現在、リクはエレシュキガルの部屋にいた。
「その……上を脱いで欲しいのだけど」
「あ、はい……え⁉︎」
「ふ、
「あ、すみません」
主神の急な発言に驚いたリクだったが、訳を知ると納得してすぐに上を脱いだ。そのまま仰向けになるようにしてベットに横になる。
「じゃあ失礼するわね」
エレシュキガルはその上に跨ってから針で指を刺して、リクの背中に一滴の血を垂らした。
リクは大人しくベッドに顔を埋めているが、これで自分もファミリアの一員になれるのだと思うと嬉しくて、口元は大きく緩んでいる。
「ん? これは……」
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもないのだわ。……よし、はいこれ。リクのステータスよ」
「ありがとうございます」
エレシュキガルから受け取った紙に視線を落としたリクは、数値を見て愕然とした。
「これが僕のステータス……全部ゼロ……」
「初めは皆こうなのだわ」
「あ、そうなんですね。よかった……」
_______________
【LV.1】
力 :I 0
魔力:I 0
敏捷:I 0
器用:I 0
耐久:I 0
【スキル】
○
・良成長
・窮地での全アビリティ高補正
_______________
「スキルがある……」
「恩恵を刻んだ時からスキルがある人は私もあまり見たことがないわ。それにこのスキル……恐らくレアスキルだと思う」
「え、すごい……」
まさか自分がそんなスキルを持つとは夢にも思わなかったリクは、目を見開いて声を上げる。
「おめでとう!」
「ありがとうございます」
エレシュキガルはリクを祝福しながらも、内心はこのことにかなり頭を悩ませていた。
(このスキル……
「リク……一応スキルのことはうちのファミリアの人以外には話しちゃダメよ」
「え……はい」
リクの返事をきいて女神はにこりと微笑んだ。
「それにしても……やっぱり英雄になりたかったの?」
「ち、違います!」
主神に揶揄われて顔を赤くするリク。スキル名が中々核心をついていた。
「ふふっ…まぁいいのだわ。じゃあもう一ついいかしら?」
「はい。何でしょうか?」
「私に敬語や様付けは無くてもいいのよ?」
「えっ。でも、エレシュキガル様は神様だし……」
神様に不敬を働いたら罪になることはリクでも知っていた。だから言い淀むリクにエレシュキガルは優しく微笑みかける。
「その前に、私達は家族でしょう?」
「アリスさんやファナティオさんも……」
「あの二人は真面目すぎるのよね。私がお願いしても頑なに変えなかったわ。その分リクには変えて欲しいのだけれど」
「うん……じゃあ……そうする」
「ふふっ、ありがとう」
素直な自分の眷属を前に、エレシュキガルは花が咲いたような笑みを浮かべた。
__________
「……ということなのよ」
「すごいですね」
主神からリクのステータスを聞いたアリスを始めとする団員達は、皆驚きの声を上げた。
「これは嬢ちゃんに続くレベルアップの新記録達成も期待できるかもな」
顎を掻きながら豪快に笑う男の名はベルクーリ・ワン。エレシュキガルファミリアの団長だ。青く染まった髪は短く切り揃えられていて、強者の風格を感じさせる。
「それは過去の栄光です叔父様。もうアイズ・ヴァレンシュタインが塗り替えましたよ」
一年半でレベル2に昇華するという偉業を成し遂げたアリスだったが、アイズヴァレンシュタインはその記録を大きく上回った。それはオラリオでは有名な話である。
「それでも凄いことだろ?」
「自信を持ちなよアリス〜」
ベルクーリとイーディスにそう言われて、アリスは渋々頷いた。
「リク君か……。僕も仲良くなりたいな」
会話を繰り広げる三人の隣でそう呟いたのは、金色の髪で如何にも優しそうな雰囲気を醸し出す少年。この人もまたエレシュキガルファミリアの団員で、名はユージオ・エナスという。美少年という言葉を体現したような外見をしている。
「ユージオとリクは気が合うと思いますよ?」
「そうかな?」
「どちらもファナティオが認めた男だしな」
「団長!揶揄わないで下さい……」
団長の冗談で頬を赤く染める副団長。ファナティオがベルクーリに好意を抱いているという事実を知っている団員たちは、黙って生暖かい視線を二人に送った。
「とりあえず、これは他言無用ね」
「おう。知れたら色々危なそうだしな」
「じゃあ次。リクの指導役はどうしようかしら?」
「はいはーい。あたしやりたい!」
我先にと手を挙げるイーディス。前にアリスの指導役を立候補してベルクーリに取られたからか、今回こそはと気合いを感じる。
「イーディスね。じゃあお願いするのだわ」
特に反対意見もなくスムーズに決定される。それでお開きになるという流れだったのだが……。
「わ、私も立候補します!」
「アリスも?」
突然のアリスの行動に皆が驚く。こちらはかなり意外なことだった。
「初めての後輩なので……」
「あぁ、そういうこと」
先輩になれたことが嬉しいのか、その瞳には固い意志を感じた。これは蔑ろに出来ないとばかりに
「そうね。じゃあ二人に任せるのだわ!」
これにて会議は終了した。
__________
リクは今、主神に案内された自分の部屋で寝具に横たわっている。僅かに開いた窓から入る風に肌を直接撫でられ、穏やかな表情を浮かべている。
これからの事を考えて天井を見つめていると、ドアから二回音が響いた。
「はい」
「リク〜?今ちょっと大丈夫〜?」
「あ、イーディスさん。大丈夫ですよ」
リクの声を聞いてからイーディスは扉を開いて室内に足を踏み入れた。後ろにはアリスも続いている。
「急にごめんね?」
「いえ。どうしたんですか?」
「ちょっと報告があってね」
イーディスの言葉にリクは首を傾げる。
「私とイーディス殿がリクの指導役を務めることになったのですよ」
「え!?……ありがとうございます……」
「よろしくね?リク」
「はい。その……至らぬ所もありますが……」
「いいのいいの!もっと気軽にね?」
頭の片隅にある敬語の知識をどうにか引っ張ってこようとするリクをイーディスが慌てて止める。
「あたしやアリスの事は姉だと思ってくれていいのよ?あたし達もリクのことは弟と思って接するから」
「あ、ありがとうございます」
「ん?」
「……ありがと」
言い直すとイーディスは満足気にリクの頭を撫でる。
「それではリク。明日は色々とやる事がありますから。しっかり寝ておくのですよ?」
「はい!」
アリスは青く澄んだ瞳でリクのことを黙って見つめる。
「……うん。分かった」
「はい!じゃあ私達は失礼しますね?」
二人が出ていくと部屋にはまた静寂が戻る。かなりの疲れが溜まっていたのか、リクは横になって早々に意識を手放した。
お読みいただきありがとうございます!