あの頃、僕たちは輝いていた   作:ryanzi

21 / 31
唐突な事実

笛吹は一人で南凪区の海浜公園を歩いていた。

ラーメン士郎に行きたかったが、かこの方で都合が悪くなったらしい。

思えば、ここに来るまでも魔法少女を見かけたが、様子がおかしかった。

ある魔法少女は表情が暗く、ある魔法少女はピリピリとしていた。

まるで戦前の日本といってもいい雰囲気だった。

もちろん、一般人はそんなことには気づいていなかったが。

気付くことができるのは、笛吹や他の転生者ぐらいのものだ。

 

「・・・もしもし、心根くん」

 

「おっ、笛吹か。どうした?」

 

「なんかまほ・・・神浜市の一部の人達の雰囲気が怪しいんですが」

 

外で電話するときには、特定のキーワードは言い換えた方が良い。

 

「やっぱり?俺も聞いてみたんだけど、はぐらかされたというか」

 

「心根くんもですか。僕もかこさんには詳しく教えてもらえなかったんです」

 

通話を中止する。スマホをポケットにしまい、砂浜に座り込む。

そして、バッグから自分の書いた本を取り出す。

題名は、三体。最初は超大作として、途中からかこのために書いた小説だ。

本来だったら、今日渡すつもりだったが、中止となった。

ちなみに、もう二冊調子に乗って完成していた。遠野森林。上下二巻で構成されている。

三体の続編で、民俗学を取り入れた前衛的なSFを書いたつもりだ。

神浜の海は、笛吹の前世の故郷の海と比べるとそこまで雄大ではない。

社会科の授業で、いつも苦労するのは前世の故郷である愛知県を見ないようにすること。

それを見ると、とてつもない帰巣本能に襲われるかもしれないからだ。

前世と名前が変わっていなければいいが、ここはマギレコ世界だ。

彼が育った街の名前は変化しているかもしれない。

それどころか、まったくもって別の様相に変貌しているかもしれないのだ。

そうなっているのを見て、果たして精神が正常でいられるかどうか。

 

「がんばれ!あともう少しだ!令、待ってろよ!」

 

「日本よ、俺は帰ってきた!」

 

どこからともなく声が聞こえてきた。

それは海の方から聞こえてきた。

小さな点が、中くらいの点に変化する。

 

「おっ、人がいるぞ!」

 

「よかった、本当に生きててよかった!」

 

中くらいの点は、二隻の木のボートとそれぞれに乗る青年に変わった。

そのボートは、マインクラフトのボートと同じような見た目だった。

とりあえず、どこからどう見ても転生者なのは確かだった。

能力でスポーツドリンクとサンドイッチを用意した。

 

「大丈夫ですか?はい」

 

上陸してきた二人に渡した。

 

「おっす、ありがとな!」

 

「ありがてえ・・・」

 

二人は一瞬でそれを平らげた。

 

「それで・・・いったい何があったんですか?

この文明化された世界でマイクラなんて・・・」

 

「「メーデー」」

 

「それはお気の毒でしたね」

 

笛吹は前世で一時期メーデー民だったので、言葉の意味がよくわかった。

三人とも、砂浜に座った。

 

「僕は笛吹文雄、参京区出身で、学校も参京院教育学園です」

 

「俺は方舟照星。大東区出身だけど、二年前までは南凪自由学園に通ってた。

まあ、オーストラリアに引っ越したんだけどな。能力はクラフター、文字通りだな」

 

「獅山雄郎だ。ニュージーランドに留学する前は二木市に住んでた。

おっと、別に神浜市とかには何の感情もないから安心してくれ。

俺たち転生者が登場人物のそういう感情とは無縁なのはお前もわかるだろ?

能力は鋼印信念とかいう相手に信念を植え付ける変な代物だ」

 

「僕だってハーメルンとかいうものですから」

 

少なくとも、この世界の転生者は大体が変な能力に偏っていた。

それはある意味で彼らが原作介入する意思が薄いという証明でもあった。

 

「それにしても、メーデーでよく助かりましたね」

 

「まあ、俺たち悪運はよかったからな」

 

「そうだな、無人島に流れ着いたときは絶望しかけたけど。

まあ、自分で自分に”絶対生き残る”という信念植え付けたから乗り越えれたけど」

 

(・・・そういえば、遠野森林にも同じような機械出してた気がしますね)

 

「俺は必要なかったぞ。普通にクラフターでなんとかできたし。

それより、早く令に会いたいな。手紙出したのに、遅れちゃったし。

多分、死んじゃってると思われてるよな。サプライズ仕掛けてみるか」

 

「そういや、俺も家族に顔見せないと。それに、樹里の奴にも」

 

そこで、笛吹はどこでもドアを生成した。

 

「じゃあ、どちらからにしますか?」

 

「雄郎からでいいよ。俺は歩いていきたいし」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて!」

 

彼はさっそく二木市に帰っていった。

ドアをしまった後、笛吹と照星は観鳥令のもとに向かうことにした。

照星にとって久しぶりの神浜市。歩いていると、彼はあることに気づいた。

 

「ありゃ?意外と損傷が少ないんだな。ワルプルギスの夜が上陸したのに」

 

「まあ、新しい市長が頑張りましたから。その市長も僕たちの同類でした」

 

