かつての指揮官   作:天塚夜那

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教廷の将軍 第三話

 兵士は溜め息と共に天を仰いだ。

 この地に来た頃は満天の星空に心を打たれたものだが、慣れればただの風景だ。

 軽くなったタバコの箱から一本取り出して咥える。これで今月分の配給品も最後だ。次はいつになる事やら。

 火を付け、ゆっくりと吸い込み、夜の帷へ煙を吐きつける。

 温暖なチュゼールであっても日が暮れれば相応に冷える。そんな夜にあって、普段味わえない一服にはえも言われぬ温かさがあった。

 ――その時。

 兵士の上を何かが通り抜ける。

 そう思った刹那、空を切り裂く轟音と共に暴風が兵士を襲った。

 突然の事に踏ん張る事も出来ず、兵士は吹き飛ばされて盛大に大地を転がる。

 そして、兵士がよろよろと立ち上がった時、辺りに無数の爆音が響く。

 慌てて音のした方向――仲間達の居る宿舎の方角に目を向ければ、暗い空は真っ赤に染まっていた。

 

 

―――――

 

 

 レーダーを掻い潜り、地面すれすれの低空から侵入した三機のブラッティバードⅠは極東軍の野営地に次々と爆弾を投下する。

 

 ヒューーーッ。

 

 空を切る甲高い音と共に夜の静寂を破り、爆弾は野営地の中心に炸裂した。

 通常の炸薬の代わりに、特殊な火薬と燃料を詰め込んだ焼夷爆弾は爆風の代わりに、水では消えない特殊な炎を撒き散らす。

 炎は瞬く間に、人を兵器を建物を覆い、燃え上がる。

 業火の中で無数の影がのたうち回り、幾つもの火だるまが踊り狂う。

 野営地はさながら地獄となった。

 それをモニター越しに見たダンテは更なる命令を下す。

 

『戦車前進』

 

 命令に合わせて別のモニターに映っていた教廷の戦車達が動き始める。

 その頃、極東軍にも動きが見え始めた。火を逃れた兵士達が懸命に消化、救助を行なっている。

 燃え上がる格納庫からは、装甲を焦がしたBMがゲートを突き破って飛び出す。

 

『対BM戦闘。炸裂徹甲弾用意。間接照準開始』

 

 夜空を舞うブラッティバードが地上に向けて誘導用のレーザーを照射する。

 

『撃て』

 

 瞬間、大地を震わす轟音と共に、野営地の上空を無数の火球が埋め尽くした。

 野営地を取り囲んだ戦車隊は、ブラッティバードが指定する目標に向かって次々と砲弾を撃ち込む。

 砲弾の嵐が吹き荒れる。

 極東の兵士も反撃を試みるが、野営地全体に広がった業火で目が潰れ、暗闇に居る敵が見えない。

 それは生身の兵士だけでなく、BMも同じだった。メインカメラの光量補正が安定せず、暗視装置も周囲の火が邪魔をしてまともに作動しない。

 その結果、暗闇から砲撃を繰り返す戦車を捉えることが出来るのは、その主砲が瞬くその一瞬のみ。

 一方で、この状況は教廷軍にとっては極めて有利に働く。

 なにせ野営地の外から見れば中の敵はまさに、火を見るように明らか、なのである。

 更にこちらには空の目も存在する。地上の敵は逃げることも、隠れることも許されない。

 それはまさしく「詰み」という言葉こそ相応しい状況だ。辛くも生き残ったBMがことごとく嬲り殺しの憂き目に遭うまで時間は掛からない。

 そこまで見届けたダンテは部隊に三十分後の撤退を命じると、回線とスクリーンを切り替える。

 

 

―――――

 

 

