人生強くてNEW GAMEした僕だけど、会社やめました。   作:毎日グラノラ

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少しずつでも話を進めていきたいと思います。
よろしくお願いします。


第3話 打ち上げ

「「「乾杯!」」」

八神のデザインの採用という大番狂わせにより幕を下ろしたコンペ後の金曜日。

僕、八神、遠山の同期一行は職場から駅へ向かう途上、人通りの多いメインストリートへ店を構える流行りの洋食屋へと足を運んだ。

街を行き交う人の波は週末であることも手伝って、どこか浮足立っているように見える。

今日の食事会の名目は『コンペお疲れ様でした会』と題するもので、二人をねぎらうために僕が企画させていただいた。

採用された八神はもちろん、八神に負けじとがんばっていた遠山の姿も間近で見ていて、結果はどうあれ二人にはちゃんと「お疲れ様」と一言いえる場を設けたかったのだ。

コンペでは形として遠山は八神に負けたことになる。そんな遠山が参加を許諾するか不安だったものの、「コウちゃんをお祝いしたい」との本人の申し出によりこの会の開催に踏み切った。

八神も少なからず遠山に遠慮していた部分があったようで、遠山がよろこんで参加してくれるという話をしたときには、安心してかほっと息をついていた。

本来はコンペ当日に行うつもりだったのだが、採用者は葉月さんや大和さんとともに今後のスケジュール含め様々な調整事項があるようで、当日中の開催は見送り数日後の開催となった。

打ち上げといえば普通ならばアルコールを飲むのが一般的なのかもしれないが、二人はまだ未成年だし、僕はお酒に弱く、ビールジョッキ一杯も飲むとそれだけでもうろうとしてしまうのだ。

新人歓迎会では先輩にビールを進められたのを無下に断るのも憚られ、無理して一杯だけ飲んだ結果、会の半ばからの記憶がすべて飛んでしまっている。先輩がタクシーで家まで届けてくれたそうだ。

そこで今日はお酒メインの店ではなく、お祝いに使えそうな洒落たレストランを選別するにいたった。

「コウちゃん、今回は本当におめでとう!私、コウちゃんが一緒にいてくれたから最後まであきらめずにがんばれたし、成長することができたの思うの。本当にありがとう。そしておめでとう!」

「ありがとうリン…。あとお礼をいうのはこっちだよ。リンがそばにいてくれたからこの結果がでたんだと思う。一人じゃ絶対に途中であきらめてた。こっちこそ本当にありがとう」

「コウちゃん…」

おーい、僕も同卓に座ってるんですけどー。乾杯の発生直後に突如始まった二人のバカップルみたいに甘い会話を僕は白目を向いて聞いていた。

この二人、ほっといたら数年後には同棲でもしてんじゃないの?

お互いを見つめあい、顔を赤らめている二人を前に僕はカヤの外でひとりそんなことを思ったのだった。

 

 

 

八神の大番狂わせに終わったコンペ後のこと、会場は荒れに荒れた。

頭を掻きむしって俯いている人、天を仰ぎブツブツ独り言を言う人、両手を壁にそえて無言で頭を打ち付ける人、涙を流して嗚咽を漏らし会議室から飛び出す人がでたりと異様な雰囲気に包まれた。

僕は二人の応援ばかりしていたけど、当然二人以外にもたくさんの人がいろいろな希望や夢を抱いて今回のコンペに臨んでいたことに改めて気づかされた。。

八神の案が出た時点で葉月さんが採用を決めたため、新規IPの選考という大舞台に立ててすらいない人もいる。

当然、新入社員にその夢をかっさわられた先輩たちの胸中は穏やかではないだろう。事実、その場で八神に祝福の言葉を送った人間はすくなかった。

応援に来ていただけの観覧者にも誰々を応援していたかなど、ある意味派閥のようなものがあったのだろう。あちらこちらで落ち込んでいる人間への励ましの言葉がいきかっている。

ゲーム業界というライバルメーカーや業界人との競争が否応なしに続く世界の厳しさの、ほんの一片を垣間見たような気がした。

 

「でも、今回の結果は本当に二人がいてくれたからこそのものだと思うんだ。悩んだ時、煮詰まった時に二人と話す時間でリフレッシュできてなかったらこの結果はでなかったと思う。」

ほんの少しだけ朱色にそまった頬を指でぽりぽり書きながら、伏し目がちにそういった。

彼女は人見知りの部分があって、先輩たちとはなかなかうまく距離をとれていない部分がある。しかしその反面、一度内側に入り込むとなかなかどうして素直でまっすぐなところがある。

だからこの言葉も本心でそう言っているのだなということがこちらにも伝わり、こちらまで気恥ずかしさを覚える。

「あとは改めて、キャラクターデザインというかコンペに参加することの責任の重さがわかったよ。先輩の表情や落胆してる姿をみると、その人たちの想いも背負わなきゃって。どんな時も手を抜かずにやりとげてみせるよ」

