はぐむが振り下ろそうとした剣は、とっさのところで弾かれた。
「・・・てめえ、生きて帰れると思うな」
そこには全身ミミック装備の心根が立っていた。
もっと言えば、赤い霧の仮面も付けていた。
「・・・心根光種、あなたにも死んでもらいます」
だが、次の瞬間、死んだのは彼女の方だった。
心根はとっさに武器を黄金狂に切り替えていた。
黄金狂は衝撃波による攻撃を売りにしている。
そして、本気を出した心根は、ソウルジェムごと彼女を粉砕した。
「・・・碑石、助かりそうか!?」
「ああ、応急処置は終わったからな。ありがとう、氷河くん」
碑石は宙に浮いたスクリーンに礼を述べた。
「・・・謝るのはボクの方だ。ボクがもっと注意していれば。
現在、救急車を向かわせている。あと、死体の処理は・・・。
ああ、心根くんが既にやってくれていますか」
笑顔の防護服は死体を食べてくれるのだ。
「あと、もうしばらくすれば救急車が来るから・・・ああ、くそ、やりやがった!」
どこか遠くの方から爆発音が響いた。
「奴ら、救急車を破壊しやがった。ボクの動きが読まれてる・・・?
とにかく、碑石さんは笛吹くんと正史郎くんを抱えて!
心根さんは碑石さんの護衛を!南西の方に逃げてくれ!」
途中で、正史郎が復活したため、碑石の負担は減った。
戦力も増えたので、心根の負担も減った。
しかし、それでも状況が苦しいことには変わりなかった。
ネオ・マギウスたちが次々と襲撃してくるのだから。
いくら心根が天国で彼女たちを串刺しにしようと、
いくら正史郎がタルトの魔法で彼女たちを塵にしようと、
次から次へと新手がやってくるのだ。
そして、最悪の知らせがやってきた。
「・・・三人とも、すまない。急にスクリーンが不調になり始めた。
もうすぐ、通信することもできなくなるかも。
一応、本気を出して証拠隠滅することぐらいはできるようだけど」
「「「アア、オワッタ・・・!」」」
氷河のナビがなくなったのだ。殺人罪で逮捕されることはなさそうだが。
だが、ついに四人は包囲されてしまった。
「・・・殺してやる、心根」
「きゃはは★一般人にしてはよく頑張ったよね?」
「私があなたたちのために、レクイエムを演奏してあげますわ」
もはや、万事休すと思われた。
「これはもうダメかもしれませんね、ご愁傷さまでした」
「笛吹くん?だとしたら、私たちはここにいないはずだよ?」
「それもそうですね・・・じゃあ、どうやって助かったんですか」
時間と視点を戻そう。突如響いたハープの音色と共に、羽根たちは戦意を失った。
辛うじて、リーダー格三人は戦意を保っていたが。
「・・・弱すぎ、あっは!」
四人の窮地を救ったのは、死んだはずの魔法少女だった。
「・・・はは、碑石くん、お久しぶり!小さい頃は一緒に遊んでたよね?」
「更紗帆奈・・・君は死んだはずなんじゃないのかい?」
「そこら辺の事情は、碑石くんがわかっているっしょ?
