「お父様、お喜びください! とうとう我が奴隷が見つかりましたわ。」
季節は冬。
朝一番で突然と小屋に現れた紫はこれまでにない程に上機嫌であった。
幼きころより最強の奴隷を手に入れると意気込んでいた彼女がようやくその目標を達成できたようである。
魁以外誰もいない小屋の中で彼女の声が響き渡った。
因みに、幽香は椿を見に行くと行って此処を留守にしている。
「それはよかった。唯、少し落ち着きなさい。嬉しいのは分かるがはしゃぎすぎだ。」
「これは失礼しました。フフフッ、それではご覧下さい。これが私の式でございますわ。」
紫の掛け声を共にスキマが開き、中から女性が現れた。
白と青が目を引くゆったりとした道士服を纏い、腰からは黄金色の九本の尾が生えている。
微かに見える肌は瑞々しくオマケに白い。
顔は美を司ったかのように美しく主である紫に一歩も引けを取ることはない。
尾と同じく黄金色に輝く女性にしては短い髪に角のような二本の尖がりがついた帽子をかぶっていた。
尖がりには耳でもしまっているのだろう。
魁にとってはどうでもいいことであるが彼女から感じる妖気には驚かずおえなかった。
「尾裂狐……それも九尾とは。」
「流石のお父様も吃驚でしょう? さあ藍、ご挨拶なさい。」
「お初にお目にかかります。私、八雲 藍(やくも らん)と申します。以後お見知り置きを……。」
「しっかりと挨拶までできるとはな。銀のやつもこれくらい賢かったらよかったのだがな。」
「ふふふ、そうでしょうそうでしょう。そ・こ・で、数日間この娘をお貸ししますので何なりとお使いください。そうすればきっと藍の有能さがより理解できますわ。」
「おや、良いのかい?」
「構いませんわ。先ずはお父様に藍の能力を知っていただきたいだけですから。」
何時もなら何を考えているのか良く分からない紫であるが、今日に限ってはうざったいくらいに分かりやすい。
まるで子供のようで可愛らしいのだが、些か気持ちのよいものではなかった。
断っても譲ることなどなさそうなので魁は苦笑いを浮かべながら礼を言う。
しかし、そんな魁の顔など有頂天となっている紫の目に映るはずはなく、勝ち誇ったかのような微笑みを漏らすばかりであった。
これが機嫌の悪い幽香であったならば拳が飛んできたことだろう。
「それでは私は用事がございますので失礼しますわ。藍、粗相は許しません。お父様に貴女の力を見せてさしあげなさい。わかったかしら?」
「畏まりました。この藍にお任せください。」
「良い娘ね。それでは頼みましたわ。」
言いたいことだけ言うと紫はスキマ入り姿を消した。
朝からなんとも騒がしく今日がどのような一日になるか不安になる。
一息ついたところで魁は立ち上がり、再び藍に目を向けた。
「早速ですまないが君には昼食の準備を頼みたい。私は掃除をするから終わるころにできているとありがたい。」
「…………ケッ。」
「…ん?」
「畏まりました。何か好き嫌いなどはございますか?」
「……特にないな。君の好きにして構わん。」
「……面倒くさい。」
小声ではあるがハッキリと聞こえる声で確かにそういった。
粗相をするなとは一体なんだったのだろうか。
一瞬眉を動かした魁であるが、藍に対してとくに文句を言うこともなく部屋を去った。
背中に突き刺さる藍の視線はどこか人を見下したようなものであったがそんなことで怒るほど魁も若くはない。
「狐に化かされたとは正にこのことかもしれんな。」
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「ほう……これはまた凄いな。」
昼時になりそろそろ昼食ができているころだろうと思っていた魁。
約束通り藍は昼食をしっかりと用意していた。
関心しないことと言えば、藍が魁の到着を待たず食事に取りかかっており躾けが必要そうであったこと。
そして、蔵に貯蔵していた食べ物を後先考えずに大量に使っていたこと。
最後に……。
――魁の皿には石ころがぶちまけられていた。
「何か問題でも? 好き嫌いが無いと仰ったのは旦那様ですぞ。」
悪怯えた様子も無くさらりと答える。
