「・・・またここに来たのか」
そう、また来たのだ。
笛吹がいるのは白い空間。
今度は碇シンジのそっくりではなく、知らない青年だった。
「この前と同じ人ですか・・・?」
「いいや、あいつは俺の友人だ。
一応、自己紹介しておくか。
俺の名前はU-1だ」
「僕は笛吹文雄といいます。
多分、前の人から聞いていると思いますが」
「ああ、もちろんスパシンから君のことは聞いた。
そして、君の戦いぶりも見させてもらった。
実に、独創的な戦いだった。常人だったら考えもしないだろうな。
以前の俺にも、君のような柔軟性があったらよかったんだが」
「・・・ほぼパクリですよ?」
笛吹がそう言うと、U-1と名乗る青年は微笑んだ。
「俺だってパクリとしか言えないさ。
この容姿はもちろんのこと、武器もそうだ。
神剣ラグナロク・・・もうどこの作品かも忘れたよ。
なあ、信じられるか?俺の容姿の元ネタは無個性の男子高校生なんだぞ?
それが今では、最強の人間の一人だ。テラフレアだって使える。
でもな、オリジナリティなんてどこにもないんだよ」
「そんなの、アニメ世界に転生した人間だったら誰でも同じですよ。
茨乃+鈴木絵里=?結果は簡単!僕の愛する女の子の完成です!
僕は誰かの作った何かを愛しているんですよ、わかりませんか?
愛する女性でさえ、誰かの作り物なんです。オリジナリティはないんです」
「わかっていて、彼女を愛するのか?」
「ええ、そうですよ。僕はその点も含めて、かこさんを愛しているんです」
「そうか・・・君は強い人間だな」
次の瞬間、笛吹の視界がモノクロになる。
変わったのは色調だけではない。
風景自体が変わったのだ。そこはよく整えられた執務室だった。
どことなく、LobotomyCorporationの46日目の設計チームを思い出させる。
デスクでは、一人の男性が何か仕事をしていた。
その男性の顔はわからなかった。黒塗りになっていたからだ。
「████くん、これでどうでしょうか!」
「・・・うん、いい感じじゃないか。だいぶ読みやすくなった」
黒塗りなのは顔だけではなく、名前も同じようだ。
だが、それよりも笛吹を驚かせたのは、そこにいるのが環いろはだったということだ。
この世界の、主人公である魔法少女だ。
「彼は、少女をその辺にいるモブとしか見なしていなかった。
せいぜい、取り柄があるとすれば、魔法少女のことを知っているぐらい。
そもそも、その子は魔法少女ですらなかったんだから。
ずいぶんと恩知らずな奴だった。彼女に誘われて、組織に入ったのに」
どこからか、U-1の声が聞こえてきた。
「僕、初めて彼女を近くで見ましたよ」
「君はいったい転生してからの十四年間をどう過ごしてたんだ?
いや、そういう君だからこそ、神浜市にいる資格があったんだったな。
・・・話の続きだ。いろはは彼を愛していたのだ。
しかし、彼はそれに決して気づかなかった。いや、気づかないふりをしていたんだ。
彼はこう考えていた。モブに愛されたからなんだというのだ?
そして、彼は同時に原作キャラとやらからも愛されることを望まなかった。
本当は前世で人生を終えるつもりだったのだ。前世は不幸だったからね。
組織に入ったのも、とりあえず転生者がいて話が合ったからだ。
組織が掲げる魔法少女の救済や人類の解放にも、本当は興味がなかったんだ。
ただ、日々を淡々と彼は過ごしていたんだ。いわば、傍観系の転生者だった」
「・・・一つ聞きます。何週目ですか?」
「君は本当に勘が鋭いな」
「似たような展開をゲームで見たことがありますから」
「LobotomyCorporationか。バージョンアップで武器も追加されたようだな?
俺の知っているLobotmyは、ただの怪しい施設運営ゲームだったはずだが。
質問に答えよう。まどマギ世界という括りで見るなら、二週目だ。
しかし、一週目と二週目の間には永久と思えるくらいの時間が流れた。
その悠久を始めた時の最初に、この姿を得たんだ」
「少なくとも、記憶はあるんですね?」
「ああ、永遠と思える時間だった。だが、奇妙なもんだ。
俺たちが数億年を繰り返した間、現実とやらでは数年だけが過ぎていた。
そして、救いの物語とやらも始まっていたんだから」
「・・・しかし、どうしてそんなことを?」
「それはまだ知らなくてもいい。いや、一生知ることはないだろう。
少なくとも、俺たちは闇を繰り返し、君たちは光の中で生きることになる」
「・・・それで、本当にいいんですか?」
「君は本当に優しい転生者だな?別にいいんだ。
いろはにはやちよというぴったりの女性が見つかったんだ。
少なくとも、俺たちの介入する余地はないだろう」
気がつくと、元の白い空間に戻っていた。
「時間を取らせてしまってすまないな」
前と同じように、笛吹の後ろに真理の扉が現れる。
「ただ、君に会って話をしたかっただけなんだ。
スパシンがやけに君のことを気にかけていたからね」
「そうなんですか・・・」
「目を覚ましたら、君の大切な人たちが待っているだろう。
少なくとも、君には俺たちのような失敗はしないでほしい。
まあ、失敗するようなことはないだろうけれどな」
笛吹はそのまま、扉をくぐっていった。
少しだけ振り返ってみると、U-1は寂しそうな表情をしていた。