サタデーナイトスーサイド   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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ビューティフル・デイドリーム

 マツリが死んだと聞いて、おれは少しだけ安心した。

 マツリは死にたいと言っていたわけではなかった。おれと話す時も、カフェテリアで相席した時も、不安と焦燥と先の見えない自分たちのこれからが足を掴んで蹲ってしまうような夜を二人ぼっちで越えた時だって、おれは彼女が死ぬだなんて思いもしなかったし、死んでほしいと思ったことはなかった。けれど、いざそういうことになってみると、不思議とこれがきっと正しいんだと思えてくる。彼女の姉もそうだったようにマツリも自分で自分の綺麗な瞬間を誰かに焼き付けたまま終わりたかったのかもしれない。死人に口はないから、本当のことはわからないけれど、彼女がおれにくれたメモの切れ端には刹那的な気持ちが綴られていたし、彼女の横顔はいつの間にか消えてしまいそうな夕焼けの残り火のような物を秘めていた。思うように生きることが出来て、彼女の『今』が輝いていたとしたら、マツリはたぶん幸せだったのだろう。

 マツリの友人だったらしい女の子に胸ぐらを掴まれながら、おれはぼんやりと思い出していた。マツリがおれに言ったことを。

 息をいっぱい吸うと、その分だけ私はなにかすっごく大事なものを外に出さなきゃいけないって子供の頃から考えていて、それが怖くて私は時々息を止めるの。しっかりと。大事なことはちゃんと隠しておかなきゃ、いつか自分の知らないうちに誰かの手に渡っちゃうかもしれないもの。

 名前をうまく思い出せない女の子はおれを責めてる。取り巻きに抑えられながら、気付けたはずだとか言って、たくさんの涙を流している。けれど、君はマツリの友人だったにしては知るべきを知っていないし、おれに関しては知るべきことにそれはない。おれたちは死人の一から十まで知るべきなのか?

 察していて、見透かしているおれが言う言葉は女の子にとって全てが醜さに溢れて見えるだろう。しかし、マツリはその言葉よりずぅっとドブみたいな奴だった。

 本当におれたちはそこに踏み入るべきなのだろうか?

 

 

 マツリは素敵な女の子だった。きっとおれが知る異性の中でも指折り数えるほどしかいない魅力的な女の子だった。顔がいいとか、プロポーションとか、外見ではない馬の合う感じは疲れやすいおれの学生生活の中では数少ない癒しの一つだった。

 マツリと初めて会ったのは真夜中の談話室でだった。おれは誰もいなくなった談話室で見飽きた映画を音を流さないでプロジェクターで壁に写しながら、スポンサードされている企業のカタログに目を通していた。時計は二時を過ぎて、騒がしくて静かな時間がないおれは漸くその数時間だけ一人になれる。相部屋からも抜け出して、自分自身に整理をする猶予を与えてやれた。おれにはそういう時間が必要だった。

 実技授業で使うものは企業が提供してくれる。おれの要望も反映される、オーダーメイドを作ってくれる。第一線のプロフェッショナルが用いるギアと同じクオリティとランクで最高の環境を整えてくれる。その代わりにおれはプロモーションにこき使われる。芸能人の真似事もしなきゃならない。先日、バラエティ番組で愛想を振りまいてきたばかりで、今度はお堅いトーク番組に出なければならない。

 色々なことに、もう随分と前から疲れていた。自分の身の回りやパーソナルな部分に根差した問題に折り合いをつけることが出来ずにいた。一人の時はずっとくたびれたまま、誰かの前では取り敢えず前に向かって歩いている素振りを見せる。泣くようなことはないけれど、考える時に堂々巡りすることが多くなった気がする。夜はいつも酷い。

 スポンサーの担当者に注文するギアにチェックしていると、談話室に女の子が入ってきて、おれを見ると珍しい動物を見たか、感心したような声を出した。二組の生徒だった。幾つか同じ講義を受けていたけれど、名前をうまく思い出せなかった。

 「こんばんは」おれが言うと彼女もこんばんは、と返した。初対面でも印象が悪くならないような軽い笑みを添えて、再びカタログに目を落とす。

 彼女はドリンクコーナーの前で落ち着かないようにしていて、バーカウンターの中を行ったり来たりしていた。グラスの擦れる音、陶器の弾む音。まるで、朝が来たみたいだった。

 「バリスタは壊れてるらしい。明日の朝、修理が入る。大人しく外の自販機で買ってきなよ」

 「別にコーヒーが飲みたいわけじゃないの。ここに隠しておいたものがあって……」

 彼女はカウンターの向こう側から手と、ボトルを振りながら見せた。これを探してたんだ、と言いながらスプライトを冷蔵庫から出してテーブルに置いた。時計は三時前を指していた。