「そうだったのか・・・えっ、過去形?」

 

「僕たちがボコボコにしました。神浜市吹っ飛ばそうとしてたので。

神浜市を吹き飛ばすとなると、かこさんの夏目書房も吹っ飛んじゃうので。

だから、皆で阻止したんですよ。まさか、皆が僕に味方してくれるとは思いませんでした」

 

「すっごく行動的だな。・・・もしかしてさ、心根とかいう奴もお前の味方だった?」

 

「ええ、そうですよ。そもそも、彼は僕の友人ですから!」

 

「そうか、そりゃそうだよな。またアイツにも顔を見せないと」

 

「ネオマギ虐殺したので、謹慎中ですが?僕も悪いんですが」

 

「えっ」

 

しばらく歩いていると、二人はあることにようやく気がついた。

この街、一人の少女を探すにはあまりに広すぎる。

しかも待ち合わせしているわけでもないから余計に大変なのだ。

それに、彼女は大東区出身だ。普通に遠いのだ。

十五分も歩いて気づかなかったのは、二人とも馬鹿だったからだ。

 

「ごめん、やっぱあのドア使わせて」

 

「はい」

 

人気のない場所に移動して、ドアを開ける。

すると、ドアの向こうは墓地だった。

笛吹はそっとドアを閉める。

 

「故障ですかね?それにしてはおかしいような」

 

「もう一回開けてみりゃいいじゃねえか」

 

「それもそうですね」

 

もう一回ドアを開ける。やっぱり墓地だった。

照星は無言で、目の前の墓石を確かめる。

 

「ごめん、そのドア故障してねえよ。

普通に令の墓だったわ」

 

「・・・ごめんなさい」

 

「お前が謝ることじゃねえって・・・はは、まさかこっちがサプライズ仕掛けられるなんてな」

 

とりあえず笛吹も墓地の方に行き、ドアをしまう。

二人とも、無言で墓に手を合わせる。

 

「なあ、少しだけ一人にしてくれねえか」

 

「・・・もちろん」

 

墓地から少し離れると、嗚咽が聞こえてきた。

そして、花束を抱えた正史郎にたまたま遭遇した。

 

「あっ、正史郎さん・・・。今は近づかないほうがいいです」

 

「ああ、わかってる。この声、照星の奴か。生きてたんだな」

 

「まさか、皆の雰囲気がおかしかったのって・・・」

 

「そういうことだ。観鳥令が、争いで死んだ。

人が争いで死ぬのは、俺は百年戦争で慣れているが」

 

笛吹はすぐに易経を開始した。

結果は、あまりに残酷なものだった。

 

「・・・原作通り、だそうです」

 

「そうか・・・」

 

笛吹たちは、第二部の展開を知らなかった。

それがこの事態を招いたともいえてしまう。

 

「・・・僕はどうすればよかったんでしょうか」

 

「一つだけ言っておく。自分がいればなんとかなったという考えは捨てろ。

俺もかつて似たような経験をしたことがある。どうしようもなかったのは確かだ」

 

正史郎は青い、青い空に視線を向けた。

 

「昔の俺は傲慢だった。原作という残酷な運命を変えようと息巻いてた。

でも、結局は何も変えられなかった。タルト様を救うこともできなかった。

一人の人間が何とかしようというのが間違ってたんだろうな」

 

「・・・」

 

「タルト様が去る前に、俺もお前と同じように自分の正体を告白した。

ただ善く生きろ、というのがタルト様から与えられた最後の使命だった。

少なくとも、ただ原作介入して展開を変えるというのは善い生き方とは思えん」

 

「でも・・・人が死んだんですよ?もし、かこさんがそうなってしまったら・・・」

 

「あくまで、俺の意見だ。貴様は貴様の物差しで考えて行動しろ。

その物差しが俺を邪魔するようだったら、貴様が氷河にしたのと同じように叩き伏せるだけだ。

そうでなければ、お前は好き勝手に行動していいんだ」

 

嗚咽が止んで、照星も笛吹のいるところにやってきた。

 

「・・・正史郎、久しぶりだな。相変わらず昔の女の絵を描いてんのか?」

 

「ああ、今も昔も俺にはタルト様しかいないからな」

 

「前はお前のこと馬鹿にしてたけど、ようやくお前の気持ちがわかったような気がするよ」

 

そして、彼は笛吹の方に向くと、こう言った。

 

「力を貸してほしい、笛吹」

 

照星が何を為そうとしているのか、笛吹には痛いほど理解できた。

もし、笛吹が彼の立場だったとしても、同じことをするだろう。

そして、笛吹はどこまでもかこのために動こうとしていた。

かこにとっての脅威は、先に取り除くほうがいいに決まっているのだ。

道徳的には限りなくアウトに近いどころか、完全にアウトだ。

でも、やらなくてはいけないのだ。原作がどう動くのかわからないのだから。

 

「まずは休んでください。僕の家に泊めてあげるので」

 

「ありがとう・・・正史郎、俺たちの物差しはお前を邪魔しないよな?」

 

「当たり前だ。もう俺には原作なんて関係ないからな」

 

これで全て決まった。照星はもう止まるつもりはなかった。

 

「令、ごめんな。俺さ、道徳の授業とか寝てたんだわ」

 

それは決意に満ちた言葉だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。