これには少々魁もお怒りであった。
「ふむ、君の盆には随分と豪華な料理が並んでいるようだ。私にも同じものを作って欲しかったのだがね。」
「これは失礼しました。ですが、生憎これだけしか用意しておりませんので……。申し訳ございませんが旦那様は石でもお召し上がりください。」
「……ならば仕方あるまい。」
「なっ!!」
諦めたように床に座り箸を取る。
そして、さも当たり前かのように石ころをガリガリと噛み砕き、食べ始めた。
まさか食べるとは思ってもいなかったのか藍は驚き声を漏らしてしまう。
まさに奇行としか言えないが好き嫌いが無い魁にとっては何の問題も無いことであった。
「どうした。私が石を食ってることがそんなにおかしいのか? 出された“料理”を食べることはそんなに驚くことなのか。それとも、端から私に食べ物など出す気ではなかったのか?」
「……なんでもありません。……チッ。」
「舌打ちをするな。お前の行動は紫の評判にも直結している。あの娘の面に泥を塗るようなことは許さんぞ。」
「…黙れ人間。」
「む?」
「黙れと言ったんだ。紫様の育ての親だか何だかは知らんが、この私が貴様のような下郎に好き勝手言われる筋合いはない!!」
本性を現したとでも言うのか、藍はその場で立ち上がり怒鳴り散らす。
だが、魁のそんなことは屁でもないと言わんばかりの余裕綽々といった様子がますます彼女を刺激した。
右手に掴まれた箸からは悲鳴が聞こえてくる。
「落ち着きなさい。箸が折れてしまうだろ。」
「コイツ、馬鹿にしてッ!!」
とうとう箸をへし折ると、拳を上げて襲い掛かろうと動き出す。
しかし、その目論見は早々に打破されることになった。
一歩、その一歩を踏み出した途端、背後から悍しいほどの殺気が彼女の身を貫いたのだ。
過去に何度か経験したそれに藍は全身から冷や汗が滝のように溢れ出る。
戦闘体勢をとりつつ振り替えると、一羽の大きな鷲がその青い目を光らせているではないか。
「銀、止めなさい。尾裂狐とはいえ嘗て捕食者であったお前の視線は些か刺激が強いのだろう。藍。君もあまり私と銀を怒らせないでくれ。私と違って銀は凶暴だぞ?」
「私は九尾だぞ!! たかが人間一匹、鳥一羽にも劣るとでも!?」
「劣るさ。紫のようなヒヨッ子なんぞにさえ抑えられているような畜生が私達に勝てるとでも思っていたのか?」
「―――このぉッ!!」
恐怖よりもプライドの方が勝ったのか、若干のぎこちなさを含みながらも動く。
しかし、気持ちでは抗うことはできても身体は正直だった。
上手く動かない足はすぐに縺れ、藍は床に倒れこんでしまう。
すると、“これぞ好機”と言わんばかりに先ほどまで沈黙を決め込んでいた銀が疾風の如く飛び出した。
その姿に肝を冷やした藍はすぐさま起き上がろうとするも身体が錆びたカラクリ人形のように上手く動けず、仰向けになるので精一杯。
叩き落とそうと必死に尻尾や腕を振るってみせたが銀の身体ビクともしない。
しばらくして、遊びにでも飽きたのか銀は鋭い爪がギラリと輝く両足で藍の首を締め上げた。
藍は引き剥がそうと必死に力を籠めるがこの鳥にはまるで通用せず、徐々に力が抜けていく。
「その辺にしておきなさい。これ以上はいくら妖獣といえど命に関わる。」
「………」
「―――うっ。ゲホッ、ゴホッゴホッ。き、貴様!!」
「これに懲りたら少しはその短気と偏見をなんとかすることだ。今日はもういいから休んでいなさい。ああ、それと、私は人間であるが、君の言う人間ではない。そこをしっかりと覚えておくといい。」
「意味の分からないことをいうな!! 覚えておくのは貴様とそこの鳥だ!! 明日の朝食を楽しみにしていればいいさ。」
「精々銀に殺されんようにしておきなさい。」
まるで悪人のような捨て台詞をはくと、藍は喉を押さえながら部屋を出た。
ご丁寧に扉を蹴り破りお釈迦にしてくれるなんて、彼女の精神状態がこれでもかと現れていて素晴らしい。
このじゃじゃ馬をどうやって躾けていくのだろうか。
魁は溜息を吐き頭を抱えていたそうな。
皆さんどうも私です。
入試なんてて怖くねぇ!! 野朗、ぶっ殺しゃゃ!!