まず、ラーメン士郎は二木市にもある。
「割引クーポンなんて誰からもらったんだよ?」
「友人から。笛吹文雄。いい奴だよ」
「そりゃそうだろうな。私も話だけなら聞いたことある」
「えっ、あいつ有名なの?」
「有名ってわけじゃない。ただ、私のダチのダチというか。
それより、樹里サマのエスコート頼むぜ」
「はいはい、お姫様」
「それにしても、まさかお前からデートに誘われるとは思わなかったぜ」
獅山は笛吹からラーメン士郎の割引クーポンをもらっていた。
これは計画の一部だった。
照星は自分の復讐で獅山を悲しませたくなかった。
そのために、大庭樹里を対象から外したのだ。
二人が夜にラーメン士郎に行くことは確認済みだ。
一つ想定外のことがあったとすれば、笛吹がPROMISED BLOODから快く思われていたこと。
心根は二木市に滞在していた間、現地の魔法少女のために尽力していたらしいのだ。
そんな心根の友人で、しかもそんな友人を守るために心根は人も殺した。
それにより、笛吹文雄はPROMISED BLOODから信仰の域ともいえるくらい信用されていた。
想定外であったが、結局計画終了まで笛吹が気づくことはなかった。
どちらにせよ、その想定外で樹里を油断させることができたのだ。
「もしもし?」
「天音さん、笛吹文雄です。心根くんはいますか?」
「あっ、笛吹くんでございますか。悪いけど、まだ謹慎中でございます」
「すみません」
「別にいいでございますよ」
「・・・ちゃんと見守っていてくださいね」
「もちろんでございます!」
次に、ちゃんと心根が家にいるかどうかの確認。
笛吹は彼に容疑がかかるのだけは避けたかったのだ。
そして、同時に照星も笛吹に容疑がかかるのを阻止していた。
「おい!そこで何を・・・照星?お前、生きてたのか・・・?」
「ひなの。この薬品たち、少し借りるぞ」
彼は袋に薬品を入れながら、笛吹に渡された自動拳銃をひなのに突きつける。
「俺って馬鹿だからさ、こういった方法しか知らないんだよ。
もちろん、令にあの世で怒られるのはわかってるよ。でも、もう抑えられないんだ」
「・・・一つだけ聞く、あいつの死んだ理由を知ってるんだな?」
「だからこうしているんだろ?とりあえず、邪魔しないでくれ」
本当は、薬品なんていらないのだ。
しかし、こうすることで容疑は照星だけに集中する。
それに、どうせ計画終了時には結局は原因不明と処理される。
次の瞬間、照星の姿は消えていた。
笛吹が反認識バッジを持たせていたのだ。
スイッチをオンオフするだけで、姿を隠すことができる。
さて、笛吹も自分に容疑がかからないようにしていた。
「・・・」
夏目書房でカントの書いた『永久平和のために』をずっと読んでいた。
ちなみに、かこには令の死を知ったということを話してある。
つまり、笛吹がPROMISED BLOODとの平和的交渉を望んでいることのアピールとなるのだ。
狙い通り、というか狙い以上にこれは効果を発揮してくれた。
PROMISED BLOODと関係の深い心根の親友である笛吹が交渉準備をしようとしている。
これは神浜マギアユニオンの魔法少女、とくに笛吹と縁のある少女たちにに希望を持たせた。
「コーヒー淹れましたよ、ふーくん」
「ありがとうございます」
かこに対してどこまでも誠実にあろうとしている笛吹にとってこれは苦行だった。
現在進行形で、かこを欺いているのだから。
しかし、この欺瞞はどこまでもかこを守るためのものなのだ。
少なくとも、この時点で何が起ころうとしているのかを知っているのは数名だけだ。
まず、計画を実行しようとしている笛吹と照星。
その二人のやろうとしていることを知っていた正史郎。
そして、一部分だけを掴んだひなの。
それ以外の者は何も知らなかった。
魔法少女も転生者も、何も知らされなかった。
そして、計画は次の段階に進む。
この段階では、神浜マギアユニオンの陽動に焦点があてられた。
当然のことながら、ひなのは方舟照星という『一般人』の暴走を報告した。