 「音、出さないの?」女の子はソファの端に座った。

 「別に映画を見たいわけじゃない」おれが言うと女の子はすこしだけ笑った。グラスにボトルに入った液体とスプライトを入れて、ワインをデキャンタージュするように大袈裟に混ぜた。綺麗な紫色だった。

 「ごめん、苗字が思い出せないんだけどさ。マツリさんだっけ、二組の」

 「大丈夫だよ。苗字あんまり好きじゃないから名前で呼ばれる方がいい」彼女はピースサインで答えた。

 おれはそう、と言って、訊いた。「それ、なに飲んでるの?」

 「リーン 。四組のアメリカ人からアクタビス貰ったから飲んでるの」

 今はもう流行ってないけど勿体ないしね、と言ってマツリはグラスを傾けた。

 「君も飲む?悪くないよ?」

 「そのうちね。覚えていたら、うん。飲んでみるよ」

 コデインは離脱症状がキツい。吐き散らかすし、身体中おかしくなるし、おかしなものが見えたり、不安や強迫が心を塗り潰す。一時、救われたところで結局少し後に傘増しされて返されるのなら、そういうインスタントな安らぎはいらない。そこに縋り落ちていくのなら、いっそ夢を見ているみたいに車道に飛び出してみる方が望みがある。けれど、それだっておれには駄目だった。

 おれは適当なことを言って部屋に戻った。その日、その数分の間おれはマツリと身のある話なんてしなかった。だから、もう彼女と関わることもないものだと思っていた。

 次に彼女と顔を合わせたのは放課後のカフェテリアでだった。おれが手慰みにテキストを捲っているところに来て、向かいの椅子に座ってから相席を申し出てきた。おれはヘラヘラ笑いながら承諾した。初めて会った夜から一週間と半分が過ぎた日だった。その間マツリは講義にも顔を出さなかったし、校内でも姿を見なかった。

 「体調が悪かったの。なんだか、何にも出来なくって」

 「コデインのやり過ぎ?」

 「どうだろう。そうかもしれないし、また別の理由かも」

 おれが訊くと、マツリはそんな調子でのらりくらりと返して持ち込んだファンタグレープを飲み始めた。また飲んでいるのかと思ったけれど、彼女はそんなおれの考えを見透かしているみたいに、さっきそこで買ったばかりだよ、とにやけた面で言った。別にマツリが何処で何をしていようが、おれにはどうだっていい話で、彼女を気遣うほど仲を深めた覚えもなかった。おれはテキストを閉じて、ニュースアプリのトピックを流すことにした。

 「私少し休んでたんだけど、どれぐらい授業進んだ?」

 「次の章に行ったよ。かなり先に行った。来週末テストするらしいけど大丈夫?」

 「どうだろう。まぁ、どうにかするよ」

 「よかったらノート送るよ。今晩、端末に送っておくから。おれの学籍アドレス分かるよね?」

 マツリは頷いて、後でお礼するね、と言った。同じ講義を受けている身で、薄くても関わりを持ってしまったというのに無視するのも座りが悪いだけだったというのに、へんに礼をされても困ると思い、建前として「今度コーヒーでも奢ってくれたらそれでいいよ」と言った。

 その日の夜、彼女は談話室でおれにコーヒーを作ってくれた。修理が入ったバリスタマシンのボタン一つで出てくるエスプレッソをテーブルに置いて、昼間のお礼だと。おれは思わず笑ってしまって、彼女もつられて笑っていたけれど、驚くぐらいに早く返ってきたにしろ礼の質がインスタントすぎるな、と思った。どう繕おうがコデインの離脱症状が辛くて人前に出れなかった女と思えばちょうどいいぐらいの礼だった。

 「また同じ映画見てる」

 「見てるわけじゃないよ」

 「じゃあ、どうしていつも流してるの?」

 おれはフェイスブックを開いていたタブレットをテーブルに置いて、「落ち着くんだよ。部屋を真っ暗にして、特に見るつもりが無くても深夜の通販とか映画の再放送をつけて、他のその時間にしか出来ないことをやる。音は出さないようにしてだ。夜は静かな方がいい。音がある夜もいいけれど、おれは静かな方が()()好きなんだよ」

 大昔のハリウッド映画。おれが生まれる何年も前の爽快感とかアンチストレスとか、そういう要素が詰め込まれて最後には悪者がやっつけられて終わりなんてありがちな終わり方の名作。初めて見たのは子供の頃の夏休みに昼下がりの映画の枠で、何度も再放送されて流れが頭に入ってしまった。だから、

 「ここで髭面のゲリラが手榴弾で吹っ飛ぶ」

 おれが言うと、手榴弾の爆発にしては大袈裟すぎる演出で火花と一緒に役者が大ジャンプした。マツリはそれを見て大笑いして、

 「ねぇ、そんなに、演出とか覚えちゃうぐらい見たならさ。もっと別の映画流せばいいんじゃない?ここのサービス、もっと色んな映画配信してるのに、見なきゃ勿体なくない?」

