「あら、おかえり、銀。お父さんから伝言かしら?」
「……………。」
銀と呼ばれた鷲は無言のまま足にくくり付けられた書状をつきだす。
目つきは鋭くどこか機嫌が悪そうに見えるが鷲なので気にされたためしがなかった。
幽香は手紙をうけとると、その場で読み始める。
『すまないが、急用ができた。少々骨が折れそうだが心配することはない。帰りが遅くなるだろうけれど、二人とも仲良くしているのだぞ。』
「あらあら、独り占めとは冷たいですわ。私にも見せてくださいな。」
「ちっ。」
元々仲がよいとはいえなかった二人だが、成長することでさらに悪化した。
魁が傍にいるときはそのような素振りは見せないが、影では凄まじい攻防が繰り広げられている。
幼いころは共に畑仕事までしたというのに、今では目をあわせただけで舌打ちをかます仲だ。
昨夜も夕飯をどちらが作るのかということで喧嘩をして小屋を半壊させる始末。
これが子供ならば可愛いものだが、二人はもはや並の妖怪では太刀打ちできないほどに強いから困ったものだ。
魁がいくら願ったところで変わることはない。
「まあ、淑女が舌打ちなんてはしたないですわ。……そうだったわ、ごめんなさい。貴女って淑女というより野生児ですものね。ああ、そんなことよりお父様のお手紙お手紙。」
「無理に大人ぶろうとしてるアンタのほうがお笑いよ。お漏らししてお父さんに怒られてたアンタが偉そうに。」
「そ、それは昔のことですわ。それを言うなら貴女だって、森で迷子になったときは猿のように泣きじゃくっていたでしょう?」
「あ?」
「お?」
「…………………………。」
ドタバタと取っ組み合いの喧嘩を始めた二人を他所に、銀は虚空を見つめる。
さっさと返事を書くよう訴えるわけでもなく、喧嘩をとめようともしないのだ。
アンタが悪い、貴女が気に入らないと次々と罵声が聞こえてくるが気にすることもない。
やがて、喧嘩の見物にも飽きたのか美しい翼を広げ飛び立つ銀。
返事はなくとも彼の主は理解するだろうから。
―――――――――――――――
――――――――――――
―――――――――
――――――
―――
満月の夜。
魁は輝夜との約束を守るべく、輝夜のもとへと参上しようとしたが、先客がいたようだ。
物陰から覗くと彼らは胸をはり、打ち負かした輝夜の護衛を見下しながら銃を片手に歩いている。
服装も装備もこの時代の人間ではないことは言うまでもなかった。
「月人か……。しかし、なぜ輝夜を連れ戻す? 彼女は地上に落とされた罪人ではなかったのか。」
様々な疑問が頭の中を駆け回っているが、考えても答えなど見つかるはずもない。
すると、最後に二三人の護衛を引き連れた女性が魁の目にとまった。
嘗て、地上から軍勢を率いて月を占領し、祖父を侮辱した女。
八意永琳、その人である。
「永琳ッ!!」
「か、輝夜ッ!!」
輝夜は突然飛び出すと、永琳めがけて一直線に向かっていく。
互いの名を呼び合って抱き合う二人はまるで親子の再会の一場面のようでもあった。
二人は暫く抱き合っていたが、兵士とみられる月人が輝夜を引き剥がす。
背中に銃を突きつけながら宇宙船に輝夜を連行する兵士一同であるが、突如として予期せぬ事態がおとずれた。
「逃げるのよ、輝夜!!」
そう、永琳の妨害である。
なんと永琳は自分の部下と思わしき兵士を背後から矢を放ち、射殺したのだ。
何がおこったのか理解できない部下を好機といわんばかりに射殺す彼女の姿は魁には酷く汚く見えたにちがいない。
上司の乱心を悟った兵士は反撃を試みるが、訓練不足なのか銃弾がまったくあたらない。
あっというまに兵士達を蹴散らした永琳は輝夜の手を掴むと一心不乱に走り出した。
軽症だった兵士もいたようだが、後を追うものはおらず、狼狽えながら宇宙船へと逃げ込む。
