東方永久録   作:ゆったり

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九時 こそこそ

―――ドゴォォーーーーンンンッ!!

 

女狐こと藍がこの家にやってきた翌日のことであった。

矢鱈と冷え込んだ朝、その静寂を衝撃と轟音が破り捨てる。

魁はスルリと布団から出て、首をバキバキならしながら外へと足を運んだ。

扉を開け辺りを見渡すとこの騒ぎの原因と思しきものは案外すんなりと見つかった。

雪が地面を覆い美しい白銀世界となった畑の真ん中に一羽の鷲が止まった金色に輝く九本の尻尾が見える。

恐らく、藍が銀にちょっかいをかけて返り討ちにあったのだろう。

 

「銀、畑を荒らしてはいけない。次にやるときはもう少し手加減しなさい。」

 

「ムムグググッ!! ムググッ!! ムググーッ!!」

 

近ずき銀に声をかけると同時に、地面に刺さった藍が尾と足を盛大に振り回し何か訴えかけてくる。

銀はそれでも尾にしがみ付いたままであった。

 

「ふざけるな。殺す。殺す。………まったく。あまり派手に暴れないでもらいたいな。」

 

「プハッ!! なっ、き、貴様ッ!! 私の足を掴むな!! 今すぐ放さんか!!」

 

「まるで大根だな。愉快愉快。」

 

「放せーー!!」

 

バタつかせた足をがっしりと掴むと魁は藍を引っこ抜いた。

息苦しさから開放されたのか一瞬大きく息を吸い込んだ藍だが、すぐさま状況を理解すると再び暴れだす。

だがやはり、魁には通用しなかった。

 

「これ以上私を失望させないでくれ。分かったな?」

 

「それが人にものを頼む態度か!? いいから早く放せ!!」

 

「……畜生相手に何故私がそこまでのことをせねばならない。もう一度言う。私を失望させるな。」

 

流石に藍のこれまでの狼藉に少々腹を立てていたのか、強く言い放つ。

それと同時に藍を投げ捨てるとそのまま家へと真っ直ぐ歩き出した。

銀は尻尾から飛翔すると魁の腕にとまる。

 

「何時までそこで寝ているつもりだ? 早く来なさい。風邪をひくぞ。」

 

「何なんだよアンタ。」

 

「何。と言われてもな。私は私だ。」

 

「そういうことじゃない。聞けばアンタ相当昔から生きてるようだが、人間は短命な生き物だろ。」

 

冷静さを取り戻したのか藍は落ち着きながら問いかける。

面倒くさく感じる魁であったが、藍からの初めてのコミュニケーションを無駄にするわけにはいかなかった。

歩みを止めて振り返り雪原に仰向けで寝転んでいる藍を見つめながら答える。

 

「そうだ。人間というのは短命だ。しかし、私や月人は別だ。」

 

「ああ、紫様から聞いた。何でも、地上の人間とは比べ物にならない程に発展しているとか。」

 

「元は地上の人間さ。私はその月人と呼ばれる連中が月に移住してくる前からそこの住人だった。」

 

「それは初耳だ。と言うことは、アンタは月人に追い出されたと言うことか? 笑えるな。」

 

「そういうことだ。もう男三兄弟しか残っていないのだ。末弟は月人と上手く共存しているようだが、私には真似できんよ。」

 

「それじゃあ、アンタは絶滅寸前の古代人と言ったところか。だが、その寿命の長さはどこから来ているんだ?」

 

「……お喋りはもう終わりにしようか。また石ころを出されたらかなわないからな。朝食は私が用意してやろう。」

 

「おい、最後までしっかり答えろ。アンタは何で死なないんだ?」

 

これ以上は話したくないのか急に話を切るとスタスタと立ち去る魁。

藍も何時までも寒いだけの雪原に寝転んでいる気はなかったので質問をしながら追いかけ始めた。

 

「答える義理は無い。私にだって話したくないことの一つや二つくらいあるものだ。」

 

