東方永久録   作:ゆったり

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七時 二人の仲

「幽香、紫は何処へ行ったのだ? ここ数日家に戻っていないみたいだが。」

 

「さあ知らないわ。でも、昔からアイツは奴隷が欲しいって言っていたじゃない。だからそれを探しているのかもしれないわよ。」

 

草原に腰掛け、畑を見渡しながら会話をする二人。

絶世の美女と謳われた輝夜が過去の人となり人々の記憶からその姿が消え去るほどに時は過ぎた。

もはや彼女の存在は御伽噺でしかないのだ。

 

「ああ、最強の奴隷を捕まえて、この地を征服し国を建てると言っていたな。しかし、この地は竜神が守護する地。妖怪が敵う相手ではない。」

 

「アイツはそこまで馬鹿ではないでしょう。きっと正面から正攻法で攻めるようなことはしないわ。」

 

「フフッ、何時も喧嘩ばかりしているから不安に思っていたが、案外そうでもなさそうだ。」

 

「……そんなわけないわ。」

 

魁の言葉に若干機嫌を損ねる幽香。

そんな姿を見た魁は笑い、幽香を自分の膝の上に手繰り寄せると彼女の頭を撫でる。

 

「ちょ、お父さん!?」

 

「可愛いやつめ。私は君達二人がいればそれでいい。世界も何もかも知ったことか。」

 

「いきなり何よもう。でも、私もお父さんとこうして暮らしていけるだけで幸せよ。四季の花々を愛でてのんびり暮らしていけるなんて素敵だわ。」

 

くるりと首を回し、魁に胸に頬をつけながら満足そうに言う幽香。

それを魁は慈しむかのように抱くと、彼女の額へキスをする。

傍から見れば舌打ちをしたくなるような光景だが、これは魁達親子の長年のスキンシップなのだ。

人間の価値観をもってすれば、家族愛からかけ離れ恋仲のようにも見えるが魁にとってそれはあてはまらないのかもしれない。

男女の仲が完全にないと言えないが魁はただ愛する娘に最大の愛を伝えているだけにすぎない。

果たして魁は二人の娘を女として認識しているのか。

それすらも怪しいのだから検討がつかない。

 

「でも、人間は嫌い。あの屑は残忍で非道な生物よ。神に頼ってばかりの臆病者のくせに、心では自分がこの世の主とばかり思って我が物顔でこの大地を歩く。気に入らないわ。」

 

「弱いからこそ武器を取り、知恵を絞り、他者を利用して生きるのだよ。私達もそうだったが、そうしなければ生き抜くことができなかった。誰もが妖怪のように強くはない。」

 

「お父さんは人間じゃないわ。ずっと生き続けているし、弱くも愚かでもない。」

 

「だが、あっけなく滅んでしまったさ。故郷を捨て地上で“華”を捜したがどこにもみつからない。誇り高いだけの愚か者だ。」

 

もう止めようと魁が一声かけると、幽香は魁を強く抱きしめる。

まだ昼頃で太陽の光が暖かいというのに密着する二人。

その間は一言も話すことなく、ただお互いの体温を感じ合う。

もう小一時間ほど抱き合ったというところで幽香はペロリと魁の首筋を舐めた。

何の反応も返ってこないことを確かめると、幽香は魁の唇へ己の唇をゆっくりと押し付ける。

頬を赤く染め、まるで乙女のように優しい口付けを交わしていたが徐々に貪るように荒々しいものになっていった。

何時の間にか魁を押し倒すと舌を駆使した情熱的な接吻を交わし始めた。

 

「あらあら、こんな真昼間からお盛んなことですわ。いくらお父様が魅力的だからといってそこまで発情することはありませんよ? まるで痴女ですわね。」

 

「―――!?」

 

二人の甘い空間を引き裂くかのようにスキマから姿を現す紫。

幽香は魁に甘えきっていた自分を見られまいと咄嗟に魁から離れるも時既に遅し。

火が出ているかのように真っ赤になった幽香の顔をみて、してやったりと言った表情の紫はその後も次々に幽香をはしたないだとかと罵る。

人間に比べ肉体の強度や身体能力が極めて高い妖怪ではあるが、精神的な面ではやや劣っている。

そのため紫の嘲りは幽香のプライドを傷つけるには十分すぎるものだ。

拳を強く握り締め、目には涙を浮かべながら震える幽香を見かねたのか魁は腰を上げる。

 

「止めなさい紫。それ以上、幽香を罵ることは私が許さない。」

 

「いいえお父様、私は幽香を罵ったつもりはありませんわ。唯、ありのまま起こったことに対して自身の感想を述べただけよ。」

 