 「集中するためのセッティングの一つだから別にいいよ。昼間に出来ないことをするためにここにいるんだから」

 「なるほどね」とマツリは言って、「私、邪魔だった?」とおれに訊いた。

 「邪魔って言ったらおれの印象、悪くなるだろう?」

 確かに酷いね、と彼女は口元に手を当てて笑った。よく笑う人だった。

 談話室は別におれだけのものじゃない。そして、マツリだけのものでもない。こんな時間に使う奇特な人間もおれだけではなかったというだけの話だった。

 「邪魔ついでにさ、もう一杯エスプレッソ作ってくれよ」

 「やっぱり邪魔なんじゃない。出てけって言ってくれれば出ていくよ?」

 「別に邪魔じゃないよ。またノート送るからさ、頼むよ」

 それからおれたちは朝まで話をした。お互いがこの時間、この空間を共有する時の取り決めのようなものを決めたり、当たり障りのない話──晩に食べたボロネーゼの味付けが気に入らなくて、なんだか惨めったらしくなってきたとか彼女が言うものだから、彼女はきっと考えすぎる厄介な人間なのかもしれない。おれはそう思った──をした。おれたちはこの真夜中の雑談を『面談』と呼ぶことにした。仰々しいような気もしたが、名前なんて実のところどうでもよかった。

 

 

 

 

 ✴︎

 

 

 八月三十二日

 

 ずっと、耳の中で渦が巻いている。高くなったり、低くなったり。あたしの耳の中で赤ちゃんが寝返りをうってるみたい。こういう日は何も出来なくなっちゃうから、余計に滅入る。ずっと寒い。

 沙羅ちゃんが飴をくれた。酷い顔してるって言ってた。あんたの方がよっぽど酷い面してるよ、とは言えなかった。また眠れなかったみたい。

 晩ごはんは豆腐ハンバーグをひとかけら。お腹は空いてくれない。

 

 

 八月三十三日

 

 クラスメイトの子が家族と通話していた。たまたま通り掛かった時にモニターに美人な母親と生意気そうな妹さんが見えた。後ろに見える家の内装もすごい綺麗だった。真っ白けのきらきら。

 死ねばいいよ。

 あの母親は娘が何をしているか知らない。妹は(偏見かもしれないけれど)姉にそっくりで性格悪そう。沙羅ちゃんのこと、自分が防波堤から突き落としたこと、誰も知らないと思い込んでる大間抜け。何がさ、「ママ心配しないで。大丈夫だよ、元気だから」だよ。いい死に方なんて許さないから。

 晩ごはんはなし。今日は最低の気分。誰とも話したくない。

 ごめんね沙羅ちゃん。沙羅ちゃんは何も悪くないよ。強い言葉使ってびっくりさせちゃった。あたしが悪いんだから。

 

 

 八月四十三日

 

 沙羅ちゃんが死んだ。

 

 

 ✴︎

 

 

 

 

 カフェテリアの責任者は大沢さんという三十代半ばほどの男性で、おれと時折世間話をすることもあった。深く自分のパーソナルな部分に入り込まないような相談事も彼にしたことがあった。おれと彼の間で交わされる会話のほとんどはおれが話題を出して進むような形で、だから、放課後にカフェに立ち寄った時、大沢さんがマツリのことをおれに訊いてきたことには少なからず驚いた。弾みでカップを落としてしまうぐらいには。

 「マツリちゃんと仲いいんだって?」

 「えぇ、まぁ。最近、少し話すようになりました」

 「ぼくが休みの日に彼女とここでデートしてたって。スタッフから聞いたよ……。若いね」

 「大沢さんだって若いよ」おれが言うと、彼は若く見えるだけだと言っておれの向かいに座った。

 「マツリはよく来るんですか?」

 「たまにね。ぼくがいない日に狙って来るんだ」

 あの子はぼくのことが嫌いらしい。大沢さんはエプロンを畳んで、苦笑を漏らした。おれはどう返していいか分からなかったから、なるほど、と曖昧なことを言ってコーヒーに口を付けた。へぇ、それはまたどうして、とか。なんかあったんですかぁ、とか。どうにも惚けたことを訊く気にはなれなかった。あまり感じのいいものでもない。

 「君は、あの子に気に入られているみたいだ」

 「そうでしょうか?そんなに仲がいいってわけでも……」

 「あの子は滅多に誰かと距離を詰めるような子じゃないんだ。壁が厚いというかね……。スタッフから聴いた限りじゃあ、随分と打ち解けているらしいから」

 詳しいですね、と言うと、歳を取れば分かることもあると言って大沢さんは店仕舞いの支度を始めた。

 帰り際に大沢さんは紙袋をおれに持たせた。マツリに渡してくれ、とだけ添えて彼はバックヤードに引っ込んでしまった。掌に乗るぐらいの大きくもない青と薄茶色の紙袋だった。

