三人の役割分担はすんなりと決まった。
まず、歴史に詳しい碑石がそのまま歴史担当だ。
次に、工芸品といったモノ文化は心根の担当。
そして、思想や文学は笛吹が引き受けることになった。
人々の生きた証は、この三人の
もちろん、これからもこの世界の人々はそんなことを知らずに生きるのだが。
「どの本がいいかなあ・・・」
古書店夏目書房はこの時間帯だと客は笛吹だけだ。
彼は今、データ化する本を選んでいるのだ。
古書店の方が、普通の本屋よりもちゃんとした本が揃っているのだ。
「・・・ほんと、どの本がいいか困りますねえ」
彼は困ってしまったのだ。
宇宙に送り出すには、ちゃんとした本がいい。
だが、夏目書房にあるのは全部ちゃんとした本だ。
そのことを笛吹は完全に保証できるくらいだ。
だからこそ、悩むのだ。
「どうしたんですか、ふーくん?」
「いや、ちょっとした事情でね・・・」
「ふーくんの駄作に使われる本が可哀想だと思わないんですか?」
「君から罵倒を受ける僕が可哀想だと思わないの?というより、小説の参考前提ですか??」
「冗談ですよ・・・それで、どんな本が必要なんですか?」
「必要というわけでもないけど・・・そうだね。
もし、宇宙に人類の文学や思想を送り出すとして、かこさんはどんな本を選ぶの?」
笛吹がそう聞くと、かこは目に涙を浮かべた。
「考え直してください、ふーくん・・・!ふーくんの小説は・・・うっ!」
「いや、僕の小説じゃなくてね??」
「よかった・・・!考え直してくれたんですね・・・!」
かこは泣きながら、抱き着いてきた。
「えへへ・・・ふーくん大好き・・・!」
(・・・文才がないのは自覚してるけど、そこまでなんですか?)
気がつくと、かこの父親が般若の表情になっていた。
「アア、オワッタ・・・!」
これから血を見ることになるので、場面を変えよう。
里見メディカルセンター、碑石はそこに入院している。
入院といっても、病気でもないので自由に外出はできる。
長野にたまたま旅行できたのもそれが理由だ。
碑石は今、多くの歴史の本と睨めっこしている。
歴史書籍は作者の思想が反映される。
もし、中立の歴史を書きたいなら、両者の意見を聞かなければならない。
普通の人間には困難だろう。しかし、碑石には軽い仕事であった。
「碑石くんか・・・ずいぶんと本を読むんだね」
「おや、院長さん。ええ、こうでもしないと中立の歴史は作れないので」
「そうか・・・まあ、君にだったらできるだろうね。
でも、本当は本ではなく、現場にも行ってもらいたいんだ」
「ですが、私は・・・」
院長は首を振った。
「本当のことを言おう。君はまったくの健康体だ。健康だけにね。
・・・今のギャグは無視してくれ。とにかく、君は病気じゃないんだ」
「では、私はどうして入院させられているんですか?」
「君の体、とにかくすごく抗体でいっぱいなんだ。どういうわけかね。
君の研究をするだけで、医学は大きな進歩を成し遂げることができるんだ」
歴史の勉強に打ち込めるという能力は、ここで発揮されていたのだ。
「つまり、私が自由に外出できたのも、長野に行けたのも・・・」
「そう、そういうことだ。それと、長野旅行は現場に立つということを知ってほしかったからだ」
「現場に・・・確かに、木曽路に本当に行った時は、いい勉強になりましたが」
「それだよ。最近の歴史学者は研究室にばかり籠って、他人の本ばかり読んで、
それを元に、さあ自分の研究が完成したぞというんだ。それじゃあいかん」
「なるほど・・・」
さすがは学者なだけはあると、碑石は納得した。
「この通り、私も前線に立っているし、弟も・・・まあ、一応は現場に行っているからな」
「民俗学は・・・神話の前身を研究する学問ですがね」
「・・・弟の話はやめておこう。とにかく、君にはちゃんとした学者になる義務がある。
そして、ちゃんとした研究を完成させるんだ。それを、世間に還元してくれ」
「わかりました・・・」
碑石はどうして院長がこんな話をしだしたのか、意図がつかめなかった。
「・・・私は、子育てに失敗してしまったのか」
「どうしたんですか、院長?」
「私の娘のことは知っているだろう?あの子は、私の影響を悪い意味で受けてしまった。
確かに、知識も研究意欲も一流だ。それでも、あの子は・・・」
「・・・」
「すまないね、邪魔してしまって」
「いえ、大丈夫ですよ」
院長はただ碑石にちゃんとした学者になってほしかったのだ。
選民思想を持たずに、一般人の役に立つ学者に。
ただ、碑石はある不安を抱いた。この話を、灯花が聞いたらどう思うのか?