「減らず口をたたくな。少なくとも君は言葉で幽香を傷つけた。君に悪意がなかったとしても彼女に謝るべきだ。……まったく、何時の間にこんな性格が悪くなってしまったのだ。私が育て方を間違えたのか?」

 

「そ、そこまで仰らなくても……。分かりましたわ。今回は私の罪を認めます。失礼しましたわ。」

 

ドレスの裾を少し摘み上げ口元を笑わせながら頭を下げる紫。

一見謝っているかのように見えるが内心では未だに相手を小馬鹿にしたような態度をとる紫に魁は呆れた。

しかし、そんな紫の態度が一番気に入らないのは勿論幽香である。

地面を力強く蹴って紫の目前まで接近すると、先ほどから握り続けた拳を全力で突き出だし、その透き通った鼻を殴りつけた。

流石は妖怪の一撃といったところか、ブッと情けない声を吐きながら弾丸のように飛ばされる紫。

人間がみれば背筋が凍るような惨劇ではあるが、そんなことでは幽香の怒りは治まらない。

転がっていた愛用の傘を拾い上げると先端に自身の妖力を集中させ、一気に解き放った。

 

「死ね!! マスタースパークッ!!」

 

「いかんッ。」

 

若手の妖怪一撃とはかけ離れた極太の光線。

幽香最大の攻撃ともいえるそれを喰らえばたとえ紫でも唯ではすまない。

魁は素早くマスタースパークの射線上へと入り込むと両腕を突き出し受け止めた。

怒りで我を忘れているのか魁が受け止めていると知らず、思い通りに攻撃ができないことに苛立つ幽香はさらに威力をあげる。

魁は力尽くで押し返すことも可能ではあるが、万が一のことを考え今は守りに徹した。

後は幽香が冷静さを取り戻すのを待つだけではあったのだが、スキマから勢いよく飛び出した拳に殴り飛ばされた。

そして、湧き水のように流れ出る鼻血を左手で押さえた紫が肩で息をしながら悪鬼の如き表情を浮かべスキマから現れる。

 

「よくも、よくも顔を殴りましたわね……!! 私の顔を……!! 草花と戯れることだけしかとりえがない貴女風情が賢者と謳われるこの私の顔を!!」

 

「あら、そっちのほうがお似合いよ。いえ、もとからそんな顔だったかしら? 妖怪の賢者だけあって化け物みたいな顔ね。」

 

「…殺す。」

 

「上等。」

 

大妖の一撃は岩石ですら容易く砕く。

その一撃を受けても幽香には目立った傷は確認できなかった。

それどころか、仕返しと言わんばかりに相手を罵っているではないか。

紫は能力や術といった面では幽香を上回る。

しかし、幽香は力や体力といった面では紫を寄せ付けない。

相反する大妖の争いは正に天災。

事実、彼女達が振りまく殺気だけでも森の動物達はもちろん少し離れた人間の集落にまで恐怖が伝わっていた。

 

「いい加減にしないかッ。」

 

睨み合う二人を制するのはやはりこの男しかいない。

独特の緊張感が辺りを包み込むなか、やれやれといったようすで二人の間に入り込んだ。

これが唯の人間や妖怪ならば自殺行為でしかないが魁には何の躊躇いもない。

両者が拳を下ろすと紫の方へと歩み寄った。

 

「可愛そうに……。今回は君に非があったが何もここまでの仕打ちを受けるほどではない。幽香にはきつく言いつけておくから怒りを鎮め、顔を洗ってきなさい。それでは上品な君が台無しだ。」

 

「…………。」

 

バツが悪そうにそっぽを見る紫。

魁は優しく微笑むと彼女の頭を撫ぜ、くるりと身体を反対方向へと向け歩き出した。

その表情はいつもと変わらないものであったが、幽香には彼の怒りが感じとれていた。

それが怖くてか顔を俯け、魁が一歩一歩近づくたびにビクビクと震えている。

 

「幽香。」

 

「…………!」

 

「怯えることはない。私は怒っているが君に危害など加えないさ。」

 

「…ごめんなさい。」

 

「素直に謝ることができるところは紫にはできない君の長所だ。とてもすばらしいことさ。簡単にできるようなことではない。」

 

「君に足りないことは自身を制御するところだ。そういったところは紫の方が若干優秀。君は強い。だが、力の使い方を間違えてはならん。」

 

「…はい。」

 

それを聞いて満足したのか、魁は笑顔で小屋へと戻っていく。

二人は暫く何ともいえぬ虚無感を感じることとなるが魁には関係のないことだ。

夕餉は非常に気まずい空間となってしまったが、二人にはいい罰となったことだろう。

魁と僕の銀はニヤニヤしながら二人を見つめていた。

 

 

 

 




皆さんどうも私です。

次はあのお方に登場してもらいましょう。

言い忘れていました。

お久しぶりです
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