 その日の深夜、マツリが談話室に入ってくると香ばしい薫りも一緒に部屋に広まった。彼女は両手にミトンを付けて、大皿を持っていた。皿の上にはこれでもかとフライドポテトやサンドイッチが乗っていて、パーティの帰りかと訊けば、

 「映画を観ようよ」

 「何の?」

 「何でもいいよ。君がいつも見てるやつじゃなければね」

 マツリが選んだのは、ありふれた恋愛ものだった。古典的なものから今年公開になったものまで配信されているサービスからどうしてそれを選んだのだろうか。おれには、勝手な話だけれど、マツリには似合わないと思った。いつの時代にもあるような、少しの緩急があってふんわりとした視聴後の余韻があって、流行りの役者が上手いらしい演技で──若手ナンバーワンだとか、新進気鋭とか、演技派だとかいうキャッチコピーが手垢みたいに付けられていることが多い──あまり疲れないストーリーを演じる。セルアウトされるエンターテインメントの代表のような甘いお話。彼女はそれをサンドイッチを囓りながら真剣に見ている。苦笑いしてしまうぐらいに似合わない。

 別にもっと教養を感じさせるチョイスをしろだとか、アレを見ろコレを見ろと言いたいわけじゃない。けれど、そう深く関わったわけではないにしたって、マツリの様子からこの手の映画が好きだとは想像することが難しい。

 「眠れなくなっちゃうよ?」とマツリは言った。おれはマシンで入れたブラックコーヒーを飲んでいた。

 「眠りたいならこんな時間にこんな場所にいるわけない。あんたとこうやって夜更かししてるのに、ありえない」

 マツリはそれもそうか、と笑ってフライドオニオンをフォークで刺した。何度も何度も刺して、皿とフォークがかち合う音がキスシーンを邪魔している。まるで野次みたいに。

 「そういえば渡す物があるんだ。カフェテリアの大沢さんから、あんたに渡してくれだって……」

 ふと思い出してマツリを件の紙袋を渡すと一気に彼女は顔色を変えた。表情に均等に力を入れて、固めたような面でフォークをテーブルに放った。そしておれが差し出した紙袋を引ったくってカウンターの方へ投げた。紙袋は壁に当て付けられて大きな音を響かせた。おれは少しだけ驚いて呆けた声を出してしまった。

 いらないのか、と訊けばマツリを立ったまま頷いた。行き先が定まらないような、震えて鼻に掛かった声だった。壁にはエンディングロールが流れていた。紙袋を拾い上げて、中身を見ると、それは丁寧に梱包されたコーヒー豆だった。可愛らしい群青のリボンまで添えられていた。

 「なら、これ貰ってもいいかな。上等な豆みたいだ……。捨てるには少し勿体無いや」

 「好きにしなよ。わたしには関係ないからさ」

 ふぅん、とおれは頷いて、「ところで、いきなり物を投げるのはびっくりするからやめてほしいんだ」

 「ごめん。少し、冷静じゃなかった……。気を悪くしたよね」

 「怒ってるわけじゃないよ。ただ、本当に驚いただけだから」

 空が少しずつ薄れて、青味を帯びて来ていた。おれたちはソファに深く座り込んで、配信サービスのトップページが映された壁を見ていた。

 それからまた暫く、おれはマツリと会うことはなかった。単純に彼女と顔を合わせる機会に恵まれなかった──彼女は講義にも出てこなかった──というだけでなくて、おれ自身の問題も積み重なっていてどうすることも出来なかった。どうにもやる気の起きない講義の小テストで酷い成績を晒してしまったお陰で補講を受ける羽目になった。それに加えて、姉の仕事に着いてモントリオールで先月のフォーブスの表紙で微笑んでいた男と極めて和やかな足の踏み付け合いをしてきたお陰で、おれの学業へのモチベーションは底を付いていた。単純に疲れて、講義中に眠り腐っていたのだ。内申もきっと良くない。出たくないと言って、出なくていいというわけにもいかない。おれだって、もう子供じゃないし、周りもおれを子供扱いしてはくれない。嫌々ながらも腹を決めるしかなかった。

 日曜日の朝から始まった補講は夕方までのんべんだらりと憂鬱さだけをこれでもかと教えてくれた。おれだけの、だだっ広い講義室の真ん中でガムを噛みながらおれは上の空で山田先生の話を聴いていた。窓の外を見てみれば土曜日の夜に外泊した顔見知りたちが講師と話している。ちょうど帰ってきたばかりで、久しぶりに会った友人の話をしていた。いつの間にかガムは味をなくしてしまっていた。ただの粘土質なものを口に入れたまま、おれは間抜け面を晒していた。それに気付いた時には山田先生がおれの前に立って、おれの見ていた先を一緒になって見ていた。