「……まあいい。それなら、とっとと朝食を用意してくれませんか? 私、腹が減ってまいりましてな。」

 

生意気を言う藍に、魁は鼻で笑う。

一体いつになればこの挑発がなくなるのか分からない。

少なくとも、魁が藍の挑発に乗るようなことはおこらないだろう。

言うなれば魁は湿った薪なのだ。

いくら藍が煽ったところで湿った薪が燃え上がることはない。

この酷く滑稽で無様な姿を藍はいつ理解できるのだろうか、魁は心の内で静かに考えるのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

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―――

 

 

 

 

「なあアンタ。昨日の夕餉から気になっていたことがあるんだが。」

 

「何だ、言ってみなさい。」

 

その後、何事も無く魁は朝食を用意し、銀を含んだ二名+一羽で食事をしていた。

しばらくはただ黙々と用意された料理を食していたが、藍が話をきりだす。

魁は箸をつけるのを止めてお茶を一口飲んだ。

 

「……アンタ、量が少なすぎるんじゃないか? いや、石ころを出しておいてなんなんだが、見ているこっちが辛い。」

 

献立は玄米にわかめ汁、豆に漬物といった質素なもの。

そして、藍には干し肉が奮発して用意されていた。

献立に違いはないが量に問題があった。

驚く無かれ、魁の盆には一つまみの玄米に一掬いの汁、三粒の豆と一切れの漬物が申し訳なさそうに鎮座している。

 

「これだけあれば十分ではないか。むしろ、君たちが食べすぎなのではないか?」

 

「そんな少しじゃ子供も満足できないだろう……。アンタ、本当にどうなっているんだ?」

 

「私は私。ただの人間さ。君が八雲藍であるように、私は山背魁という存在なのだよ。」

 

聞いていることはそういうことではないと言いたげな様子で魁を睨む藍。

しかし、彼は狐に睨まれて怯えるような人間ではなかった。

 

「ああ、そうだ。私も気になっていたことがあってね。君に聞いておきたいのだけれど、以前からそうだったのだが紫は最近になってより一層、月人について調べているようでね。君は何か聞かされているかな?」

 

藍の顔が若干だが歪む。

事実、このごろ紫は月や月人の情報を掻き集めていた。

数日前は地上へと移り住んだ月人とも会合し有力な情報も得ている。

目的については特に聞かされてはいないが情報の内容からそれをどのように使うかなどすぐにわかった。

しかし、慎重を期して行動していたはずだが、何故魁はこのことをしっているのだろうか。

 

「知っているようだが言うわけにはいかないか。ならば仕方ない。だが、紫に伝えておきなさい。“記憶”を探るとは面白い考えだが、私個人としては面白くない。次は許さん。とな。」

 

紫は度々魁が眠っている途中、能力を使って魁の記憶を覗いていたようである。

自分の力を上手く使った方法ではあったが、どうやら魁は気に入らなかったようだ。

 

「先ほども言ったが、私にだって話したくないことくらいあるのだ。……もしもの時のためだ、紫に渡しておきなさい。」

 

手を差し出した魁だが、その手には何もない。

しかし、突如として何も無かったはずの魁の掌に青い小さな宝石が出現した。

青く、青く光り輝くそれは一瞬とはいえ、藍を魅了するのに十分な美しさである。

 

「……何ですかこれは?」

 

「それは“不死鳥の青眼”。まあ、お守りとでも思っていい。肌身離さず持っているように伝えておいてくれ。」

 

「アンタ、けっこう甘いところもあるんだな。」

 

「そうかもしれないな。」

 

ただのお守り、そのような物を魁が紫に渡すだろうか。

紫が魁の何の記憶を見たのかなど分かりきっているというのに、魁は紫の目的が分からないのだろうか。

甘いと評された魁であるが本当に甘いのだろうか。

その謎が解ける日はそう遠くないかもしれない。




皆さんどうも私です。

やっと推薦入試が終わりましたので投稿。

だが、短い。

これで落ちていたら泣ける。 

感想、指摘まっています。
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