あと、正史郎だったっけ?あなたの能力、ちょいっと借りるよ。
じゃあ・・・ラ・リュミエール!」
少なくとも、それは目くらましにはなった。
五人はその隙に、逃げることに成功した。
「はい、ストップ」
「どうしたんだい、笛吹くん?」
「なんか登場してはいけない人が登場したような・・・」
「私だって信じたくないよ」
視点を戻そう。
「・・・助かったよ、帆奈さん。でも、どうして私たちを?」
「だって、死なれたら面白くないじゃん」
「「「うん、知ってた」」」
更紗帆奈はある意味、そういう人間だった。
そこに、再びスクリーンが現れた。
「・・・ふう、ようやく復旧したか。
三人とも、安心してくれ。監視カメラの映像は全て改竄済みだ。
そうでなくとも、警察はボクの手中にあるからな」
「へえ、あなたが市長さん?ずいぶんと権力持ってるんだね!」
「まあ、ちょいっと裏技使ったら可能だね。
君たちの場所は・・・里見メディカルセンターにそのまま駆け込んでくれ。
救急車だってタダじゃないんだ」
「じゃあ、私はここで帰ることにするね。皆には内緒だよ!」
こうして彼女は闇の中に消えていった。
「・・・とりあえず、氷河くんの言う通りにしよう」
「ああ、そうだな。正史郎、お前も頭見てもらえ。色々な意味でな」
「そうさせてもらおう・・・何か失礼なこと付け加えなかったか?」
「いいや、別に?俺は帰らせてもらうぞ。だいぶ疲れたからな」
こうして、笛吹は里見メディカルセンターに入院することになった。
「・・・ありがとうございます」
「どういたしまして」
「ところで、心根さんは?」
「・・・彼は自宅に謹慎中だ」
「えっ?」
笛吹が病院に運び込まれた翌日、神浜市はパニックになった。
夜が明けると、歪な木の模型に串刺しにされた少女たちの遺体が発見されたのだ。
遺体だけでなく、行方不明になった少女も多かった。
氷河の手中にある警察は事件性なしと発表した。
そもそも、監視カメラの映像も完全に改竄されているので操作しようがないのだ。
そういうわけで、一般的には今回の一件は奇怪な事故として処理されることになった。
しかし、魔法少女たちはそうは考えなかった。
「市長?いくらなんでも昨日のアレ、すっごく疑われてるよ!
魔法少女たちの間で、犯人探しが始まりそうだよ!」
「やっぱりかい?でも大丈夫だ、問題ない」
「その自信はどこから来るの!?」
「こんなこともあろうかと、ボクはななかさんに手紙を送ることにした」
彼は一枚の紙を引き出しから取り出した。
それには以下のように書かれていた。
更紗帆奈は生きている。今回の事件は彼女が引き起こした
「スクリーンを操作するだけで、ぱっと彼女の目の前に送れるんだよ」
彼の言う通り、手紙はななかのもとに転送された。
「市長さん、これっていくらなんでも酷くない?」
「酷くないさ。むしろ、君もこれでバイト先を失わずに済むんだ」
「・・・確かに!」
ところがどっこい、スクリーンに映った彼女の反応は最悪のものであった。
「・・・白谷氷河、あなたがやっぱり犯人なのですね。
見ているんでしょ?その市長室とやらで」
「「えっ」」
彼女はポケットから、一枚の紙を取り出した。
もしも、私こと更紗帆奈を犯人扱いする文書が送られたら、
その手紙を送ったやつが犯人の片割れです。
名前は白谷氷河といいます。
そいつはどんな手段を使ったのか、市長になっています。
警察やマスコミが事故扱いしているのも、そのためです。
そいつはクソッたれな人間至上主義者です。
ちなみに、そいつの秘書は八雲みかげです。裏切者です。
神浜市内をずっと市長室から監視しているんです。
あと、実行犯は心根光種という奴です。
氷河は急いで画面を操作して、スクリーンをななかの前に出現させた。
「ななかさん、更紗帆奈の言うことを信じるのかい!?
彼女は社会倫理から外れた異常な人間だ!
それは君が一番よくわかっているはずだ!」
「・・・ええ、確かにそうですわね。
この手紙は神浜マギアユニオンにも送られたけど、
心根とかいう少年も否認していますから」
「そうだよ!ボクがそんなことするわけ・・・」
彼女はもう一枚、紙を取り出した。
追伸:白谷氷河は神浜市を地図から消そうとしています。死人は出ないでしょうが。
「この件に関しては、すぐに心根も同意しましたよ?