 シンシアは眼前の光景を興味深げに見つめていた。

 今彼女の前では、椅子に深く腰掛けたダンテがを中空を見上げながら全部隊を指揮している。

 そう、全部隊を(・・・・)、だ。

 極東武帝との戦闘で主力部隊が壊滅して以降、組織だった反攻が不可能になった教廷軍だったが、各地には残留部隊やダンテによって配置された部隊が混在している。

 これらの部隊は状態も、装備も、構成も、てんでバラバラなのだが、ダンテはこれら全てを同時に指揮しているのだ。

 それを可能にしているのが、彼が副鋳造総監と共に開発した装備品である、ダンテの装着したヘッドギア、もとい無線接続式脳波トランスミッターだ。

 通常の脳波トランスミッターは本来、脳波を感知して電気信号を発する事で専用の受信機を取り付けた機械を動かすという物だ。

 だが、このトランスミッターは専用の受信機など無くとも、脳波を無線電波に変換して発し、ネットや回線に干渉することでこれらに接続した機械全てを直接操作する事が出来るのだ。

 だが、この装置には唯一にして最大の弱点が存在する。

 それは使用者であるダンテ本人が生身だということ。その為、利用に限界があるのだ。

 接続する機械の対象が増えれば増えるほど、そこからのフィードバックも膨大になり、人間の脳で耐えられる情報の量を超えてしまうのだ。

 余談だが、この装置を司祭達がテストしたところ、五人中四人が扱いきれないという結果になった。ちなみにあと一人は無理な接続で脳が焼けるという事態を招いた。

 

「機動部隊吶喊。襲撃班撤収。守備隊、火線形成。飛行部隊は補給後――」

 

 シンシアは手元のモニターで全体を見つつ、指揮を取るダンテの横顔を盗み見る。

 彼女にとってこの男は疑問の的だ。

 彼自身の能力もさる事ながら、何故この男がシンシアの下に居るのか、という事だ。

 この男の交友関係はきっとシンシアの把握している以上に広い。おそらくだが、教廷内だけではなく外界にも多くのコネクションを持っているのだろう。

 そんな人物が何故教廷を――シンシアを選ぶのか。

 技術力か。否、ダンテの求める技術は戦争の為の物理的なもの。信仰に由来する教廷である必要は無い。

 武力か。否、今回の浄化戦争を見ても武力において教廷が絶対という訳ではない。それに彼自身が武力を手中に収められるかという点では、教廷ではその可能性は皆無だ。

 信仰心故か。最もあり得ない、あの男が祈りを捧げるところを一度たりとも見たことが無い。

 では、何の為に。どうして、この男は私の下で戦い続ける。

 その時、ダンテが突如シンシアに視線を向け、正面から見つめた。

 あまりに突然の事に面食らったシンシアがフリーズしかけた頭で、どうにか口を開こうとするも、それより早くダンテが声を掛ける。

 

「どうかした?」

 

 その問い掛けにシンシアは自分のしていた事に今更気が付いた。

 どうやら、考えに耽っている間にダンテの横顔を食い入るように見つめてしまっていたらしい。

 

「いえ、よく全部隊に指揮が行き渡るものだ、とそう思っただけですわ」

 

 シンシアは適当に言い訳を述べながら、反射的に顔を背ける。

 それはダンテに火照った顔を見せないための行動だったが、そこで思い出した。そもそも、彼女が今使っている義体は金属骨格の上に人工皮膚を張っているだけで顔色は変化しない。

 彼女は生まれて初めて低スペックの義体に感謝しながら、居住まいを正す。

 

「今のおまえほどの指揮力を持つ者は教廷には居ませんから。感心するのは当然の事でしょう?」

 

 何事もなかった様に話すシンシアだが、ダンテは僅かに眉根を寄せた。

 

「ああ、副鋳造総監の発明のおかげだ」

 

 頭を覆う脳波トランスミッターを撫でるダンテに、シンシアの胸中に得体の知れない不快感が燻る。

 だが、それはきっと彼女の完璧主義な性格故だろう。自身の配下が他の者の装備品を着けているのが気に食わない。それだけ、それだけなのだ。

 

「それは良かったですわね。けれど、あまり調子に乗るとおまえも廃人になってしまいますよ」

「ハハ、気をつけるよ」

 

 乾いた笑いで答えるダンテだが、その間も戦線の部隊は動き続ける。




 今回は戦場描写第一回ですね。
 正直こういうのが好きで書き始めたのに、思った以上にペンが進まなかった。
 全然上手く書けないんですよね。
 どなたか意見、アドバイスお願いいたします。
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