っており、見るもの全てを射殺してしまいそうだった。

 

「理由がない……だと? 貴様は害虫を殺すとき一々理由を考えているのか? 愚かで醜い蛮族を殺すのに理由などあってたまるか!!」

 

「あいかわらず滅茶苦茶なことだ。兄上の智謀は尊敬にあたいするのだがね……。」

 

「フンッ、まあいい。いまここで貴様をせめても何も解決しない。真に滅ぼすべきは、偉大なる祖父宝輝(ほうき)の功績を知らずにノウノウと生きている蛮族共。とくにあの薬師だ。」

 

「確かに、彼女は愚かにも祖父の真似事をしてしまった。私もそれを許すことはできない。だが、彼女を殺すことを祖父が望んでいるとは考えられない。」

 

「……やはり、貴様とは別の道を歩まねばならんようだな。だが、“華”を見つけたとき、貴様の考えもかわるだろう。」

 

魁の兄、山背修(やましろ おさむ)はそう告げると黒い靄を纏い、消え去った。

残された魁はやれやれとため息を吐き、再び歩き出す。

 

「これは私も命をかけなければな。」

 

兄は輝夜を殺すかどうかは分からない。

しかし、可能性がある以上魁に選択肢などのこされていなかった。

 




皆さんどうもわたしです。

長男の修が登場しました。
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