氷河は必死にタネを見極めようとしていた。
なぜ戦闘に不向きなはずの笛吹が自分と渡り合っているのか?
おそらく、自分と同じようなことをしたはずだ。
氷河自身はリンカーコアを代価を支払うことで体内に埋め込んだ。
そして、笛吹は代償無しの”ハーメルン”で何かを手に入れたに違いない。
しかし、それを考える暇はなかった。
「炎扇斬舞」
「・・・竜城明日香の服装で、由比鶴乃のマギア!?」
氷河にはわけがわからなかった。
もはや、何もかもが無茶苦茶だった。
しかし、勝機なら少しだけあった。
ソウルジェムだ。別に狙おうというわけではない。
穢れだ。穢れが溜まることで、戦闘不能に近づいていく。
事実、服装が変わっても、ソウルジェムの穢れ具合は変わらないらしい。
そのせいで、笛吹の反応速度もだんだんと遅くなっていった。
そして、ここは神浜市。魔女にはならないが、ドッペルは出る。
さすがに笛吹もドッペルを使いこなすことはできないだろう。
「・・・そろそろ限界ですね」
笛吹は夏目かこの服装に変身し、ソウルジェムを握る。
「・・・E.G.Oページを選択、勇み足のドッペル」
ソウルジェムの穢れは光を放ち、ギロチンカッターに変わる。
普通のドッペルと違うのは、完全に手に持つための武器となっていることだ。
笛吹は、ドッペルを手に握っているのだ。
「いやいや!待てよ!今、E.G.Oって・・・」
「勝負の途中ですよ、氷河くん」
あと数秒避けるのが遅かったら、首と胴体の悲しみの別離が展開されただろう。
「殺す気か!?」
「すみません、余裕がないものですから!」
「ひいいい!」
氷河は必死に上の階に逃げた。
ある資料室に逃げ込み、彼はようやく落ち着いた。
まず、笛吹がどんな戦術を使っているのかを考えなくてはならない。
笛吹は魔法少女の服装などを纏い、彼女たちの技を使って戦っていた。
そして、ドッペルをE.G.Oにすることで完全に制御していた。
「・・・まるでわけがわからない」
氷河は初めてキュゥべえの気持ちが少しだけ理解できたような気がした。
考える時間はたっぷりある。市長室に行くためのエレベーターは使えなくしてある。
みかげの方から操作しないと、うんともすんともしないのだ。
「・・・みかげ、聞こえるかい」
「聞こえてるよー・・・だいぶ苦戦してたね」
「何かわかったことはあるかい?」
「うーん、変身するときにページみたいなのが見えたというか・・・?」
「ページ?」
「気のせいだったかもしれないけれどね」
そういえば、さっきも”ページ”と言っていたような気がする。
深く深呼吸する。冷静に考えることがさらに可能になった。
よく考えれば、技を出される前に攻撃すればいいのである。
さなの盾だって、無敵ではないのは確かだ。
それに、真剣に戦う必要はないのだ。
彼は資料室から走り出て、笛吹を探した。
見つけた。ちょうど背後から攻撃を仕掛けられる。
「・・・ラグナロク!」
大火力の攻撃が笛吹に迫る。
閃光の後、彼がいた場所は完全に崩れ去っていた。
おそらく、一階まで瓦礫と共に落ちていったのだろう。
「おいおい、痛いじゃないか。氷河くん」
「すまなかった、碑石健康くん・・・えっ?」
一階にはなぜか碑石がいた。
しかも、無傷で。
「・・・私の能力、意外と強いことが判明したんだ」
「・・・異常な抗体を保有していたらそりゃそうか。
まったく、笛吹くんが片付いたと思ったら、今度は碑石くんか」
「すまないね、私も悪あがきくらいはしたくて」
「・・・どいつもこいつも」
「言っておくが、私はただの盾だ」
「・・・何を言っている?」
そこに、足音が近づいてきた。
「おいおい・・・ずいぶんな惨状じゃねえか?」
