それはある日のことだった。
「早く帰って、ゲームでもするか・・・」
学校から早く帰ろうとしている心根の前に、魔法少女が立ちはだかった。
「・・・心根先輩、ぼくはずっとあなたのことが嫌いだった」
パチンコ玉が飛んでくる。間一髪のところで、それを薙ぎ払った。
使用する武器はミミック、防護服は黄昏、ギフトは魔法の弾丸。
「先輩は、ただの一般人だ」
玉の雨が降ってくる。E.G.Oは偉大だ。
避けなくても、防護服が守ってくれる。
「それなのに、どうして今の攻撃も耐えられるの?」
手の指が吹き飛ぶ。だが、E.G.Oの力ですぐに修復される。
元は同じ人間だ。勝手に何とかしてくれるのだ。
「どうしてすぐに失った部分が生えてくるの?」
もちろん、痛いのは変わらない。
しかし、加えたパイプが勇気を与えてくれる。
「どうしてくじけないの?」
また一歩、また一歩と近づいていく。
次々とパチンコ玉が飛んでくる。
両足がいつの間にかなくなっていた。
それでも、彼は立っていた。
「真っ直ぐ立てる意思・・・こういうことか」
「な、何を訳のわからないことを言っているの・・・?」
ミミックを一振りする。その斬撃が、相手の腕を斬り飛ばした。
「・・・どうして、立っていられるの?」
「さあな?」
「やっぱり、先輩は人間じゃない」
「お前らには言われたくないな、Magic Girl」
そう言うと、相手は逃げていった。
「・・・というのが、この写真の経緯だな」
「心根さんもだいぶ無茶しますね」
「ついE.G.Oに頼っちまうんだよ。まあ、大したことじゃなかったから忘れてたんだ」
「忘れないでくださいよ、僕たちの正体が露見してしまうかもしれませんし。
・・・ところで、碑石さん。どうしましたか?」
「この秘密基地、本当に安全なのか疑わしくなってきたな」
「大丈夫ですよ、ギルさんが守ってくれていますし」
「安心せい、我がすぐに気配を察知するから」
「・・・それもそうだったな!」
この日も探査機をあれこれいじったり、新しくデータを打ち込んだり、
前世で読んだ漫画について話したりした。
そして、いつものように解散した。
その帰り道の事、電波望遠鏡のところで、笛吹は正史郎を目撃した。
「アンテナとタルト様・・・あと、星空も書き加えるべきだな」
何やら構想を練っているようだ。邪魔をしてはいけないことを笛吹は理解していた。
そのまま通り過ぎようとすると、女性が彼に近づくのが見えた。
気配でわかった。その女性は魔法少女だ。そして、大きな剣を引きずっている。
とっさに正史郎を庇った。そして、右肩から腹部にかけて、大きな亀裂が走った。
苦痛について望みうることは一つだけ。それが止むこと。
肉体の苦痛ほど悪いものはこの世にない。
苦痛を前にしたら、英雄もへったくれもあるものか。
そんな文章が笛吹の頭を何十回も往復した。
確か・・・ジョージ・オーウェルの小説だったはずだ。
「お、おい、笛吹だったか!?しっかりしろ!」
正史郎が必死に笛吹に呼びかける。
だが、彼はその隙を突かれ、剣で殴り飛ばされてしまった。
その一撃で、正史郎は気絶してしまったようだ。
「・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・。
すぐに、楽にしますから・・・」
笛吹はその魔法少女の名前をようやく思い出した。
安積はぐむ、ようやく思い出した。
「・・・はぐ、む、さんですか?」
少しでも、言葉を続けようとする。
「・・・」
「な、つめ、かこ、というこに、つたえてくだ、さい」
「・・・」
「ぼく、の、かいた、しょう、せつは、すべて、もや・・・」
その瞬間、笛吹は多大な量の血を吐いた。
もう、何も喋れない。呼吸すら難しかった。
「・・・わかりました。その子にそう伝えておきます」
慈悲が振り下ろされようとしていた。
それが、笛吹の一番望んだものだった。
苦痛ほど、最悪なものはないのだから。