何の力もない『一般人』が魔法少女に復讐しようとしても返り討ちにされるだけ。
そのため、照星を保護するのに注意と戦力が割かれることになる。
中学生にすぎない彼女たちの組織にはかなりの重荷になるのは確実だった。
南の魔法少女たちは必死に照星を探した。
しかし、もう無駄だった。彼は笛吹の家に隠れていたのだから。
「笛吹くん、一般人がPROMISED BLOODに攻撃を加えようとしているわ」
葉月が夏目書房に報告しに来た。
「・・・それは無謀ですね。誰なんですか?」
「確か・・・方舟照星という男子ね。令の知り合いだったみたい」
「そうですか。まあ、僕は放っておきますよ。
さすがに一般人に対してはPROMISED BLOODも危害を加えないでしょう」
そして、笛吹と彼が生きて会うことはもうなかった。
二人で昼も眠らず夜に寝て計画を練ったのが最後だった。
その計画を練る際、誰が令を殺したのかも確認をした。
笛吹がタイムテレビを生成するだけで、犯人捜しは簡単に済んだ。
そして、PROMISED BLOODのアジトの場所も確認済みだ。
「・・・十分前、と」
午後七時五十分、照星は笛吹に電話をかけた。
それは事前の取り決め通りだった。
ちなみに、この時点で笛吹はかこの家にいた。
「どうしたんですか、ふーくん?」
「いえ、無言電話でした。
それはそうと、家に帰りたいんですが」
「駄目です。まだ照星とかいう人がいるかもしれないので。
皆、ふーくんに希望を託しているんです。
もし、ふーくんの身に何かあったら・・・」
「僕は大丈夫ですよ。というより、このままだとかこさんのお父さんに・・・」
「今日はお父さんもお母さんも帰ってこないので大丈夫ですよ!」
どれもこれも、笛吹の計算通りだった。
八時、作戦開始時刻。
まず、どこでもドアがアジトの真ん中に現れる。
それだけでも、二木市の魔法少女たちには予想外の事態であった。
この作戦に求められるのは、機動性。
「死の境界」
ドアが消えると同時に、一瞬で智珠らんかはソウルジェムごと切断された。
早業だった。誰にも見えなかった。
「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」
それは照星が提案したページだった。
鬼滅の刃を知らない笛吹と違い、彼は途中まで読んだことがあった。
転生者の強みとは、転生先の世界にない武力を用いることが可能という点だ。
一瞬にして末端構成員の半分がソウルジェムを斬られたことにより死亡した。
「・・・ひかる軍団、アイツを止めるっす!」
だが、煌里ひかるの使い魔も切断されて消滅した。
「繰り返される演奏」
残っていた末端構成員たちは、一瞬でソウルジェムが弾けてしまった。
これが幻想体ページの威力だ。
アジトにいたのは終末鳥の防護服E.G.Oを着た照星。
対するは紅晴結菜、笠音アオ、煌里ひかる、鈴鹿さくやだった。
大庭樹里は今頃はラーメン士郎、有愛うららは二木市に戻っていた。
「・・・その服、まさか心根から借りたっすか?」
「借りた?不正解、殺して奪ったんだ」
これは笛吹のアドバイスによるものだった。
彼は心根と二木市の魔法少女に何か特別なつながりがあると気づいていた。
そこで、相手の冷静さを奪うために思いついたのだ。
「・・・殺してやるっす」
予想通り冷静さを失ったひかるは斬りかかってきた。
ここで照星の持っている刀について紹介しておく必要がある。
その刀の名はMURASAMA BLADE。知る人ぞ知る最強の刀。
それは第一部開始以前に笛吹が護身のために生成した日本刀だった。
その時点でPROMISED BLOODの敗北は決定していたのだ。
一瞬でレイピアを折られたひかるはそのままソウルジェムを斬られてしまった。
「・・・さて」
次の瞬間、さくやが斬られていた。
「これでお前たちも終わりだな」
さらに次の瞬間には、結菜が斬られていた。
最後に残っていたのは、笠音アオだけだった。
「・・・さて、観鳥令は知っているよな?」
「・・・」
「まあ、そういうことだ。アンタも復讐者の仲間だったら理解できるよな?