彼の不安通り、彼女はこっそりとこの話を聞いてしまっていた。
場面をまた変えよう。心根は工匠区をぶらぶらと歩いていた。
サボっているわけではない。工房に立ち寄っては、工芸品を記録しているのだ。
工匠学舎の生徒の中でも、心根はモノづくりに関して優秀だ。
それも、工芸品を一目見るだけで、作り方がわかるくらいに。
そして、彼はある竹細工工房を訪れた。
「帰ってください!」
「おいおい、月咲。ちょっと立ち寄ったぐらいで」
「帰って!あなたがうちの工房の技術を盗んだことは忘れてませんから!」
「盗んだって・・・人聞きわるいなあ?俺はただ参考にしただけだっての」
「それを盗んだというんです!」
仕方なく、帰ることにした。
とりあえず、正午なので途中で弁当を買って食べることにした。
「あっ、光お兄ちゃん!」
「今日も元気そうだな、理子」
「ええ!・・・また追い返されたの?」
「まあな。・・・理子、ちょっと頼みがあるんだが」
「なんですか?わたしにできることならなんでも!」
「じゃあ、レシピ教えてくれないか?」
「いいですよ!」
理子はまだ無垢なので、レシピを教えることに嫌悪感はなかった。
それどころか、すっかり心根を信用しているのだ。
彼女にとって、心根はいい兄だったからだ。
お弁当を食べて、しかもレシピまで教えてもらった心根は満足して家に帰った。
もし計画が順調に行ったら、宇宙に理子の弁当屋のレシピが宇宙に行くことになる。
それは宇宙の終わりまで、残されるかもしれない。
「それで、俺の部屋にどうしているんだ?みたま?」
「別にいいじゃない?」
「・・・はあ」
彼は幼少期に大東区に住んでいたことがある。
決して、作者の設定ミスではない。
ともかく、彼は八雲みたまと幼馴染なのだ。
歳の差はあるが、姉弟みたいな関係というわけではない。
「じゃあ、俺は昼寝するから」
「私もそうするわあ」
「えっ?」
「えっ?」
仕方なく、同じベッドで二人一緒に寝ることにした。
みたまはすぐに眠りについたので、薄い本にはならない。
残念だったね、紳士諸君!
そもそも、心根は怖くて手を出せないのだ。
別にヘタレというわけではない。
ある時を境に、どういうわけかみたまは積極的に彼に近づくようになった。
その理由がわからなくて、逆に手を出せないのだ。
それに、手を出したら十七夜に殺されるというのもある。
「なるほど、これは面白い光景だな?」
そんなことを考えていたら、本当に十七夜が部屋に入ってきた。
「アア、オワッタ・・・!」
やはり血を見ることになるので、数日後。
「じゃあ、それぞれ情報は集め・・・二人とも、大丈夫かい?」
「ええ・・・なんとか生き延びました。」
「ああ、生きてるって素晴らしいよな・・・」
二人とも、ミイラのように包帯でぐるぐる巻きになっている。
「・・・まず、私に関しては年表とか作成したぞ。
それはもうデータ化しているからな」
「・・・僕はまだデータ化はしていませんが、本を買わされました。
この四次元ポケットの中に入っていますから」
「俺は・・・なんとか他の国のモノづくり関係も勉強しといたぞ」
「お、お疲れ、二人とも・・・」
何はともあれ、彼らはスタートラインに立ったのだ。
彼らの戦いはこれからだ。