彼も、この一件にはどうやら心を痛めていたようなんです」
「・・・ななかさん、ボクたち、友達だよね!」
「かこさんが言ったことを忘れたんですか?」
「・・・」
氷河は何も言わずに、通信を途絶させた。
「みかげ、今までありが・・・」
「何言ってるの?私、疑われている立場だよ?
もうこうなったら、運命を共にするしかないじゃん!」
「・・・そうか、ありがとう。じゃあ、計画の変更が必要だね」
「どういう感じに?」
「簡単さ、神浜だけ吹き飛ばす。アレを殺すのは諦めるよ」
「そのどさくさに紛れて、逃げるつもりなんだね!」
「まあ、笛吹くんを逃がした後にするけど」
笛吹は溜息をついた。
「・・・つまり、早く逃げた方が良いと?」
「そういうことだね」
「しかし、どうして心根くんは自宅に?」
「結局、あの写真は神浜市中の魔法少女に行き渡っていた。
それと、二木市との魔法少女とのつながりも疑われたんだ。
それで自宅に籠っているんだ。外には出れないんだ。
安心してくれ、君の怪我に関してはネオマギが犯人とされている。
君を傷つけられたことに怒った心根がやったことになっているんだ」
「・・・よくない状況には変わりませんね」
「ああ、よくない状況だ。いや、君と私が疑われてないだけまだマシだな。
おや、もうこんな時間か。私は院内学級の講師としての仕事があるから。
それじゃあ、また後で。くれぐれも、安静にしてくれよ」
「わかっていますよ」
心根が出て行ったあと、笛吹は部屋を見渡した。
重傷だったのもあって、部屋は個室だった。
しかし、本などは置いてなかった。
そこにかこが数冊の本を抱えて入ってきた。
「はい、退屈にならないように本を持ってきましたよ!」
「ありがとうございま・・・いたっ」
前屈みになると、右肩から腹部にかけて痛みが生じた。
そう、自分は三日前に剣で斬られてしまったのだ。
「・・・怪我していたこと、忘れてました」
「だから本を持ってきたんですよ。
それだったら体を余計に動かさなくて済みますから。
この本、私の知り合いが選んでくれたんですよ」
かこは”最後にして最初の人類”という本を示した。
この本は、前世にも存在したが、ついに読んだことはなかった。
「わあ、僕の読みたかった本なんですよ!
・・・もしかして、かごめさんという方ですか?」
「会ったことあるんですね、やっぱり」
「ええ、ちょっと変わった子でしたが、すごくいい子でしたよ」
その後は、他愛のない話題で盛り上がった。
その間に、一瞬だけ、あの碇シンジのそっくりさんのことを思い出した。
彼はこう言っていた。
「君も、かこも、二人とも互いを愛しているのだ」
そう、自分はかこのことを愛している。
笛吹はそのことを急に自覚した。
(・・・でも、本当にそれでいいのか?)
そんな疑問が脳裏をよぎった。
「いいや、君以外に、かこにふさわしい男はいない。僕が保証しよう」
そうはいっても、それはあくまで他人の評価だ。
自分は転生者だ、その事実はどこまで行ってもついてくる。
かこと一緒になったとしても、それは転生特典という偽りの幸せではないのか?
そんな気がしてくるのだ。どうしても、その考えが頭から離れない。
結局は、どこかの誰かの欲望を達成しているだけなのではなかろうか?
「・・・どうしたんですか?どうして、そんな悲しそうな表情をするんですか?」
かこがそう聞いてきた。彼女の表情も、悲しげだった。
「・・・いえ、もし運が悪かったら、かこさんとこうして話もできなかったんだなと」
すると、彼女は急に抱き着いてきた。
「・・・」
彼女は何も言わなかった。
笛吹は思った。いつか、自分が転生者だということを言わなくては。
それが、彼女に対する誠意だと思ったのだ。理由はわからない。
でも、それが一番の誠意なのではないか。
もちろん、今は言う覚悟はない。
でも、いつかは言わなくてはいけないのだ。
いつの間にか、笛吹も彼女を抱き返していた。
そして、彼はあることを決意していた。