八神も僕と同じような事をあの場に感じたようで、照れていた表情が一転真面目な表情へと変わる。

「コウちゃん…」

「まぁ困ったことがあったらまた僕たちに相談してくれよ!アドバイスはできるかわからないけど同期のよしみで悩みくらい聞くからさ!」

僕たちにできるのは「プロジェクトFS」が完成するまでの間、八神を支えてあげることくらいだ。

僕は僕で背景班として全力を尽くそう。八神のキャラクターデザインとしてのデビュー作に泥なんか塗るわけにはいかない。

その後、僕たちはしばらくの間、思いのほかに絶品だった食事に舌鼓をうちコンペの反省会や今後の目標、それと四方山話に浸った。

 

 

 

楽しい時間は過ぎ去るのも早く、空になった皿はウエイターによりすでに運び出されていた。

きれいになったテーブルへ食後のコーヒーが運び込まれてくる。

僕はそのタイミングであらかじめ用意しておいた労いのプレゼントを二人に渡すことにした。

プレゼントといっても、高価な商品のようなものではなく、僕が作ったレプリカの一つだ。

僕が突然プレゼントを贈りたいと言ったとき、始め二人はあわて、遠慮をしていた。

しかし、かばんから出てきたのが包装もされていない上、表に何も書いていない白いDVDロムであることがわかると二人とも頭上にハテナマークが浮かんでいるような、不思議な表情をした。

珍妙な表情のリアクションをする二人に僕は笑いそうになるのをこらえながら言葉を続ける。

「僕、実は入社までにスキルアップのためにいろんなゲームを複製して(つくって)たんだ。ゲーム好きな二人なら楽しんでやれるんじゃないかってゲームを詰め合わせでいくつか選別してロムに入れてるからぜひ息抜きにやってほしいな。それでよかったら感想聞かせてほしい」

レプリカゲームの感想を聞くことができるのは僕にとっても貴重な機会だった。過去に名作と言われたゲームであっても、今の世界の感覚でそれがおもしろいという評価をうけるかはわからない。

両親や仲のいい友人ではなく、初めて外の人間、それも最前線で働くクリエイターからの意見を聞くことができるのだ。

その意見はこの先自分が本当の意味でのオリジナル作品を作るときの指針や財産となる。そう考えてのプレゼントだ。

若干の打算的な部分はあるものの、二人を喜ばせたいという思いもそこにあるのもまた事実だった。

「え!?レンさんって絵だけじゃなくてそんなことまでやってたの!?」

僕は面接で課題に関する質問をされて以降、ゲーム製作歴については管理職以外誰にも話していない。

別に隠しているわけではなかったけど、とりわけ話す場面やきっかけもなかったからだ。だから社内ではちょっと絵がうまい新人という程度の扱いを受けている。

「そうだな。昔からの習慣というか趣味というか。とにかく子どものころからゲームが好きだったんだけど、自分がやりたいゲームがなかなか見つからなくて、自分でつくるしかなかったみたいな。」

「そうなのね。そんなこと言う間薙さんが創るゲームってどんな作品なのかちょっと気になるわ。この前の歓迎会で書いていた絵のキャラクターがでてくるようなゲームなのかしら」

遠山も手渡した無地のディスクケースの表裏を眺めながらも興味を持ったのか質問してくれる。

「それはやってみてのお楽しみってことで!それなりに自信はあるけど、ぜひ二人の意見が聞かせてほしい。お世辞じゃなく本心でいいから」

「いいよ!でもこんな席で手渡されたってことはこっちも相当ハードルあげちゃうよ?感想も本当に1ミリも忖度なんてしないから!」

八神はこちらの挑戦にたいしてちょっとだけ生意気そうな表情で僕をのぞき込むようにしてそんなことを言う。

「あぁ、忖度なんかしなくていいよ。二人が本当に感じたことをありのままの感想をきかせてほしい」

「なら、私も家に帰ったら早速やってみるわね。明日はお休みだし」

「私も明日は予定ないしプレーしてみるよ。どれだけボリュームあるかわからないけど、それだけの時間があれば月曜日には感想くらいいえるだろうし」

同僚から唐突に渡された妙なゲームなのにも関わらず二人は快くプレーを決めくれたようだった。

でも安心してほしい、二人に送ったのはなんといってもあの作品達のレプリカなのだから。

二人からの感想が聞ける。それだけで僕は楽しみでドキドキして落ち着かない休日を過ごしたのだった。




お付き合いいただきありがとうございました。
あと1~2話くらいでタイトル回収くらいまでは話進められればと思っています。
今後ともよろしくお願いいたします。
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