その余りの情けなさに思わずため息を吐く魁であった。
すると、月人の宇宙船と入れ違うように銀が魁の下へと舞い降りる。
「兵士とはいつから肉の人形になったのだろうか。晋も彼らのどこに希望をもてたのだろうか……。」
「………………。」
「ああ、ご苦労様。それで、どうだった。」
「……。」
「そうか、予想通りで何よりだ。それと、疲れているかもしれないがもう一仕事頼むぞ。」
☆☆☆☆☆
「待って永琳、どこへいくの!?」
「今は兎に角、走ることだけを考えて!! これからのことなど後でいくらでも考えられるわ!!」
都を離れ、草木が生い茂る森の中を二人の女が駆け抜ける。
時おり、木の根に躓き転んでしまいそうになるが、必死にバランスを保ち、決して互いの手を離すまいと握り続けていた。
もう限界などとっくに迎えているだろうが、彼女達は駆けることを止めたりなどしない。
だが、ある一声が彼女達の心臓を鷲掴みにした。
「……何処へ行く?」
聞こえたのは男の声だ。
静まり返った森の中でまるで突き刺さるかの如く恐ろしい声。
異常なほどまでにハッキリと聞こえる声に二人は二人の足は凍りついたかのように動かない。
永琳は声の主の正体を探ろうと辺りを見回すが、見えるのは何処までも続く闇だけであった。
「“罪、存在そのものが罪なのです。貴方達一族は永遠に償えることのない罪を犯したのです”……覚えているさ。」
またも聞こえてくる男の声。
昔を懐かしむかのように聞こえるが、声には身の毛も立つような敵意と怒気が籠められている。
再び周りを見渡しても、微かに見える輝夜の姿しかない。
「我ら兄弟には祖父より託された使命がある。そこには欲も野望も存在しない。故に罪にあらず。」
再び聞こえた声にはやはり、身を切り裂くような鋭い敵意を感じる。
北風のように冷たく身体を包み込むようで気味が悪かった。
「だが、その娘は違う。使命を持たずして不老不死となった彼女にこそ永遠の罪があるのではないだろうか。」
その時、やっと声の正体が姿を現す。。
風が木々をなぎ倒し、月の光が彼を映し出したのだ。
一対の瓢箪型の巨大な団扇を背負い、腰の両側に柳葉刀を一振りずつ携え彼の手には方天画戟が握られている。
赤と黒の狩衣が彼の勇猛さを後押ししているかの如く強烈に映し出され、真紅の瞳が夜を照らしていた。
「少女に永遠の罪はさぞ重いことだろう。だが、安心するがいい。塵一つ残らずに、俺が始末しよう!!」
今の今まで銅像のように動かなかった永琳だが、弾かれたように動き出す。
有無を言わせず矢を放ち、一目散に駆け出した。
だが、彼女に逃げ場を与えるほど彼は、修は優しくなどなかった。
「ゴガァァァッ!!」
「グッ!」
犬、そう犬だ。
人間の身の丈を軽くこえる巨大な犬が永琳を弾き飛ばした。
後方に伸びる二本の角が永琳を貫く。
「永琳!! 今たすけ―――グフッ!!」
永琳のもとへと駆け寄ろうとする輝夜だったが、修は許さない。
背中を見せた彼女を戟で貫くと、石突で殴り飛ばした。
「か、輝夜……。」
「ふん、まだ息があるのか。止めを刺せ。食い千切るなり何なり好きにしろ。」
犬はまるで最高の褒美を貰ったかのように喜び、走り出す。
すぐ傍まで駆け寄ると、あんぐりと口を広げ永琳に喰らいつかんとした。
「嫌ッ!! 逃げて永琳!!」
「無理だな。彼女にそんな力など残っていない。」
「どうして? どうして私達を襲うの!? 私達が貴方に何をやったっていうの!?」
「愚かな……。もう良い。消え――。」
戟を突き刺さんとする修だが、側面から飛んできた犬により吹き飛ぶ。
「……暴れすぎだ。」
魁は静かに呟いた。
皆さんどうも私です。
納得にいくものがつくれません……。
私の力不足ですね。