 「ついてないですね」と先生は言った。

 「まったくですよ」

 「とりあえず今日はここまでにします。教務にはうまく言っておきますから。あんまり堂々と怠慢を晒さないでくださいね……?次からは()()()()()()()()()()

 おれはガムを包んだ紙を屑籠に投げて、申し訳ないですと返した。先生はため息をついて、前の席に座った。

 「最近、眠れていますか?」

 「はい。そこそこ」

 嘘だった。

 「そうですか。いえ、先輩が心配してたものですから。最近、君の顔色があまり良くないって。へんな心配かけちゃ駄目ですよ」

 「そういう年頃なんだから、大目に見て欲しいですね」

 「医務の方に口を効くことも出来ますよ。眠れないなら、導入剤を処方してもらったり……」

 「いいアイディアかもしれませんね」まっぴらごめん被るような話だけれど、確かに眠る事は出来るかもしれない。

 眠りに就くということは、おれたちの意識は完全に落ちているわけで。眠っているおれたちは外界からの刺激からは遠ざけられてしまい、何も感じることのない、すっぽりと欠けた時間に身を委ねなければならない。そこにはほんとうに何もない。日々追われているものも、感じた喜びも、自分を苛む恐ろしいものでさえ、物質的、あるいはおれたちが意識あるうちに有り様を感じるような形では存在し得ない。けれど、それらは容易く逃げ道を塞いでやってくるのだから質が悪い。きっと、その場所だけが誰かにとってほんの少しだけ自らを癒せる場所であったとしても土足で踏み荒らして、しかも人間の一頭弱い部分を針で刺すみたいに詰る。

 おれたちはそんな場所では徹底して無力なのだ。夢、なんて見ようものならば──それが悪夢であるなら──話はもっと酷い。

 眠りに落ちることに抵抗を覚えたのはいつだっただろうか。うまく思い出すことは出来ないけれど、きっとおれが車道に身を投げた少し前ぐらいからだったように思える。その頃から『疲れ』はあった。環境であったり、空気であったり、先の見えなさや中身に発泡スチロールが詰められたような言葉たち。それらはゆっくりと、しかし想像よりも遥かに早くおれのことを疲れさせていった。何処で何をしていたって、それらはおれのすぐ側にいた。そして、それらは言い様のない、形容し難い重みとしてあった。誰に話すことも出来なかった。だって、言葉にすることが出来ないから。おれは、当時の現状と苦しみを誰かに伝えることが出来なかった。

 ベッドで横になって、瞼を閉じて、光が落ちていって。少しずつ不安が遠退いて。でも、眼を開けばおれは足を動かして、笑みを作って、多くの苦しさと向き合わなければならなかった。朝、憂鬱はいちばん醜悪な笑顔でおれの目覚めを迎えてくれたと思う。そうして受け止めた負荷は単純な苛立ちとして滲み出てくる。誰かの話の中の言葉の一つ一つに恣意を見るようになる。女の笑い、その口角の上がりきった皺に嫌悪を持つこともあった。生活の至る場所に頸に爪を立てるようなものが溢れているように見えた。そうして限界はふとした瞬間に訪れる。

 「とにかく。あまり、やんちゃをしないように。わたしからはそれだけです。きっと、先輩からお叱りは沢山受けたでしょうから」

 「真耶さん、今日はごめんね。次は頑張るよ」

 おれが昔の呼び方で言うと先生は怪しげにおれを見て肩を竦めた。随分と生意気になっただとか、可愛げのない弟分だとか言って講義室から出て行った。あんただって人のことを言えないぐらいには元気が無さそうだ、とは結局言わずじまいでおれはテキストをトートバッグにしまって講義棟を出た。言えば、また小言を貰っていただろう。

 帰る道すがら、車に跳ねられた時のことを思い出していた。大した怪我はなくて、おれは跳ねられた瞬間には意識を失っていた。ふっ、と暗くなって眼を覚ませば病院のベッドの上で転がされていた。そして、自分に起こったことを全て整理し終えて理解が及んだ時に痛みを漸く感じ取ることが出来た。

 おれたちが正確に痛みを感じ取ることが出来るのは、いつだって現実を誠実に受け入れることが出来た時だけなのだ。それならば、おれたちが普段感じている痛み、苦痛は一体なんなのだろうか。おれたちにはそれを明かすことは、今のままではきっと出来ない。痛みに見えているものの正体を知るには今も昔も言葉や思慮が足りず、そして浅い。

 コンビニの前を過ぎた頃にメッセージアプリの通知が入った。マツリからだった。今からわたしの部屋に来て。ポカリ買ってきて、とだけ。おれはコンビニまで道を引き返さなくてはならなくなった。

 

 

 

 

 *

 

 

 八月四十九日

 