気がつくと、彼は白い世界に立っていた。
「・・・あの世、っていうわけでもなさそうですね」
一度行ったことがあるので、なんとなくわかるのだ。
「そう、ここは一種奇妙な精神世界だと思ってくれ」
笛吹の前に、突然、碇シンジが現れた。正確に言えば、シンジそっくりの何かだ。
「・・・次はエヴァに転生ですか?」
「精神世界と言ったろう?まだ君は死んじゃいない。
それに、死んでもらっては困るんだ」
「困る?それはいったいどういうことですか?」
「・・・それは僕の都合だ。だが、君が死ぬことで多くの者が悲しむのは確かだ」
笛吹は自分の葬式をイメージしてみる。
かこを悲しませてしまうのは間違いないだろう。
だが、自分が死んでも彼女の人生は続くのだ。
幼馴染が死ぬのは悲しい事だろう。
だが、笛吹はかこには幸せになってもらいたかった。
自分が死んだあとも、彼女には幸せな人生を歩んでもらいたい。
「それは無理だ」
「人の思考読まないでくださいよ」
「先輩として助言しよう。彼女は君を愛している」
「いやいや、幼馴染だからといって・・・」
「まあ、確かに時には幼馴染だからといって縁がない場合もある。
だが、その結果、美樹さやかが本来の世界でどうなったかは知っているだろう?」
「さやかさんは仕方ありませんよ」
「まあ、確かに仕方ないな。だが、君たちの場合は違う。
君も、かこも、二人とも互いを愛しているのだ。
どうして付き合わないことがある、いや、付き合えばいい」
「なんですかその反語表現?・・・それはともかく、彼女には僕以上に・・・」
「いいや、君以外に、かこにふさわしい男はいない。僕が保証しよう」
「・・・」
笛吹の背後に、巨大な扉が現れた。
それは”真理の扉”そっくりだった。
「とにかく、君は助かったんだ。その扉から戻ればいい」
「・・・僕を助けてくれたんですか?」
「いや、君はとっくに助かっている。
僕はその隙を突いて、この精神世界に連れてきただけなんだ。
君の本体は、今頃は病院のベッドで寝ているはずだ」
扉がゆっくりと開く。
「最後に一つ、アドバイスしよう。かこをラーメン士郎に誘うんだ。彼女は喜ぶだろう」
ラーメン士郎は、アメリカ発祥のラーメンチェーン店だ。
かこがラーメン好きだということは知っていた。
「・・・さようなら、シンジのそっくりさん。またいつか会いましょう」
「ああ、またいつか会おう。そして、かこを頼む」
「・・・」
笛吹はどうしてもシンジのそっくりさんに聞きたいことがあった。
どうして、かこのことを知っているのか?
まるで、過去に彼女と面識があったかのように話しているのだ。
だが、それは今、質問すべきことではないと直感が告げていた。
目を覚ますと、かこが涙を流しながら笛吹に抱き着いた。
「かこさん・・・」
「・・・」
笛吹もかこの頭を撫でる。
「ラーメン士郎、行きませんか?」
「・・・ふーくん」
「・・・はい」
「重傷者が何を言っているんですか???
少しお話が必要なようですね・・・」
「アア、オワッタ・・・!」
笛吹はシンジのそっくりさんを恨みたくなった。
「冗談ですよ、もちろん怪我が完治した後ですよね?」
「ええ、もちろんですよ」
掌を返すように、シンジのそっくりさんに心の中で感謝した。
そこに、病衣を着た碑石が入ってきた。
「おや、邪魔してしまったようだね」
かこは赤面して、笛吹から離れてしまった。
笛吹の方は何ともなかったが。
「あっ、碑石さん。おはようございます!」
「ああ、おはよう。三日ぶりだね」
「おや、僕は三日間も・・・えっ、三日?」
「そう、君がこの里見メディカルセンターに搬送されてから三日だ」
「・・・何があったか、話してくれませんか」
「ああ、もちろんだ。かこさんは席を外してくれるかい」
「は、はい・・・」
彼女は顔を赤くしたまま病室から出て行った。
「じゃあ、この三日間に起こったことを話すとするか」