「心根光種くん・・・なるほど、君が剣の役目か。
まあ、ボクには敵わないさ。ボクは最強の魔導士だからね」
「碑石、何か痛いこと言っているぞ」
「ああ、古傷が痛むね」
心根は碑石を片手で抱えて、一気に氷河の飛んでいるところまで飛びあがる。
途中、魔力弾が飛んできたが、それは弾くか、碑石を盾にした。
「痛いぞ、人を盾にするなんて!」
「盾になるといったのお前の方じゃねえか!」
「確かにそうだけど・・・」
氷河はイラつき始めた。さっきから邪魔が入る。
それも、なんでもないと思っていた奴らから。
「・・・もう殺傷設定にするか」
「おい、何かヤバい言葉が聞こえたぞ!何とかしてくれ、心根くん!」
「無理に決まってんだろ!?」
二人は何かを忘れていた。そう、笛吹のことだ。
いや、そもそも瓦礫に埋まっていることも知らなかった。
笛吹自身も信じられなかったが、攻撃は直撃しなかった。
ちょうど謎の隙間があって、そこにすっぽりと入れたのだ。
しかも、一緒に落ちてきた瓦礫にもどういうわけか当たることがなかった。
まるで、誰かが笛吹の未来を上手く誘導しているかのように。
しかし、その誰かによる幸運も完璧なものではない。
瓦礫に埋もれた彼の腹部に、小さな鉄柱が刺さったのだ。
痛い、痛すぎて、逆に叫ぶことができない。
「・・・ぐっ・・・」
出るのはうめき声だけ。
彼は能力を辛うじて使うことができた。
漢字に変換する余裕はなかった。
ドラクエの”やくそう”を口に放り込む。
少しは痛みが和らいだ。
その時、頭上の瓦礫を誰かが蹴飛ばした。
「大丈夫か、君!」
「・・・初代仮面ライダー?」
「俺はさっきから君たちの戦いを見ていた者だ!
ついさっきまでこの市役所の職員だったが、クビになった!」
「それは・・・お気の毒に」
「いいんだ、それよりも君の方が大変じゃないか!」
男は一気に鉄柱を引っこ抜いた。
すかさず、笛吹はやくそうをもう一つ口に放り込んだ。
「・・・やくそうのデザインはドラクエⅦを参考にしたのか」
「ええ、そうです。前世の幼少期にはそれの攻略本を絵本代わりに読んでいました」
笛吹はふらふらとしながら、立ち上がった。
「・・・行きますね、彼を止めないと」
「待て。君は何故戦うんだ?
そんな状態になってまで、なぜ戦うのだ?
俺には、とてもそんな勇気も根性もない。
こんな姿と力を得たが、それを振るうのが怖いんだ。
何か、大事な物を壊してしまいそうなんだ。
今まで得ていた信頼、幸せに終わるはずの結末・・・。
それを壊してしまうと思うと・・・とてもじゃないが、力を振るえない」
「・・・わかります、僕も少し前まではそんな考えでしたから。
戦う理由は三つあります。一つは住んでる場所を吹き飛ばされたくないから。
二つ目は、氷河くんが僕の大事な友達だからです」
「俺たちの街を吹き飛ばそうとしているのに?」
「だから止めるんですよ、友達だから。
友達が犯罪に手を染めようとしているなら、それを止めないと。
そして最後の理由ですが・・・もう、やめたかったんです。
人間関係を壊したくない、原作介入したら後が怖い・・・
あなたと同じような理由で、僕はかこさんが辛い時にも手を差し伸べなかった。
かこさんの店が焼かれ、それが原因でかこさんが魔法少女になっても。
それで、何が残されたと思いますか。今まで通りの関係?
ええ、確かに残されましたよ。でも、僕はもう嫌なんだ!
僕は、もうかこさんを悲しませたくないんだ!
原作介入したら、物語が崩壊して余計に悪化する?
そんな論理、クソくらえですよ!
キュゥべえは予想以上に強いかもしれない?
それが何だ!かかってきやがれってんだ!
僕は・・・僕は、かこさんのためだったら原作だって破壊するつもりだ!