 夢の中で沙羅ちゃんと会った。いつも通りの互いの生活をのうのうと過ごすだけの、取っ掛かりもなにもない夢だった。喋って、講義を聴き流して、飴を舐めて、お昼を食べて、授業を聴き流しての繰り返しで、帰れば近い場所で過ごすだけ。そういう、わたしたちの細やかな日常をわたしは幽霊にでもなったみたいに、俯瞰のような、主観のような、()()()の激しい不思議な視点で見ていた。何も思うことはなかったけれど、そんな夢の中でも──わたしはそれを夢だと分かっていたようだった。けれど、()()のようなものも同時に感じていた──わたしの耳の中では寝返りがうたれていた。

 こうして日記をつけている今、わたしは眼を覚ましていて、デスクの上で筆を執っているのに実感はない。そして寝返りはうたれていない。感覚が膜を一枚隔ているような鈍さを持っている。筆先は軽やか。何か、足りなくもあって満たされたような、過不足が既に補填されているような。今は朝の六時。

 

 

 八月五十二日

 

 夢の中で沙羅ちゃんと会った。沙羅ちゃんは少しだけ難しい顔をしていた。悩んでいるみたいで、わたしは少しでも力になれたらいいと思って話を聞いてみたけれどなんでもない、大丈夫だよ、の繰り返しでずぅっと沙羅ちゃんは部屋のテーブルに突っ伏していた。テーブルの木目をなぞるみたいに指先が時折動くぐらいで、お昼ご飯も食べずに夕方まで一言も喋らず、動かないままだった。わたしはそんな沙羅ちゃんを見るのは初めてで、どうしていいか分からずに彼女の側で見守るしかなかった。

 そんな心配そうに眉を下げる自分を、わたしはぼんやりと見ていた。寝返りが激しい。頭が重くて何も考える気が起きなくて、億劫になる。

 何を考えるのだろうか。夢の中で?

 

 

 八月五十六日

 

 夢の中で沙羅ちゃんと会った。最近の沙羅ちゃんは何処か具合が悪そうで、前みたいに()()()()とは笑ってくれない。やっぱり、少しだけ陰りがあるというか。心から笑ってくれているように見えない。何かが引っ掛かって、つかえて苦しいのかも。きっと悩みのせいだろう。わたしの知らない悩み。知るべきではないのかもしれない、沙羅ちゃんの悩み。想像もつかない。傲慢かもしれないけれど、どうにかしてあげたい。

 物事を結び付けるには点と点を結ぶための線を書く力がいる。そして、点を見つける力も、それらを捉えるための知覚も。遥か大昔のシュメール人が瞬く星を繋いだように、散りばめられたものを綺麗で分かりやすいように接続してゆく。そうしたがるのだけれど、それが全て正しくわたしたちを導いてくれるわけじゃあない。それは星座とは違う。

 今日は大人しいみたい。いつもこれぐらいならちょうどいいのに……。

 論理が欠けた場所でわたしたちは結び合わせます。そのロープは一見真っ直ぐに見えて、解けることはなくても重大な欠落を孕んでわたしたちに巻かれる。欠けた論理が、ではなくて。もっと、そう、大事な──

 

 

  *

 

 

 

 

 買い物かごにポカリを四本投げ入れて、適当な味のレトルトのお粥もその上に重ねた。ついでに、パウチ入りのエネルギーゼリーをあるだけ。片手で持つには、かごは少し重くなっていた。

 夕暮れ時、みんな思い思いの出来合いを買っているのに、おれだけコンビニじゃなくてドラッグストアで買い物をしているような気分だった。──ドラックストアで買い込むにしては割高になってしまって、レジで払った金額を思えばやはりコンビニで諸々買い込むのはいい案ではなかった。電子決済も明細を見て、講義棟の方まで余計に引き返して購買で買った方が金銭的にはいい選択だったかもしれない──自分が必要としていない、誰かの体調不良に合わせたような買い物リスト。実際のことはまだ分からないけれど、なんとなくマツリは今すこぶる体調が悪いんだとおれは分かっていた。そうでもなければ、いつもの彼女がポカリスエットを欲しがる様を想像出来ない。

 彼女の部屋はおれの部屋のちょうど斜め上だった。部屋に補講で使ったテキストを置いてから、おれは四〇九号室のインターフォンを押し込んだ。ゆっくりと間延びする音がおれの来訪をしっかりと伝えているはずだった。しかし、おれは予想以上に部屋の前で待たされた。少し間を置いてもう一度インターフォンを鳴らしたけれど部屋の中からは何も反応は返ってこないし、物音の一つもない。五分ほど待ったところで、アプリの通知が来てマツリから開いている、とだけ短文で入室を促された。ドアノブに手を掛ければ確かにあっさりと首を下ろした。