謝罪とか懺悔とかはいらない。ただ、こうしたいだけなんだからな」
そう言って、彼はダイヤモンドの剣を取り出す。
一番復讐したい相手は自分の能力で殺したかった。
「・・・最期に一つだけ聞いていい?」
「冥土の土産にしたいんだったらな」
「本当に心根くんを殺したの?いくらなんでも無理だと思うんだけど」
「もちろん。アイツに喧嘩売る度胸は俺にはないよ。
笛吹っていう奴が似たような能力があってさ、そいつがくれたんだ。
この武器も、防護服も、戦い方も、全部俺にタダでくれたんだよ。
もちろん、そいつは生きてる。恩人なんだよ。
今回のことも、そいつと一緒に考えたんだ」
「・・・あはは」
アオは虚しく笑った。
「結局さ、あなたは笛吹に利用されてるだけなんだよ・・・」
「確かにそうかもしれない。でも、結局そいつは良い奴なんだよ。
お前を殺した後、俺はあることをするつもりだったが、大反対されたさ。
まあ、俺が意地を張り通して何とか採用させたんだが。
まったく、自分に容疑がかかることを気にしていないんだよ、結局は」
「それでも、その笛吹って人は最低だね。
心根はどうしてそんな奴守ろうとしたんだろ、はは・・・」
会話はそれで終わった。アオは黙って自分の死を受け入れた。
ここまで、たった数分。たった数分で魔法少女の一勢力は壊滅したのだ。
「・・・また無言電話ですか、困ったものですね」
「ふーくん・・・どうして悲しそうな表情してるんですか?」
「・・・不安なんですよ、交渉が失敗するんじゃないかって。
そうなったら、かこさんに迷惑をかけてしまうかもしれないって」
事前に用意していた嘘をすらすらと唱えるように言う。
計画は最終段階に入ろうとしているのだ。
この無言電話は、最後の別れを意味していた。
「大丈夫ですよ、ふーくんと安心してラーメン士郎に行ける日は絶対に来ます」
「・・・僕には夢があったんです。
皆で、神浜市や二木市の皆さんが一緒にラーメン士郎に行けるという」
「まだ叶えれると思います。危険を冒すだけの価値がある夢ですよ」
「・・・そうですよね」
やはり笛吹の表情は悲しそうだった。
かこは彼の最大の理解者だが、どうしてそんなに悲しそうなのかわからなかった。
だから、彼女ができたのは笛吹をただ抱きしめることだけだった。
笛吹はかこの腕の中で泣き出した。
泣いて、泣いて、とにかく泣いたあと、彼は自然と眠ってしまった。
こうしている間にも、計画の最終段階は進められていた。
まず、刀は笛吹の自宅の庭に隠された。それは笛吹の大事な所有物だったからだ。
次にバトルページはそのまま燃やされた。本は燃やすのが一番手っ取り早い。
そして、奪取したキモチの石はみかづき荘の玄関前に置かれた。
「・・・笛吹文雄、君はとんでもないことをやらかしたね」
精神世界で、笛吹は再び碇シンジにそっくりな青年に会った。
「あっ、スパシンさん。(かこさんが)やられるまえにやれですよ」
「確かに君の言っていることは正しい。
私だって、かこに危険が及ぶようなら、その危険を排除するさ。
ただ・・・まあいい、私が君にとやかく言える権利はないからな」
笛吹はいつもと同じように扉をくぐって帰っていった。
「・・・言わなくてもよかったのかしら?私がいるって」
「紅晴結菜、まさか精神世界にまで踏み込んでくるとは。
どうせ言っても聞かないんだから、仕方ないさ。
それに痛い目を見るのも大事さ。
いやはや、それにしてもまさか取り憑くとはね」
目が覚めると、縛られていた。
「さて、我が家に泊まった件は許さないからな。
手を出さなかったのは評価してやるが」
「お、お父さん、どうか慈悲を・・・」
「貴様に父さんと呼ばれる筋合いはない!」
笛吹の悲鳴が参京区に響き渡っている頃、照星は令の墓の前に立っていた。
彼が墓前に供えたのは、アオのソウルジェムの破片だった。
足音が近づいてくるのが聞こえる。
「おはよう、ひなの。よく寝られたか?」
「こちとらお前の捜索で寝れてないんだよ。
突然、電話をかけてきたと思ったら、ここに呼びつけてきやがって。
・・・仇、取ったのか?」
「ああ、借りた薬品を試行錯誤してな」
そう言って、彼は錠剤をひょいっと飲み込んだ。
「待て、今何を飲んだ?」
「俺の調合した睡眠薬さ。よく効くタイプだ。安らかに天国に行ける」
「なっ・・・」
彼はそのまま目を閉じて、死んだ。
この最後の自殺に関しては、照星の提案だった。
もちろん、笛吹は大反対したが。
しかし、こうすることで状況的証拠によって照星が犯人だとされる。
容疑は決して笛吹にはかけられないというわけだ。
それに、物的証拠からすると照星が殺したのはあり得ないことのだ。
化学薬品で人を切断できるわけがないからだ。
結局、PROMISED BLOODの壊滅は原因不明として片付けられることになる。
もちろん、世間的には謎の大量殺人であるが、迷宮入りは確実だろう。
何もかもが、二人の思惑通りに事が運ぼうとしていた。
既に最大の敵対勢力が壊滅した時点で、原作崩壊は決まった。
キモチの石も神浜マギアユニオンの元に渡った。
これ以上、血は流されない。そのはずだった。