そもそも、何が原作だっていうんですか!僕たちは現実に生きて・・・ゴハッ!」
笛吹は血を吐き出した。
「・・・まだ完全に傷は治ってない、そんなに無理をするんじゃない」
男がそう言うと、笛吹はもう一枚、やくそうを口に放り込んだ。
「僕はまだ大丈夫ですよ・・・心配していただき、ありがとうございます」
「待ってくれ、今の君では階段を上がるのはきつかろう。俺に、いい考えがある」
一方、碑石たちは激しい戦いの末に、なぜか屋上に移動していた。
「・・・意外と、私の体は頑丈なようだ」
「E.G.O貸してやるぞ?」
「いいんだ、何か取り込まれそうな気がするし」
「よくわかったな。頭の中に毎回声が響くんだよ」
そんな二人に、氷河は容赦なく魔力弾を撃ち込む。
「おっと、会話中にも手加減なしか」
「まあ、そりゃそうだよな」
二人は難なくそれを避ける。
「・・・どうして、ボクの邪魔をするんだ!?」
「「だって、家とか吹き飛ばされたくないし」」
「この俗物どもがっ!」
次々と魔力弾が、それも漆黒の魔力弾が飛んでくる。
碑石はそれを殴って打ち消し、碑石は魔法の弾丸でそれを貫く。
「・・・もういい、この市役所一帯ごとお前らを消滅させる」
氷河の周りにバリアが展開され、魔力が集中する。
「おい、心根くん、何とかするんだ!」
「無理」
「だよねー・・・ここまでかー」
その時、爆音が階下から近づいてきた。
「・・・なんだい、このバイクみたいな爆音」
「さあな・・・」
ドアを突き破ってきたのは、本当にバイクだった。
乗っているのは、仮面ライダーと笛吹。
笛吹は一瞬の間に飛び降りて、仮面ライダーはそのままバイクを走らせた。
そして、あり得ないような大ジャンプをして、バリアを破壊する。
「市長、いや、白谷氷河!お前の横暴もここまでだ!」
仮面ライダーはそのまま氷河に衝突していった。
氷河は屋上に叩きつけられ、仮面ライダーはバイクごと落下する。
「さらばだ、笛吹!俺はやっぱ怖いからここでリタイアだ!」
鮮やかにバイクを地面に着陸させた彼は、そのまま夜の街に消えていった。
「笛吹くん、あの初代仮面ライダーは・・・」
「瓦礫に埋まっていたところを助けてもらいました。
そして、ここまで連れてきてくれたんです」
「無茶苦茶やりやがるな・・・」
そうこうしているうちに、再び氷河が立ち上がった。
「・・・ふっ、ボクはまだやられないさ。
所詮、オーバーSSSSSには敵わないのさ」
「氷河くん・・・どうしてそこまで痛い人間になったんですか?」
笛吹はそう言うと、調律者の服装になっていた。
「・・・笛吹くん、話し合いという言葉を知っているかい?話し合いで解決しようよ」
「そんな言葉知りませんね、スターライトブレイカー」
「使う技はリリなの!?」
笛吹の指から、桜色の光が放たれる。
神浜市は魔法少女が戦っていても目立たない街。
そういうわけで、派手な技も使えるのだ。
氷河はそれをギリギリのところで避けてしまったが。
「・・・危ない、でも、ボクだって最強の魔導士だ!」
氷河も負けじと砲撃魔法を放つ。
「・・・Page Of Twinkle Road」
笛吹は調律者の服装のまま、かこのマギアで相殺する。
「・・・なあ、笛吹くん。いったいどんなトリックを使ってるんだい?」
「そうだよ、笛吹。お前の能力はハーメルンのはずだぞ」
「そうですね・・・そろそろ種明かしをしてもいいでしょう」
笛吹はにっこりと笑った。
「LibraryOfRuinaというゲームは知っていますか?あれの応用ですよ」
男は初代仮面ライダーの格好のまま、夜の街を走っていた。
それはある意味で愚行であった。
「おっ、仮面ライダーだ!写真撮らせて!」
同じ転生者に見つかる可能性が高くなるからだ。
その転生者は少なくとも、善良なように見えた。
「おい、無花果!今はそんな場合じゃ・・・無理だ、写真撮らせてくれ!
タルト様が一番なのはわかっているのに・・・負けた!」
芸術家のような転生者も男子の本能に逆らえなかった。
「無花果兄ちゃん・・・まあ、仕方ありませんね」
髪が水色の少年も写真を撮っていた。その少年は転生者ではなさそうだった。
「・・・無花果さんも男子ですねー」
サーヴァントと思われる髪がピンク色の少女はそれをジト目で見ていた。
「あれ、無花果くんじゃないですか!どこ行ってたんですか!」
「久しぶりだな、少年!」
「あっ、まなかに煉獄さん!ちょうどよかった!ちょいっと戦力が・・・!」
その時、市役所の屋上で黒色の閃光と緑色の閃光が衝突するのが見えた。
「・・・こりゃ急がないと。笛吹が負けるかもしれないからな」
男は転生者の目的を察した。そして、提案する。
「君たち、俺にいい考えがある」