 同じ間取りで、ほとんど同じ据え置きの家具。マツリの同居人のスニーカーの隣にジャックパーセルを脱いで、おれは慣れがある他人の部屋に上がり込んだ。部屋は薄暗くて、群青から黒にかけてしじまをたなびかせた外の僅かな明暗と差し込む外灯の切れ端で物も輪郭が分かる程度だった。マツリはベッドの上でうつ伏せに寝ていた。頭からブランケットを被って、顔を見ることは出来なかった。

 「お邪魔しているから」

 「うん」

 「遣われてきたよ。君の言う通りにポカリ四本とついでにレトルトのお粥なんかも買ってきた。何も聞いていないんだけど、具合悪くて、どうせ何も食べていないんでしょう。食欲は?」

 「分かんない。食べられそうな気もする……」

 「袋の中にゼリーが入ってるから、気が向いた時にでも食べなよ。それでも駄目なら大人しく医務に行った方がいい。ポカリは冷やしとく?」

 マツリは唸るように否定の意を伝えてきた。枕元にゼリーの入った袋を投げて、ダイニングテーブルの上に買い物を置いた。それでおれは使いっ走りとしての役目を終えた。

 「同居人は?相部屋だろう?」

 「外泊だって」

 「外泊?じゃあ、明日はどうするんだ」

 「明日は休みだよ。振り替え……、祝日?」

 カレンダーを見ると確かに明日は祝日になっていた。明日、講義があるとばかり思い込んでいた。あぁ、そう、なんて呆けた返事をしたおれを横目にマツリが怠そうに起き上がった。髪はボサついて癖が跳ねていた。顔色は分からないが、目元はやつれているようだった。ふらつきながらマツリはキッチン脇に積まれていた段ボールからスプライトを出して、転びそうになりながら戻ってきた。目で追っていたおれの胸にボトルを押し付けて、ありがと、と言ってベッドに腰掛けた。

 「椅子を借りてもいいかな?」おれが訊くと彼女は前髪を掻き上げながら頷いてくれた。おれはダイニングから椅子を一つ引っ張ってきて、彼女のベッドの側に腰を下ろした。

 「今って何時……?」

 「夕方の六時二十三分だよ」

 「寝過ぎたかも……。こんなに眠るはずじゃなかった……」

 「余計なことかもしれないけれど。具合が悪いなら好きだけ眠ればいいと思う。随分、酷そうに見えるけど、ODでもした?」

 「それもあるけど。それ以外の理由も……。たぶんあると思う」

 足元を見ると咳止めの瓶が転がされていた。錠剤のものと、少しのっぽな液剤のもの。見慣れたブロンとハイテクレッド。そしてスプライトのペットボトル。

 「荒れてるみたいだね」おれは全く誰へも推進しない言い様をした。部屋が、とも取れるあやふやな、手酷い投げ返しを喰らってもどうにかなるようなやり方。

 「最悪の気分だよ……。わたし、生きてると思う?今さぁ……」

 マツリは静かに涙を流し始めた。ゆっくりと顔を両手で覆って、身体が小さく震えている。その時にやっと、おれはマツリがタンクトップとショートパンツだけの薄着でいることに気が付いた。

 「生きてるよ。今おれと喋ってる。ちゃんと息をして、声を出して、ついでに言うなら泣いている」

 「分かんない……。君も生きてるの……?」

 「もちろん。触ってごらん」

 おれが差し出した手をマツリは恐る恐る握った。触れては、弱々しく叩く。大事そうにおれの腕をなぞる。そうして一つ一つ、入念に何かのチェックシートを埋めているようだった。

 彼女の手は冷たくて、おれが今まで触れたことのある女の子の手と同じ感触がした。触れられて初めて、思っていたよりも指が細くて繊細なことに気がついた。シャツのカフスを外す仕草もへんに綺麗に思えた。おれにその手のフェティッシュはないけれど、官能的にさえ見えた。

 結局彼女は二十分弱おれの腕で何かしらを確認しようとして、駄目だとか、やっぱり分かんないだとか言って、へんなこと言ってごめんねとおれの手首を両手で──まるで木刀でも持つみたいに──握って項垂れてしまった。

 マツリは何でもいいから話をしてくれとせがんだ。静かなことに今は耐えられないと、枕に顔を埋めておれの手首を離さぬまま呟いた。おれはモントリオールに行った話をした。大して面白い話題でもないとは思ったけれど、人に話せるような話題はそれしか持ち合わせがなかった。間違ってフランスに来てしまったと思ってしまうような街の佇まいと溢れるフランス語。悪くない居心地の良さや、セントローレンス河沿いのゆったりとした空気が気に入ったこと。向こうに住んでいる友人のツテで観劇したシルク・ド・ソレイユとホッケーの試合。肩肘が張り詰めたパーティーと会食。少し前の思い出を彼女に読み聴かせるように、ゆっくりと話した。幸いとは言い難いかもしれないが、おれにもマツリにも時間はたくさんあった。途中でスプライトで喉を潤しながらおれは彼女が寝入るまで側にいた。

 おれがマツリの部屋を出る頃にはもう日付が変わってしまいそうになっていた。マツリの肌にブランケットを乗せて、スプライトを一本貰って部屋を出た。帰り際、声を掛けてもマツリは静かに寝息を立てるだけで返事はなかった。

 オートロックが閉まって、誰もいない寮の廊下でおれはどうしてマツリはおれを呼んだのか考えた。別におれじゃなくてもよかったんじゃないか、と頭を過ぎる。けれど、床に転がされていた瓶のことを思い出してそう簡単に誰かに使い走りを頼めやしないことに思い至って、手首に薄く赤らみを帯びたマツリの手形を見た。弱い人間の、小さな掌。まるでそこから彼女の抱える問題がおれに流れ込んでくるような肌の粟立ちを覚えた。自室で、──自分の生活感しか存在しない一人部屋。今も昔も、()に姉の存在を色濃く感じたことはなかった──缶詰に入った鯖とレトルトの中華丼を食べて、おれはベッドに横になって間接照明で淡く照らされた天井を仰いだ。

 次にマツリと面談するのは何時になるのだろう。身体から力が抜けていく過程で思う。おれは次にあの談話室で彼女と顔を合わせた時、いったい何を話すのだろうか。とりとめのないことを、脈絡もなく言ってみるのか。具合はどうだ、色々やり過ぎだ、ダルクにでも行くの?何時のことかは分からないが、きっと遠い先のことではない未来を頭の片隅に描いていた。そんなこと普段ならばやるはずがないのだけれど。

 見えないものに対して、分かりやすく例えるなら将来だとか、実在を掴めなくても必ずやってくるものに対しておれたちは無力で。今をどうにかするのだけで手一杯なのだ。おれはおれの問題を、マツリはマツリの抱える問題を。自分のことだけで精一杯なのに、もしも互いの問題が隣同士に寄り掛かってしまったとしたら。それはどんなに辛く、苦しい状況なのか。おれには想像もつかない。そこには決定的な現実感が欠如している。そこには楽観が入り込む余地がある。

 静かな夜だった。呑み込むような睡眠がおれを覆う。その日ばかりは、おれは抵抗しなかった。甘い薫りがおれをゆっくりとクロージングしていった。きっと悪い夢を見るという予感があった。それでもおれはよかった。頭の中に煙がまかれたように、考えることが抜け落ちる。

 そして、やはり実在を掴めないものはそこにいた。おれは眼を閉じた。囲まれているその場所で、おれは残されたへその緒を守るために耳を塞いだ。

 やがて、耳の奥の方で何かが寝返りをうった。

 

 

 

 

 *

 

 

 八月六十七日

 

 胎児と母体は隔離されている。胎盤関門が母親の身体から流れ込もうとする胎児に有害なものを阻む。胎児は必要なものだけを母体から受け取って、産まれ落ちる時を待っている。けれど、全てを阻んで胎児を守り切ることは出来ない。アルコールが胎盤関門に阻まれないように、胎児は数多の毒をその身に受けて産まれてくる。わたしたちの()()()は、眼は、息は、胎児を潔白でなくして引き摺り出す。わたしたちが胎児を人間にして陽の光の下で暴き立てる。

 夢の中でわたしは()()()()にいる。そこにわたしは立ち尽くして波の音に耳を澄ませる。沙羅ちゃんはその場所にいない。彼女は深い場所で息を吸い込むには疲れ過ぎているから、ここにいることは出来ない。そして、何より深い場所に来ることが出来るのはわたしだけで、この場所でわたしは()()()を綴る。

 『沙羅ちゃんは沖合いまで流された』

 

 

 八月六十九日

 

 夢の中で沙羅ちゃんと会った。沙羅ちゃんは部屋に篭るようになってしまった。授業に出ることも嫌がって、ベッドの上で毎日外ばかり眺めて一日を過ごす。わたしが作り置きするお昼を半分だけ食べて、部屋に戻る頃には恋しそうに海の向こう側を見つめている。わたしはそんな沙羅ちゃんに当たり障りのないことしか言えない。今日あった楽しいこと、今日のお昼ご飯の出来栄え、何気なく付けたテレビへの野次。どんな言葉を口から放つにしても、わたしはその言葉が発せられる時間に対して、より大きな逡巡を持ってそこに棘がないか探した。何も語ろうとしない彼女にわたしは本質的に何かをしてあげられることがなかった。

 わたしが沙羅ちゃんと直接言葉を交わすことは初めてだった。わたしは彼女に多くのことを訊いた。しかし、彼女が口を開くことはなかった。彼女はずっと窓の外側を見ていた。遠く、影も形も見えない場所を眺めていた。わたしは彼女のことを何も知り得ない。知ることを許されていない。


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